事件多き街
「もう! 本当に心配したんだからね!」
「私は悪くないんだって」
母に小言を言われながら夕食に手を伸ばす明日葉。
「そんなのは分かってるわよ。でも今は危ないことが立て続きに起こってるから気を付けなさいってこと」
「危ないこと? 何かあったの?」
「学校で言われなかったの? 最近、放火魔や通り魔が『間道市』を彷徨いてるって。ニュースにもなってるのよ」
「ああ、言ってたかも」
学校に居るときでさえ進路について悩んでいたので明日葉は教師の話をまともに聞いていなかった。
『間道市』ーー本州から少し離れた海上に埋め立てによって出来た明日葉の家や学校がある都市だ。この都市はある大企業が研究を行うために造った島で社員とその家族が暮らしている。明日葉の父もそこの社員だ。
「そういえば、お父さんは今日も泊まりなの?」
「そうね。会社の方でも何かあったらしくてね。しばらくは帰ってこれないかもしれないって」
母は溜め息を吐く。
「また速報」
夜のバラエティ番組が流れるテレビ画面の上端に白い文字が並ぶ。
《間道市 連続通り魔事件 五人目の重傷者》
「チャンネル変えるわよ」
「え!? 良いところなのに!」
問答無用で母は事件が放送している局にチャンネルを変える。
間道市連続通り魔事件。
ここ最近、ホームレス風の格好をした少女が鉈を振り回して通行人を襲っているらしい。
「鉈を持った女の子って漫画みたいなことがあるんだな~」
「何暢気なこと言ってるのよ。結構近いわよ。明日葉が学校に行くときに使う道の傍じゃないの?」
「え? ああ、確かにテレビに映ってる店、帰りに寄ったことある。じゃあ学校お休みかな」
「どうかしらね。物騒になってるから可能性はあるかもしれない」
「じゃ、夜更かししよ~」
「ふざけないの。食べ終わったら風呂入って寝なさい。今日は一階で寝て良いから」
「テレビ見ながらで良い?」
「早く寝なさい!」