幼なじみからお手紙が届きました。
『父上の子では無いくせに王女の真似事をしてる姉上を見ていると、イライラするんだよ』
今でもエリウスから言われたあの言葉が私を苦しめていた。
私には王族の血なんて一滴も流れていない。
陛下と皇后様の大切な人の娘だった私をお二人が自分達の娘として育ててくださっただけなのだ。
私の実の両親は既に他界している。
引き取られた当時まだ赤子だった私がその事実を知ったのは、12歳の時だった。
あのときの私はただひたすら泣いていた。
両親が亡くなっていたからではなくて、捨てられてしまうのではないかと不安で仕方なかったから。
そんな不安なんて感じる必要なんて無いほどにお父様も皇后様も私を本当の娘のように愛してくださった。
「姉上、またフラれたんだってね。可哀想に」
夜の晩餐でエリウスはさも他人事のようにそう言ってきた。
「………。」
一体誰のせいだと思っているの。
確かに私に彼らを引き留められる程の才能も器量も無いのは事実だけど、姉の恋人に毎回ちょっかいだして破局させるなんて弟として酷いと思わないのだろうか。
否、思っているならそんなことするはず無いのだろう。
エリウスは王族の血を継いでいない私を酷く嫌っているから、悪いなんてこれっぽっちも思ってなんていない。
「ええ!!??姉上、またフラれたんですか!!??」
第二王子のアウルはガチャンと音をたてて立ち上がった。
「アウル、下品よ」
「いや、姉上!!どうするんですか!?今度こそ結婚するとか前に言ってたのにまたフラれるなんて!!」
「わ、分かっているわ…。次は上手くやるわよ……。」
「もう止めれば?どうせ次もダメになるんだろうし」
エリウスのバカにしたような言い方に俯くと静観していた皇后様が口を開いた。
「エリウス、アウルも…お姉様に対して何て言い様ですか。謝りなさい」
「母上もどうせ無理だと思っていらっしゃるのでしょう?姉上ももう21です。男ならまだしも女性で適齢期を過ぎた者を家に入れたいと思うはずありません。」
エリウスの言うことは最もだった。
適齢期を過ぎても婚約者すらいなかったような女性は『何かあるのでは?』と疑惑を持たれることが多い。
押し黙ってしまった皇后様にお父様は咳払いをして私の方を真っ直ぐ見た。
「……いざと言うときはずっとここで暮らせばいい」
きっと優しさからそう言ったのだろう事は分かっているけれど、逆にその言葉が私を追い詰めていた。
「私もお姉さまに言ったのよ!でも、お姉さまったら結婚願望が強いみたいで、結婚するって聞かないのよ!」
「姉上は前から結婚に夢を見がちだからね。その歳でイタいと思わないところが凄いよ」
泣くな……。
こんなことはケイリスにフラれた時に比べれば何てことない…。
「…お父様、お義母様…申し訳ありませんが、わたくし気分が優れませんので部屋で先に休ませて頂きます。」
「リア……」
「失礼します……」
メルに言って食事を下げてもらい、私は部屋に戻った。
部屋に帰ると、机の上に手紙が置いてあった。
「アーデンロード卿からのお手紙です」
「ウィルから…」
ウィルソン・グレイ・アーデンロードは私の幼なじみだ。
金色の髪にエメラルドの瞳が特徴的な中性的な男性で、「あの甘いマスクは世の貴婦人を誘惑して仕方ない!!」とかそんなことをメルが言っていた気がする。
同い年の彼は公爵家の次男という立場で、自身の兄よりも優秀なのだが、家督を継ぐ気は毛ほどもないらしい。
封を切ると上品な香が香ってきて、彼の女性に対する丁寧さがよく伝わった。
定期的に彼は私に手紙をこうして送ってくれるのだが、内容はいつも日常的な事ばかりだ。
それでも面白く感じるから彼が女性にモテるのも理解できる。
「アーデンロード卿は今遠征中でしたっけ?」
「ええ。隊長に女の子をナンパしてこいって毎日言われてるそうよ」
「アーデンロード卿ならどんな女性でもついて行ってしまいますよ~」
メルはキラキラと目を輝かせやがら、うっとりとした顔をした。
苦笑いをしながら、もう一度手紙に目を落とした。
『リアはカシオとどうですか?』
その言葉にまた私は泣きそうになった。
またダメだったよ……ウィル……。