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記憶がないんです

番外編完結です。ちょっとやりにくかったので、多分このパターンはもうやらないかな…?

 「ここさ、好きなんだ」

 「へぇ」

 「あんまり誰も来ないし、ゆっくりできるし。お母さんとかお父さんはここに来るなって言うけど」


 そりゃそうだ。誰も来ない静かなところということは、何かが起きた時に誰も助けてはくれないということだ。そんなところに近づくように言う親なんていないだろう。

 既に星が見える夜の時間。頼りなる灯りは空に浮かぶ月の光と、遠くに見えるキャンプファイアの炎だけ。木の影のせいかこの前の川辺で会話した時とは異なり、あまりよくウォーラの表情までは見えなかった。


 「ほら食べよ。そのために持ってきたんだから」


 隣にいた彼女はその場にしゃがみ、片手に持っていた大皿を地面に置いた。正直なところ何が乗っているのか俺にはわからなかったが、さすがは食への関心が人一倍強い女というべきか。暗闇の中でどの食材がどんな味をするかまで教えてくれた。


 「どれが食べたい?」

 「いいよ、食べたかったら勝手に取って食うからさ」

 「あ、でも」


 ウォーラが何かを言いかけて気がついたのだが、フォークが一つしかないのだった。

 ……心の中で一瞬悩んだことに気持ち悪いと思う自分がいた。普通に一つのフォークで食べ合えば良いじゃないか。間接キスになるとか、なんでそんな小学生みたいなことを考えた。気色悪いぞ、麦野幸人。


 「どうしよっか」

 「ふ、ふ、普通に一本のフォークで食べ合えばいいだろ」

 「なんでどもってるの?」

 「な、な、なんでもない」


 キャンプファイアの炎に照らされた村を眺めながら、二人で美味しい料理を食べる。そんな楽しい時間を過ごした。……と言いたいけれども、実際は緊張のせいか料理の味もその時間もうろ覚えとなっていた。


 「来年も二人でまたここに来ようね!」


 そんなことをウォーラに言われた気がするが、なんと返事をしたのか思い出せない。俺の初感謝祭は、後半があやふやな状態で幕を閉じるのだった。

次回は1/23の日曜に更新予定です。

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