贋作の魔女と
夕食も食べ、風呂にも入った。
後は寝るだけの明日葉だったが朝も昼も寝ていたため全くと言って良いほど眠気が起きなかった。
仕方がないのでスマホで動画サイトを開く。
「ん?」
動画サイトの『人気急上昇中』の欄に不思議なものを見つける。
題名は『映画の撮影か? 空駆ける魔法少女爆誕!』
再生すると昼の住宅地の映像が流れる。
撮影者が何かに気付いてスマホで動画を撮り始めたらしい。
『おい、あれ人か?』
撮影者と思われる声が聞こえる。
画面の奥に映っているのはーー
「これ、剣を持ってた女の子!?」
昨日、明日葉を助けてくれた剣の少女だった。屋根を駆けて誰かと戦っている。
「もう一人は誰? 通り魔と違う格好をしてるけど」
剣の少女の相手は鉈で人を襲っている通り魔じゃないみたいだった。
「え!? 火炎放射器!」
遠くて映りが悪いが確かに相手から強烈な炎が剣の少女に向かって噴き出した。こんなことは火炎放射器でもない限り出来るわけーー
「相手も魔女なのかも」
屋根の上で火炎放射器を使っているというよりも炎を扱う魔女と考えた方がしっくりと来る。いや、普通ならしっくりきちゃおかしいのだが……
明日葉が動画の戦いを思考していると窓が叩かれる。
「やっほー。身体大丈夫?」
目を向けると窓ガラスに張り付くようにして贋作の魔女がしゃがんでいた。
「ここ開けてくれない? そろそろ落ちそうで」
明日葉は言われた通り窓を開けてやると贋作の魔女はぴょんとベットに下りる。
「ありがとう。身体は大丈夫そうだね」
うんうんと頷くと贋作の魔女は明日葉の肩を叩く。
「贋作の魔女、お昼に私に何したの? 私、夜までずっと寝てたんだけど」
気絶させられたことを問うと贋作の魔女はポカーンと呆ける。
「あなたと贋作の魔女は契約したのよ」
代わりに答えたのは妖精のエル。贋作の魔女の肩で羽を休める。
「この子みたいにカードから喚ばれた魔女はカード自体に宿る魔力がある限り自由に動けるの。だけどカードによって魔力量は様々で、この子の場合は一日フルで動き続けたら魔力切れでカードに戻っちゃうのよ。それが回復してまた呼べるようになるのも丸一日。それじゃ私たちの目的を果たすためには効率が悪すぎる。そこであなたよ」
エルはビシッと明日葉を指差す。
「人と契約することで魔女はその人から魔力をもらえるの。それさえあれば魔女はカードに戻ることなく動くことが出来る。それでこの子に選ばれたのがあなたってわけ」
「私ってそんなに凄い魔力があるの?」
「無いよ」
もしかしたら自分は前世が魔法使いだったのかと思った明日葉を贋作の魔女が即答で一蹴する。
「明日葉の魔力は他の人より少しあるぐらい」
「じゃあどうして?」
肩を落とす明日葉に贋作の魔女が微笑む。
「何者でもなく、何かになりたいわけでもない空虚な器の持ち主。模倣をするだけで本物を持てない贋作の魔女の私にはピッタリのパートナー」
そして手を差し出す。
「私の魔法であなたの器を埋めてあげる。だから力を貸して、明日葉!」
「え、わ、分かった」
手を繋いだ瞬間、昼間のことを思い出した。
贋作の魔女と握手をしたときに気絶したことを。
「やっぱなし! 無しだから!?」
「おそーい」
ぶわっと部屋に風が吹く。すると贋作の魔女がカードに戻り、明日葉の胸元へ。
「え、ちょっと!」
カードが光輝き、目を瞑る。
「何、したの」
目を開ける。特に何事もなかったようだが。
「おめでとう」
エルが器用に空中で仰向けに飛んでいる。
「あなた今から魔法少女。早速働いてもらうわよ」