序章7 『神様と手料理』
俺たちは、新しく新居を作る為に色々と話し合っていたが、俺が空腹を訴えた為、お昼ご飯を取ることになった。今、目の前のテーブルには、これでもかと言うほどシオンが創造した食べ物が広げられていた。
「さあ、遠慮しないでドンドン食べて! トウマの為に色々用意したんだから!」
「お、おう……しかし、よくもまあ、これだけの物を用意したな」
おにぎりやサンドイッチに始まり、パスタやラーメン、焼きそばなど、お昼ご飯としては定番な物がズラリと並んでいる。ラーメンなどからは湯気が立ち昇っており、出来立てのようだ。
「じゃあ、いただきます」
そう言い、定番のおにぎりを掴み一口食べる……程よい塩気と共にお米の味が口の中に広がる。ふむ、シンプルな塩おにぎりだ。具は入っていない。普通のおにぎりだ。味も普通。
「どう? 美味しい?」
「ああ、普通に美味いよ」
具が入っていないのはちょっと物足りないが、空腹時に食べると十分満足感はある。そう思いながらバクバクとおにぎりを食べきり、次はサンドイッチに手を伸ばす。中身の具は、レタスとハムとチーズ、こちらもオーソドックスな内容だ。ん? よく見ると全部、同じ具だな……まあ、いいか。
そう思いながら齧る。口の中で咀嚼すると、シャキシャキとしたレタスの歯触りと、ハムとチーズの塩気が混ざり合った味が口の中に広がる。うん、美味い……美味いんだが、なんだろう? なにか物足りないような、この素朴な味は。
「トウマ、どうしたの? 口に合わなかった?」
少し不安そうな声で、シオンが訪ねてくる。
「いや、そんなことはないよ。うん、美味い」
バクバクとサンドイッチも食べきる。その様子に安心したのか、シオンはホッとした表情を浮かべ、俺が食べる姿をじっと眺めていた。食べる姿をずっと見られていると、妙に気恥ずかしかったので、シオンに話しかける。
「シオンは食べないのか?」
「うん、ボクはいいよ。経口摂取のエネルギー補給は必要ないからね」
「それは聞いたが、そうずっと見られていると食べ難いんだが……」
「ダメ?」
「駄目じゃないが……」
普段はあまり気にはならないんだが、こうもあからさまに見られると、こんなに恥ずかしいとは……まあ、シオンに見られているっていうのもあるのだろうが、こうもニコニコして嬉しそうに見られると、止めてくれとも言い難い。
仕方ない、とシオンの視線をあまり意識しないように食べることに集中し、空腹を満たす作業に没頭した。
一通りの物を食べてみたが、味はシオンには悪いが全てオーソドックスな味だった。まるで基本的な作り方を、そのまま真似て作ったという感じだ。不味くはないが、普通といった感じ。
ちょっとどう作ったのか聞いてみたかったが、俺が一杯食べたのが嬉しかったのか、シオンは終始ご機嫌だった。そんな気分に水を差したくなかったので、質問はやめておく。
そして、流石に腹一杯になったので、シオンに礼を言ってからご馳走様を告げると、残った食べ物は城を消した時と同様に手を一振りして消してしまった。原理はよく分からないが、便利な力だな。
次は食後のブレイクタイムとして、今朝もご馳走になった紅茶を飲んで一息ついた。だが、今朝とは違う茶葉が使われているようだ。癖のない香りと、スッキリとした飲みやすい味だ。
「今朝飲んだものとは違うな。なんて茶葉なんだ」
「これはニルギリだよ。そんなに癖のない味だから、食後に合うかなと思ったんだけど、どう?」
「ああ、悪くない」
「フフッ、良かった♪」
嬉しそうに笑い、自分も紅茶を注いで飲む。食事はオーソドックスだったが、今朝も言っていた通り紅茶は色々凝っているようだ。ちょっと気になったので、紅茶に関して聞いてみる。
「確か紅茶は凝っていて、集めているって言っていたよな? ということは、これはシオンが作っている訳じゃないのか?」
「うん。これはトウマの世界の神様に申請を出して、直接取り寄せて貰った物だよ。基本、トウマの世界への干渉は禁止されているけど、逆輸入は可能なんだ。特に個人の領域で消費する嗜好品関連は、申請が通りやすいんだよ」
「なるほど。じゃあ聞くが、シオンはこの紅茶は作れないのか?」
さっきの食事みたいに創造すれば、取り寄せる必要もないと思うんだが……。
「う~ん……作れなくはないんだけど、ちょっと面倒なんだよね~」
ちょっと困った顔でシオンが答える。
「面倒? どういうことだ?」
「物質の創造って点で言うと、お茶の葉自体は作れるんだけど、その茶葉を加工した物となると情報量が増えるから、再現性において複雑さが増して、面倒になるんだよ」
「んん? どういうことだ?」
いまいちよく分からなかった。情報量が増える? こちらの頭を傾げた様子を見てシオンが説明してくれる。
「え~とね……ボクら下級神の創造の力って、そう万能でもないんだよ。創造は、生み出す物の情報量が少なければ少ないほど、簡単なんだ。でも、紅茶ってお茶の葉を加工して作るでしょ。加工は情報量の増加を意味してて、下級神はその加工まで再現しないと、創造することが難しいんだよ」
「つまり紅茶を作ろうと思ったら、茶葉自体の加工も再現しないと作れないのか?」
「そう。お茶って元は同じお茶の葉だけど、加工の仕方によってまったく別のお茶になるでしょ? 不発酵なら緑茶、完全発酵なら紅茶っていう風にね。そこら辺が面白くてお茶にハマったんだけど、その発酵のプロセスを再現しようと思うと、結構神経使うんだ。それなら直接手に入れたほうが楽でしょ?」
なるほどな。確かに言われてみればそのほうが楽だ。ましてや嗜好品だしな。どれだけ神経を使うのかは分からないが、嗜好品にそこまで費やすのは面倒だってことか。待てよ……ということはさっきの食事はどうなんだ。
「じゃあ、さっきの食事はどうなんだ。あれも加工品だろ?」
「……面倒なだけで、出来ないとは言ってないよ。あれは加工も再現してボクが作った物だよ」
「ん、なんでだ? 面倒なんだろ?」
紅茶を一口飲みながら質問する。
「もう、分かんない? ……トウマの為に頑張ったの! 手作り料理って嬉しいものなんでしょ!!」
ちょっと顔を赤くして、プイッとそっぽを向く。……ああ、なるほど。あれはシオンにとっての手作り料理だったのか。味がオーソドックスなのにも想像が付いた。出来る範囲で加工を再現した為だったんだ。
料理ってのは加工に手間を掛ければ掛けるほど、味が増すものだからな。あれがシオンの精一杯の加工であり、味だったんだろう。
その気持ちが率直に嬉しかったので、改めて礼を言う。
「そっか。頑張ってくれて、ありがとうな、シオン」
「……どういたしまして!」
シオン自身もあの料理の加工が、それほど上手くないことに気が付いていたんだろう。加工が得意じゃないことに気付かれ、得意げな感じではなく恥ずかしげにしていた。これ以上、追及するのも野暮なので話を変える。
「なあ、シオン。創造のプロセスは理解出来たが、情報量が少なければ、なんでも作り出せるのか?」
シオンは俺の質問を聞いて、気を取り直して答える。
「そうだね~……あまり内部構造が精密じゃない物なら、大抵の物は作れるかな。あっ、でも、あくまでもボクが構造を理解していることが大前提ね」
「なるほど……じゃあ、このスマホみたいな物を作るのは無理ってことか?」
尻ポケットに入っていたスマホを見せる。それをシオンは受け取り、表裏と眺める。
「これって確か、トウマの世界の通信機器だっけ? う~ん……見たところ、かなりの精密機器だし、ボクが理解出来ない技術も使われているみたいだから、形は作れるかも知れないけど、完全な再現は難しいね」
そう言って俺に返す。なるほど、確かに中身の構造は精密だし、加工も複雑だろう。例え中身の構造を知って形を作れたとしても、それじゃあ機能はしない。ソフトウェアが必要だからだ。理解出来ない技術というのは、おそらくそれのことだろう。
「なるほど。じゃあ、こいつはどうだ?」
そう言ってもう存在意義を失った、マンションの部屋の鍵を渡す。
「これなら、簡単だよ」
そういって右手で受け取り、左手を前に出しグッと握り拳を作ってパッと開くと、その手の中にはキーホルダーは付いていなかったが、鍵の部分は全く同じ形の物が出来ていた。それを、凄いでしょって感じの得意げな顔で渡してくる。
それを右手で受け取り、元の鍵も左手で受け取って見比べてみる。色も形も全く同じだ。キーホルダーが付いてなかったら、見分けが付かない。
左手のオリジナルの鍵をポケットにしまい、右手の鍵を曲げようと力を込めてみる。硬い……俺の力では簡単に曲げることは無理だな。色と硬さをみる限り、素材も同じ物となっているみたいだ。
確か前に、鍵はどんな素材で出来ているのか気になって調べたことがある。鍵の素材は洋白という合金製で、作っている所で配合は微妙に違うそうだが、最近は強度とかを考えて、大体が洋白で作られているらしい。因みに五百円玉と同じ素材だそうな。
「お前、洋白なんて素材知っていたのか?」
「へぇ~……洋白って言うんだ。色んな金属を合わせた合金だって部分は読み取って、すぐ分かったんだけどね」
「読み取るって……物質の組成を読み取れるのか?」
「鍵みたいな単一の物なら瞬時に読み取れるよ。見たところ、銅が五十五パーセント、ニッケル十八パーセント、亜鉛二十七パーセントって感じかな」
配合比まで分かるのか。大したもんだ。でも、これも言わば加工品になると思うのだが、結構あっさり作ったな。
「これも加工品だと思うんだが、作るのは簡単そうだったな」
「うん。だって、これに行われている加工なんて、合金の生成と成形だけでしょ。色んな要素が複雑に絡んでる訳じゃないからね。だから情報量は少ないんだよ」
ふむ、大体分かってきたな。下級神が作れる創造物は、生み出す物の情報量に左右され、加工如何で情報量が変わる、か。まあ、とりあえず今はこれぐらいの理解で十分だろう。
今後、必要な物とかはシオンに出して貰うこともあるだろうが、分からないことが出て来たら、その都度に相談すれば問題ないだろう。
「良く分かったよ、十分だ。ありがとう。じゃあ、これからどうする?」
お腹もひとごこち付いたし、ある程度シオンの出来ることも理解した。次にどうしようかとシオンに聞くと、突如、空から聞いたことのない声が響いた。
<シオン、聞こえますか? 聞こえていたら、ゲートを開いて下さい>
「ウォッ!? な、なんだ!?」
凛と通った女性の声だ。突然だったので、思わずビクッとなる。
「この声、フェルビナだ。なんだろう?」
そう言って椅子からヒョイッと降り、右手を前にかざして横に軽くフイッと振ると、シオンの一メートル程前に、光の魔法陣らしき物が光を放ちながら出現する。すると、数秒後、何者かがその魔法陣内に姿を現した。
光の中に現れたのは天使だった。紛うことなき天使だ。だって、背中に真っ白な翼が生えている! 初めて生で見るその姿は、彫像のような美しさだった。
白銀のロングヘアーに金色の瞳、肌は白く顔立ちも恐ろしく整った造形をしていた。服装はシンプルな白のドレス姿に胸と手足に甲冑を着ている。まさに守護天使って感じの出で立ちだ。
呆けるようにその姿を眺めていると、天使は俺にチラリと視線を向けた後、視線をシオンに戻して近寄ると、声を掛ける。
「シオン、どうやら使徒候補の方と無事に接触は出来たようですね」
「うん、おかげ様で。フェルビナはどうしてここに? 心配して見に来てくれたの?」
親しいのか、シオンは俺と変わらない気安い口調で、少し嬉しそうに応対している。すると、フェルビナさんだったか、その人(天使か?)の口から出た言葉でシオンが凍り付く。
「アースディア様から、シオンの領域に作った地球のゲートになにか起こったようだから、確認してきて欲しいとご命令があったんです」
アースディア様って誰だろう? と思いつつ、なにやら妙に気になるワードも聞こえた。地球のゲート……あっ! もしかして、あのドアのことか! と思い付く。
シオンを見ると、明らかに動揺しているのが見て取れた。不味いな……シオンの焦りが手に取るように分かる。何故ならそのぶっ壊れたドアのことは完全に後回しにしており、フェルビナさんの丁度後方で、今も尚その無残な姿を晒しているからだ……。振り向かれたら、確実にバレる。
「え!? ああ~……そ、そうだったんだ~……」
あ~あ、完全に動揺しているな……バレたら怒られるって言っていたし、気持ちは分かるが……さて、どうするのやらと思っていると――
「ああ!? そうだ! それより紹介するね! ボクの使徒になる契約を受けてくれた、トウマ!!」
と突然話を逸らすと、フェルビナさんの手を取りこっちに来る。おいおい、いきなりこっちに振るなよと思ったが、呆けている訳にもいかないので慌てて椅子から立ち上がる。
「あ!? ど、どうも、初めまして! 弥上 斗真と申します! この度、そちらのシオンと使徒の契約をさせていただくことになりました」
そう言い、ピッと背筋を伸ばして、フェルビナさんの目をしっかり見た後、礼をして挨拶する。
「まあ、ご丁寧な挨拶ありがとうございます。私、アースディア様……貴方の世界の創造神に仕える使徒、フェルビナと申します」
そう言ってスッとこちらに近づき、柔らかい笑みを浮かべて手を差し出してくれる。俺は差しだされた手を取り、握手をした。
おお~、柔らかい手! しかも、近くで見ると凄い美人だ。おまけに背中の羽! 物凄く真っ白で綺麗だ、触ってみたい! おまけになんか良い匂いまでする!! と内心興奮しまくっていると、フェルビナさんは優しそうに微笑みかけ、俺の手を握ったまま持ち上げ、左手も添え――
「シオンとの契約、受けて下さったんですね。それではもう貴方は私と同胞も同然。シオン共々、よろしくお願いいたしますね」
と笑顔で言ってくれた。なんという圧倒的天使感! 後ろに後光でも出ているかのようだ! (俺の目にはそう見えた)
「こ、こちらこそ、よろしくお願いいたします!」
傍から見たら随分とだらしない様子だったかも知れないが、初天使の神々しさに感激していると、ふと後ろのシオンが目に入る。
シオンは、フェルビナさんに気付かれないよう、スッと後方に少し移動した後、破壊されたドアに手を向ける。すると、壊れたドアが消え、その場に見た目そっくりな壊れる前のドアが出現する……ってお前! 直すの無理とか言ってなかったか!? しかも、コイツ、証拠隠滅の隙を作る為に俺を囮にしやがった!!
出来る限り動揺は隠したが、俺の視線がシオンに行っていることに気付いたフェルビナさんは、俺の手を放してクルッと振り返る。しかし、シオンはどこ吹く風といった感じで、ニッコリとフェルビナさんに笑顔を浮かべ――
「どう、良い人でしょ?」
と、人を囮に使っておいて、いけしゃあしゃあと言い放つ。俺のジト目にも我関せずだ。フェルビナさんは全く気付いていないのか、その問いに自然と答える。
「ええ、良い使徒候補と巡り会えたようですね」
まったくこんな良い人ならぬ、天使様を騙すとはふてぇ奴だ。告げ口してやろうかと、内心考えているとフェルビナさんが確信を突く質問をする。
「ところでシオン。先ほど遮られてしまいましたが、アースディア様のゲートになにか問題はないでしょうか?」
ドキッとお互いするが、シオンは何食わぬ顔で言う。
「え? なんともないよ、ほら!」
隠蔽工作を済ませたドアを指さす。コイツ本気で隠し通すつもりだ。それを聞き、フェルビナさんは視線をドアに向けて少し首を傾げる。
「そのようですね。アースディア様の勘違いだったのでしょうか?」
訝しむフェルビナさんに、再びシオンが言葉を発する。
「それより、フェルビナ! 今から使徒雇用契約書を提出しに行きたいんだけど、アースディア様に謁見の申し込みをお願い出来るかな!」
シオンは、必死にドアから話題を逸らそうとする。
「それは大丈夫だと思いますが、契約書はもう記入していただいたのですか?」
「それはまだだけど、今すぐ書いて貰うよ! そしたらすぐに持って行きたいから、今すぐ謁見申請をお願い出来るかな! ボク、早くトウマと使徒の契約を正式に結びたいんだ!!」
そう矢継ぎ早にフェルビナさんに詰め寄って、有無を言わさぬ勢いでこの場を乗り切ろうとするシオン。
「もう、せっかちですね。トウマ様の前ではしたないですよ。……しかし、あなたの気持ちは分かります。ずっと待っていた、念願の契約ですものね。今から謁見申請に行ってきますから、契約書をトウマ様に書いていただきなさい」
そう言い、フェルビナさんはこちらを向いて、礼儀正しく会釈をする。
「それでは、トウマ様。申し訳ありませんがこれでお暇いたします。シオンとの契約手続き、よろしくお願いいたしますね」
そう言い、シオンが出した魔法陣に向かってその中に入っていく。シオンの我儘とはいえ、自分が仕える神様の命令で来たのに、原因をしっかりと確認せずに随分あっさりと引き上げるんだな、と内心思っていると――
「それでは、シオン、トウマ様。失礼いたします」
挨拶をして魔法陣から退去する際、ふと俺と視線が合い、その時のフェルビナさんの表情を見て察する。なにやら『ごめんなさいね』と言っているような、とても申し訳ないような微笑みを浮かべていたのだ。まるで子どもの悪戯を謝る母親のような雰囲気だった。
どうやら全てお察しのようだ。そんな気持ちを知ってか知らずか、フェルビナさんが完全に退去すると、フゥーーー……ごまかし切った、とでも言うようにシオンが額の汗を左腕で拭っていた。おそらくだが、バレているとも知らずに。そんなシオンに近寄り、先ほどの件を追求する。
「で、シオン。説明をしてくれないか?」
「説明って、なにを?」
「すっとぼけるな。お前、ドアは直せないって言ったよな?」
「うん……嘘じゃないよ。あのドアはボクには直せない」
「じゃあ、あれはなんだよ!」
そう言って、元の形を取り戻しているドアを指差す。
「あれはダミーだよ。形だけ似せて作った偽物」
「偽物?」
その言葉を聞いて、ドアに近寄る。偽物にしては随分としっかりと作られている。しかし、シオンの言う通りで、ドアの把手を握り引いてみるがビクともしなかった。あの一瞬でよくもまあ作った物だ。
「因みに、壊れたドアは何処にやったんだ?」
「別次元に隠した」
「……」
証拠品も隠蔽済みのようだ。これって不味いよな……フェルビナさんは、ドアに問題が発生していて、それをシオンが意図的に隠したことに気付いていたはずだ。そして、おそらくアースディア様だったか、地球の神様にも報告しているはず……そんな状態ですっとぼける真似をしたら、火に油を注ぐだけだ。
「隠さずに、ちゃんと謝ったほうがいいと思うぞ」
と忠告してやるが――
「……トウマは、ボクの味方じゃないの?」
と、ちょっと涙目でこちらを上目遣いで見てくる。シオンさんや、それはちょっと卑怯ではと内心突っ込むが、それだけに終わらず、そばに近寄ってキュッと服の裾を掴んでくる。それで、参りましたと心の中で両手を上げた。