第6話 初めての告白
女神アシスタ
『現在の神時間の経過は13,234文字!
残り6,766文字です!』
両親に緑川高校に進みたいと伝えると、全くの反対もなく認められた。
私立の高校の学費はかなり高額であるが父には
「子どもが学費のことを気にするな」
と母には
「素敵そうな高校じゃない。頑張りなさい」
と言われただけだ。
つくづく、今世の境遇は恵まれている。
友達や恋人はいなくともちゃんとした大人が周りに居てくれるというのはとてもありがたい。
そして……本郷先生。
彼女に出会ってから女神様の言っていた『2万文字以内に恋人を作らなきゃ即死亡』という呪いがどうでも良くなってしまった。
あれほど美しく優しさの中に凛とした信念のある魅力的な女性を目にしてしまえば、彼女以外と付き合うなど欺瞞としか思えないからだ。
生きながらえる為に適当な恋人を作る。
そんな惨めったらしいことをする為に俺は今世を送っているのではない。
俺はただひたすらに勉強した。
本郷先生が指し示して、俺が選んだ未来を手につかむ為に。
そして時は流れ、2月――――
受験当日の朝。
1時間ほどの余裕を持って受験会場である緑川高校についた俺を校門で待っていたのは本郷先生だった。
「どうしてここに?」
俺が尋ねると、彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべて、
「だって私の大学ここの隣なんだもん」
そう言って指差したのは緑川高校が附属している南城大学…………
俺が驚いた顔をすると、クスクスと口元を指で隠しながら彼女は笑った。
「普通家庭教師がどこの大学に行ってるかくらい聞くもんじゃない?」
「普通というのが苦手なもんで」
「サダメくんらしいなあ」
そう言ってポケットからあったまったカイロを取り出し僕に握らせた。
「受かったらお隣さんだね。
学年は四つ違うから同じキャンパスに通うことはないだろうけど、来るの楽しみにしてる」
そう言って彼女は俺の胸を拳で軽く叩いた。
冷えた空気の中で彼女の頬やコートの隙間から見える足の肌が赤くなっている。
息が苦しくなって思わず思っていたことを聞いてしまう。
「どうして先生はここまでしてくれるんですか。
家庭教師って勉強さえ教えていたらそれで十分なはずなのに」
俺の問いに彼女は不敵な笑みを浮かべる。
「君がもし正義のヒーローで悪い奴を倒すのが仕事だったとして、その為だったらやり方に拘らず、たとえば罪もない人や平和な暮らしを脅かしても良いと思うタイプ?」
俺は即座に首を横に振る。
「そういうことだよ。
私は家庭教師として君に勉強を教えるのが仕事だったけど、やり方に拘りたかったの。
君の人生そのものを良い方向に転がるよう手を貸したかったんだ」
そう言って、彼女は緑川高校の校舎を見上げる。
「実は私もここ受けて、見事に落ちちゃったんだよね」
「先生が!?」
「うん。まー無謀な記念受験だったから。
中学の頃、家の中がゴタゴタ荒れててさあ、内申点とかもズタボロで。
私立の高校ならなんとかなるかもと思ったけどそう甘くなかったというか……
ちょっと君に自分を重ねちゃった」
「だから志望校選びの時にあんなに親身になって……」
「ほら。頑張って行ってこい!
先生の無念も晴らしてきて!」
バン、と俺の背中を押し出して、
「フレー! フレー! サ・ダ・メ!
ガンバレガンバレ、サ•ダ•メ!」
と俺が校門をくぐるまでエールを送ってくれた。
受験から数日後――――俺の手元では一足早く桜が咲いた。
郵送の合格通知を両親とともに確認し喝采を上げた。
本郷先生に電話をすると彼女は珍しく黄色い声を上げながら俺の合格を喜んでくれた。
電話越しでも喜んでいる姿が見えてくるようで思いがありあまって、
「先生……逢いたいです」
と口走ってしまった。
すると彼女は軽い調子で、
「分かった。じゃあ、明日お互いの学校終わったら会おうか」
と返事してくれた。
翌日、俺は学校に登校し合格したことの報告をすると教師たちは驚いていた。
実質内申点がほとんどない状態で受かったんだから。
「もっと真面目に頑張っているヤツが落ちちまったのになあ……」
なんて陰口を叩く教師もいたが無視だ。
俺のことを考えてくれている人が喜んでくれただけで満足だから。
その日の授業はそわそわして落ち着かなかった。
周囲も俺が奇跡の合格を果たしたことを面白くないと思っているらしく、チラチラとこちらに視線を向けてくることがあったが無視だ。
どうせもうすぐコイツらとも会わなくて済む。
新しい環境で改めて俺は人生をやり直すんだ。
放課後、学校から直接駅に向かい、本郷先生との待ち合わせ場所のレストランの最寄駅に向かった。
レストランに着くと本郷先生は既に席についていて手を高く挙げて俺を呼んでくれた。
「合格おめでとう! 今日はパーッと食べて!
先生が奢ってあげるから。
ああ、でももう先生じゃないんだよなあ」
明るく屈託ない笑顔で俺に接してくれる彼女を見ていると学校の連中にどう思われていようと知ったことかという気分になる。
そして俺は中学生男子の胃袋を見せつけるかのように腹いっぱい食べて会計額を見た本郷先生を苦笑いさせた。
帰り道、俺は本郷先生のすぐ隣を歩いた。
夜の街、といっても繁華街から遠いこの場所では人通りもまばらでお互いの靴音もよく聞こえるほど静かだ。
「部活とか何やるか決めた?」
「まだ特には……」
「せっかくだから運動部やってみたら?
試合とか出ることになったら観に行くよ」
白いコートを纏う色白の彼女は妖精のように愛らしく、そしてどこか現実味のないものに見える。
俺たちの関係はもう家庭教師と教え子ではなく、そこに繋ぎ止めるものは何もない。
本郷先生は聖女のように真面目で親切でその上美しい女性だ。
家庭教師をすれば他の生徒にも親身に指導するだろう。
そうでなくても彼女のような女性を我が物にしたいという男はごまんといるだろう。
その中には俺よりも優秀で見栄えが良く裕福な者も…………だけど、
「先生、ってもう呼ぶのも変ですよね」
「そうだね。どうする?」
俺が足を止めると彼女もつられるように足を止めた。
「……緒音さん」
「おっ……いきなり下の名前で呼んでくるとか。
お姉さんドキドキしちゃうよ」
おどけて胸に手を当てる彼女にちゃんと向き合って、告白する。
「下の名前を呼んでも許されるような関係になりたいです。
緒音さん、俺の恋人になってくれませんか?」
女神アシスタ
『現在の神時間の経過は15,745文字!
残り4,255文字です!
や、やった!
好きだって言いましたね!!
だけど、残り神時間的ににフラれたら次がありません!!
まさに背水の陣!
さすがです! 勇者様!
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では、また明日お会いしましょう!』