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39、そうして二人はいつまでも幸せに暮らさ、ない!!


 ハッピーエンドがあるのなら、これほど丁度いい場面もないだろう。


 苦労苦難の連続だった美貌の青年(実年齢ウン千年)と、神の執着により不遇を託つ少女が意地悪な魔女の呪いに打ち勝って、お互いの思いを知り合う麗しい場面。


 吟遊詩人が口ずさむ恋愛歌やお伽噺の「御仕舞」に相応しい光景、ではあった。


 しかし、けれど、だけれども。


 誠にもって残念ながら、美貌の青年ことギュスタヴィアが兄に愛されたいがためにエルザードの国にしてきた仕打ちはどう言い繕っても悪逆非道。兄の為だなんだと聞こえはいいが、結局のところは自分の欲を通したまでのこと。


 対して不遇な少女ことイヴェッタとて、自分が憎んだ末に人が死んだ罪悪感から逃げ出して、死んだのは神が裁いたからだと思い込もうとした身勝手さ。


 感動的に抱きしめ合おうと何だろうと、ここに至るまでにエルフの国と、人間種の街が一つ半壊しているし、何なら村一つ滅んでいる。二人には何の関係もないのに人生が変えられた者は数知れず。


 他人の屍を積み上げて進み続けるような二人。他人からすれば悪夢かあるいは災害だ。


 これが物語であるのなら、悪役として倒されるべき生き物に違いなく、そういう二人であるので、やはり今も「めでたしめでたし」というわけにはいかなかった。





「出ていけ」


 茨の檻は消え失せた。エルフたちの魂を冥王が受け取り拒否したためか、幸いにも死者はなく、しかし死の恐怖と理不尽な搾取が魂に刻まれた者たちは、こぞって王弟ギュスタヴィアへの恐怖心を思い出し、そして彼らが蔑ろに出来ると見縊った人間種の小娘への絶望を焼きつけた。


 一夜明けて、宮殿の王の間。


 疲れ切った顔のルカ・レナージュの言葉には「もううんざりだ」という、これ以上関わりたくないという疲労感があった。始終、ギュスタヴィアへの嫌悪感は隠しもせず、しっしと追い払うような手つきさえしてくる。

 

「その女を連れてどこへなりとも行くが良い」


 追放処分だ。金輪際、この国の土を踏むなと、国王としてのお達し。化け物どもとなんぞ共存できると思った己が愚かだったと、共存する気もない自分の本音は棚に上げてうんざりしていた。


 相対するのは銀の髪のギュスタヴィア。兄の決別宣言に黙し、何を考えているのかわからない顔をしている。


 が。そんな二人の静かな別れの沈黙に、イヴェッタ・シェイク・スピアは遠慮しなかった。


 ツカツカとルカ・レナージュの方まで歩いていくと白銀の竜を身の内より呼び出して、そのままエルフの王にけしかけた。


「は!?はぁ!?」

「あら、嫌だ。なぜ避けるのです?」


 がぶりと、頭を齧ってやろうと思いましたのに、と微笑むのは貴族の御令嬢に相応しい美しく可憐な顔。


「避けるに決まっているだろう!貴様、小娘……ッ、何を考えている!」

「何って……いやですわ。お義兄様、脅しているんですよ」


 と、悪びれもせずイヴェッタは答え、頬に手をあてた。


「わたくし、申しましたよね?ギュスタヴィア様をいじめるの、お止めくださいって。言葉で言って駄目でしたので、脅しているんです」

「き、貴様……」

「ギュスタヴィア様になさったこと、悔い改めて謝罪してください、などとは申しません。できもしないことは求めません。ただ、脅します。これ以上ギュスタヴィア様をいじめるのなら」


 ふん、とレナージュは鼻で笑い飛ばした。


 たかが人間種の小娘に何が出来るのか。守護精霊の力は強く、形は竜であるけれど、それでもレナージュの守りの魔法を崩せるものではない。


 レナージュが自身の優位への確信を持っていると、イヴェッタは守護精霊を自身の内に呼び戻し、両手を胸の前で合わせた。


「祈りますよ、この地で」


 色々ありましたが、切り花に戻りました。神を、個人的には冥王様は尊敬できると信じています、と、その心に偽りなし。エルフの国のこの地で祈って、エルフの名誉の何もかに泥を塗ってやれるんだぞとその脅し。


 ひくり、とレナージュは顔を引き攣らせた。


「イヴェッタ」


 祈りの歌を口ずさみかねない切り花を止めたのは王弟ギュスタヴィア。やはり優先するのは兄かという再確認、ではなくて。


「私も少し、考えてみたのです。レナージュ、その玉座、私が座った方が良いのでは?」


 ギュスタヴィアはそのまま剣を抜き、レナージュに向けた。咄嗟にレナージュが張り巡らせた防御の結界。


 それらが容易く砕かれて、ガラガラと魔力の残骸が崩れ落ちる。


「辛いのでしょう。苦しいのでしょう。私ごときに座らせられたその場所が。思い患うのであれば、その王冠は、兄上が嫌いで憎くてたまらない、この私が引き受けて差し上げますよ」


 この状況での、まさかの王位簒奪はさすがのレナージュも予想していなかった。控えていたロッシェとて同じこと。出遅れて、いや、ロッシェは咄嗟にレナージュを庇おうとした自身の足を、理性で堪えた。


 レナージュの瞳がロッシェを映す。瞬時に浮かんだ感情は「裏切ったのか」とそのように責める色。ロッシェは顔を歪めて、首を振った。どんな意味であったのか、それをレナージュが理解したのか、それはロッシェにもわからなかった。


 


 

 

 そうして、一か月後、新たなエルフの王の戴冠式が行われた。


 粛清と称して多くの貴族の血が流れたが、玉座が赤いのは常のこと。


 銀の髪に黄金の瞳を持つ、戦闘帝と謳われた美しい国王は、先代国王にして兄であるルカ・レナージュを塔に幽閉し、諸侯を自身の足元に平伏させ忠誠を誓わせた。


 その傍らには、最愛王の腹心であったはずの宮廷魔術師と、大公スフォルツァ。


 即位後瞬く間に境界線の防衛と強化を果たした新国王陛下は、偉業を以て民に受け入れられた。




 新国王の即位の二日前、エルザードから一隻の飛行船が飛び出す。


 人間種の国に向かうその船の中には、黒い髪に菫色の瞳の少女と、金の髪の青年が乗っていた。




書籍の……購入特典SSのネタがなくて詰んでいます。

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出ていけ、と言われたので出ていきます3
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