弟には秘密があるみたいです。
今回は前半はジークで後半はエリウスのお話です♪
「ジーク♪」
「エリウス殿下……」
書斎で書類の整理をするお嬢様にお茶とお菓子を持っていこうと王宮の廊下を歩いていると、エリウス殿下が現れた。
ここ最近、エリウス殿下は俺の行く先々によく現れる。
シルバーゴールドの瞳に艶のある藍色のストレートの髪。
神秘的な雰囲気のある彼は一見女の子と間違えてしまいそうな程可愛らしく妖艶な見た目だ。
「あ、マカロンだー!一個ちょうだい?」
うるうるとした眼で見上げられるとドキッとしてしまう。
「だ、ダメです!これはお嬢様のために作ったんですから!」
「一個だけだよ?どうしてもダメ?」
「ダメです!お嬢様に召し上がって欲しくて散々練習してやっと作れるようになったんですから!」
事は一週間前……
『姫様はマカロンが好きなんですよ。あなたは知らないと思いますけれど。それと、紅茶は薔薇の花びらを浮かべたものを好んで飲まれます。あなたは知らないと思いますけど』
お嬢様の前任のメイドであったというメルさんから俺宛に手紙が届いた。
最初の方は畏まった事が書かれていたが、だんだんと新たなお嬢様付になった俺への恨みに変わっていき、最終的にお嬢様についてマウントを取ってきた。
あからさまな嫉妬に俺も俺でムキになってしまい、その日から唯一苦手としていた料理の練習を夜なべして始めた。
何度も何度も失敗して料理長にも至難を受けてようやく綺麗なものが焼けるようになった。
お嬢様の好きな薔薇クリームを絞りながら考えるのは彼女の喜ぶ顔ばかりだった。
お嬢様、気に入ってくださるだろうか……。
笑顔で食べる彼女の事を想像して、胸が焼けるように熱くなった。
「ジークって姉上の事好きなの?」
「は!?ちちちち違いますよっ!!お嬢様をお慕いする気持ちはありますけど、そんな邪な気持ちなんて!!」
「ハハッ、冗談だよ♪そんなに焦らないでよ♪それじゃ逆に怪しいし」
そのエリウス殿下の言葉にギクッとして足が止まった。
「その……」
確かにこの間のパーティー以降お嬢様を見ると、心臓が速くなったりするし、笑顔を見れると胸が熱くなるし、目が合うと恥ずかしいけど嬉しいと思う。
意識していないとは流石に言えない……。
「でも、そっか。主人として慕ってるだけなら安心したよ♪ジークじゃ、絶対に姉上の恋人にはなれないからさ」
「……それは、主従の関係だからですか…?」
「それもあるけどさ、何より姉上に相手にされないよ。君は全然姉上の好みじゃないから」
胸が痛かった。
何を考えていたんだ……馬鹿みたいに初めての感覚に浮かれ上がって……
「お嬢様の好み……?」
「そう。年上で筋肉達磨みたいな暑苦しそうな男。今まで姉上が惚れて恋人になったのはそんな奴ばっか」
確かにジークは身長はあるがかなりの細身で、平均よりも体重は軽い。
筋肉は無いわけではないが、筋肉達磨では全く無かった。
何より歳はコーデリアよりも下だ。
「……そうなんですか…」
「姉上も何でそんなのがいいのか疑問だよ。僕はそんな奴らよりもジークみたいな綺麗で可愛い感じの男子の方がいいと思うけどな~」
エリウスの妖艶な微笑みに思わず目が奪われる…………
事はなく、そんなことよりもジークはコーデリアの好みのタイプでない事に大打撃を受けていた。
俺は一つもお嬢様の好みに当てはまっていない…。
お盆を持つ自身の細腕を見た。
鍛えないと……
こんな貧弱では……
自分には手の届かない相手だと分かっていても、少しでも見てほしい…
自慢の妖艶スマイルを完全に無視されたエリウスの眉間には血管が浮き出ていた。
わざわざ俺が褒めてやって、面白くもないのに笑ってやったのに無視だと…。
「……殺してぇ」
「え?エリウス殿下何か言いましたか?」
「ううん!なんでもないよ」
「そうですか。紅茶が冷めてしまうのでもう行きますね」
ジークはお辞儀をすると行ってしまった。
「殺してぇ……」
エリウスは小さくそう呟いてから、自身の部屋に戻った。
机の上には山ほど積み重なった手紙が置いてあった。
差出人の名前はコーデリアの元恋人たちの名前やルルメルばかりだった。
中身を確認しないでそれを灰皿に入れてマッチで火をつけて燃やした。
「男なんかに好かれて嬉しいわけがないだろ…面倒くせぇな…」
エリウスは暖炉の左上の煉瓦を押した。
そうすると、ゴゴゴッと暖炉が少しだけ動き、人一人がやっと通れるぐらいの隙間が出来た。
エリウスの部屋には何代か前の王が愛人との逢瀬の場所として作った隠し部屋がある。
幼い頃にその存在に気づいたエリウスはその存在を口外せず、自身の大切なものを保管する場所にした。
人が一人暮らせるだろうぐらいの広さのその部屋にはクローゼットとソファがあり、壁には肖像画が飾ってある。
クローゼットの中には何着ものドレスが入っている。
その中の一つを取り出し、抱き締めた。
愛しい女の香りにそっと目を閉じた。
『わたくしもエリーの事が大好きよ』
子供の頃「好きだ」と言った俺の言葉にそう言って返してきた。
呪縛のように今も断ちきることの出来ないこの想いのやり場を今も俺は見つけられていない。
「コーデリア……」
姉に恋をするなんて、頭が可笑しくなったのかと思った。
だけど、彼女と俺が姉弟でないと分かって、血が繋がっていないと分かって一層恋しくなった。
許されない想いでは無かったのだと…。
好きで好きで……気づいてほしくて……
それなのに気づくどころか、コーデリアは好きな人が出来たと言ってきた。
あのときは何日も食べ物が喉を通らなかった。
どんな奴がコーデリアの心を射止めたのかと思い、ケイリスという男爵家の男を見に行けば筋肉の塊のような暑苦しい男だった。
あんなのの何がいいんだよ……
差し入れと言って飲み物とお菓子を持ってケイリスのところへ通うコーデリアをよく見た。
ヘラヘラとコーデリアの求愛を受ける奴が憎くてたまらなかった。
俺が欲しくて欲しくてたまらないものを何で男爵家なんかのお前が貰えるんだよ……。
だから、壊してやろうと思った。
幸い、見た目には自信があった。
少しだけ上目遣いをして笑ってやれば老若男女誰だって落とせた。
ケイリスも同じようにちょっと気があるフリをしてやればコロッと俺に落ちてきた。
コーデリアは「別れたくない」とケイリスに泣いてすがっていた。
『あなたがエリウスが好きだと言うなら、エリウスみたいになります…だからわたくしを捨てないで……愛しているんです…あなたを……』
ケイリスから別れを告げられた日、柱の影からその光景を見ていた俺は自分で仕組んだ事なのに泣きそうな程胸が苦しかった。
何でそんな男にそこまで言うんだよ……。
皮肉にもコーデリアのケイリスへの想いの深さを知った瞬間だった。
そのあともコーデリアは男をつくった。
その度に壊したけれど、コーデリアがあそこまで食い下がったのはケイリスの時だけだった。
コーデリアにとってケイリス以降の男はすべてが代用で彼女は彼を忘れられていないのは明白だった。
次回も宜しくお願いします。