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21、魔女狩り①


 イヴェッタの予想通り、イルミレアはサフィールとは別の雇い人がいるらしかった。縛られ身動きを取れなくされた弓兵の女性はふて腐れたような顏でそっぽを向き「だから何なの」という態度を隠しもしない。


「……なんで、そんなこと」

「……アルドは、関係ない。知らない。だから、私だけ殺すなり、なんなり、すればいい」

「イルミレア、俺たちは仲間だろ」


 アルドはショックを受けていた。この街の冒険者として一緒にやってきて、男女の仲ということではないが、お互いにただの知り合い・友人以上の思いや絆があると感じていたのは自分だけだったのか。裏切られたような気持になりながらも、アルドは恐ろしい顔付きをした自称馬丁の男や穏和な顏をしながらこの周辺の魔物を一掃した自称執事からイルミレアを守っていた。


「……」

「イルミレア」

「アルドは、関係、ない」

「イルミレア!」

「あの、アルドさん。人には色々と事情があります。イルミレアさんを責めてはいけませんよ」


 苦し気に何度もパートナーの名を呼ぶことしかできないアルドに、声をかけたのはイヴェッタだった。


「……は?」

「あの、イヴェッタさん」


 お前が言うのか、とイルミレアはイヴェッタを睨み付ける。アルドは戸惑うように眉間に皺を寄せた。


「お金目的、ではないでしょう。サフィールさんが十分な支払いをお約束してくださっているはずです。それでもアルドさんに内緒で別の依頼を受けた、ということは何か。そうですね――冒険者組合のサフィールさんより上の立場の人、だけではなくもう一つ何か事情、たとえば神殿や貴族、何か、イルミレアさんがアルドさんに言えない何か、言われたんじゃないでしょうか」

「……」


 イヴェッタはこの遺跡に来る前、魔物に襲われた際に、アルドが死を覚悟した場面、そしてその時に、イルミレアがアルドと一緒ならその終わりも良いだろうと受け入れた顏を見ている。


 何かどうしても叶えたい強い願いや想いがあるのなら、こんなところで死ぬものかとあがいたはずだ。だが、そうしてはいない。ということは、彼女がパートナーに黙って別の依頼、それも、アルドという実直そうな男の性格上、彼は反対するだろう依頼の重複に、イヴェッタの妨害・あるいは殺害を受けたのは、理由があってのことに違いない。


「なんなの、あんた。自分が殺されかけた、のに」

「わたくしは気にしていませんので、その件に関しましては別に」

「なに。聖女さまの、つもり?許して、なんて、誰も思って、ないんだけど」


 吐き捨てられ、イヴェッタは微笑んだ。


 イヴェッタは自分は誰かに赦しを請う側ではなく、赦す側であると理解している。しかしその事をイルミレアに告げても彼女は憤慨するだけだろう。


「……あいつら、母さんが死んだのは、私の、祈りが足りなかったから、だって。試練、だって。乗り越えられれば、母さんは天国へ行けて、私は、正しいことが、できるんだって」


 イルミレアはぽつり、と口を開く。イヴェッタにここまで暴かれた以上、あとは自分の口から言わなければ、アルドにもっと軽蔑されるだろうと思ったのだ。


「試練?」

「そう。神殿にいる、正しい聖女。メロディナがそうだなんて、別に思わない。けど、あんたは違うから、邪魔だから、いらないって。聖女のために。じゃないと、母さんは天国に行けないし、アルドも、」

「……俺のことまで言われたのか?」

「……うん」


 イルミレアは信仰心が強かった。母のために、祈り、お布施をして、神よ、神様、と縋って祈ってきた。神殿の神官たちを信頼する気持ちも強かった。そのため、汚れ一つない神官服に身を包んだ神々しい神官に「お前がすべきこと」を告げられ、疑うことなどできはしない。


「……くそっ!」


 アルドは頭をぐしゃぐしゃに掻き毟り、持て余した感情を樹を殴ってなんとか抑えつける。


「アルド、」

「だからって、お前の母さんが、お前がこんなことをして喜ぶものか!俺だってそうだ!お前が俺のために人を殺すくらいなら、地獄に行った方がマシだ!」

「あの、大丈夫です。地獄とかありませんから」


 慟哭するアルドや、俯くイルミレアの哀愁漂う場面であるが、イヴェッタはのんびりと声をかけた。


 何か誤解をされているようだ。


「は?」

「ありませんよ、地獄。天国もないのですけれど。冥界ならあります。亡くなった方は皆そこに等しく行きます。お母さまもそうですよ」

「……イヴェッタお嬢さま、少々よろしいでしょうか」


 ないです、地獄。と繰り返すイヴェッタの顏には迷いがない。が、幼いころから「正しいことをして死んだら天国に行ける。悪いことをすれば地獄に落ちる」と教えられ育ってきたアルド達は「何言ってるんだこいつ」という反応である。


「タイラン、わたくし何か間違っているのかしら……」

「世間一般的には天国や地獄があるものと考えられております。イヴェッタ様にとっての神々や信仰と、為政者、神殿にとって宗教や必要な信仰というものは異なるものでございます」


 神々の威光と、神殿の権威。人の世に必要なのはどちらかという問題に関してイヴェッタは疎かった。しかし信頼する執事が言うならその通りなのだろう。


「でも、そうですね。それなら、イルミレアさんとアルドさんのことはお二人で話し合って頂くとして。わたくしたちは街へ戻る、ということでどうでしょう」


 イヴェッタは自分が殺されかけたことはどうでもいいと思うのだが、周囲がそうはさせない。タイランとイーサンはイルミレアやその背後にいた者を始末すべきと主張して譲らない。が、イヴェッタはイルミレアが深い愛情からそんなことをしてしまったと、その点を考慮すべきだと考えている。


 アルドに「二人はこのまま街へは戻らず、他へ移動する」ことを罰としてはどうかと提案した。イルミレアからすれば故郷から離れなければならない。イヴェッタはつい先日自分が国外追放となったので、それに倣った。アルドはイルミレアのパートナーとして共に行ってもいいし、イルミレアを見捨ててもいい。当然アルドはイルミレアといる事を望んだ。


「……イヴェッタさん、本当に、イルミレアを恨んでいないんですか?」


 出発するというアルドは何度も、イヴェッタに問うてくる。確認、の意図。アルドはイヴェッタが祈りの言葉だけで強い魔物を眠らせた事。人なら死ぬはずの高さから落ちたのに生きていること。血だらけの服は執事によって着替えさせられたが、体のどこにも怪我をしている様子がない事。何か、この育ちのよさそうな女性は、何か、得体の知れない存在ではないのかという疑念があった。


 そのためイヴェッタがイルミレアを僅かでも恨み、あるいは嫌えばその報いは百倍となってイルミレアを襲うのではないかという不安。


 しかしイヴェッタはアルドの不安はわからない。ただ大切な人のために心配しているのだろうと感動し、杖を握って両手を胸の前に構える。


「もちろんです。どうかアルドさんとイルミレアさんに、神の御加護がありますように」


 


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出ていけ、と言われたので出ていきます3
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