序章8 『神様と地球の神』
シオンに泣き落としをされて、仕方なく地球に繋がるゲート破壊隠蔽の片棒を担ぐことになってしまった。と言っても、事実は既に露見している可能性が高いと、フェルビナさんの最後に見せたあの表情から、こちらは察している。
なので、ここで考えなくてはならないのは、ごまかす方法ではなく、如何にシオンがこれ以上、心証を悪くせずに一連の不始末を謝るかだ。さて、どうしたものかと思案するが――
「トウマ、早速だけど契約書にサインして!」
と、さっきの泣きそうな表情はなんだったのかと疑いたくなる程、ウキウキして右手に羽ペン(いつ出したのか、先にインクまで付いている)、左手に契約書を持ってサインを求めてくる。
コイツは人の気も知らずに……と内心呆れるが、ふとフェルビナさんの言葉が頭によみがえる。
『ずっと待っていた、念願の契約ですものね』
ずっと待っていた、か。それが本当なら、この浮かれっぷりも悪い気はしない。いざとなったら、しっかり味方になってやらないと、と覚悟を決めてシオンから羽ペンと契約書を受け取り、テーブルに戻って席に着く。
契約書を見ると、いつの間にやら対価に関する記述も追記されていた。俺は、氏名と生年月日の欄に記入する。
「ん? そう言えば印鑑がないんだが……」
「あ、拇印でもいいよ。親指出して!」
「こうか?」
右手の親指の指紋部分をシオンに向けると、自身の右手の人差し指を俺の親指に付けて、ヌリヌリとなにかを塗る。どうやら赤いインクを塗っているらしい。
「はい! どうぞ♪」
そう言って良い笑顔を浮かべるシオン。本当にウキウキのようだ。子どもの純粋な笑顔っていうのは、どうしてこう無邪気なんだろうか。無意識にこちらも顔がほころんでしまいそうになり、慌てて顔を引き締める。
俺ってこんなに子ども好きだっただろうか? と内心に問いかけながら、インクが付いた親指を契約書に押そうとして、いったん止まる。
これを押せば、契約成立。人としての人生を捨てることになる。もう契約を受け入れると決めていたとはいえ、やはり色々な想いが頭に浮かぶ。契約書からシオンに目を移すと、シオンは少し不安そうだが黙って見つめ返してくる。
意を決し、契約書に拇印を押した。そして、その契約書を手に取りシオンに渡す。シオンは、少し震えた手でその契約書を受け取り、一言俺に向かって言う。
「ありがとう、トウマ」
「おう」
一言、そう返した。これで正式にシオンの使徒となる契約を交わした。すると、それを見越していたかのように、再び空からフェルビナさんの声が響いた。
<シオン、トウマ様。アースディア様との謁見の申請が通りました。速やかに、アースディア様の謁見の座へとお越し下さい>
いよいよ地球の神様とご対面だ。ちょっと不安になるが、隣に来たシオンが俺の右手を握り、こちらを見つめて言う。
「行こう、トウマ!」
「……ああ!」
その姿は、今までとは少し違っていた。ちょっとしたことで一喜一憂し、不安や怯える姿を見せていた子どもみたいな雰囲気はなく、凛として自信に溢れた姿をしていた。それを見て、シオンも下級とはいえ一人の神様なのだと感じた。
俺の中でも覚悟が決まり、地球の神アースディア様との対面にシオンと共に向かう決心を固める。シオンはそんな俺の顔を見て嬉しそうにすると、手を前にかざして魔法陣を起動した。
俺たちは手を繋いだまま出現した魔法陣へと入る。すると魔法陣から光が溢れだし、目の前が光に包まれた。眩しくて目を閉じてしまったが、次に目を開けた時には、目の前の景色は先ほどまでいた草原とは違う、全く別の場所になっていた。
まず目に入ったのは、真っ白な大理石のような建材で作られた巨大な通路だ。自身を中心に四方向に真っ直ぐな通路が果てしなく伸びていた。俺たちは、丁度十字路の中心にある円形の台座にいる形だ。それぞれの道の幅は、パッと見だが高速道路に匹敵するほど広い。
そして、通路の上方に目を向けると、見事な装飾が施された屋根が広がっている。そして、その通路の屋根を支えているのは巨大な柱だ。通路の両脇に巨大な柱が幾つも並び建っている。その上にはアーチ状の土台が乗っており、柱の上で繋がって屋根を支えていた。
なにもかもが巨大で荘厳な、まさに白亜の宮殿がそこにはあった。言葉が見つからず、圧巻というしかない光景だ……流石、神様が住む場所だと圧倒される。
「凄いの一言だな……」
「そう? 最初に見た時にボクが思ったのは、なんでこんな無駄に広くしたんだろう? だったけど……」
身も蓋もないことを言うシオン。
「……一般人の人間の感覚と、神様の感覚を一緒にするなよ」
シオンの感覚に呆れつつ、視線を通路に戻す。しかし、とてつもなく長い通路だ。先に目を凝らしても突き当りが見えない。そんな風に思っていると、シオンは俺の手を引き、目の前の通路の方向に進む。
「シオン、もう手を引かなくても大丈夫だぞ」
そう言い、シオンから手を放そうとすると――
「え? 良いじゃない。このまま行こうよ」
と、俺から手を放そうとはしなかった。
「いや、流石にこの絵面はちょっと……」
見た目年齢で言えば親子連れのようだが、容姿や髪の色を見れば血が繋がっていないことは明白だ。そして、親子でもないのに金髪碧眼の少年? が三十過ぎの男の手を引いて歩いている……正直、周りにどう見られるのかは想像したくない。
「え~……もう、トウマは恥ずかしがり屋だな~」
そう言い、シオンは仕方ないな~……という感じで手を離した。そして、どこまで続いているのかさえ分からない通路を、二人並んで進む。
しばらく歩いただろうか。一向に通路の先が見えてこなかったので、流石におかしいと感じてシオンに聞く。
「なあ、シオン。この通路ってどこまで続いているんだ?」
「ん? もうちょっとだよ。ほら、あそこにレリーフが見えるでしょ?」
そう言って少し先の天井付近を指差す。そちらに視線を向けると、確かに紋章のようなものが中心に刻まれているレリーフが見えてきた。しかし、通路は普通にレリーフの先に続いている。
どういうことだ? と疑問に思うが、そうこうしている内にレリーフのすぐ下まで来た。そこでシオンは足を止め、それに合わせてこちらも足を止める。
「ここが、アースディア様の謁見の座の入り口だよ」
そう言うが目の前には扉らしき物はない……疑問に思っていると――
「あ! そうだ、トウマ。アースディア様に合う前に、ちょっとやらなきゃならないことがあるんだ」
と、なにか思いついたように前に進み出て俺の前に立つ。
「やらなきゃならないこと?」
シオンはチョイチョイと床の方を指差して言う。
「ちょっと屈んでくれる?」
言われるがままに片膝を付いて屈む。するとシオンは、俺のおでこに右手を伸ばし、人差し指と中指を揃えてピトッと指先を付けた。
「なんだ?」
「じっとしてて」
しばらくすると、おでこに当たったシオン指先から、ほんのりと熱が伝わってくる。
「はい、準備完了♪」
数秒後、そう言っておでこから指を放す。シオンが触れていた所がちょっと熱を持った状態になっており、その部分を指で擦りながら、シオンに質問する。
「なんか微妙に温かい……なにをしたんだ?」
「オドを与えたんだよ。トウマはボクと正式に契約したからね。この人はボクの使徒ですよって、証を付けたんだ。まあ、まだ使徒に生まれ変わった訳じゃないから、あくまで仮だけど」
「契約の証みたいなもんか? なんで、そんなものを付ける必要があるんだ?」
そう質問しつつ、屈んでいた状態から立ち上がる。そんな俺を見上げながら、シオンが理由を説明してくれる。
「え~と……これから会うアースディア様は、この宙域の上級神の中でも最高位の座に付く神様なんだ。だから、ただの人間が直接会うと神気に当てられるかもしれない。オドがあれば、ある程度は緩和出来ると思うから……念の為に、ね」
神気って……神の気? オーラみたいなもんだろうか……なにやらかなりの威厳があるお方ようだな……まあ、地球の神様なんだから当然なんだが、ちょっと緊張してきた。
「それから、謁見に関してはボクの少し後ろに控える感じで、基本、ボクの動きに倣ってくれればいいから」
「お、おう。分かった」
説明を終えたシオンは、レリーフの方向に向き直り、少し前に出た後、高々と宣言する。
「下級神シオン、使徒候補となる地球の人間ヤガミ トウマを連れ、参上いたしました。アースディア様への謁見のお取次ぎを何卒、お願いいたします」
そう宣言すると、目の前にあった通路の空間が突如歪み、通路だった空間に巨大な扉を備えた荘厳な門が出現した。そして、その門の脇にはフェルビナさんと同じ色の髪と目を持つが、髪型はショートボブの天使が二人、門を守護するかのように立っていた。恰好もフェルビナさんが着ていたドレス甲冑を着こんでおり、手には槍を携えている。
この天使様も美人だな……と視線をやる。容姿はフェルビナさんによく似ていて、おまけに二人は双子なのか瓜二つだ。そんなことを考えながら見つめていると――
<下級神シオン、地球の人間ヤガミ トウマ。アースディア様への謁見を許可します。謁見の座へと進みなさい>
と、フェルビナさんの声が頭上で響く。すると、閉じられていた門の扉が静かに内側に開いていく。ゴウンッという重厚な音を響かせて扉が開ききった後、シオンが後方の俺にチラリと視線を向けて前に進んだので、それに続くようにこちらも前に進んだ。
双子天使の前を通り過ぎて門の中に入ると、目の前にはまるで天空に伸びるかのように、一段一段が空中に浮いた階段があった。長さは三十段ほどだろうか? 階段の上がった先には建物が見え、その地面もまた浮いていた。
しかし、驚くのはそれだけではなく、それ以外の空間に広がっているのは、星がきらめく宇宙だった。一瞬、口元に手を当ててしまうが、呼吸に異常はなく、普通に息は出来ている。
正直、進むのをためらう状況だが、そんなことはお構いなしにシオンは進んで行くので、置いて行かれまいとシオンの後ろに続く。
驚愕の光景だったが、何故か不思議と自分の心は落ち着いており、自分でもよく分からない心理状態だった。
やがて階段を登りきり、階段が繋がっていた建物内に入ると、そこはちょっとした広間となっていた。四方を白い壁で覆われ、荘厳な柱が壁沿いに並びアーチ状の屋根を支えている。広間の中心には赤い一本道の絨毯が敷かれており、その先に五段程の低い階段があった。
階段下の右手前にはフェルビナさんが立っており、そして、その階段を上がった奥にある玉座に、一人の白いロングヘアーと長い髭を蓄えた老人が座っていた。
その老人を一目見た瞬間、全身を鳥肌が襲い『逆らってはいけない』という気持ちが心の底から湧き上がった。背中をツーと冷たい汗が流れるのを感じる……間違いなくあの老人がアースディア様だろう。
外見は白い髪と白い髭を蓄えた初老の老人のようだが、身体全体から放たれる存在感が半端じゃない。そばにいるフェルビナさんに目を向けることが出来ないほど、目を引くなにかがあった。
これが神気というやつだろうか、と一瞬たじろぐが……そんな動揺を表に出さないよう努力し、前に進むシオンの後ろを着いていく。
やがて、はっきりと顔が分かるほど近づいた後、シオンは片膝を付き、こうべを垂れた。それに続き、こちらも膝を付いてこうべを垂れる。
「下級神シオン、地球の人間ヤガミ トウマ。只今、参りました。この度は急な謁見の申請を受けて下さり、誠にありがとうございます」
「よい。面を上げ、楽にせよ」
「ハッ」
そう言い、シオンは顔を上げて立ち上がり、俺も続いて立ち上がる。アースディア様はシオンを見た後、後ろに控える俺に目を向けて話し掛けてきた。
「地球の子よ。良くぞ参った。私が地球の神アースディアじゃ」
「は、はい! お初にお目にかかります! 弥上 斗真と申します!」
そう言って姿勢をピンと伸ばし、頭を下げる。アースディア様は近くで見ると、本当に老人だった。
容姿は西洋風の顔立ちで、目はシオンと同様に碧眼だ。顔には老人特有の皺が刻まれているものの、目や全身には活力が満ちており、力強い印象を受ける。まるで、洋画に出て来る魔法使いのような雰囲気である。
古代ローマの貴人が着ているような白い装束を着ており、服の所々に金の装飾が施されていて少し豪華な装いをしていた。
「ホッホッホ、そんなに畏まらなくても良い。此度は強引に招いてしまったようで、申し訳ないの」
シオンが挨拶をした時は、少し厳しい表情をしていたが、そんな雰囲気は一変し、柔和な表情で語りかけてくる。
「い、いえ! そんなことは!」
首をブンブン振って否定する。かなり偉い方だというのは肌で感じていたので、そんな風に言われては恐縮してしまう。
「そうかの? シオンのことだから、随分と強引な真似をして契約を交わそうとしたのではないかと、心配しておったのだが……」
「酷い! ボク、そんなことはしてないよ!」
異論あり! という形で、シオンがズイッと前に出る。
「本当かのう……そなたは時折、周りが見えなくなる悪い癖があるからの」
そう言って、ジト目でシオンを見るアースディア様。
「トウマの前で、そういうこと言うの止めてよ! トウマが不安になるでしょ!」
なんか思ったよりずっとフランクだな。最初のやり取りから王様と家臣みたいな接し方になるのかと思っていたが、まるでおじいちゃんと孫みたいなやり取りに変わった。
こちらへの接し方も丁寧で優しい印象だし……威厳は変わらないが、孫を心配する孝行爺みたいな感じだ。気負い過ぎだっただろうか?
「しかし、シオンよ。随分と気が早いようじゃの。まだそなたの使徒にはなっておらんのに、オドを分け与えるとは……」
そう言って困ったように俺を見る。ん? オドを分け与えるって、ここに入る前にやったあれか。まだやっちゃ駄目だったのか? そう思いシオンを見る。
「べ、別にいいでしょ! トウマがアースディア様の神気に当てられたら困るから、オドを分けてあげたの! それにほら、ちゃんと契約書にはサインしてくれたんだから!」
そう言い、懐から取り出した契約書を前にバッと出して見せる。
「ふむ……確かにちゃんとサインはしてあるようじゃな」
アースディア様が、玉座から少し身を乗り出して契約書を見る。
「でしょ! だから問題ないの!」
おいおい、それって屁理屈じゃないか。本当に大丈夫なのか? と、シオンとアースディア様を見比べていると、シオンの態度を見たアースディア様は、深く溜め息を付く。
「やれやれ、困った子じゃ。人間にオドを不用意に与えることは禁じておるというのに……一度与えたオドはワシでも取り除けぬ。そして、神のオドを与えられた者は簡単には元の世界に戻せぬのだぞ?」
「え?」
驚いてとっさに声が出る。おいおい……聞いてないぞ、そんな話。俺の様子を見て察したのか、アースディア様が話しかけてくる。
「その様子だと、話しておらんようじゃの。トウマ殿、神のオドは下級神とはいえ強過ぎるのじゃ。与えた者に過剰に徳を与える。故に不用意に与えて元の世界に戻せば、その者は急に運気が上がったり、特殊な能力を持ってしまい、世のバランスを崩しかねなくなる」
おいおい、かなりの大事じゃないか。かなり気軽にシオンはやってくれたが……そう思ってシオンを見ると――
「だ、だから、もうトウマはボクの使徒になるんだから、問題ないじゃない!」
と少し焦った感じで開き直る。それを聞いたアースディア様の雰囲気が、急に冷たくなり、シオンが予想もしていなかったであろう一言を放った。
「ワシがいつ、そなたの契約申請を受理すると言った?」
「……え?」
言われたことが信じられないという感じで、シオンの表情が固まる。なにやら、雲行きが怪しくなってきた。先程までのおじいちゃんと孫という感じは一切無くなり、少し空気がピリつく。
「……受理しないつもりなの?」
シオンはアースディア様を見つめ、身体を少し震わせながら聞く。
「そうは言っておらん。だが、もし、ワシが受理しないと言ったら、そなたはどうするつもりだったのじゃ?」
「……」
シオンは答えず、俯く。
「シオン、言うたはずじゃ。神は思慮深くあらねばならぬ。勢いで物事を早計に決断しては、神としての本分を見失う、と」
「……そんなの分かってるよ」
「本当かのう……ならば聞くが、何故、地球のゲートを壊したのじゃ?」
一気に空気が凍り付く……やっぱりバレていたかと思い、フェルビナさんを見ると、何故か青褪めた顔をして驚いていた。あれ? 気付いてなかったのか? じゃあ、別れ際のあの申し訳なさそうな顔はなんだったんだ? と疑問が頭を過る。
「な、なに言ってるのさ!? 壊してなんかいないよ!」
否定するシオン。アースディア様を見れば、なんの根拠も無しに言っている雰囲気ではない……確証がある発言だ。フェルビナさんの反応に疑問は残るが、この期に及んで隠すのは無理だろう。
……仕方ない、いざという時にはシオンを弁護しなければと考えた時、アースディア様が手をかざして、フッと横に振る。すると、俺たちの前に押し潰されて壊れてしまった、あのドアが出現した。
「……ワシから隠し通せると思うたかの?」
「あ……う、うそ……」
シオンは、なんで? という顔をして真っ青になっている。自分では、おそらく絶対見つからない場所に隠したつもりだったんだろう。しかし、相手が上手だったようだ。万事休すと思っていると、アースディア様がこちらに話しかけてくる。
「……さて、トウマ殿。ドアが壊れた時のことを、教えて貰えるかの?」
この期に及んで言い訳は無意味だ。シオンには悪いが、真実を話そうと思い、質問に答える。
「……シオンの契約を受ける約束をした後、シオンと一緒に住む住居のことを話していたんです。その時、俺が、その……シオンに家が作れるのか? と聞いてしまったんです……ちょっと疑う気持ちがあったので。それをシオンが感じ取ってしまって、自分の力を見せてあげる、と巨大な城を出現させたんです。その時、出現させる場所を誤ってしまって、ドアはその時、城の下敷きに……」
アースディア様は説明を聞いた後、左手を顎に当てて少し思案し、再び、質問をしてくる。
「なるほどの……トウマ殿、ではその時、潰されたドアの下の地面はどうなっておったかの? 城の自重に押されて、ドアは地面にめり込んでおったか?」
なんでそんなことを聞くのか分からなかったが、その時のことを思い出す。確かドアは地面にめり込んではいなかった。少し不思議だと思ったので、よく覚えている。
「いえ、めり込んではいませんでした」
「……それは確かかの?」
「ええ、確かです……それがどうかしたのですか?」
アースディア様の意図がよく分からず、詳しく聞こうとすると、シオンが俺とアースディア様の間に割って入る。
「……やめて……お願いだから……やめて、よ……」
シオンは震え、涙ぐみながらアースディア様に訴えた。どうしたんだ? 様子がおかしい。
「トウマ殿。この目の前にある壊れたドアはの。ワシが作ったゲートではないんじゃよ」
「え? ど、どういうことですか?」
思わぬ発言に驚いて聞き返す。
「や、やめ……」
シオンは、その返答を制止しようとするが、アースディア様は意に介さず、俺の疑問に答える。
「これは、シオンが作ったダミーじゃ」
「え?」
思わぬ返答に、思考が停止した。
「ウゥ~!」
シオンは涙をポロポロ流し、身体を震わせながらアースディア様を睨みつけていた。ど、どういうことだ? ダミーってことは、こっちが偽物? 壊れたほうが偽物ってことは、じゃあ、シオンが偽物って言っていたほうが本物? ……ということは、まさか……。
「シオン?」
俺の呼ぶ声を聞き、ビクッとシオンは震える。
「お前……俺を騙していたのか?」
シオンは、泣きながら俯き、答えなかった。その沈黙はそれが事実だということを物語っていた。