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1、頑張れ陛下!負けるな陛下!


 新緑の国、妖精国、エルフの国と様々な呼び方があるけれど、正式には「エルザード」という国名がある。

 そのエルザードの国王。

 光の民であるエルフ族を束ねる“最愛王”ことルカ・レナージュは悩みを抱えていた。


 三百年前に封じた忌まわしい呪いの子、弟ギュスタヴィアの封印が解かれたことを感じ取ってしまったからだ。

 それは日ごろの執務を終えて、自室でくつろいでいる最中のこと。寵姫たちの柔らかな肌に触れ戯れている至極の時であったのに、なぜだか急に悪寒を感じた。そして、酷い頭痛に、吐き気。美しく整えられた寝台の上にその日食べたものを全部まき散らしたのではないかというほどの量のものを吐き、粗く呼吸をしながら「……あの、化け物……ッ、出やがった!」と、そう理解してしまった。


 その日から、いつあの銀の髪に黄金の瞳の、見かけばかりは亡き母上によく似た美貌の弟がエルザードに現れて、国を火の海にしないかと気が気でなかった。

 ギュスタヴィアが復活しただなどと国民に知れ渡れば、その恐怖を知る世代が一斉に首を吊る事態になりかねない。


 とりあえずギュスタヴィアの気を紛らわせるべきだと家臣の数人に進言されて、八つ当たりの材料になりそうな適当な貴族の問題児どもを向かわせたが、それから一向になんの変化もないことが尚更恐ろしい。


 数日で別人のように青ざめ、痩せ細ったレナージュを家臣たちは案じてくれたが、彼らも「まぁ、最初に殺されるのは国王陛下だろうな」と思っているに違いない。


 いつだ。

 どこだ。


 どうやって自分を殺しにくるのかと、レナージュは警戒し怯え、すっかり憔悴していた。エルフにとって数日など瞬きする程度の時間でしかないはずなのに、レナージュはあの化け物の復活を感じた瞬間から、一分一秒が永遠のように長く感じられる。


「陛下はちょっと心配し過ぎなんですよ。大丈夫ですって、あの王弟殿下だってまずは国から焼きますよ。陛下は一番最後に残すはずです」


 エルフの戦士たちに囲まれた宮殿も、結界を張り巡らせた一室も、まるでレナージュの心に安心感を与えはしなかった。が、側近であり乳母兄弟のロッシェはただ一人、軽い口調でなんとかレナージュを落ち着かせようとする。


「復讐するなら、陛下の大事なものを次々目の前で、まぁ、ゆっくりじっくり、時間をかけて奪ってきますって」

「~~全くもってなんの慰めにもならんようなことを言うなよなぁ~!!その理屈だとお前は俺より先に嬲りごろされるんだぞー!馬鹿者めー!」

「いやぁ、まぁ。俺は陛下を守って死ぬのが最高の幸福なんで、それは別にいいじゃないですか?」

「よくない~!嫌だからなッ!お前が目の前で殺されるのも、あの化け物に殺されるのも!」

「って言いましてもねぇ。封印、解けちゃったんなら、まぁ、もう諦めましょうよ、陛下」

「軽い~!!」


 柔らかな寝台のクッションに頭を埋め、尻だけ出してブルブルと震える様は、全くもって威厳はない。が、普段は威厳たっぷり玉座に座り、我らの最愛王と国民に敬愛されるレナージュだ。そんなレナージュを友としても愛しているロッシェは困ったように笑う。


「ほらほら、いつまでも部屋にこもりっぱなしは駄目ですよ。陛下。エルフにとって太陽の光は必須ですからね。外に出て、庭の花でも見れば少しは元気になるんじゃないですか?」

「光……そうなんだよなぁ……その光の一切届かない、地下に……あんなに、皆で一生懸命穴を掘って埋めたのに……なんで出てこれたんだ……」

「まぁ、王弟殿下ですからね。なんでもありでしょ。今更ですよ」

「太陽の光の必要性も克服したとかふざけるなよぅ~!!」


 何でもかんでもグダグダと嘆く理由にしてしまう。

 ロッシェは肩を竦め、ずるずると無理矢理レナージュを寝台から引きずり出した。そのまま王宮の見事な中庭まで担ぎ上げて行って、太陽の光をたっぷりとその身に浴びせる。


「……」

「ほら、どうです。陛下。ちょっとは気分が変わるでしょう?」

「……まぁ、それは。うん。ありがとう。ロッシェ」

「いえいえ、どういたしま……」


 よかった、とニカッと歯を見せて笑うロッシェの顔は、言葉を発する途中の形で固まった。視線は上。何かの存在に気づき、軽く顔を上げて、それを目視し停止した。


「どうし……」


 レナージュは不思議に思い、ロッシェの見たものを確認しようと自分も顔を上げ、そして固まった。


 ズドンッ、と、何かが落下する。


 王宮務めのエルフたちが丹精込めて世話をした美しい花々が、その衝撃で全て発火し灰になる。


「ご無沙汰しております、兄上」


 灰燼を巻き上げながら、すぅっと、立ち上がるのは白銀の髪に黄金瞳の、背の高いエルフ。


 その腕には黒髪の人間種を抱き、足元には見覚えのあるエルフの貴族の娘が必死にしがみついている。


「この度、妻を娶りましたのでご報告申し上げに参りました」


 相変わらず美しい顔で、白々しくのたまう忌み子の登場に、エルザードの国王ルカ・レナージュは失神した。



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出ていけ、と言われたので出ていきます3
― 新着の感想 ―
[良い点] サブタイ含めて前話のイヴェッタの大事な確認作業からの温度差がひどすぎてひどすぎて。
[良い点] サブタイ含めて前話のイヴェッタの大事な確認作業からの温度差がひどすぎてひどすぎて。
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