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神様と使徒の異世界白書  作者: 麿独活
序章 【転生への誘い】
11/44

幕間1  『神様と現身』

ここからの話は、幕間に変更いたしました。内容としては、9話~10話の間の話となります。読んで頂けたらより深く細かい設定が理解できるかと思いますが、後から読んでも問題のない内容です。

 アースディア様に、正式に使徒の契約を受理され、契約をめぐる騒動にも、ひと段落が付いた。シオンはというと――


「ムゥ~……」


 あまりにも泣き続けた為、目が真っ赤に腫れてしまい、フェルビナさんに診て貰っていた。ヒョイッとシオンの顔を覗き込み、それを見て思わず吹いてしまう。


「プッ」


「トウマ! 見ないでよ!」


「クククッ、はいはい」


「ウゥ~……」


 シオンは膨れて、また涙目になる。


「シオン、また泣いては腫れが引きませんよ。トウマ様もあまりいじめないであげて下さい」


「はい、すみません」


 怒られてしまった。やはりフェルビナさんは、シオンのお母さん的な存在だな。シオンはフェルビナさんに任せ、アースディア様に今後のことを聞くことにしよう。そう思いアースディア様のほうを向くと、アースディア様は玉座に再び座って、こちらを眺めていた。


「あの、アースディア様。少しよろしいでしょうか?」


「うむ、なんじゃ?」


「シオンもあの調子なので、今後の流れをお聞かせ願いたいんですが……」


「うむ、そうじゃな。その前にシオンからは使徒に関して、どの程度の説明を受けておる?」


「そうですね。使徒に関しては、契約神の分身であり、契約神のオドがなければ存在出来なくなる等、ある程度は聞きました……あとは俺が使徒になった後、地球では俺の存在はなかったことになる、ぐらいでしょうか……」


「ふむ……使徒のリスクに関しては、ちゃんと聞き及んでいるようじゃな。地球でのそなたの扱いも、概ねその通りじゃ。神や使徒の現身に関しては、どの程度把握しておる?」


「人間とは違い、容姿に関する設計図はないが、元人間である影響で元の姿から逸脱した姿には出来ないことと、外見年齢は魂や精神に影響される、というぐらいでしょうか」


「その通りじゃ。では現身が人間の身体と同様に傷つくことや、痛みなどの感覚も同様、ということは認識しておるかの?」


「……そこまで詳しい話は、まだ聞いては無いですね」


「やれやれ、大事なことじゃろうに……ふむ、そなたには話しておきたいこともあるし、丁度良いかの。シオンよ、少しトウマ殿を借りるぞ」


「え!?」


 驚くシオンをよそに、スクッと玉座から立ち上がって俺に近づいて手を前にかざす。すると俺とアースディア様を中心に魔法陣が出現する。


「ち、ちょっと待ってよ!」


 そう言うシオンの言葉を無視して視界は魔法陣の光に包まれ、光が晴れると目の前には先ほどの広間ではなく、別の居室らしき場所へと変わっていた。


「ここは?」


「ワシの書斎じゃ。ここなら、ゆっくり話せるじゃろう」


 周りには無数の本棚が並んでいる。かなりの量だ。難しそうな分厚い本やら色々とありそう……と眺めていると、どこかで見たことがある背表紙があった。これは……漫画……え? 神様って漫画読むのか? しかも、かなりのラインナップだ。古い物からごく最近の物まで揃い踏みしている。


「知っている本でもあったかの?」


「え、ええ……あの、漫画とか読むんですか?」


「うむ、よく読むの。特に日本の漫画は様々なバリエーションがあって面白い。他にもアニメやゲーム等もコレクションしておる。そなたも詳しかろうがワシには及ぶまいて! ホッホッホ!」


 そう言えば、神様の間にサブカルチャーを流行らせたのってアースディア様だったっけ……ラインナップの数を見る限り、地球の神様はオタク文化にどっぷりハマっているようだ。喜んでいいのやら不安になったほうがいいのやらよく分からんが、自分もオタクなので今度時間があったら語り合いたい。

 しかし、いきなりだったからシオンになにも言えずに置いてきてしまったが、大丈夫だろうか。


「あの……シオン、大丈夫でしょうか?」


「フェルビナが付いておるから、大丈夫じゃろ」


「また、泣いてなきゃいいですけど……」


「そなたも心配性じゃの。ほれ、そこに座るがよい。飲み物はいるかの?」


「あ、お構いなく」


「遠慮はいらん。珈琲でよいかの?」


「ええ、ではお願いします」


 パチンッと指を鳴らすと、珈琲と砂糖とミルクがテーブルの上に出現する。アースディア様はどうやら珈琲派のようだ。

 アースディア様に勧められた席に付き、アースディア様が一口飲むのを待って、頂く。珈琲特有の苦みと酸味が口の中に広がる。珈琲はあまり飲まないのでよく分からないが、癖もないし飲みやすい味だった。


「さて、話の続きをするかの。確か現身についてだったか」


「ええ。現身にも傷つくことや、痛みなどの感覚があると……」


「うむ、ではまずは現身に関して話すかの。現身は人間のような肉の身体ではないが、傷つきもするし、血も出るんじゃ」


「血、出るんですか?」


「出るぞ、赤い血がの。そもそも現身とは人間の肉体の原形なのじゃ」


「人間の肉体の原形?」


「そうじゃ。本来、神とは高次元のエネルギー体であって身体というものが存在せん。しかし、その状態ではエネルギーを無駄に消耗するし、力を使う際の効率も悪かった。そこで器として作り出されたのが現身じゃ。そして、現身を原型にして作られたのが、人間の肉体なのじゃよ。だから、構成的には人間の肉体と大きくは変わらん」


「じゃあ、生理現象とかは存在するんですか?」


「うむ。ただ、人間の身体と違ってエネルギー源が違うからの。体内に取り込んだ有機物は全て分解し、オドに還元されるから排泄の生理現象はないの」


「食べ物からもオドの摂取は可能なんですか?」


「微量じゃがの。存在維持に必要なほど摂取しようと思ったら、一日中食べ続けても無理だろうて」


「燃費悪いんですね……」


「まあの。それだけ現身の力が高い証拠でもある。人間の肉体に比べて強度も高い。オドによる強化がなくても、そうじゃな……地球基準で言えば、オリンピック選手の軽く二倍の身体機能はあるだろう」


「二倍!? す、凄いんですね……」


 あの極限まで鍛え上げられて、各スポーツに特化したオリンピック選手の二倍の身体機能って、相当だぞ……と驚く。


「最初は感覚を掴むのに苦労するじゃろうから、現身になったらシオンの領域で練習するとよい」


「分かりました」


「次は感覚についてじゃが、これも人間とほぼ変わらんから五感も存在する。唯一違うとすれば、第六感じゃな」


「それはいわゆる、シックスセンスってやつですか?」


「まあ、簡単に言えばそうじゃな。正確に言えば万物の力の流れを感じ取る感覚じゃ。神も使徒も万物の力をエネルギー源としておる。故にその力の流れを感じ取る感覚も備わっとるんじゃよ」


「万物の力の流れ……ですか?」


「言うてしまえば、尽きることなく湧き出る宇宙に満ちる力の流れじゃな。その力は淀みなく流れ続けて、全ての世界に循環しておる。ワシらはこれをマナと呼んでおる」


「マナ……それが、神の力の源なんですか?」


「そうじゃ。そして、その力を変換して様々な奇跡を起こすのが神々の能力じゃ。マナは不純物が混ざっておらぬ無色透明の力、故に様々な物に変換することが可能での。それが所謂、創造の力じゃな」


 まさに万能の力だな。そして、その力は尽きることなく湧き出るから神々は不滅の存在な訳だ。


「話が逸れたの。まあ、疑問があればまたシオンに聞くとよい。では、現身の話に戻ろう。現身に関して他に聞きたいことはあるかの?」


 現身に関してか……感覚の話は分かったし、人間と同様に傷つくことも分かったけど……傷つくってことは、致命傷などを負ったら死ぬんだろうか? 人間より頑丈といっても、傷つくなら殺せるってことだよな?


「あの……人間と同様に傷つくってことは、例えば心臓を貫かれるとか、頭を吹っ飛ばされるなどしたら死ぬんですか?」


「いや、神との契約さえあれば復元は可能じゃ。使徒は契約神の言わば半身じゃからな。オドを供給する契約神さえ健在なら、どんなに傷つこうが復元は可能じゃ。現身はあくまでも魂の器でしかないからの。ただし、現身の頭部の損傷は避けることをお勧めするがの」


「何故ですか?」


「脳のような重要部分を破壊されれば、魂や精神に対するショックも大きい。その結果、記憶に障害が発生する可能性もゼロではない。例え復元しても記憶を失ってしまっては意味がなかろう」


 ……覚えておこう。頭部破壊は記憶を失う可能性がある。契約神さえいれば不滅ではあるが、代償はあるんだ。


「それと、現身の核も損傷すると危険じゃ」


「現身の核というのは?」


「核とは言わば、現身の心臓部分じゃな。そこにそなたの魂を同化させる儀式を行って、そなたは使徒に生まれ変わるんじゃ。オドの供給と循環を司る部分じゃから、損傷すると碌にオドのコントロールが出来なくなる。結果、現身の維持すらままならなくなって、損傷の具合にもよるじゃろうが、数分で存在維持出来なくなるじゃろう」


 損傷すれば消滅は時間の問題になるってことか……。


「損傷した核の修復は可能なんですか?」


「可能じゃが、損傷を負った本人が修復するのは困難じゃ……さっき説明した通りオドがコントロール出来なくなるからの。じゃから修復は基本、契約神が行うことになるじゃろう」


 なるほど……心臓と同様に重要度が高い場所と考えたほうが良さそうだな。そう真剣な面持ちで考えていると、アースディア様が補足するように声を掛けてくる。


「心配せずとも、現身の核は身体より破壊するのが難しい。常にオドが循環する場所じゃから、常にシールドで守られているようなものじゃ。おいそれと損傷を負うようなことは無いじゃろう。そこまでのダメージを負わせられるのは、同じ使徒やSクラス以上の魔物、或いは神ぐらいなものじゃよ」


「はあ……」


 まあ、かなり頑強な部分というのは分かった。だが、絶対に破壊されないという保証はないようなので、気を付けようと思う。


「他にはあるかの?」


「他、ですか……う~ん……ああ、そうだ。三大欲求ってどうなるんですか? 例えば食欲ですけど、エネルギー源が違うのなら、お腹は減らないんでしょうか?」


「そうじゃな。空腹という感覚は無くなるじゃろう。じゃが、人間からの転生となるそなたは多少は食べることをお勧めするぞ」


 はて? シオンは必要なさそうな感じで説明をされたが……。


「食事はとらなくてもいいと、シオンは言っていましたが?」


「長年、人間として生きているそなたには食に関する喜びの記憶も少なくはないはずじゃ。食べるという行為は、安易に幸福を感じられる感覚じゃから、急にそれを一切行わなくなれば精神的にも不安定になりやすい。いきなり断食が出来る程、そなたは精神的に強靭かの?」


「あ~……確かにそうですね」


 確かに精神的にきつそうだな……シオンは恐らくそこまで気が回らなかったんだろう。人間の欲求に関して、若干知識が浅いのかも知れない。聞いておいて良かった。


「睡眠も適度にとるほうがよい。神や使徒にも精神的休息は必要じゃ。急に極端な生活をすれば、精神が疲弊するからお勧めはせん」


 なるほど。よくよく考えれば精神は俺のままなんだ。身体がいくら丈夫になっても、精神はそのままなんだから、そっちの疲弊は避けられないか。そう言えば契約書もちゃんと休みが取れるようになっていたな。


「最後に性欲に関してじゃが、それも存在はする。現身も人間と構造的には一緒だと言ったように、行為自体も可能じゃ。ただ、子をなすことは出来ん。人間の身体のように遺伝子は存在せんからの。遺伝交配は出来んのじゃ」


「なるほど……ん? じゃあ、神ってどうやって生まれるんですか?」


「話しても良いが長くなるぞ? まあ、シオンとの間に子を設けたいと言うなら、教えてやらんこともないが?」


「ブッ!? な、なななにを言っているんですか!?」


 あまりの突拍子もない発言に、驚いて思わず吹き出す。


「冗談じゃよ。そなたには悪いが、シオンにはまだ早い。中身はてんで子どもじゃしの。興味を持っても、適当にその手の話題は避けてくれると助かる……ワシもまだまだシオンが可愛いので、な?」


 顔は笑っていたが、最後の「な?」の部分でギロリッと目が光る。これはあれだ、ワシの可愛い孫にそういう気持ちを抱くなよ? という警告だ。かなりの殺気が込められていた……肝に銘じておこう。


「は、はい! それは、もちろんです! ……だいいち、シオンって性別がまだないんですよね?」


「……本人に聞いたのかの?」


「はい……」


 声のトーンが変わったな。もしかしたらシビアな話なんだろうか? そう訝しんでいると、それを察したのか思わせぶりに言う。


「……それに関しては、最後に話そう。次はオドに関して話しておくかの」


「……はい」


 最後、か……どうやらデリケートな話らしい。これはちょっと覚悟しておいたほうがいいかも知れない。


「さて、オドに関してじゃが……」


 と、話の続きをしようとした時、そこに水を差すように、けたたましい叫び声が頭の上で響いた。


『老いぼれジジイーーーーー!! トウマを返せーーーーーー!!!』


『シ、シオン! アースディア様に不敬ですよ!!』


 驚いて上を向く。シオンとフェルビナさんの声だ。特にシオンはかなりご立腹のようで、アースディア様を老いぼれジジイ呼ばわりだ。まあ、勝手に置いてきぼりにされたんだから怒るのも無理はないが……。

 そう思い、視線をアースディア様に向けると、眉間に手をやり、やれやれという困った顔をしていた。そして、スイッと右手を前に振ると、目の前の空間にシオンとフェルビナさんの姿が映し出される。そして、アースディア様はその映像に向かって話しかけた。


「シオンよ。邪魔するでない。今、大事な話をしておるところじゃ」


『だからって、ボクを締め出すことないでしょ! 話ならボクも一緒に聞く!!』


 かなりの剣幕だ。なんだか、今までと少し印象が変わる勢いだな。


『申し訳ありません、アースディア様。シオンがそちらに繋げろ、ということを聞かないものですから……』


 そして、相変わらず礼儀正しいフェルビナさん。随分と対照的だな。


「よい、押し付けてすまぬな。シオンよ、もう少しで終わるゆえ、今しばし待つのじゃ」


『嫌! 今すぐトウマを返して! もしくはボクもそっちに行かせて!!』


 捲し立てるように要求を突き付けるシオン。しかし、アースディア様は動じることなく拒絶する。


「ならぬ。それより、そなたは他にやるべきことがあるであろう?」


『なにさ、それ!』


 なにを言っているんだこのジジイは、みたいな顔をするシオン。本当にシオンは下級神なんだろうか? アースディア様は、自分とは比べ物にならないほど高位の神なんだとか言ってなかったか? 威厳もへったくれもないって感じだな。


「トウマ殿の現身の核じゃ。どうせそなたのことだから、まだ用意しておらんのだろう?」


『ウッ!? そ、それは~……』


 ギクッという、図星を刺された顔をするシオン。現身の核って使徒になる俺の心臓部分のことだよな? シオンが作る予定なのか。


「そなたがそれを作り終わる頃には話も終わる。ちゃんと用意して置くのじゃ」


『ウゥ~……分かった……トウマ、トウマ! いる?』


 シオンは悔しそうな顔をするが、要求を諦める。そして、心配そうな表情で俺を呼ぶ。


「あ、ああ、いるぞ」


 少し身を乗り出して、中空に映し出されているシオンに返事をする。


『すぐ終わらせるから、それまで待っててね! 約束だからね!!』


 随分と必死な表情だ。なんだか、以前より更に依存度が増してしまった気がする。


「分かった。ちゃんと待っている。約束するよ」


 不安そうなシオンを安心させる為に、笑顔を浮かべて約束する。


『絶対だからね! アースディア様、トウマになにかしたら絶対に許さないから!!』


 俺への態度からコロッと変えて、アースディア様に憎まれ口を叩くシオン。


「なにもせんわ! そなたはワシをなんだと思っとるんじゃ!」


 と、シオンを叱責するが――


『イーーーーだ!!』


 と、両手の人差し指を口に入れて、両頬を左右に引っ張り、歯をむき出して威嚇するシオン。


『こら、シオン!! 申し訳ありません、アースディア様』


 あまりの不躾さに、フェルビナさんがシオンを咎め、映像に割って入って頭を下げる。


「もうよい。それよりフェルビナ。シオンを手伝ってやってくれ。あの調子では、トウマ殿の現身の核にどんな手を施すか分かったものじゃない。無茶な調整をせんよう、見張っておいてくれ」


『はい、畏まりました』


 その言葉を最後に目の前の映像は途切れた。なんというかとても神様同士のやり取りには見えなかったな。まるで家族同士の喧嘩だ。


「すまんの、トウマ殿。みっともない所を見せてしもうて」


「いえ、なんか本当に家族って感じですね」


 シオンの態度に遠慮というものがなかった。憎まれ口だったが、シオンの飾らない素の姿を見れた気がする。


「ホッホッ、まあ、そうじゃの。ワシやフェルビナにとってあの子は家族も同然の存在じゃ。ただ、そのせいで甘やかしてしもうての。あのように我儘な子になってしまいおった」


 確かにそんな感じだった。俺と接していた時には見なかった表情も色々していた。


「あれが素、なんでしょうか。俺の前ではあそこまで子どもっぽくはなかったですけど……」


 ほとんど悪ガキって感じだったが……。


「柄にもなく緊張して、大人びた態度をとっておったんじゃろう。根は純粋で優しい子なんじゃが、まだまだ子どもでの。たまに暴走するのが悪い癖じゃ」


「そのようですね」


 アースディア様に同意する。確かに少々暴走することはあるが、優しさは本物だと思う。あの世界も俺に合わせて作ってくれていたようだし、他にも気配りが感じられた。

 まあ、それにコロッと丸め込まれて嘘を見抜けなかった訳だが、それも俺と離れたくない一心でやったことだと思えば、可愛いものである。

 ……う~ん、随分とほだされてしまっているな~……俺もアースディア様たちのことを甘いだなんて言えないと思う。


「さて、話の続きじゃ。確かオドについてじゃったな」


 オドか……使徒の生命線になる部分だ。しっかりと聞いておかないとな。



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