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神様と使徒の異世界白書  作者: 麿独活
第一章 【魔物という存在】
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第一章26 『神様と捨て身』

 右腕を失った重傷を応急処置した後、俺はシオンを探して破壊の足跡をたどり、森林エリアの奥へと向かう。

 破壊の様相は凄まじく、緑が覆い茂っていた森林が無残な姿をあちらこちらに晒している。


「クソ……走り難い……」


 右腕を失ったせいで酷くバランスが取り辛く、悪態が口から洩れる……。失われて初めて腕の重量がかなりの物だったのを実感した。

 それでも出来る限り速度を上げて、森林エリアを進んで行く。

 さっきから酷い胸騒ぎがする……シオンの身になにかが起こっている。その証拠に、オドの供給が最小限まで落とされていた。

 シオンは、俺を気遣ってオドの供給量はかなり多くしてくれていた。それがギリギリまで下げられている。それに……


「(なんだ、この破壊の痕跡は……いつものシオンのマナじゃない……)」


 先ほどから目に入ってくる破壊の後を感知を使って見ているが、シオンのマナの痕跡とは明らかに異なっている。

 それに破壊の後もおかしい……まるで物質そのものを消滅させたような跡だ。シオンの特殊能力を全て把握している訳じゃないが、こんな破壊の痕跡は見たことがない。


「(それにさっきから息苦しい……空気が淀んでいるのか?)」


 周囲を見ると、マナが極端に減っている。そのせいで空気が段々と澱み始めていた。

 マナは、生命を豊かにする根源だ……マナが失われれば、空気は淀み生物はどんどん弱り、完全に枯渇すればそこは死の大地となる。


「(さっきから向かっている方向に、マナが急速に流れて行っている……おそらくその先にシオンがいる)」


 早くいかないと取り返しのつかないことになる……そんな予感を胸に秘めながら、俺は森を突き進む。

 数分後、向かう先から破壊音のような音が聞こえて来た。


「(近い!)」


 俺は、近くにあった木に登り、音がする方向を確認する。微かに閃光が見え、その光を受けたところが一瞬で消失するのが見えた。


「あれか!?」


 俺は視覚を強化して、その破壊された付近を見る。すると、そこに人影が見えた。


「な!? ……あれがシオン、なのか?」


 シオンの様相は一変していた。身体中から黄金色のマナを大量に放出し、左の背から天使の羽のような物を生やして宙に浮いていた。

 そして、右手には愛用の斧槍(ハルバード)を携えていたが、刀身の部分からは巨大な光の刃を生やしている。

 そんなシオンに、弾丸のような物体が飛び掛かるのが一瞬見えた。


「なんだ、アレ……まさかヴリトラか?」


 ヴリトラは身体がかなり縮んでいたが、それでも大きい。それに、更に速度が増している。だが、シオンは軌道を読んで猛スピードの突進を躱していた。

 そして、ヴリトラを追ってあの巨大な刃を宿した斧槍を振り下ろす。だが、ヴリトラは危険をすぐに察知して即座にその場から離れ、斧槍の刃は地面を切り裂いた。

 その瞬間、触れた地面が一瞬で消失する。光の刃が触れた傍から目に見えない程の塵に分解されているような消え方だった。


「(あれはヤバイ……触れたら確実に消える……)」


 本能的に危険だと感じる。あんな力をシオンが秘めていたことに少し戦慄した。


「(どうする……念話で話し掛けるか? だが……)」


 物凄い攻防だ……下手に干渉しようものなら、それが致命的な隙になりそうな気がする。それほどの猛スピードの攻防だった。

 それにシオンの様子もおかしかった。目に光が宿っていない……いつものシオンの雰囲気を欠片も感じない。まるで無機質な人形が動いているような状態だった。


「(クソッ! いったいなにが起こっているんだ!?)」


 戦場が更に移動し、こちらから離れて行く。俺は置いて行かれないようにシオン達を追った。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「クククッ……素晴らしい……あれほどの力を秘めているとは、驚きの限りですねぇ~」


 ガーディウスは、異界天球儀に映し出されている、シオンとヴリトラの攻防を嬉々として眺めていた。だが、映像になにかが映ったのか一瞬眉を顰める。


「おやおや……思ったよりずいぶんとしぶといですねぇ~……」


 目の前の映像には、右腕を失ったトウマが映っていた。


「やれやれ、せっかく良いところだというのに……これだから人間は嫌いですねぇ~……とはいえ……」


 トウマは、目の前の状況がよく分かっていないのか、戸惑った顔をするばかりで手を出そうとはしなかった。


「フン……流石に戸惑っているようですねぇ~……そのまま見ていることです。使徒如きがどうこう出来る状況ではないのですからねぇ~」


 そう言って再び異界天球儀の映像をシオンの様子に切り替えるが、その瞬間けたたましいサイレンのような音が部屋中に鳴りだす。


「……思ったより早かったですねぇ~……流石アースディア、やはりなにかしらの手を打っていましたか……」


 異界天球儀の映像を切り替えると、この部屋の入り口にフェルビナと、複数の同じように背に羽を生やした使徒が数人来ていた。

 そして、強引に門を開こうとしているようだが、門が開く様子はなかった。


<ガーディウス! 今すぐ開門しなさい!!>


 フェルビナはかなり怒っているようで、今にも門を力づくで壊そうという勢いで捲し立てる。もはやガーディウスを様付けすらしていない。


「嫌ですよ……相変わらず怒らせると怖いですねぇ~……時間をかけてパスに細工をしていて正解でした」


 そう言って呆れた仕草をすると、異界天球儀の映像に顔を向けて残念そうな顔をする。


「もう少し観察したかったですが、時間切れですねぇ~……まあ、いいでしょう。十分貴重なデータは取れました。あの方(・・・)に良い報告が出来るでしょう」


 そう言って異界天球儀に刺さっていた端末のようなものを取り外し、それを取ると背を向ける。そして、少し離れた後、ピタリと止まり背中越しの映像にチラリと視線を向ける。


「さて、今のところ互角のようですが、このままでは負けますよ……アレを助けたいのでしたら、醜く足掻くことですねぇ~……人間……」


 そう言うと、ガーディウスの目の前の空間に、闇が侵食するように穴が開き、その中へと入って消えて行った。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 シオン達を見失わないように後を追うが、戦闘は凄まじさを増しており、段々とシオンの方が押されている様相を呈していた。そして気付く……


「(シオンの斧槍の光の刃が縮んできている?)」


 それだけではなく、周りの空気も一層澱んで来ていた。


「(あの羽が周りのマナを吸収しているのは見て分かったが、まさかマナが枯渇し始めている?)」


 事実、あの羽に吸収されているマナの量も減って来ていた。そのせいでシオンの動きも鈍って来ているのかも知れない。


「(この周辺のマナを全て消費し尽くそうとしているのか? いったいどれだけの量のマナを消費しているんだあの力は……)」


 このままでは不味い……あの力が使えなくなれば、おそらくシオンの動きは止まる。その瞬間を奴が見逃す筈がない。急いで助けないと……


「(どうする!? どうする!! ……とにかくあの戦いを終わらせるにはヴリトラを倒すしかない……だがこの腕じゃ、満足に弓も引けない。更にあの速度じゃ、例え引けたとしても当てるなんて不可能だ!)」


 暫し考え、ふとあることが思い浮かぶ。


「(こちらが当てるんじゃなく、アイツ自らが当たりに来ればどうだ……あの特殊能力を使えば可能かも知れない……)」


 あの力とは『物質置換』だ。シオンやフェルビナさんから、決して使うなと言われていた能力だが、今は躊躇っている状況じゃない。


「(だが、肝心の攻撃はどうする? 中途半端な攻撃ではあの外皮には通じない……外皮の無いところ、例えば口の中なら……)」


 頭にある方法が浮かび上がり、タラリと冷や汗が流れる。


「(正直、今残ってるオドでやるには自殺行為の方法だ。オドが足りなかったら確実に消滅……だが、やるしかない!)」


 躊躇っている時間も惜しいので、早速準備に掛かる。

 まずは爆弾作りだ。奴を一撃で仕留めるくらいの威力の爆弾を作らないとならない。


「(俺の性質付与で、一番爆発力が高いと思われる爆発現象を再現する……そうなると俺の知識で思いつくのは一つしかない……ニトログリセリンだ)」


 たった一滴でも強い爆発力を持つニトログリセリン……ダイナマイトの原料だが、アレを再現出来れば少量でも大爆発を再現出来る。


「(基となる液体は……アレしかないよな……ったく、正気を疑うな……)」


 そう思いながら、失った右腕の傷口を見る。俺は深く深呼吸して、オドの強化を解除する。これ以降は少しもオドを無駄に使う訳にはいかない。

 痛覚遮断が無くなり、痛みがぶり返す。それに歯をくいしばって耐え、右腕の傷を塞いでいたオドも解く。すると、傷口から再び血が滴り始めた。


「ぐううぅぅ……」


 その血を、オドで作った即席の入れ物に入れて行く。一定量溜まった後、俺は再び傷口を塞ぐ。

 そして、溜まった血に性質付与を施す。痛覚遮断が使えない為にズキズキと傷が痛み、術式を組むのに苦労をしたが、なんとか構築して発動する。


「ハァ、ハァ、ハァ……これでいい。あとは『物質置換』を使うタイミングだ……」


 これとシオンを入れ替えて奴にこれを噛みつかせる。そうすれば口内でこれが爆発して、奴の頭を吹っ飛ばす。

 その為には、確実に奴がシオンに喰らい付くタイミングを狙うしかない。


「(そうなると、シオンが力を失ったタイミング……奴もそこを狙っている筈……)」


 そう考えてシオンの動きを見ると、明らかに斧槍の光の刃が縮んでいた。それだけではなく、空気の淀みが一層酷くなり、森林エリアの植物までもが枯れ始めていた。


「(根こそぎ吸い尽くす気か……)」


 こちらも呼吸が苦しくなるほどに、周りの状況が秒刻みで酷くなってくる。だが、やがて来るであろう瞬間に備えて、俺は集中力を研ぎ澄ませる。

 もはや俺の頭にあるのは、最速で術式を編んで発動し、シオンを救うことしか頭になく、痛みもいつの間にか感じていなかった。

 そして、いよいよ俺とヴリトラが狙っていた瞬間が訪れる。それを見た瞬間に術式を編み、『物質置換』の術式を展開する。

 その少し後に、ヴリトラはシオンの動きが完全に止まったのを見定めて、一気に身体を縮めて跳躍する。その勢いは今までで一番の速度だった。だが――


「(こっちのが早い!)発動!!」


 俺は自分の血が詰まった容器を前に差し出し、視界に捉えているシオンと血液爆弾の位置を置換する。

 その瞬間、容器とシオンのいる空間が歪み、一瞬で位置が入れ替わる。

 そして、その一瞬後にヴリトラがシオンがいた空間に噛みつき、その瞬間、カッという光がヴリトラの口の隙間から漏れ、一気に爆炎が弾ける。

 密閉空間で、更にかなりの量の血液をニトロに変換していた爆発力は凄まじく、流石のヴリトラも頭部の部分が粉微塵に吹き飛んだ。

 爆発の余波がこちらにも届き、俺は手元に来たシオンの身体を守るように抱きしめて伏せた。


 爆発が収まり、伏せていた身体を上げて爆心地を見ると、頭を跡形もなく吹き飛ばされたヴリトラの胴体は力なく地面へと落ち、そのまま二度と動くことは無かった。

 それを見定め、俺はすぐに手元のシオンに視線を戻す。すると、シオンは今までの状態が嘘のように、スウスウと眠るように気を失っていた。


「(良かった……)」


 そう思い、残った左手で抱きしめた瞬間、俺の意識は一気に薄れて行く。


「(ヤ、ヤバイ!? これは……)」


 そう思ったが、俺の核の火が消えて行くのを感じ、光を失ったと感じた瞬間、俺の意識は途切れた。



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