第4話 ケツの拭き方
女神アシスタ
『現在の神時間の経過は8,445文字!
残り11,555文字です!』
立入禁止の屋上に吹く風は涼やかで長かった夏が過ぎたのを感じさせる。
俺と山岸は二人きりで対峙した。
「お前すげーよ。
たったひとりでこの学校のワルの目立ったところを全員潰しちまったんだから。
性格も強さも変わったのってここから落ちたからかな?」
そう言って柵を乗り越えた山岸は五階下の地面を見て「こええ」と呟く。
「昔のお前はなんか気に食わなかったんだよ。
弱っちいくせに俺らのことをバカにした感じで見て鼻につくっていうか。
だから思い知らせてやろうとああいうことしてたんだけど、まさかここから飛び降りるとは思っちゃいなかった」
芝居じみた語り口で俺のことを語る山岸。
そして俺に向き直り、
「悪かったな。お前がここまでやれる奴だなんて思わなかったし、今は素直に凄えって認めてる。
俺らももうすぐ卒業だし、この辺で終わりにしようぜ」
「終わりに?」
「喧嘩したり、脅したりそういうの全部。
痛かったり苦しかったり何もいいことないじゃん。
それよりさ、今度みんなでカラオケでも行かね?
田中に頼んで他の学校の女どもを呼んでさ」
とても楽しげに朗らかな顔で山岸は誘ってきた。
まるで友人に接するかのように。
「どうした? サダメっちってカラオケとか行ったことない人?
別に好きな曲歌っていいんだぜ。
アニソンとかも俺はそっち系もイケるから普通に――――」
「凄いのはお前だよ、山岸」
俺は心からそう思って称賛した。
「凄いって、なにが?」
「お前、リーダー格なのにこないだのリンチの時もひとり無傷だったよな。
そして俺が一人一人潰している間でもお前のことを売るネタはほとんど些細なモノだった。
安全なところから人を陥れ、調子良く場を盛り上げて、自分では手を下さない。
挙句、勝てないとわかったら俺を気さくなツラして取り込もうとする。
この平和で豊かな現代ニッポンでよくお前みたいな悪党が育ったもんだ」
山岸がピクリと眉を潜める。
おいおい、ムカつくことを言われたみたいな顔をするなよ。
お前がサダメに思い知らせるためにやったことを思い出せよ。
殴る蹴るは当たり前。
持ち物や金銭を奪われ、女子の前で下半身を露出させられ、虫や汚物を食らわされたこともある。
中でもサダメを追い詰めたのが他の生徒や教師に対して暴力を加えるように仕向けられたことだ。
元来穏やかな性格のサダメは人を殴れるようなタイプではないのだが、やらなければ自分が酷い目に遭わされるので命令に従った。
そうすると、いじめられている時は見て見ぬフリをしていた連中が一斉に自分を糾弾するのだ。
「頭のおかしい」「根性が腐っている」「ビョーキ」「親が悪い」などと言って。
そんな日々が続き、疲れ果てたサダメは自ら命を絶った。
……正確には死んではいない。
だが俺の人格がこの身体を動かしている今、彼の人格は失われてしまったのだろう。
「お前らは後味の良い終わり方なんて望んじゃいけないんだ。
でなければサダメが浮かばれねえよ」
俺はスマホを取り出し、ラインである連絡をする。
メッセージが既読になったのを確認し、俺は山岸に近づいていく。
「おい……なにするつもりだよ?」
「わざわざこんなところに呼び出してそんなところに出たお前が悪い」
俺が掌を広げて前に突き出しながら迫ると山岸は俺の意図を理解した。
「ちょ、やめろよ! マジでシャレにならねえぞ!」
「運が良かったら助かるさ。俺みたいにな」
慌てて柵を乗り越えて戻ってこようとした、が一瞬早く俺の手が奴の制服の襟を掴んだ。
そしてそのまま奴の身体を屋上の外に吊るし出す。
「お、おい!! やめ!! サダメ!!」
「怖いか? 怖いよな?
でもサダメは飛んだんだよ。
お前らにいじめられ続けることの方が怖いって思って」
ギュッと拳を握りしめる。
もし、サダメを蘇らせる代わりに俺には消えてもらう、ってあの女神様に言われたら躊躇うことなく二度目の生を彼に返すだろう。
だが、そんなことはできない。
だから、せめてこれから俺が行うことを見てその無念を少しでも和らげてくれ。
「ごめんなさい! 許して!」
「許さねえよ、絶対」
俺は突き飛ばすようにして山岸を宙に放り出した。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
凄まじい悲鳴を上げて山岸は落下していく、そして数秒後――――
ザッパァーーーーン!
大きな水飛沫が上がる音が響いた。
「あ……ああああ…………」
放心状態の山岸がマットの上に置かれたビニールプールの中でこちらを見上げている。
ふぅ、我ながらナイスコントロールだ。
屋上に呼び出された際、どういう話になったとしても山岸を突き落としてやろうと決めていた。
だから、俺が脅迫していた奴ら全員にラインでこう連絡した。
「山岸を死なせたくなかったら体育館からマットと水を張ったビニールプールを用意して校門の屋根の下で待機していろ」
あと、
「すぐに印をしているところにそれらをセットしろ」
と。
山岸の仲間達が素直に従ったおかげで死なずに済んだ。
実に美しい話じゃねえか。
「ああーーーーーーっ!!
山岸の奴ウンコ漏らしたアアアアアアアッッ!!」
「うわっ……くっせえええええ!!」
……とりあえずお前のケツは拭いてやったぞ。サダメ。
さて、こっから俺の人生を始めるか。
神時間って奴がどんなもんか知らないが、高校に入ったら環境も変わるしそこから本気出せばいいかな。
翌朝、俺の家のポストに俺のあての手紙が届いていた。
その中には俺が山岸達を撃退したことに対しての女神様の称賛が書かれており、残りの神時間についても記されていた。
『残り9300文字だけど、好きな子くらいはできた?』
「三ヶ月も経たずに半分切ってるっっっ!?」
一瞬、「山岸たちに女の子紹介させても良かったかも……」という考えが頭をよぎった。
女神アシスタ
『現在の神時間の経過は10,777文字!
残り9,223文字です!
自分の寿命の半分を捧げてサダメの復讐をするなんてさすが勇者様です!
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では、また明日お会いしましょう!』