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神様と使徒の異世界白書  作者: 麿独活
序章 【転生への誘い】
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序章10 『神様と転生』

 暗闇に沈んでいた意識が浮上する。自然と目が開いて光が飛び込み、意識が完全に覚醒する。そして、目の前に飛び込んで来た景色は、あの緑の草原だった。

 シオンが作った草原だろうか……俺はポツンと草原のど真ん中に立っていた。そして、ふと目線の高さに違和感を感じて自分の手と身体に目をやり、身体をペタペタ触って現状の理解に努める。

 手足が随分小さくなっており、子どもみたいな(なり)になっている。服装は短パンにTシャツと小学生の子どものような服装だ。


「……夢か?」


 そう呟き、頬を(つね)ってみる……痛みは感じなかった。どうやら夢らしい。でも、なんでいきなり小学生になって、こんな草原に立っている夢なんか見ているんだろうか? 記憶を辿るがいまいち頭がハッキリせず、いつ寝たのかも思い出せない。根気よく記憶を遡って思い出す。

 確かアースディア様に契約を受理されて、その後色々と説明や段取りを話し合った。そして、シオンを連れてマンションの部屋に帰って、一緒にカレーを作って食べたんだ。

 その後、翌日の段取りを決めて寝て、その翌日……ってあれ? 翌日の記憶があるってことは、この夢はその日に寝た時の夢じゃないのか。更に記憶を探り、順を追って思い出していく。

 翌日は、朝ごはんをシオンと一緒に作って食べ終わった後、マンションの部屋から荷物の運び出しや、シオンの領域での新居作りをした。その後、アースディア様たちが激励に来て、丁度お昼だったんでサンドイッチを作ることになり、その時フェルビナさんの料理下手が発覚して、急遽お料理教室を開いたんだ。

 記憶を掘り返すと、随分とイベント盛り沢山な一日だ。フェルビナさんのエプロン姿、可愛かったな~……っていかいかん、思考が脱線した。その後は、新居作りを再開して、アースディア様の協力もあって新居が完成したんだ。

 それから、遂に使徒に生まれ変わる儀式を行うことになって、アースディア様たちに連れられ、儀式の間に行った。

 そして儀式を行って……どうなった? 記憶はそこからプツリと途切れる。成功か、それとも失敗したのか? はたまた、儀式は今も続いていて、この夢はその影響で見ている夢なのか?


「……考えても分からないな……そもそも現状が夢なんだし……」


 深く考えるのをやめる。まあ、とにかく儀式までの記憶があるってことは、ちゃんと儀式が行われたのは確かだろう。それにしても妙な夢だ。小学生に若返って、だだっ広い草原に立っているなんて……夢はなにかの暗示っていうが、なにか意味があるんだろうか?

 そんなことを考えながら、草原を眺める。広い草原だ。地平線まで緑が広がっている。もう何度も見た景色だ。背が低くなって視線が低いのも影響しているのか、その広大さがとても大きい物に感じられる。

 そう思っていると、ふと同じような感覚に陥ったことが幼少期にもあったような気がしてきた。記憶を思い返すと、今まで思い出そうとしてもあやふやな記憶しか浮かんでくることはなかった、子どもの時の記憶が鮮明によみがえってくる。


「……そうだ……俺はこの光景を見たことがある……」


 確かあれは、十歳の頃……季節は夏。世間では、夏休みが始まったばかりの頃だったが、俺は外で遊ぶのではなく、病院の一室で窓の外を眺めていた。

 病院の外に見える公園では、同い年や小学校低学年の子どもが楽しそうに遊んでいた。そんな光景を、どこか冷めた目で……いや、内心は凄く羨ましく見つめていたんだ。

 物心ついた時には、既に白い病室にいたことを思い出す。生まれつき身体が弱く、身体虚弱だったため、その時の自分の世界の全ては白い病院の中だった。来る日も来る日も検査とリハビリの生活。親が過保護だった影響なのか、ろくに外へ出ることも許されなかった。不満はあったが、両親は優しかったので文句を言うことはしなかった。

 それでも、窓の外に見える世界は、病院とは違って様々な色に溢れているように見え、窓からそれを眺めるのが日課となっていた。

 そんな自分を慰めてくれたのが、父が買ってきたゲームだった。特にRPGは未知の世界に主人公となって冒険するのは楽しく、かなりのめり込んでいた。その影響でゲーム会社に入ったのだ。まあ、結果はあの(ざま)だったが……。


 あの頃は、とにかく触れたことのほとんどない外の世界に、一際強い憧れを抱いていた。遠く、見たこともない世界に行きたい……そんな想いが溜まりに溜まり、とうとう決壊したのが日差しの暑いある夏の日だった。

 病院着から母親が用意していた私服に着替え、看護婦さんの目を盗んで非常階段に移動、足音を出来限り立てずに降りて、病院の裏口から勝手に抜け出した。

 その時の俺は、かなり興奮してワクワクしていたのを思い出す。病院を抜け出すだけでも、当時の俺にとっては大冒険だ。コッソリ抜け出すという行為にも、悪いことをしていると感じてドキドキしていた。


 外の世界に飛び出した俺は、病院では目にすることもなかった物があちらこちらに溢れている光景に、はしゃいだ。身体虚弱というのが嘘のようにその時は苦しみを感じることは無く、自分はどこにでも行ける、どこまでだって行けるという、根拠のない自信に満ち溢れていた。

 行きかう車、行きかう人々、立ち並ぶ見たこともない物に溢れた商店に目移りし、消毒薬などの匂いだけではなく、甘い匂いや食欲をそそる匂い等の様々な匂い、鼻を突くツンとした匂いでさえ、興味をそそられ新鮮味があって興奮した。

 そして、一番驚かされたのは色だった。まるで絵の具をぶちまけたような色の世界。白で支配された俺の知っている世界を、あっという間に埋め尽くしてしまうであろう、色に溢れた世界がそこにはあった。

 興奮して疲れなど感じていなかった為、色々と歩き回ったが、流石に限界が近づいてきたのか、疲労が身体を襲ってきた。ここで倒れたら、きっとすぐに病院に連れ戻されてしまうと感じた俺は、人の少ない場所を目指して、とにかく遠くに行こうとした。


 ひたすら歩いては休み、そして時には無理して駈けて、体中が痛み、疲労でふらつく身体を叱咤して歩き続けた。そして、気が付いたらこんな草原に辿り着いていたんだ。

 もしかしたら、こんなに雄大ではなかったのかも知れない。それでも、当時の俺にはとても広く、雄大で、どこまでも続く果てしなく美しい光景に見えた。

 あの向こうはどうなっているんだろう? 同じ草原が続いているんだろうか、それともまた違う景色が広がっているのか? 行きたい……行ってみたい……戻って来れなくなってもいい……その先で一人倒れて死んでもいい……そんなことを思いながら、地平線に手を伸ばす。もう身体はボロボロで一歩も動けなかったからだ。そこでプッツリと意識が途切れた。


 その後、目覚めたら再び病院のベッドの上だった。かなりの大騒ぎとなっていたようで、両親にはこっぴどく叱られ、泣かれた。その姿を見て、とても悪いことをしてしまったんだと強く反省したのを覚えている。

 でも、あの興奮は忘れられなかった。特に最後のあの風景は、頭に焼き付いて離れることは無かった。そして、その日から俺は変わった。

 とにかくあの光景が頭から離れず、遠くに行きたい、見たこともない場所に行きたい、という気持ちが心に深く刻み込まれていた。

 気力が失われて適当に流していたリハビリに力を入れて取り組み、食欲がなく、中々全て食べられなかった食事も無理して全部食べた。看護師さんたちもかなり驚いていたのを思い出す。

 その甲斐あってか、身体虚弱も次第に改善され、中学からは学校にも通うことが出来るほどになっていった。

 それから、紆余曲折あって、現実を知って……色々変わってしまったが故に、あの頃の気持ちは次第に薄れてしまい、そして、シオンの出会う前の俺に行きついた。しかし――


「……なんで忘れてしまったんだろうな……」


 と呟く。あんなにも強く焼き付けたはずの気持ちだったのに……原因は、まあ、色々あるんだろう。失われてしまった気持ちを見せつけるように、目の前に広がる雄大な草原を目の辺りにしていると、胸を締め付けるような想いが溢れてくる。

 そして、あの時の抱いた想いと同様の気持ちを強く願いながら、右手を草原の地平線へと伸ばす……すると、その手をギュッと誰かに握られた。

 ――シオンだった。いつの間にか目の前にいて、地平線に伸ばした俺の手を握っていた。


「行こう、トウマ!」


 そう言って、笑顔で俺の手を引くシオン。


「……ああ、行こう!」


 こっちも笑顔で答え、シオンと共に歩き始める。緑の草原を踏みしめ、地平線に向かって二人で歩いていく。気付けば自分の姿は次第に大きくなり、大人の姿になっていた。

 すると、目の前が光に包まれ、やがて俺の意識はその光に飲み込まれていった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「ト……! トウ…! 聞こえてる? トウマ!!」


 薄ボンヤリとした意識に、シオンの呼ぶ声が響く。目を開けると、光が飛び込んで来て、眩しくて一瞬目を閉じるが、再びゆっくりと目を開く。目の前の景色が次第にはっきりと映し出された。

 天井だろうか……荘厳な大理石の屋根があり、石の台にでも寝ころんでいるのか、背中から伝わってくる感触は硬く冷たい。

 視線を右に向けると、シオンが心配そうな顔でこっちを覗き込んでいた。


「シオン?」


「トウマ! 大丈夫? 気分が悪かったりしない?」


「……大丈夫だ……ここは?」


「覚えてないの? 儀式の間だよ。使徒に生まれ変わる儀式のために来たでしょ?」


 ……そうだ、儀式の間だ。一通り引っ越し作業を終え、新居も出来たから、使徒に生まれ変わる儀式を行ったんだ。次第に記憶がハッキリしてくる。


「……なんで俺の手を握っているんだ? シオン」


 ふと自分の右手を見ると、シオンがその手をギュッと握りしめていた。


「なんでって……トウマがなかなか目を覚まさないから心配でそばに寄ったら、急にトウマが手を前に伸ばして……それで目を覚ますかと思って握ったんだよ」


「……そっか」


 ふと見ていた夢を思い出す。もしかして夢でやったみたいに手を伸ばしていたのか……そして、シオンがその手を握ってくれた。

 夢と現実で同様にシオンが応えてくれたのが嬉しくて、少し笑いながらシオンの手から右手を離し、その手をシオンの左頬に添える。


「ヒャッ!? ト、トウマ?」


 急に自分の頬に手を添えられて、驚いたのか変な声を上げ、少し頬を赤く染めるシオン。そんなシオンの頬を優しく撫でる。そして、目を真っ直ぐ見つめて感謝を伝えた。


「ありがとうな、シオン」


 すると、まるで茹でダコのようにシオンの顔が一瞬で真っ赤に染まる。


「ど、どどどどういたしまして!」


 かなりキョドリながら、答えるシオン。


「どうした?」


 らしくない態度を不審に思って声を掛ける。だが――


「ななな、なんでもない!」


 と、そう言ってクルリと背を向けてしまう。柄にもなく照れているんだろうか? そう思いながら、身体を起こす。


「ゴホンッ! あ~……身体に異常はないかの? トウマ殿」


 左側にいたのかアースディア様が咳払いをして、声を掛けてくる。


「ええ、大丈夫です。俺はちゃんと使徒に生まれ変わったんでしょうか?」


「うむ、儀式は問題なく済んだ。少々目覚めるまで時間が掛かったようだがの」


「そうですか……実感があまり湧かないんですが……」


 そう言いながら自身の身体を眺め、目の前に両手を出してグッパッグッパッと指を閉じたり開いたりする。


「まあ、最初はそんなもんじゃよ。じきに人間とは違う身体になったと自覚出来るじゃろう」


「そうですか……あまり変わったようには感じないんですが……シオン、見た目はどうだ? なんか変わったか?」


 そう言って声を掛けるが、聞こえていないのかシオンは背を向けたままブツブツとなにやら呟いていた。時折、エヘエヘという怪しげな笑い声が漏れ聞こえてくる。本当にどうしたんだ、あいつ?


「トウマ様、宜しければこの姿見をお使い下さい」


 そう言ってアースディア様の後方から、大きめの姿見を持ってフェルビナさんが近づいてくる。


「ありがとうございます、フェルビナさん」


 フェルビナさんに礼を言って、石の寝台から降りて姿見の前に立つ。そこに映っていたのは確かに俺なのだが、その姿は大分若返っていた。年齢で言うと二十代中頃ぐらいだろうか。

 だが、それだけではなく、身体は人間だった頃よりスマートになって筋肉質になっており、表情も幾分か引き締まった容姿になっていた。


「おお~……なんか〇イザップ後、みたいな感じだな……まあ、元はそんなに太っていた訳じゃないけど……」


 因みに服装は、昔のローマの偉人が着ていたような、真っ白な服を着ていた。確か普段着からこっちに着替えてと、儀式の前に言われて着たんだったか。


「随分と若返ったようじゃの」


 後ろから、姿見を除いてアースディア様が声を掛けてくる。


「ですね。それに妙にスマートになって筋肉量が増えたような……」


 腕をまくって、力こぶを出すように力を籠めると、前とは比べ物にならないほど筋肉が盛り上がる。ちょっと引いた。


「それがそなたの理想とする体型なのじゃろう。現身は精神に影響されるからの」


「なるほど……じゃあ、精神的にだらしなくなれば……」


「太っただらしない身体になってくる。今の身体を維持したいのなら、気を付けるようにの」


「肝に銘じます」


 精神がもろに影響する身体か……ある意味、人間の身体より管理が大変かも知れない。確かに今のこの姿は結構理想の姿だから、だらけないよう気を引き締めて行こう、と心に決める。


「さて、これで儀式は完了じゃ。これでそなたは晴れて神界の仲間入りじゃ。歓迎するぞ、トウマ殿。シオン共々、これからも健やかに神界で生きるがよい」


「はい、ありがとうございます!」


 そう言ってアースディア様に頭を下げる。


「トウマ様、宜しくお願いいたしますね」


 フェルビナさんも微笑みながら、手を差し出してくれる。


「はい! よろしくお願いいたします」


 その手を握り、フェルビナさんに改めて挨拶をする。こうして、人間、弥上斗真は、使徒としての人生の一歩を踏み出したのだった。


「エヘ♪ エヘヘヘヘ♪」


 未だに怪しい笑いを上げている、下級神シオンと共に……。



ここまで読んで頂けた方、誠にありがとうございます!今回の話で序章終了でございます。自分で書いていて、長いよ!さっさと異世界行けよ!と思っているので、読んでくださっている方も突っ込まれているかとは思われます。


実際、何人かからご意見を頂き、「読みやすいが中身が薄くてだれる」「説明し過ぎてストーリーが進まず退屈になる」との意見を貰い、区切りもいいのでいったん構成を見直して組みなおすことにしました。

と言っても、話数の順を少し入れ替えて少し加筆し、一部を幕間扱いにして後読みでも良いよ、的な形にするだけになるかと思います。正直、ここまで書いてしまうと大幅な修正は、後の話と整合性を取るのが難しいので……。※2018年11月26日時点の話です。


一章は、少し話も加速して行くよう執筆致しておりますので、私のつたない文章が少しでも皆様のお心を楽しませておりましたら、感想やレビュー、評価、ブクマ等どれでもいいので、応援頂ければ励みになりますので、何卒宜しくお願い致します!

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