表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/32

08 楽しい子育て



 磨き上げられた大理石のような床。プールのように広い湯舟からは、お湯が溢れている。端の方にある、注ぎ口からお湯が滾々と溢れているせいだ。


 以前はこんな贅沢な造りではなかった。


 必要な時に爺が魔法で水を張り、それを湯にしていた。しかし、それは探索隊が発見した鉱山のおかげで、劇的に変わったのだ。


 探索隊が発見した鉱山から発掘された鉱石。それは魔石という名前の鉱石らしい。


 魔石は魔法の力を持った石で、普段は自然に付与された属性がついていて、その属性の魔法しか使えない。しかし、ここで発見されたのは、まだ属性がついていない若い魔石らしい。


 この属性ってよくわからないけど、どうやら火属性なら火に関する魔法、とかいうことなので、なぁんとなく理解した。ようするに五行ってやつらしい。火、水、金、土、木で、それぞれ相性があるとかいう、陰陽道みたいなやつ。


 でも、正直さ程理解していないので、その片は右から左へ流しながら聞いた。ごめん、爺。


 とりあえず、その属性ってのがついていない魔石は、好きな属性を付与できるけど、効果は少し低い。属性のついた魔石は、その属性をかなり強い効果で発せられるらしい。


 で、この属性のない魔石がかなりたくさんとれた。これらは風呂やトイレで大活躍、と。


 まず、城の一部にため池てきな物をつくる。そこに水属性をつけた魔石を設置。するとどうだろうか?


 滾々と水がわき始めた。そこから水路や城のあちこちに引いた、水道管へと流す。これでトイレや風呂の水に困ることなく水が使い放題! 便利! 水道代いらず! 魔法で生み出した水だけど、一応ため池に沢山のスライムを放ち、常に浄化作業をしてもらっている。城下町の水路にもいるから、水路の水は常にきれいらしい。


 魔王様がうっかり飲んでも大丈夫!


 面白い事に、魔法で生み出した水は、ため池の淵から溢れないらしい。便利!


 そんなわけで、水は使い放題だけど、溢れる危険はない。そんな素敵な状態になった。


 次に、火属性を付与した魔石を風呂に設置。これで、常に温かいお湯が流れ出る。シャワーとかはドワーフ達もつくれなかったので、湯舟に張ったお湯を使う事になるけど、十分です!


 お湯が熱すぎる時ように、湯舟に足される水の出口がある。これは、栓の太さを変えて流れる量を調節することができる。単純だけど使いやすい。あと、ちゃんと水風呂がある。


 お城の中でプチ温泉。


 各家にも火属性の魔石が配布され、お風呂がお好みの温度で入れるようになった。


 ドワーフ達のリフォームまじ早い。魔石を渡してまさか1週間以内にすべての家のお風呂をリフォームするとは……。ゴブリンとか、世帯数だけでもすごい数いるのに……。


 働き者ばかりなので、明日の食事は新しい酒をちょっと追加してあげよう。


「さぁ、アレフ様、お風呂にはいりましょうねぇ~」

「アレフ、これ、すきっ」


 そうかそうか。魔王様もお風呂好きか~!


 いいこですね~!


 お風呂で一日の心のお洗濯は大事ですよ~!


 いそいそと魔王様の服を脱がせる。魔王様の服は頭からかぶるケープのような服。園児にありがちな服装だけど、これなら汚しても問題ないので、色やデザインを少しずつ変えて着せている。


 ぷりっぷりな魔王様がこの服着て、「りな~」とよちよち歩いてくる姿はめちゃくちゃかわいい!


 ただ、魔王様、下半身が黒い山羊っぽいうえ、ちょろん、と矢印のような尻尾が生えている。そのせいでズボンが履けない。いや、毛皮が守ってるからパンツとかいらないけどさ。あと履けないわけじゃないけど、なんかムズムズしてるっぽいから履かせてない。その方が魔王様もご機嫌だしね。


 魔王様、もうちゃんとトイレ、て言えるし、トイレまで我慢できるからね。


 めっちゃいい子!


 私も服を脱ぐとタオルを一枚手に、一緒に風呂場へ。


「りな、あわあわ~」

「はい。リナがアレフ様を綺麗にいたしますよ」


 そういって湯舟近くまで行くと、魔王様を膝に抱き、右手に桶を手にした。


 湯舟の湯を桶で掬い、お湯の温度を確かめる。と言っても、ここは私と魔王様しか使わない。爺は少し離れてはいるけど自分の城があるしね。そんなわけで、常に魔王様基準の温度になっている。だからと言って慢心して火傷をさせるなんてありえないので、必ず確認する。


 うん! 今日もいい感じにぬるい! 人肌くらいだね。


 大丈夫そうなので、そっと魔王様にもかける。まずは下半身から。少しずつ上にあげていき、胸元までかける。


 嬉しそうに魔王様が笑い声をあげている。


 可愛い。うん、可愛い。


 甘えてすりよる魔王様をよしよしと撫で、近くにある石鹸を引き寄せる。


 石鹸はエルフ作です。


 最初は苛性ソーダとオイルを混ぜ合わせ、大きな木箱で固めただけの石鹸を、カットした素朴な物だった。匂いとかはなく、ちょっとがっかりした。でも、トレント達がきて、色んなハーブが手に入るようになり、香りは良くなった。そこで私がしっとり感を出すために蜂蜜をわけあたえたところ、劇的にしっとり感が増した!


 魔王様のみずみずしいぷりぷりお肌を守る為なら、料理を別な事に回すのは厭いませんとも!


 エルフたちも喜んでたからいいってことで!


 持ってきたタオルを濡らし、石鹸を泡立てる。しっかり石鹸を泡立てて、魔王様の肌に滑らせた。


 ふかふかタオルは爺作。私の要望どおり、魔王様の柔肌を傷つけないふっこふこにしてもらってます。


 これで優しく体を洗われるのが好きな魔王様が、とても気持ちよさそうに目を細める。


 ああああ! 可愛すぎる!


 園では子供を風呂に入れることはなかったけど、風呂中の子供ってこんな可愛いの?! 犯罪じゃない?!


 心の中で転げまわりながら、背、胸、手、と丁寧に洗う。人間部分が洗い終わって、次は下半身。


 魔王様の下半身は山羊のような下半身で、毛がふっこふこです。タオルよりずっとふっこふこです。子山羊よろしく細い毛がふわふわなのですよ。一度むっちりしたふこふこお尻に顔をうずめてみたい。絶対気持ちいいと思うんだ!


 誘惑のふこふこ下半身も今は水にぬれ、ぺとーんとしている。結構面白い見た目になっている。が、気にしない。今度は手で石鹸を泡立て、沢山の泡をのせる。そしてそれを広げるように、塗り込むように、優しく手で洗っていく。長い矢印のような尻尾も手で洗う。


 くすぐったいのか、声を上げて身をよじる魔王様。


「こぉら、ダメですよ。大人しくしてください」

「やーっこちょこちょーこちょこちょーっ」


 じたばたと暴れる魔王様。


 ぐっふぉ!


 なんて可愛いんだ!!!


 このままずっとこのサイズで、この舌ったらずなまま止まらないかなぁ?!


 爺、そんな魔法知らないかな?!


「アレフ様、ほら、いいこにしてください」

「やーっ」


 くっ可愛い。


 無邪気で可愛い!


 しかし、可愛いと言っても、そうとばかりは言っていられない。魔王様が風邪をひかないように手早く洗い、お湯で流す。


 自分についた泡も洗い流し、一緒に湯舟に。


 魔王様はもう、この湯舟を泳ぎ回れる。人間じゃないから当然なのかもしれないけど、私からしたら異常な事で、最初はかなり焦った。なにごと?! と。焦って何度も捕まえようとした。しかし、魚のようにすいすい泳ぐ魔王様に、それは無駄なんだといつしか納得した。


 入る時は私に抱きかかえられてはいるし、出る時もそう。でも、湯舟に入っている時は自由に泳ぎ回っていた。


 あれ? 私、一緒に湯舟に入る必要ないんじゃない? と気づいたときに、入るのを止めようとしたら、魔王様はそれから私にべったりはりついて離れなくなった。


 ふっふっふ。イイ感じに私大好きになってくれているようだ。


 どんな時でも私が一緒じゃなきゃ嫌なんだよね~! もう、魔王様可愛い!


 湯舟で泳ぐのはやっぱりマナー違反だし、止めてもらえてよかったよかった。


「気持ちいいですね、魔王様~」

「ん~……」


 ぽやぁんとした表情で湯船につかる魔王様の肩にお湯をかけ、しっかり温める。


 ああー……気持ちいい。


 ちょっとぬるめだけど、お風呂サイコー!


 くぅうっ! 一時期とはいえ、お風呂のない生活を強要されていたから、こうしてお風呂入ると身に染みるんだよね!


 最初、魔王城にお風呂なかったんだよ?! 水浴びで十分。基本は香水とか、どこの中世?! 日本人は風呂ですよ、風呂!


 しっかり肩まで浸かってあったまる。それにより適度な疲労感を得て、夜はぐっすり!


 本当は少し熱めのお湯でしたほうがいいらしいけど、それじゃぁ魔王様が入れないからね。ぬるま湯でも十分十分。


「はい、アルフ様、10まで数えますよー?」

「あーい!」

「「いーち、にーぃ、さーん……」」


 一緒に数を数える。


 はい、数数えるの可愛い!


 一生懸命肩まで浸かって、私と一緒に口を大きく開けて数えてる~~!


 ぐっふぅ……ぬるま湯なのに一気にのぼせそうだ……!!


「「はーち、きゅーう、じゅうっ!」」

「はい、それじゃぁ上がりましょうね~?」

「あーいっ」


 抱っこして一緒に湯舟から出る。


 広々とした脱衣所には常に衣装棚が設置されていて、魔王様のお洋服と、私のメイド服、そして大きめのふこふこタオルが常備されている。あと、濡れたまま出てきてもいいように、足ふきマットも設置されています。


 使い終わったら、全部まとめて部屋の隅の壺にぽいっと投げ込む。中のスライムが全部溶かします。


 そういや爺が、そろそろフォレストスパイダー辺りを配下に欲しいとか言ってたな。魔王城のものは、今は全部爺が魔法で作っているけど、そいつらがいたら、そいつらが勝手に作るからどうの、とか? そいつらの出す糸で編み上げられた布は最高級品で、手触りもいいらしい。聞いている感じだとシルク、かな? 悪くはないかも。


 ふこふこタオルで魔王様をくるみ、優しく体をふく。


 はーっ……タオルとかもいいけど、まずはシャンプーとかリンスがほしいなー。


 不思議なくらい魔王様の髪は痛まないけど、シャンプーリンスがあれば、きっともっとつやつやキューティクルになると思うんだー。


 シャンプーとかって作れないのかな? 石鹸は作ったことあるから知ってたけど、そっちは知らないなぁ。誰か知らないかなー。


 綺麗に魔王様を拭き終え、自分もさっとふくと、あのケープのような服を着せる。


「はい、アレフ様、ばんざーい」

「ばんじゃーい」


 ぐっふぅうう!! 両手を高々あげる魔王様可愛い!


 足のかかと(?)を命一杯上げ、ぷるぷるしてる!!


 子供特融のイカフォルムな腹部、めっちゃぷにぷにしたい!!!


 はぁはぁする心の中の自分を抑え込み、服を着せ終えると、自分もいつもと同じデザインのメイド服を着る。


 綺麗になったら、魔王様を抱っこして、子供部屋へ。


 抱っこは趣味です。


 もっと歩かせようとか、そういう批判は聞きません。


 いいの! 昼間めっちゃ走らせてるから!


 昼間は自分で好きに動き回ってもらって、その後をゆっくりついていく。夜はだっこ移動! ちゃんと区別してるから多少の甘やかしはいいのさ!


 抱っこのときは、魔王様のぷにぷに幼児ボディをお触りし放題! なんてやましい事は思っていませんよ?! お、思っていません! 思ってない……。いや、ほんとはかなり思ってます……。


 うわぁああんっ! いいじゃないか! 普段はちゃんと、真面目にナニーしてるんだから! 夜くらいは自分の欲望に忠実になったっていいじゃないか!


 ここに! 今、ここに! 私にとって最も理想的な幼児ボディを持った、ぷにぷに幼児がいるんだよ?! 全力で可愛がったっていいじゃないか!! ちゃんと、教育に悪くないように表面上は取り繕っているし!


 ちょっとはぁはぁしたいだけなんだ! 性的な意味じゃない! この、ちょっとつつけば転びそうな幼児ボディを、ころころ転がしたいだけなんだよ! 私はロリコンじゃない!!


 ひとしきり心の中で言い訳をしながら、子供部屋へ入ると、魔王様をベッドの上に降ろした。


 ここは私が提案した子供部屋。


 角部屋6畳ほどで、東と南に大きな窓がある。爺は今でもぶつくさ言ってるけど気にしない。大きな部屋は大人になってからで十分です。子供のうちは短いんだから!


 昼間はふんだんに日の光が入り、明るい。天井には部屋全体を明るくする程の光がでる魔石があり、基本つけっぱなし。寝る前に私が消す。夜は四隅に小さな明かりの灯る魔石を設置し、部屋の中はぼんやり明るい。常に暗闇にならないようにしてあるから大丈夫。沢山の縫い包みもあるし、壁も床もカラフルな色合いになっている。そして、ベッドは私も入れる程大きいけど、魔王様が寝返りを打っても落ちないように、手動で柵があげられるようになっている。魔王様が眠ったら上げるんだ。


 ベッドから少し離れた場所には机。私用。魔王様が眠っている夜はここでお勉強。もう文字はすっかり覚えた。今はここで毎晩本を読んでいる。爺が持っている本なので、魔法書が多かった。だが残念かな。私、魔力はあるけど、魔法は使えないんだよね。自分のギフト以外は。どれだけ魔法書どおりに練習しても使えなかった。爺にも見てもらったけど、なんか、魔法を使うための器官がないらしい。なんだ、魔法を使うための器官って。胃とか腸みたいに、この世界の人間は生まれた時から体内にもってるのか。


 しょうがないから魔石に魔力流すのは魔王様にお願いしてる。魔王様の練習になるからいいんだってー。


 まぁいいよ。別に戦いたいわけじゃないし。ちょっと便利かなって思っただけだし。


 将来的に魔王様が大きくなったら、魔法は爺が教えてくれるだろう。私は文字とか、マナーとか教えればいい。そんなわけで、今は爺が揃えてくれたマナー本を読むのが日課です。うん、言葉遣いとか難しい。一般庶民していた私にわかるわけないっての。フレンチのコース料理とか食べたことないし? 食事のマナーって……黙って食べろ、とか、ひじをつかないとか、足をたてないとか……それくらいなんだよね。そもそも足って……日本のように畳に座らないとないよね? ここ、どちらかというと西洋よりだから、椅子に座るし。そんなわけで、マナー本は結構苦戦してます。


「はい、アレフ様、おねんねしましょうね」

「ねんねー! りなも~?」

「ええ、リナもアレフ様と一緒におねんねですよ」

「わーいっ」


 喜ぶ魔王様の隣に潜り込む。


 さて、今日はどの童話を読み聞かせようかな。


 足元に設置している本用のボックスを覗き込む。


 童話は全て私が字の勉強がてら、作った。ただし、創作はしてない。日本で一般的な童話を、覚えているかぎり書き出しただけ。


 絵をかくのは仕事上なれているし、読み聞かせを何度も何度も繰り返してきた。物語の内容は、ほぼそらで言える。書き出すのにそう苦労はしなかった。


 『桃太郎』『かちかち山』『一寸法師』『はなさかじいさん』『赤ずきん』『シンデレラ』『オオカミと7匹の子山羊』『白雪姫』『醜いアヒルの子』etc.


 うん、思いの外色々書いたね、自分。


 よくまぁ、覚えていたよね。いや、仕事であれだけ読めば当然か。毎年本が擦り切れる程読んだもんねぇ……。子供が求めたらついつい読み聞かせしちゃうもんねぇ。


 ここ、日本じゃないらしいし、著作権とかしらん! むしろ、違う世界でまで読み聞かせに使われるなんて、すごいな! と自分をごまかし、適当に引っ張り出した本を開く。


 魔王様は男の子の好むもの、女の子の好むもの、というものがなく、私が読み聞かせる本は何でも好き。本当にいいこ!


 いつまでも素直で可愛いいい子でいてくださいね、魔王様!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ