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第八話 良い報告と悪い報告

 騒然とする辺りに反して、磯野は憮然としていた。かえって落ち着いてしまっていると言って良い。


「う、おえっぷ」


 うら若き乙女にあるまじき音を出しながら嘔吐する怜の背をさする。

 公園のベンチで、磯野が持っていたコンビニのビニール袋を受け取ると、怜は嘔吐を繰り返す。

 飲みすぎだ、と言うには容易いが、疲れも溜まっており、空きっ腹の彼女に酒を飲ませたのは他ならぬ磯野であるから、こうして世話をする役割が回ってきていた。

 一方のもう一人の女性である榛名はといえば、高校生を連れて帰るという名目で先に帰路についていた。

 大学生の集まりにしては解散が早いものの、怜がこの調子であることもあり、今日のところは早くにお開きにしようというのが柳井の言葉だった。

 とは言うものの、柳井と千尋は、怜を磯野に押し付けてどこかに行ってしまったが。


「飲めよ、少しは楽になるから」

「うう、ありがと」


 怜は磯野の手からペットボトルを受け取る。キャップをひねるが、力が入らないようで上手く開かないようだった。

 見兼ねた磯野がペットボトルを奪い取り、キャップを開けて再び渡す。それを数口飲んだ怜は、ふうとため息をついた。


「どうだ?」

「なんとかぁ……なるかも」

「なってないな」

「ねえ、磯野。お願いがあって」

「あー、わかった。飲ませすぎたお詫びと言ってはなんだけど、できる限りで用意はする」

「三○万円食べたい」

「もう少し吐くか?」


 磯野は怜の背を何度もさするが、次の波はまだこないらしい。

 そうしているうちに、磯野のスマートフォンが鳴った。SNSの着信が先ほどからいくつも鳴っており、何人かからの連絡がきていることが確認できた。

 先ほどは柳井から「こちらは気にするな」という短い言葉が送られてきているのを確認し、榛名からは「千葉とともに帰った」とこれも短文が届いていた。

 磯野がスマートフォンの電源をつけ、ロック画面に通知されている文言を見る。青葉綾乃からだった。


『いまごろお楽しみですか? 良い報告を待ってます!』

「とっとと寝ろ未成年」


 口から出た言葉をそのままに送りつける。

 余計なことばかり、どこで聞きかじってくるのだと磯野は思いながら、今度は怜のスマートフォンが鳴っていることに気づく。

 SNSの通知ではなく電話のようだったが、磯野が気づいてすぐに切れた。


「電話だぞ」

「誰だろ、石油王からかな」

「それは情報漏洩を心配しろ」


 その後に入った通知を、怜に知らせようと振り向くも、怜の方はすでに第二波に襲われビニール袋に顔を突っ込んでいる。


「なあ怜、通知入ってるけど」

「テキトーに返しといて……」


 その言葉の通りに、磯野は怜のスマートフォンを受け取って開く。すでに怜の手でロックは解除されていた。

 SNS の差出人は『ちー』とある。それだけでは誰だかわからないが、文面からある程度察することができた。


『UFOが出た! いますぐPIROの北海道支局に来て!』

「なるほど、頭がおかしいやつだな」


 磯野はそう結論づける。

 UFOなんてものは現れていない。

 酒に酔っているとはいえ、そんな異常なものが現れて気づかないはずがない。

 そもそもUFOなど存在せず、自分たちはオカルトとして楽しんでいる、というのが磯野のスタンスであった。

 しかし、PIROというのは怜のバイト先である。日本民俗の研究をしている機関であることは聞いていたが、UFOに関することまで扱っているのだろうか、と磯野は疑問に思う。

 職場のこともあるから、何かしら返事をした方がいいだろう、と磯野は怜に伺いを立てる。画面を見ると、少しは酔いが醒めたのか、か細いながらも冷静な声を出す。


「オッケーって言って……」

「お前、このあとバイト先に行けるのかよ」

「行くしかないんだってば。だいたいその子は、うっぷ」

「わかったから」


 と言いながら、怜がオカルト研究会のグループでよく使っている、OKと立て札を出しているネコのスタンプを送る。磯野ははたと気付く。


(これ、俺が連れて行くやつか……)


 怜の方を見れば、彼女は少し容体が落ち着いたのか、深呼吸をしている。この分なら少し寝れば大丈夫だろう。元来、酒に強い分、こうなったときも回復は早そうだ、というのが磯野の見込みだった。


「ほら、行くぞ」


 磯野は怜に肩を貸す。日頃から身体に肉がつかないと悩む彼女であったが、このときばかりは助かった。

 口にしてしまえば、拳が飛んでくるだろうけれど。

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