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神様と使徒の異世界白書  作者: 麿独活
第一章 【魔物という存在】
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第一章12 『神様と海の幸1』

 サハギンとシーサーペントの魔核化を行い、それらを全て回収した後、俺は次の行動指針をシオンと相談する。


「さて、これで最初の特異個体(ユニーク)討伐は完了だな。これからどうする? 予定通りなら、拠点作りを始めるか?」


「そうだね。移動日は明日だし……せっかくだからこの入り江に拠点を作ろう。ここはシーサーペント達の縄張りだったから、他の魔物も今日一日なら寄り着かないだろうし、三方を崖に囲まれてるから、拠点を構えるには適してると思う」


「なるほど、確かにそうだな。じゃあ、テントとかの道具一式を出してくれるか?」


「了解♪」


 そう言って、シオンは空間操作で収納されているテント道具一式や、持ち込んだ道具類を取り出して、砂浜に広げる。

 いつ見ても便利なものである。これだけの大量の荷物を格納出来て持ち運び出来てしまう。そして、別空間は時間の概念が存在しない空間らしく、入れた物に全く影響を与えない。

 よって腐る心配もないから、生モノまで格納出来てしまう。おまけに容量はほぼ無限に等しいというから恐ろしい。

 こういう部分を見せられると、下級神とはいえ圧倒的な力の差を感じさせられる。普段は、我儘で甘えん坊のただの子どもなんだがな~……と、そんなことを考えながら、俺はその中からテント用具を取り出す。


「さて、じゃあ俺はテントを組み立ててしまうから、シオンはいつも通り、薪拾いと周囲の警戒に行って来てくれるか?」


「うん、分かった」


 そう言ってシオンは崖の方に走っていき、ピョンピョンと器用に登って行った。それを見送り、俺はテントの設営に取り掛かる。

 因みに持ってきたのは、正確にはテントではなくタープだ。テントほどの密閉性はないが、開放感もあるし汎用性も高い。それに、いざという時にも即座に行動に移せるので、シオンと相談してこちらにした。

 異界に拠点を作るのはこれが初めてではなく、最初に訪れてゴブリン退治を行った時に経験積みだ。

 その時にシオンと話し合い、概ね役割分担も決めている。まずテントの設営や料理関連の準備等は俺の役割で、薪集めや周囲の安全確保はシオンの役割となっている。

 食料等は基本的な米や小麦粉、後は玉ねぎ、ニンジンなどの各種野菜も持ち込んでいる。出発する前に色々事前準備の段階で用意したものだ。

 とは言え、あまり持ち込み過ぎるのも問題なので、異界で調達出来そうな物は事前にピックアップして調べ、現地で手に入れる予定にしている。他に持ち込んでいる物といえば、後は各種調味料ぐらいだ。


 この異界の生態系については、地球環境とほぼ同じに作られており、動植物も豊富で魔物たちもそれらを主食(魔物同士で喰いあうこともあるそうだが)として生態系は成り立っている。よって食料調達に困ることはそれほど無い。

 まあ、そもそも食べなくても問題は無いので、そこまで気にする必要はないのだが、精神の疲労回復に料理はうってつけなので、アースディア様に言われた通り、しっかり取るようにしている。

 まあ、それは建前でシオンの喜ぶ顔が見たいというのもあるが……すっかり食いしん坊になっちゃったからな~、あのお子様は。

 シオンの創造の力は、どうしても必要な時以外は使わない方針にしていた。やはりなんでもかんでも創造で作り出していては、旅の醍醐味が失われてしまう。やっぱり自身の力で色々手に入れたりした方が、良い経験にもなるし、記憶にも残る。

 シオンも、最初の頃は創造の力に頼る傾向はあったが、色々自分で用意する楽しみを覚えてからは、積極的に行動するようになって来ている。一緒に料理を作ったりしていることが、どうやらプラスに働いているようだ。


 そうこうしている内にタープが組み上がった。張り方は、ビークフライと呼ばれる方法で、二等辺三角形のような形の内側に寝床がある感じだ。

 フルクローズにも出来るので、隙間は多少あるが雨風を凌ぐには十分である。寝る時は空間操作で周りを覆うし、いざとなったら防御結界もあるので、寒さ等もそれほど気にはならない。

 さて、後は(かまど)だな……と思い、辺りを見回して手頃な石を探す。すると、崖下に落石と思われる石がゴロゴロと落ちていたので、それを拾ってタープの近くに石を組み上げ、簡易的だが(かまど)を二つ作った。


「トウマ、ただいま~♪」


 ふと、頭上からシオンの声が聞こえて来て上を見上げると、シオンが丁度崖から降りて来ているところだった。


「おかえり!」


 そう言って、頭上の崖に向けて手を振る。数秒後、ズサッという音を立てて砂浜に着地したシオンがこちらに駆けてくる。


「トウマ、拾って来たよ」


 シオンは空間操作を使って、拾ってきた薪をドサドサッと砂浜に出した。


「これだけあれば十分だよね」


「ああ、問題ない。周りの様子は問題なかったか?」


「うん、大丈夫そう。異界天球儀でも念の為に確認したけど、この周囲に魔物はいなかったよ」


「よし、なら食材調達を始めるか」


「そうだね! ちょっと待ってて。ここら辺で取れる食材を調べてみるから」


 そう言って異界天球儀の外部端末である指輪を起動して、色々と調べるシオン。

 異界天球儀には、その世界の魔物の情報だけではなく、どのエリアにどんな生態系が分布しているのかも把握することが出来る。その他にも、地質や地形、気象情報等、調べられることは多い。


「う~ん……ここら辺だとやっぱり海産物が中心だね……草原エリアとの境目にある山岳地帯には、野生のトマトが自生してる。動物は、ヤギが生息しているみたい」


「トマトにヤギか……トマトは応用範囲も広いし確保したいな。ヤギ肉も確保したいところだが……」


「まずはなにから取る? やっぱりここは海産物かな」


 そう言って、海を見るシオン。


「そうだな、ここなら新鮮な海産物がすぐ調理出来そうだし、折角の海洋エリアだしな。まずは、海の幸尽くしと行こう!」


「海の幸尽くし! どんな料理を作るの?」


 シオンが、ワクワクした顔で聞いてくる。


「ここはやっぱり浜焼きとお刺身だろうな。新鮮な魚介類は、手を入れても美味しいが、外で食べるならまずはシンプルに食べた方が美味い。だから、シオンは貝類やエビ類を主に取って来てくれるか? 俺は魚を釣ってくる」


「了解♪ じゃあ、着替えちゃうね」


 そう言っておもむろに来ていた服を一気に脱ぎ去る。すると、すぐ下に着ていたのか、ノースリーブの上下一体のスイムウェアが姿を現した。フロントにファスナーがあり、黒色に白のラインが脇の辺りに入っているシンプルなデザインだ。因みにメンズ用である。


「いつの間に……ずっと下に着ていたのか?」


「うん! 討伐が終わったら海でトウマと遊ぼうと思ってたから、事前に着てたんだ。さっきは戦闘時だったから、そのままだったけどね」


「随分とスポーティーな水着を選んだな」


「動きやすそうだったからね。……もっと露出が多いのが良かった?」


 そう言って、小悪魔的な笑みを浮かべて揶揄(からか)ってくるシオン。


「アホぬかせ! お前が色気を語るなど十年早い」


「チェッ……やっぱりもっと可愛いのにすれば良かったかな~」


 俺の反応が思っていたものではなかったのか、自分の格好を見ながら不満を漏らすシオン。いったい、どんな反応を期待していたのやら……。

 基本、シオンの着る服はみんなメンズ物だ。活発な性格なので、動きやすい恰好を好む傾向にある。まあ、それとどっかのお友だちの影響もあるようだが、俺は基本口出ししない方針にしている(マニアックな物は別にして……)。

 アースディア様も俺と同じ方針のようだが、フェルビナさんはどっちかというと女の子の格好をして欲しいらしい。しかし、決めるのはシオンなので自主性に委ねているそうな。


「ほら、俺は釣りに行ってくるから、道具を出してくれ」


「は~い」


 そういってシオンは、空間操作で事前に用意していた釣り道具と、クーラーボックスを出してくれる。俺はそれを受け取り、準備を始めながらシオンに一つお願いをする。


「シオン、悪いがあの辺りで釣りをするから、そこまで足場を作って貰って良いか?」


 そう言って、入江の出口付近のやや岸壁に近い海を指した。


「うん、分かった。じゃあ、ボクはそこから離れた、あの辺りで取ってくるね」


 そう言って、俺が指定した釣り場から、右に離れた入江の出口に近いところを指す。


「ああ、頼む」


 頷いたシオンは、海に手を向けて俺の指定した場所まで足場を作った後、そのまま海に入って自身が指定した場所まで泳いでいった。シオンは基本、運動神経は抜群なので泳ぎも達者だ。流石、アースディア様の秘蔵っ子である。

 俺も準備が整った後に感知を使用して海を見ると、シオンが空間を固めたところが薄っすら黄色に光って見える。それを目印に海の上を渡り、釣り場用に多少広めに作ってくれた部分に立って、釣りを開始する。

 釣りは、随分と久しぶりだ。持ってきた釣り道具も高校の時に友人とシーバス釣りに行った時に使って以来の物だ。海洋エリアに行く前日に、役に立つかもと思って引っ越しの荷物から引っ張り出してきた。

 俺は岸壁近くを狙ってルアーをキャスティングして、まずはタダ巻きして反応を探る。何度か繰り返し、反応が無ければ投げるポイントを変え、再び反応を探る。

 何箇所かで試し、特に反応を感じられなかったので、最初のポイントに再びキャスティングして、今度は竿を軽くあおるような動作でルアーに不規則な動きを与えて探る。

 そんなことを何度か繰り返していると、背後でザバッと音がして、ビクッとして振り返ると、足場に上半身を乗せて、シオンがこちらを見上げていた。


「ビックリさせるなよ。一瞬、サハギンでも現れたのかと思った」


「エヘヘ、ごめんね。釣れた?」


「そう簡単には釣れないっての。まだ、探っている最中だよ。そういうシオンは取れたのか?」


「うん! ほら!」


 そう言って、ドサドサッと取ってきた物を空間操作で取り出して足場に広げる。そこには、サザエやアワビと思われる貝類が幾つかと、ロブスターだろうか? おおぶりなエビが二匹広げられる。おまけにイカまでいた。


「ウオッ!? 随分と早く、これだけ取って来れたな。大したもんだ」


「エヘヘ~♪ トウマはなにを狙ってるの?」


「シーバス……スズキだよ。海釣りではそれしか経験がないんでな。スズキじゃなくても、似たような魚なら同じように釣れる可能性もあるし……」


「スズキ……ちょっと待ってて」


 そう言って、少し思案した後、広げた海産物を置いたまま潜って行ってしまった。俺はビチビチと暴れるエビを慌てて捕まえ、貝やイカと共にクーラーボックスの中に入れる。

 そうして一分程経った頃、シオンが再び浮上して戻ってくる。


「プハッ! トウマ、いたよ。あの右側の岸壁付近に何匹か泳いでた」


 海水を顔から拭い、髪をかき上げながら教えてくれるシオン。どうやら、どの辺りにいるか見て来てくれたらしい。


「おっ、ちゃんといたのか。了解……あの辺りだな」


 シオンの指した方向の海に向け、俺はキャスティングする。何度か投げて勘が戻ってきたのか、シオンが指定した付近にジャストで着水し、再び竿を煽りながら巻くと、ピクリと反応が返ってきてグイッという手応えが返ってくる。


「来た!」


 その瞬間に、竿を合わせるとガツンという当たりが竿に掛かる。


「よし!」


 見事に掛かり、竿がしなって釣り特有の手応えが手に伝わってくる。悪くない手応えで俺は少し興奮しつつも、竿を魚が逃げる方向に合わせながら巻いて行く。


「トウマ、頑張って!」


 シオンの声援を背に受けながら、慎重かつ大胆にリールを巻いて、引き寄せていく。数分後、すぐ目の前まで引き寄せることが出来、後はたもで揚げるだけだ。


「シオン、たもを取ってくれ!」


「たも? たもってなに?」


「あ~、そこの網だ網!」


 シオンからたもを受け取り、それで引き寄せたスズキを掬い上げる。


「やったー!」


「フゥ~……」


 なんとか釣り上げることが出来て、面目躍如といったところか、ホッとして息を付く。釣り上げられたスズキはビチビチと網の中で暴れ、それを興味深そうにシオンが覗き見ていた。


「そこそこ良い(かた)だな。これなら食べ応えも十分だろう」


「へぇー、どんな料理にするの?」


「スズキとなると、ムニエルとかが美味いかな。刺身も少し皮を炙ってやると香ばしくて美味い」


 そう説明しながら、たもからスズキを取り出し、口からルアーを外して、クーラーボックスの中に入れた。


「美味しそう! ねえねえ、ボクも釣ってみたい!」


「ん? 別に構わないが、やり方分かるか?」


「うん! トウマの見てたから、大体分かるよ」


「なら、やってみ」


 そう言ってシオンに釣竿を差し出すと、シオンは足場に上がってきて、竿を受け取る。そして、見様見真似でキャスティングすると、俺とほぼ同じ場所にポトリと落とした。


「さ、流石だな……」


「ヘヘ~♪」


 なんでも器用にこなすお子様である。シオンは、その後も見事なトゥイッチングを繰り返してシーバスを煽り続け、三度目のキャスティング後にピクリと反応が来た瞬間、俺と同様にグイッと竿を合わせる。


「トウマ、来た!」


「ナイスだ! そのまま魚の動きに竿を合わせて巻き寄せろ!」


 竿が俺の時より遥かにしなっている……かなりの大物のようだ。


「トウマ、結構引きが強い!」


「俺より大物だ! 抵抗している時には無理に巻かず、動きに竿を合わせて引きが弱くなった瞬間巻け。ラインのテンションは緩めるなよ!」


「うん!」


 シオンは、俺に言われた通り魚の動きに合わせて竿を動かし、相手が緩んだ瞬間にジワジワと巻いて手繰り寄せていく。


「いいぞ、その調子だ!」


 俺の言葉を受けて嬉しそうに顔を綻ばせながら、釣竿を操るシオン。そして、あと数メートルというところに来て、最後の抵抗とばかりにスズキが暴れて竿がしなる。


「ワワッ!?」


 突然の抵抗に焦るシオン。俺はそんなシオンを応援するために声を掛ける。


「最後の抵抗だ! 負けるな、シオン!」


 そして、この掛け声が良くなかったのかも知れない。


「この~!」


 シオンは、俺の声援を受けて自分でも思っていた以上に力が入ってしまったようで、思いっ切り竿を上げてしまい、結果スズキはその勢いで海中から飛び出し、空中で一瞬ラインが緩んだ瞬間に身を捻られた結果、プツンとルアーの針が外れてしまい、そのままバシャンッと海中に落下して逃げられてしまった。


「ウワッ!?」


 突然竿の抵抗がなくなり、勢い余って後ろにコロンと転げるシオン。


「あちゃ~……」


 俺は遠ざかっていく魚影を眺めた後、後ろにひっくり返ったシオンを見る。


「……」


「……」


 二人見つめあいながら、暫くその場を沈黙が支配する。そして、あまりのあっけない結末に、俺は耐えられなくなって吹いた。


「プッ!?」


「え!?」


「ハハハハハハハハッ!!」


 弾けるように笑い始めた俺を見て、シオンが膨れっ面となる。


「トウマ~!」


「ハハハハッ、す、すまん!……ククククッ」


 俺は口元を右手で抑え、左手で腹を抱えながら笑うのを抑えようとするが、しかし、一度始まってしまった笑いは中々止めることが出来ず、口元からどうしても漏れ出してしまう。


「ウゥ~~~!!」


 そんな俺の様子にシオンはプルプル震えながら顔を真っ赤にし、一向に笑いを止められない俺に対し我慢の限界だったのか、こちらに近づきドンッ! と俺を両手で突き押した。


「ウワッ!?」


 俺は突然の衝撃に耐えられず、足場から転げ落ちてバシャーン! と、海へ落ちてしまう。頭から海中に落ちた俺は、しこたま海水を飲み、ガボッと空気を吐き出して、慌てて浮上する。


「ブハッ!? ゲホッ、ゲホゲホッ……な、なにするんだよ、シオン!」


「フンだ! トウマのバカ!!」


 プイッとそっぽを向くシオン。まあ、悔しいところであんなに大笑いされたら、怒り心頭となるのは仕方ないことだが、なにも突き飛ばすことないだろうと思う。

 そして、大人げないと思いながらも、お返しとばかりに両手の指を組み、筒状にして海水を中に閉じ込めた後、指の隙間の穴をシオンに向けて声を掛ける。


「シオン……」


「なにさ」


 神妙なトーンの俺の声に、少し不貞腐れながらもこちらを向いたシオンの顔に、手のひらをすぼめて貯めた海水をビュッ! と噴出させ、見事命中させる。


「ワプッ!?」


「お返しだ」


 俺は、得意顔でやり返す。シオンは、キョトンとした顔をしてポタポタと顔から海水を滴らせ、そして、次の瞬間――


「トウマーーーーー!!」


 と、ぶち切れてこちらに飛び掛かってきた。


「ウオッ!?」


 ドパーーーーン!! とシオンが飛び込んできた勢いで水飛沫が立ち昇る。その後、暫くの間、入江の中央付近の海で、ギャーギャーと言い合う叫び声と、断続的に水柱が立ち昇る音が鳴り響き続けた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「もう~、トウマのイジワル!」


 少し怒りながらも、ちょっとスッキリした顔で入江へと上がるシオン。


「悪かったよ、そう怒るな。暴れて少しはスッキリしたろ」


「ムゥ~……」


 俺のちょっと歪んだ励ましにちょっと納得いかない顔だが、暴れたのはそこそこ楽しかったらしく、複雑な表情をするシオン。

 俺は釣り道具やクーラーボックスを抱えながら、続いて入江に上がるが、その姿はすっかり濡れネズミとなり、服が海水を吸って身体にへばりついて少し重い。


「海水でベトベトだな……どっか真水で洗える場所があればいいんだが……」


 そう言って荷物を砂浜に下ろし、髪をかき上げて水気を切る。すると、シオンがこちらに右の手のひらを向けてくる。


「トウマ、少しじっとしてて」


 俺は突然手のひらを向けられたので、なにかされるのかと思って少し身構えてしまうが、突如身体全体をシオンのマナが覆い、服の内側や全身から蒸気のような風がブワッと放出される。すると、俺の身体を濡らしていた海水が跡形もなく乾いていた。


「おお~、完全に乾いた……」


 驚いて服を触っているとシオンが説明してくれる。


「創造の力を応用して、海水を気化させたんだよ。残った塩分も除去したからベタ付きもないはずだよ」


「流石、神様。シオン様様だな」


「もう~……調子いいな~」


 苦笑しながらも、機嫌は直ったのか笑顔を見せるシオン。俺は荷物を下ろしながら、そんなシオンに話し掛ける。


「じゃあ、俺は釣ったスズキの下処理をしておく。シオンはどうする?」


「ボクはもう少し貝類やエビを取ってくるよ。それとリベンジするから釣り道具を貸して!」


 そう言ってズイッと手を差し出してくるので、俺は苦笑しながら釣り道具を渡す。そしてシオンは再び、意気揚々と海へと向かっていった。

 さて、俺は今度こそ大物を釣り上げて来るであろうシオンを祝う為に、料理の腕を振るうとしますか、と気合を入れ直した。



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