プロローグ
「はっ、はっ、はっ!」
白衣の女性が息を切らしながらアスファルトの道を駆ける。
疎らな街灯。
人の居ない細道。
静かなはずなのに心音がうるさい。
「何処か、何処かに隠さないと!」
頭で血が沸き、思考がぐるぐるしている。
胸に抱くアタッシュケースが重い。すぐにも捨て去って楽になりたい。
だがそれは許されない。
アタッシュケースの中身が悪用されれば世界は終わる。
冗談や比喩じゃない。
本当に世界が消されるのだ。
女性が運んで逃げているのは兵器を危険な奴らに渡さないためだ。
銃声
足を撃たれた女性が前に勢いよく転がる。
「くっ、足、が」
燃えているかのように熱い足。
それでも女性はアタッシュケースを放さない。
女性を撃った人物が這って逃げようとする背中に撃ち込む。
びくり、と身体が一度だけ跳ね上がると女性は動かなくなった。
「回収しました」
人物は電話先の相手に報告する。
「エル、逃げて」
「しぶといな」
まだ息のあった女性に止めをさす。
「……何か逃がしたか?」
「私が、あなたの思いを受け継ぐ」
親しい白衣の女性を殺された小さな存在が空から見ていた。
一枚の兵器のカードと共に。