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第7話 現代ニッポンの苦手分野

女神アシスタ

『現在の神時間の経過は15,745文字!

残り4,255文字です!』

 言った。言ってしまった。


 思えば、前世と合わせても女性に愛を告白するなどという経験は初めてだ。

 後戻りはできない。

 この言葉次第で俺たちの関係はより進むか、もしくはご破算になるかのどっちかだ。

 後者になることを考えたくはない。

 だけど動かなければいずれ彼女は俺の手の届かないところに行ってしまう。

 勇者の名を返上したくなるほど、俺の勇気は縮こまっている。


「……ええと……付き合って、ってことだよね?」

「……はい」


 普段いつも目を見て話してくる彼女の目が泳いでいる。

 一瞬、唇を噛みしめるようにした直後、彼女が言った言葉は、



「ごめんなさい。それは無理だよ」



 無理――――ああ……うわああ……キツイ……

 地面が揺らぐ。

 空が回る。

 胃の中に重い物が押し込まれる。

 目の奥が熱くて目から汗が吹き出しそう……



「あ、あまり落ち込まないで。

 サダメくんだから無理って言うのじゃなくて、私はそもそも恋愛関係疎いと言うか……

 恥ずかしながら二十歳になったのに付き合ったことないんだ。

 どうもそういうことをしたいという欲が湧いてこないというか……

 こんな変わり者じゃなくても、サダメくんならいくらでも良い女の子と付き合えるよ」

「良い女の子なんか!

 俺はあなたと付き合いたいんだ!」


 まるで駄々っ子のように往生際悪く縋ってしまう。

 だけど彼女は首を横に振って、


「それはできないよ……ゴメンね」


 と告げた。



 あー、もうダメだ。

 もう死にたい。

 もういっそ殺してくれよ女神様。

 いや、ホントに死ぬわけにはいかないけど。


 平和なニッポンにおいては失恋ほど精神ダメージの大きいイベントそう無いだろうな。

 恋に臆病な人間が増えるわけだ。

 あー、これからどうしようかなあ――――



 と、精神が絶望の谷底に転げ落ちていくところに邪魔が入った。

 大勢の足音が急に俺と本郷先生に近づいて来て、取り囲まれた。


「っ!? 緒音さん!」

「わっ!?」


 反射的に彼女の手を引っ張って俺の背中に隠すように庇った。


「楽しそうじゃん、サ・ダ・メ•くん」


 ニヤケ面と一緒に不愉快な笑い混じりの声を押し出して来たのはよく見知った顔だ。


「山岸…………」


 山岸といつもの不良な仲間たち。

 屋上での一件があってからは誰も俺に近づかなくなっていたのに。


「なんでかって思ってるんだろう。

 お前、俺たちを脅す時によく口走ってたよな。

『俺には失うものなんてないからトコトンまでやるぞ』って。

 あれ怖かったんだよなあ。

 思い出すだけでクソちびりそうなくらい」


 山岸がそう言うと周りの連中が大笑いした。


「お前の言うとおりあの時のお前は無敵だったよ。

 だけど、今はそうじゃない。

 いい高校への進学が決まって、しかもそれをお祝いしてくれる綺麗な彼女……

 てか、マジでヤベえ、可愛すぎね?」


 連中の視線が無遠慮に緒音さんに突き刺さる。


「グラビアアイドル?」

「おっぱいGカップ?」

「一回いくら?」


 などと下品な言葉を織り混ぜて。

 ……ようやく理解した。


「おっと、暴力事件なんて起こすなよ。

 そんなことになったら折角いい高校いけるはずだったのが取り消しになるかもよ。

 それに、いくらお前でもこの人数相手に勝てると思ってるの?

 その可愛い彼女守りながら?」


 山岸は勝利を確信してる。

 奴は俺にやられて反省したわけでも懲りたわけでもなかった。

 虎視淡々と俺に弱点ができる時を待っていたのだ。


 ……本当に、現代ニッポンに生まれてなければ、その才能をもっと有意義に使えたのかもしれない。


「俺は……この世界が素晴らしいと思っているし、平和な現代ニッポンのルールを遵守しようと思う」

「あ?」

「だが、ニッポンの法律で一つだけ負に落ちないところがある。

 それはお前らみたいなゴブリン並の価値しかない奴を殺しても罰せられるということだ!!

 許されるなら全員ブチ殺してやりたい!!」


 俺がそう怒鳴って睨みつけると連中は後ろに尻込みした。

 だが、山岸は前蹴りを俺の腹にぶち込んできた。


「ぐっ!」

「サダメくん!」


 うずくまった俺を緒音さんが抱えるように支えた。

 震え怯えているのに俺の心配をしてくれる彼女を見て――――意志が固まった。


「お姉さん、ボコるのに邪魔だからコッチおいでよ」


 山岸の手が緒音さんの身体に触れようとしたが、



「触るな」



 俺は山岸の手首を握り、そのまま骨の隙間に指を立てるようにして一気に力を入れる。


 バキバキバキっ!


 手首の骨の隙間の空気が圧迫され破裂する音が響き、


「あぎゃああああああああああ!!」


 山岸が悲鳴をあげた。

 さらに畳み掛けるように奴のくるぶしに蹴りを叩き込み、靭帯を切り、距骨きょこつを叩き割った。

 山岸が泡を吹きながら地面に転がる。




 何もかも前世に比べて優れた研究がなされている現代ニッポンの学術であるが、これだけは前世に比べて劣っているという分野がある。


 それは人間の壊し方。


 スポーツとして昇華されているボクシングや空手はもちろん、軍用格闘術のサンボやシステマでさえセーフティが掛けられている。

 だが、俺が前世で身につけた格闘術は人型の生き物を徹底して破壊、殺害する殺人術。

 故にこの世界では封印し、鍛えた身体でこの世界の格闘術を使った戦い方をしていた。

 平和な世界で生きる人々を必要以上に傷つけたくなかったからだ。


「だが、俺はもう貴様らを人間とは認めんっ!!

 死のうが後遺症が残ろうが知ったことか!!

 俺から守るものを奪おうとするということは貴様らもその覚悟はしてきたということだろうな!?」


 全員を睨みつけると明らかに怯えている。

 コイツらは手を抜いた俺にボコボコにされている上弱みも握られているのだ。


「俺を引き摺り下ろすということはお前らも俺に一生付きまとわれるということだぞ?

 学校を卒業したら終わりなんてものじゃない。

 俺は死ぬまで貴様らを許さんし、貴様らの周りも大切なものも一生懸けて踏みにじってやる!

 それを分かっての狼藉なんだよなああああ!!」


 俺は吠えた。

 それが決まり手だった。

 戦意を喪失した奴らは命乞いをするように媚びた目で言い訳を始める。


「す、す、すまなかった!!

 俺たちはもうやる気なかったんだけど山岸が……

 いや! ゴメンなさい! どうか許してください!!」


 その場にいる全員が冷たい冬の道路に土下座して平伏した。



「……二度と俺に関わるな。

 一人でも破ったら全員連帯責任だ」



 そう脅すと、連中は山岸を抱えて大急ぎで逃げていった。

女神アシスタ

『現在の神時間の経過は18,296文字!

残り1,704文字です!


アホな奴らですねー。

虎の尾を踏むとはまさにこのこと。

それはそれとて、勇者様!

残りの神時間がアアアアアアッ!?


さて切迫して来ましたが「面白い!」「続きが気になる!」と思ったら、遠慮なく感想を書き込んでくださいね!


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では、また明日お会いしましょう!』


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