またフラれました。
「リア、俺は君のことを愛していなかったみたいだ…」
「…カシオ…何を言っているの…?」
「エリウス殿下へ抱くこの想いが、恋なのだと気づいたんだよ」
忙しいカシオに合わせて予定を空けておいた週に一度のお茶の時間に私は何を言われているのかしら?
持っていたティーカップの取っ手にヒビが生えた。
「エリウスの何処がいいのですか…顔ですか……」
「彼の美しい容姿に惹かれたのは否定しないよ。だが、それだけじゃ無いんだ。あの守ってあげたくなるようなか弱さに俺の中の男が覚醒しただけだよ。君には無いか弱さが愛しくて堪らないんだ」
「…………(何を言っているのかしら。猿と話す方がマシな気がするわ)」
「だから、今日で君とは別れることにするよ。君にはもっといい人がいるはずだよ」
「……そうですか。分かりました…」
メイドと共に部屋に帰った私はそのままベッドに倒れて枕に頭を埋めた。
これで9人目……。
18の誕生日にケイリスにフラれてから私はさっきのカシオを合わせて8人の男と付き合った。
正直、ケイリス程好きになった人はいなかったけど、皆一生を共にしてもいいと思える程には好きだった。
「姫様、ハーブティーをお持ちしました」
メイドのメルはベッドの横の机にカップを置いてくれた。
「大丈夫ですよ!カシオ様は姫様の運命の相手では無かっただけです!」
「ありがとうメル……。でもそれ、アレックスの時も言っていたわ…」
「あ、えっと……。」
「このまま、わたくしは独身のままなのかもしれないわね…」
先月私も21になった。
この国ではだいたいの子女が16~18歳に結婚をする。
つまり、私は適齢期を過ぎてしまったわけだ。
私は王家の長女として誰よりも早く嫁がなくちゃいけなかったのに、今では下の弟妹たちの方が先に婚約者がいる。
世間ではお父様とお義母様が流した噂のお陰で、「長女のコーデリア殿下に婚約者がいないのは陛下の親バカでまだ嫁がせたくないからだ」という事になっている。
それでも、十分に私は恥ずかしかった。
こんな風にフラれてばかりでは長女としての示しがつかない。
部屋の扉を誰かがコンコンとノックしたので、そちらに顔を向けて「はい」と言うと、ひょっこりと顔を出したのは妹のクロエだった。
「お姉さま!カシオにフラれたって本当に!!??」
「……誰から聞いたの…?」
「エリウスお兄様から!」
「……。」
「ねぇ、もう結婚なんてしなくていいじゃない♪お姉さまはずっと王宮で暮らしていけばいいのよ!」
「嫌よ……わたくしだって何処かに嫁いで、家族をつくりたいの」
「でも、お姉さまを妻にしたいって家が無いのだから仕方ないじゃない」
クロエは悪気の無いような顔で言った。
第二王女のクロエは特別甘やかされてお父様とお義母様の愛情を沢山受けていた。
まあ、言い方を気にしない所はどうかと思うけど、私にも懐いてくれていて可愛い妹だ。
「いざと言うときはお父様にお願いして隣国でも何でもお見合い相手を紹介して頂くわ」
「ふーん……」
クロエはつまらなそうな顔をしていた。
「エリーは他の人にも言ってるの…?その……わたくしがカシオにフラれたこと……」
「分からないけど、私がお姉さまはどこ?って聞いたら、『今ちょうどカシオにフラれてるとこだと思うよ』って笑いながら言ってたわ」
「そう……。エリウスからしたら笑い物なのね…」
確かに私の恋人はここまでことごとく全てエリウスに惚れたと言って別れを言い渡してきた。
彼からしたら笑い物なのだろう。
自分のせいで嫌いな姉がどんどん嫁き遅れになるのは。