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パーティーのエスコートがいません。

ブクマ、評価有り難うございます!!!

創作の活力になっております!!


夜になり、私はパーティーのためドレスに着替えていた。



綺麗に開いたデコルテには銀細工のされたネックレスが輝き、青いサテン生地のドレスには黒のレースで細かい装飾が沢山してある。



「本当に姫様はスタイル抜群でございますね~」



着替えを手伝ってくれた衣装屋の老婦人は頬に手を添えてうっとりと私を下から上まで舐めるように見ていた。



「腰はキュッと締まっていて、お胸は美しい谷間をつくれる程に豊か。艶やかな黒髪には大きな百合の花の飾りがよく映えていて……まるで一枚の美人画のようですわ」


「それは言い過ぎだと思いますけれど……」



腰だってコルセットのお陰で細いわけだし、胸はぐぐっと寄せて作った谷間なのよね……。




私はいつもの数倍も盛った自身の姿にため息を吐いた。


これだけ着飾ったところで、私にはエスコートしてくれる男性がいないのに……


基本的に恋人または婚約者がパーティーへのエスコートは行う事になっており、パートナーのいない者は父親や兄弟、親戚筋の者に頼みエスコートして貰う。


王族の親戚はいるはいるのだが、お父様の若かりしころにあった王位継承争いで敗れて以降南部の辺境に小さな邸宅を構えてひっそりと暮らしている。


事実上の離縁状態なのだ。



弟二人にも婚約者がいるし、お父様は皇后様のエスコートがあるため私は一人でパーティー会場に向かうことになるのだ。



鏡に映る自分の格好がとても滑稽だった。



胸元をこんなに開けて、何を張り切っているのやら……。



世の中の人から「嫁き遅れの女が身体を使って男を落とそうと必死になっている」なんて思われないだろうか。







「お嬢様」


ふと呼ばれて鏡越しにドアを見ると、そこにはジークが立っていた。


「ご準備出来ましたか?」


「ジーク、ストールか何か無い?」


「まあ!姫様ったら!まさかその胸元を隠されるおつもりですか!?ダメですよ!こんなにもお綺麗なデコルテと大きなお胸をお持ちなのだから!ほら、そこの坊やもそう思うわよね!?」



そう言って、私の身体をドアの方へ無理矢理向けた老婦人はジークに「そう思うわよね!!」とめちゃくちゃに同意を求めていた。



老婦人の言葉にジークの目線が私の胸元に落とされた。



「ジーク、どこを見ているのよ……」


「え!あ、いえ!!!違います!!いつもはその首の方まで布のあるお洋服でしたので、何だかその……えっと……」



目を逸らしたジークは何を言えばいいのか困っているようだった。


どうせジークも「何をこの女は頑張っているんだ」と思ったに違いない。


彼には目も当てられない程に可哀想に映っているのかしら。


「やっぱりストールを羽織るわ。見苦しいものを祝いの席で見せるわけにもいかないからね」



私がそう言ってクローゼットに向かおうとすると突然腕をジークに掴まれた。



「その……いつものお嬢様はお綺麗でとても魅力的な方ですが、今日のお嬢様は凄く……魅惑的と言いますか……えっと…」


「うんうん、今日の姫様はいつにもましてエッチだって言いたいのよね~坊やは♪」




俯きながら私にモゴモゴと歯切れ悪く話していたジークの隣にいつの間にか老婦人がおり、彼の肩に手を置いて深く頷いていた。



「ち、ちがっ!!わ、私はただ今日のお嬢様もとてもお綺麗だと言いたかっただけで!!エッチだなんて、そんな邪な目で見てなどいません…!!!」



真っ赤な顔のジークは必死に老婦人によく分からない事を言っているが、一方の老婦人の方は聞いているのかいないのか「ハイハイハイハイ」と棒読みの返事だけ返していた。


気を使ってくれているのね。

ジークは優しい人だ。


「何にせよ、ストールは要りませんのでこのまま会場へ向かってくださいね!!!」


老婦人に凄まれて、仕方なく頷いた私はまだ顔を赤くしているジークに声をかけて部屋を後にした。







会場へ向かう途中、何やら怪しい動きをするリリアン様を見かけた。



「リリアン様、どうかされたのですか?」


「ん?あら!コーデリア様でわないの!それにジークも!丁度あなたたちを捜していたのよ!」


「わたくしたちを?」



「ええ、これを渡したくて」と言ってリリアン様は私に青い紳士服を渡してきた。




「これは……?」


「コーデリア様がカシオとお別れになられたと耳にしたから今日のパートナーはいないのではと思ったのよ」


「ええ、今日は一人で行こうと思っておりましたが……これは…?」


「ジークの紳士服よ」



羽扇子で口許を隠しながらニッコリと目を細めたリリアン様に私もジークも首を傾げた。



「リリアン様、私はお嬢様の執事です。パートナーにはなれませんよ」


「ジーク、あなた社交界で女性がパートナーも連れないで一人会場に入ることがどれだけ恥ずかしい思いをするか知っているの?」



断ろうとしたジークに鋭い眼差しを向けるリリアン様の声音は厳しいものだった。



「わらわが体験した事では無いけれど、その現場に居合わせた事があったのよ。酷く惨めだったわ…彼女の事をよく知りもしない者達が彼女を嘲笑って穢い言葉を吐いていた…その子はそのあと一度もパーティーに出る事が無かったわ」


リリアンは悲しげに眉を寄せた。




「リリアン様……」


「ジーク、あなたは自分の主人にそんな思いをさせたい…?」


「でも…私は……執事ですし…」


「執事をパートナーにしてはいけないという決まりは無いわ」



ジークはチラリと私の顔を見た。



「私ではなくてお嬢様の意見を聞いてください。…お嬢様は嫌では無いですか…?…私のような従者が相手なんて…」



不安げに揺れる紫の瞳に私は微笑んだ。



「わたくしはあなたがパートナーになってくれたら嬉しいわ。正直、気が重たかったの…一人で会場のドアを開ける勇気が無かったから…」



胸に手を当ててそう言うと、ジークは覚悟を決めたように大きく頷いた。



「承知しました!急いで着替えて来ますので少々お待ちください!」



そう言って走って行った彼をリリアン様と見つめていた。



「可愛らしいでしょあの子」



満足そうに笑う彼女に私も「そうですね」と返した。



「今年で20歳だけど、まだ婚約者がいないのよね~」



「困ったわ~、誰かいい方がいないかしら~」と言って頬に手を当てるリリアン様は薄く開けた左目で私をチラチラ見ていた。



「ジークは何でも出来て容姿もいいからすぐに見つかりますよ」


私が笑顔でリリアン様にそう言うと何故か彼女は大きな溜め息を吐いて項垂れた。




「先は長そうね…」


「ん?何か言いましたか?リリアン様」



「何でもないわ」と言ってリリアン様はまた扇子で口許を隠した。








次回、遂にウィルソンがしっかりと登場予定です!

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