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神様と使徒の異世界白書  作者: 麿独活
序章 【転生への誘い】
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序章9  『神様と嘘』

 シオンが俺を騙していた。壊れたドアは偽物であり、偽物と言ったドアのほうが本物だった。

 シオンは何故そんなことをしたのか。それはおそらく俺を元の世界に帰さないようにする為だろうが、なぜ嘘をついてまで……。

 あの時は、既にシオンと契約する約束をした後だったはずだ。俺の言葉を信じられなかった? そもそも、どうしてアースディア様は分かったんだ? 情報の整理に頭が追い付かず、混乱する。

 シオンは、俺の視線に耐えられなかったのかフェルビナさんの元に行き、泣いている。フェルビナさんはその場に座り、膝に顔を埋めて泣くシオンを落ち着かせようと背中を撫でていた。


「トウマ殿、本当にすまんのう」


「いえ……あの、どうしてシオンが俺に嘘を言っているって分かったんですか?」


「ふむ……それに関してじゃが、ワシはまずそなたに謝らねばならん」


 アースディア様が俺に謝罪? 意図が分からず聞き返す。


「……どういうことです?」


「フェルビナがそなたらの所に行った時じゃ。フェルビナはゲートに異変が起こったのでは、という理由で来たと言ったじゃろうが、あれは口実での。確かに少し異変を感じたが些細なものじゃった。本来の目的は、フェルビナに様子を見に行かせたかったのじゃ」


「え、様子を見に?」


「うむ、そして申し訳ないのじゃが、その際にフェルビナにワシの目を仕掛けて、そなた等の様子を盗み見ておった」


「あ……じゃあ、フェルビナさんが来た時から、俺たちのことをずっと見ていたんですか?」


「うむ、フェルビナがいる間だけじゃが、シオンがしおったことは一部始終見ておったよ」


 なるほど、フェルビナさんの最後の申し訳なさそうな顔は、そういうことか。道理であっさり戻った訳だ。あの時には本当の目的は達成していたんだな。


「すまんの」


「いえ。じゃあ、シオンの嘘に気付いたのは、壊れた偽物と本物を入れ替えた所を見たからですか?」


「うむ。最初は、何故そんなことをしたのか分からんかったが、そなたにオドを勝手に与えた時にもしやと思っての」


「か、確証なかったんですか?」


「まあの。神々の領域は不可侵。それはワシも例外ではなくての。許可がなければシオンの領域内には干渉することは出来んから、勝手に外から覗き見ることも出来ん。そなたにドアが壊れた時の様子を聞いたのも、ワシの考えに確信を持たせる為じゃ。その場は見ておらんからの」


「あの、壊れたドアが地面にめり込んでいたか、の(くだり)ですか?」


「うむ。あのドアはワシの『マナ(大源)』で作った物じゃ。じゃから壊せば、流石にことが露見する。故にシオンは、ドアを壊さずにそなたにドアは壊れたと思い込ませねばならなかった」


「ええ、完全に騙されました……」


 チラリと泣いているシオンに視線を向ける。


「じゃが、シオンは出来る限りワシのドアには干渉したくなかった。ワシに露見する可能性が出てくるし、後で返した時に変な痕跡が出ても困るからの。じゃから、城をドアの上に落とす際に干渉が最小限で済むよう、ワシのドアを地中の下に作った空間に退避させ、その上に偽物のドアを一瞬で出しよったんじゃよ」


「じ、地面の下に?」


「うむ、じゃがそのままでは偽物のドアが地面にめり込んで、下に隠した地中のドアと衝突する恐れがあった。じゃから、偽物のドアが沈まぬよう、ドアの下部をその場の空間に固定したんじゃ。じゃから、城の自重に潰されたはずなのに、地面にドアがめり込んでいなかったんじゃよ」


「な、なるほど……」


 手の込んだことをしたものだ。しかし、ドアに限りなく干渉せずにドア破壊を偽装するには上手い手だ。おまけに目撃者は俺しかいないからトリックも見破りにくい。実際、地面の不思議に気付きながらも、自分で変な結論を出して、それ以上は追求しなかった。


「後はタイミングを見て入れ替え、そなたに本物とバレぬよう、ドア前面の空間にでも細工して開かないようにすれば完了じゃ。それでそなたは、あれが本物でありながら偽物と思い込む。まったく聡い子じゃ……もしワシが盗み見ておらなんだら、誰にも気づかれなかったであろうな」


 確かにそうだ。これは、アースディア様が偶々盗み見ていたから発覚したこと。そうでなければ、誰も気づけなかった。

 アースディア様やフェルビナさんは、ドア破壊現場を直接見ていなかったから、そもそもドアになにかあったことは知らないし、実際に本物のドアに異常はなく今もあの場にある。

 後はドア破壊騒動自体が俺の口から露見しなければどうとでもなる、という算段だったんだろう。そして、俺は既に泣き落としで懐柔済み……末恐ろしいお子様だ。


「さて、トウマ殿よ。如何するかの? シオンはこれから使徒となるべきそなたを騙しておった。シオンへの信頼は失墜していよう。そなたが希望するなら、契約を破棄して地球に戻す処置を行ってもよい」


「……オドを与えた者を、簡単に地球へと戻す訳にはいかないのでは?」


「よほど無茶なことをせねば、こちらで対応は可能じゃ。見る限り、オドを悪用するような性根の持ち主でもなさそうだしの。それに、そなたには迷惑をかけた。多少のことは目を瞑ろう」


 つまり、このまま契約破棄して戻れば、現実世界でチート生活出来るということか……。オドにどれほどの力があるのかは分からないが、禁止しているぐらいだ。かなりの幸運が約束されているのだろう……しかし……。


「シオンと話をさせて貰えますか?」


「うむ」


 アースディア様との話を切り上げ、フェルビナさんの膝に顔を埋めるシオンのそばに行く。シオンは大分落ち着いたのか泣き止んではいたが、まだグスグスと鼻をすする音が聞こえてくる。

 フェルビナさんは心配そうにその様子を見ていたが、俺が近づいて来たのを見ると、シオンの背を優しくポンポンと叩いた。


「シオン、トウマ様が来ましたよ」


「……」


 しかし、シオンはフェルビナさんの膝から動こうとはしなかった。俺とアースディア様との話は聞こえていたはずだ。もちろん契約破棄の提案も聞こえていたと思う……だから、俺と話すのが怖いのだろう。


「シオン」


 出来る限り、落ち着いた声でシオンに呼び掛ける。しかし、シオンは反応しない。フェルビナさんがシオンに応えるよう促そうとしたが、それを手で制した。

 そして、フェルビナさんの向かいに胡坐をかいて座り、もう一度シオンに呼びかける。


「シオン」


 すると、しばらくしてからシオンはゆっくりと起き上がり、俯いたまま俺の前へとやってくる。泣き腫らしたせいで、目が真っ赤に充血している。


「シオン、俺の目を見ろ」


 シオンの視線はオドオドして迷い、なかなか俺の目を見ることが出来ないでいた。少し、強めにシオンの名を呼ぶ。


「シオン!」


 その声にビクッと震えて目を瞑るが、しばらくして目を開けて俺の目を見る。しっかりと視線が合ったのを確認し、話し始める。


「これから俺の質問に正直に答えろ。もし少しでも嘘だと感じたら、俺はお前との契約を破棄する。まず聞きたいんだが、今回の件はいつ思い付いたんだ?」


「……」


「いつだ?」


「……トウマが、眼鏡を取りに行った時……」


 契約書を読む為、部屋に眼鏡を取りに行った時か。


「その時に思い付いたのか?」


 コクンと頷く。タイミング的にはおかしくない。あの後、契約書の内容を話し、使徒に関することなどを聞いた後、契約の約束をした。その後だ……ドア破壊の一件があったのは。


「なるほど。俺が契約の約束をしたから、実行に移したのか……アースディア様の言う通りだな。勢いで物事を早計に決断する」


「……」


「正直、今の俺の心の中は猜疑心で一杯だ。お前が俺の前で話してくれたこと、表情や仕草、全てが嘘に思えてくる……」


「ち、ちが!? ぜ、全部が全部嘘じゃない!」


「一度騙した相手に、それをどう証明するんだ?」


「そ、それは……」


「それに、なんでそんなことをする必要があった? 俺は契約をする約束をしていた。そんなに俺が信じられなかったか?」


「……」


「俺はお前を信じていた。だからドア破壊の一件も、もしバレたらお前を弁護してやろうとさえ思っていた。そんな俺の想いすらもお前は踏みにじったんだ。そんなお前を、もう一度信じろと?」


 シオンは顔を青くし、目からまた涙が溢れ震えて俯く……。


「ご、ごめ……ごめん、なさい……ごめんなさい……」


 泣くシオンの頬に両手を添え、涙を指で優しく拭ってやりながら、俺のほうを向かせる。


「シオン、お前は俺を騙してまでどうしてあんな真似をしたんだ? どうして俺にそこまで拘る?」


「グスッ……それ、は、トウマの魂と……親和、性が……」


「そんなことを聞いているんじゃない。お前の気持ちを聞いているんだ!」


「き、気持ち? ……」


「そうだ! お前は俺と会って、話して、なにも感じてくれてなかったのか? 俺は感じていた! ドキドキしていた! ワクワクしていた! きっとシオンと行く道は楽しいものになる! そう思っていた!! ……お前は違うのか?」


 シオンは涙ぐんだ目で、俺の目を見つめて言う。


「た、楽しかった……すごく、ドキドキしてた。でも、怖かった……やっぱり、断られちゃうんじゃないかって……だって、トウマ……すごく怖がりだと、思ったから……ボクのことが怖くなって、逃げちゃうかもって……」


 あ~……まあ、最初の出会いがアレだったからな。無理もないと思うが……シオンは続けて言う。


「眼鏡を取りに戻った時も、またドアが開くのか、怖かった……ボクは、あのドアを開けることは、出来ないから。二度と開かなかったら、どうしようって……」


 そうなのか? と思い、チラッとアースディア様を見る。するとアースディア様はコクッと頷く。なるほど、俺でしか開けられないなら、じれったくもなるな。最初に二回締め出した時も、それでかなり堪えていた訳だ。だが……――


「なんで、そんなに不安になるんだ?」


 と、疑問に思い、シオンの気持ちを聞く。


「わ、分からない……トウマに会ってから、変なの……そばにいるとすごく安心するのに……離れるとすごく寂しくて、不安になって……置いて行かれるんじゃないかって、怖くなる……」


 この感情は……いや、多分違う……好意とか、そういうものとは違うもっと切実なもののような気がする。そう言えば自分の生まれはちょっと特殊とか言っていた。性別もまだないって言っていたし、そこら辺となにか関係があるんだろうか?


「だから……あのドアが無ければって、思って……」


「今回の件を思い付いたってことか?」


 コクンと頷く。


「じゃあ、俺と一緒にいたいっていう気持ちは嘘じゃないんだな?」


「嘘じゃない! 一緒にいたい!!」


 涙ぐみながらも、俺の目をしっかり見て、ハッキリと言った。うん……十分だ。立ち上がり、シオンがそばに落としていた契約書を拾い、その契約書を持ってアースディア様の前まで行き、頭を下げて差し出す。


「アースディア様。この契約書の受理をお願いいたします」


 そう、ハッキリ言った。アースディア様は、玉座をから立ち上がって近寄り、契約書を受け取る。そして、真剣な表情で確認してくる。


「……良いのか? それで」


「はい。俺はシオンの使徒になります。……騙されていたことはショックだったし、裏切られたと思う気持ちもありますけど……俺はシオンに凄く感謝しているんです。俺は正直、駄目な人間です。臆病だし、卑屈だし……一人現実に背を向け、言い訳を並べて逃げて、置かれた状況を変えようともせずに諦めていました」


 少し俯きながら、自分の状況を思い出す。本当に情けない日々だった……でも……そう思い、後ろにいるシオンに顔を向ける。シオンは、目に涙を溜めながら、驚いた表情でこちらを見ていた。


「そんな俺の手を引いてくれたのがシオンです。シオンは俺をここではない、何処かに連れ出してくれた。やり方はぶっ飛んでいましたけど、今まで鬱屈していた物を吹き飛ばす世界を、俺に見せてくれました」


 再び、アースディア様に視線を戻す。


「シオンを、今後も信じられるのかの?」


「信じます。こんな俺と一緒にいたいと言ってくれた、その言葉を。それに俺の気持ちも、シオンと同じですから」


 シオンのほうに向き直り、目を見てハッキリと自分の気持ちを伝える。


「俺も、シオンと一緒にいたいです」


 シオンはその言葉を聞き、泣きながら走り寄ってくる。


「トウマーーーーー!!!」


 それを抱きとめる。


「ごめんなさい! ごめんなさい~~~!!」


 泣きながら、何度も謝る。


「分かった分かった。ほら、もう泣くな」


「ウゥ~~……」


 俺のみぞおちに顔を埋めて、泣き続けるシオン。その頭を優しく撫でてやった。アースディア様に目を向けると、微笑ましいものをみるような暖かい表情をしていた。


「よかろう。契約書、しかと受け取った。地球の人間ヤガミ トウマ。そなたを下級神シオンの正式な使徒として、この契約を受理する!」


 アースディア様は、高らかにそう宣言した。



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