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07 3歳になりました



「りなぁ~」


 ぽてぽてと歩いてくる3歳児。


 両手を広げ、満面の笑みを浮かべている。


 くぅうう! 可愛い!


 流石魔王様! なんだこの殺人的な可愛さは!!


「りなぁ~」

「はい、リナはここにおりますよ。どうかなさいましたか?」

「だっこぉ~」


 ぬぁあああ! 殺人的! 殺人的すぎるよぉおおお!!


 ビバマイ天使!!!


「かしこまりました」


 心の中で鼻血噴きながら涎垂らしてのたうち回っているのだが、表面上は取り澄ました笑顔を浮かべ、魔王様を抱き上げる。


 はぁ~早いもので、この世界にきて3年ですよ。


 魔王様もすっかり大きくなって……!


 舌ったらずだけれども、私の名前はしっかり呼んでくれる。たまに「り」が発音できず、「ぃな」って呼ばれるけどいいんだ。可愛いからね! 全てはそれですまされるんだよ!


 ちなみに、爺は「じぃじ」と呼ばれ、日々でれっでれ。


 しょうがないよね。魔王様可愛いから。


 あ、そうそう。魔王様魔王様呼んで、魔王になられると困るので、爺に魔王様の名前を聞いてみた。結果、名前がない事が判明した。どうやら魔王様が産まれてすぐに、両親である前魔王とその奥さんが殺されたらしい。奥さんの方は産後すぐで、ベッドから起き上がれないまま殺されたのだとか。なんとも可哀そうな話である。


 爺と話し合い、魔王様の名前を決めた。長い名前が強者の証らしいので、魔王様は長い名前なんだけど、正直めんどくさい。


 アレフレディアニオ・ギュオリグセフォイド・レグリエッド・グズルフォイード・エヌ・メレディエオス……。


 正直、なんの呪文ですか?


 でもこれが王族の名前で、ギュオリグセフォイドの後は前の魔王様から受け継いだ名前だと言われたら、私には反対できない。


 しかし長すぎる。長すぎるんだよ。勇者が魔王の名前を呼ぶときとかどうすんの? 「魔王アレフレディアニオ・ギュオリグセフォイド・レグリエッド・グズルフォイード・エヌ・メレディエオス覚悟!」とかいうの? いやだよ、そんな勇者。言ってる間に殺されると思うんだー。


 覚えられそうにないし、噛みそうなので、私はアレフと愛称で呼ぶことにしました。魔王様にも許してもらったからいいのさ。


「えへへ~あれふ、ぃなしゅき~」

「わたくしもアレフ様のこと好きですよ~」


 頬ちゅーいただきましたぁああ!!!


 んぉおおお! どうしようか?! この可愛い生き物は!!!


 ぐっふぅ! くぁわいいいいいいいいい!!


 くっそうぅ……日々あの手この手で私の完璧な仮面を引きはがそうとしやがってぇええ! 可愛いから許す!!


 はぁ~3年……。


 長かったような短かったような……。


 3年前はまだ喋ることもできず、哺乳瓶でミルクを与えていたのに……! すっかり自分で歩けるようになって! しかも私の名前まで呼べるようになっちゃって!


 園に来る子もそうだったけど、毎年子供の成長を見るのはいいなぁ……。やっぱり子供って存在が癒しだよ、うん。


 この3年、魔王様はとくに病気にもならず、すくすく成長してくれた。


 私と爺は、ドワーフ、エルフ、オーク、オーガ、ゴブリン、ワーウルフ、グリフォン、ピクシー、ドリアード、トレントと沢山の種族を仲間に引き込んだ。


 オーク、ゴブリン、ワーウルフは強さ的に言うと雑兵らしい。数も多い。オーク100人、ゴブリン3000人、ワーウルフ300人。


 ……ゴブリン多くない? いや、いいけど。


 ゴブリンは緑色の硬そうな肌で、ドワーフと同じくらいの身長。片言でしゃべる。少しなれるのに時間がかかった。だってね? 緑の肌に、ぎらぎらした黄色い目だよ? 普通に見慣れないわ! まぁ、話してみたら意外と面白いのが多かったので、今はすっかり慣れたけど……それでも急に声をかけられるとびくっとする。


 オークは豚の頭部以外は、意外とでっかい筋肉、というだけだった。豚の顔って可愛いので、初めはちょっと怖かったけど、すぐに慣れた。愚鈍という評価もあったけど、確かに少々鈍いところはあるけど、案外可愛いので気にはならないかな。ちょっとどもりながら話すところとか可愛い。


 ワーウルフは……犬ですね。大きめの狼だそうですが、犬です。ええ、間違いなく。灰色毛皮の犬なので、しっかり洗った一匹を魔王様付きにした。情操教育にいいかと思って。本人は私の配下のつもりなので、私付きになったと喜んでいた。ごめん。あくまで君は魔王様のペットです、と心の中だけで謝罪する。


 グリフォン32人、ピクシー24人。


 グリフォンとピクシーは後衛飛行系魔法系らしいです。よくわからん。


 どうも後ろから魔法を放つのが得意らしい。グリフォンは攻撃魔法、ピクシーは回復と混乱が得意なんだとか。因みに、グリフォンは鷲の頭と獅子の身体。それに蛇の尾。オークが背に乗っても違和感ないほど大きい。ピクシーは逆にリ○ちゃん人形サイズ。後ろに透明な羽根がある。コオロギとかの透明な羽根の部分かな? バッタでもいいや。


 オーガ52人。


 オーガは……これは予想外だった。鬼っていうから、こう、赤鬼青鬼みたいなの想像してたんだけど……そこそこ美形な細マッチョ男女だった。ただ服装めちゃくちゃワイルド。なに、あの毛皮の腰巻とかって。その辺だけは鬼って! とりあえず魔王様の教育によろしくないので、服をきちんと着てもらうことにしました。


 トレント130人、ドリアード12人。


 トレントは樹です。1000年ものとは言わないけど、ごりっぱな太い幹の樹。樹が勝手に動いてしゃべる! 結構びびる。ただ、樹なのでのんびりした性格らしい。初めて会ったとき、挨拶だけで1日終わってびっくりした。トレントの挨拶だけで1日が終わったんで。


 ドリアードは植物を身に纏った美人なお姉さんたちでした。トレントは男性のみ、ドリアードは女性のみで、トレントとドリアードで夫婦になるそうな。彼らは基本的に争いごとが嫌いで、森の奥とかで静かに暮らしているらしい。爺、よくこんなのの居場所を知ってたな。


 エルフとドワーフはすっごく綺麗な城を造ってくれた。モンサンミシェルのある、あの島丸ごと城と認識しました的な、なんかすごいの。だって城の中に森があるんだよ。意味わからん。人工で川をひき、自然も水もたっぷりあるので、ここがあのおどろおどろしい魔王城だなんて誰も思わないだろう。


 ナイス仕事!


 城の周りは深い堀。堀じゃなくて人口の川なんだけど、多分、堀でいい。橋が架かってる。優雅なアーチ状の。普通城の橋って跳ね橋とかじゃないの? 誰かが攻め込んできた時ようとかに……。いや、いいけどね。


 で、軽い島状態の城の周りに、それぞれの集落的な城下町ができている。ドリアード、トレントは城の森の中、グリフォンは城の厩舎、オーガは城すぐそばの兵舎。ドワーフとエルフが城正面の大通りを挟んで左右。ドワーフの右隣にオーク。その更に右隣がゴブリン。エルフの左隣がワーウルフとピクシー。こういう順で並んでいる。


 城の右側はゴブリンが大群だったので、半分くらいが街として開拓されている。左がはまだ4分の1くらいかな。これから色んな種族が増えてきたら、ぐるっと城の周り一周街ができそうな感じだ。今はまだ、開拓されていない城の周りは森だらけ。


 でも開拓してるけど、けっこう樹は残されてる。拓けているというよりも、ワイルドな見た目。だけど、綺麗に整えられて、自然たっぷりで、私的には癒される。日本で私が住んでいた場所は、アスファルトとコンクリとビルばっかりだったし。


 一度ドワーフやエルフが木材を得るためあちこち斬り倒したけど、トレントやドリアードが全部復活させた。彼らは森を広げる事ができるらしい。植物を早く成長させることができるのだとか。いやいやすごい話だ。そんなの農家さんが聞いたら泣いちゃうね。色んな意味で。


 城も街も張り巡らされた水路のおかげで水に困らない。おかげで、私の各家にトイレと風呂、という願いもかなえられた。


 魔王城にも立派な風呂とトイレが備え付けられている。魔王様と一緒に入るんだー。風呂とか爺が滅茶苦茶羨ましそうにしてた。


 ふっふっふ。魔王様幼児計画は滞りなく進んでいる。風呂もトイレも一人で入れないようにしてやる!


 一気に住人が増えたけど、エルフとドワーフの建築技術が素晴らしく、オーガも即戦力だったので、配下が突然増えても特に問題なくここまできた。


 食料問題も私のスキルで万事解決。


 食料は全て配給制。毎日朝に3食分の食料を配布する。人数があまりに多いのでどうしようかと思ったけど、爺の魔法のおかげで簡単にできた。


 城の一室に魔法陣の置かれた部屋をつくる。その魔法陣に対応した魔法陣小屋を各集落に設置。小屋のサイズは私達が魔王城建築中に住んでいたログハウスの2倍くらいのサイズ。で、魔法陣の上に乗せた者は、魔力をちょっと流せば一瞬で彼方へ届く、と。


 ただ、一人ですると大変なので、お城で働く人たちに手伝ってもらっている。手伝ってもらっているというより、もう丸投げしている。私がやることと言えば、1月の献立表を作り、そのとおりの料理を出すだけ。後は彼らが勝手に集落の人数分を鍋や箱に詰めて、魔法陣で送ってくれている。


 基本的に食料は労働の対価。皆がちゃんと働いていれば、食料には困らない。例えば、城で働いているのもそうだけど、多くは城下町にいる。


 ドワーフやエルフが武器や装飾品、服をつくるとしよう。オーガやゴブリン、その他の住民たちはその素材を取りに狩りに出かけ、素材を加工する。加工した素材を使ってドワーフ達は物を作り、街や魔王様たちに還元する、と。そうして日々この街の為になるようにしてくれさえすれば、食料に困ることがないので、皆せっせと働いてくれる。いいことです。最近では、探索隊とか組んで、山や洞窟に資源を探しにも行ってるらしい。しかし、山は少々遠い。といっても歩いて3日くらいらしいけど。でもこれは、彼らの為に街道を造らないといけないな。


 いい鉱山があったら、そこまでの道をつくる。大きな事業になるから、それまで皆が仕事にあぶれることはないね。それから、探索隊にはオーガの護衛をつけよう。エルフは斥候になるらしいから、必ず一人は連れて行くようにしたいけど……あの人達は食料がなぁ……。できれば城下町から動かないで欲しい。


「りにゃ? どうしたの?」

「そうですねぇ……目や耳のよい人がいないかな、と思ったのです」

「わんわんいるよ!」


 なにそれ可愛い。


 なにその笑顔。私を殺す気?! 


 ヤバい! わんわん可愛い! 可愛いわんわん!


 えー? もう、魔王様めちゃくちゃかわいい~~!


 どんぐりおめめをきらきらさせちゃってぇ!


 ほっぺたぷにぷにつんつんしちゃうぞぉ~! 表面保つためにもしないけどー!


 ん? わんわん? わんわん……ああーワーウルフ! そうかそうか。彼ら狼だから耳も鼻もいいし、夜目も効くのか?


 私の足元にぴったり寄り添うワーウルフのポチを見た。あ、ポチは私がつけた名前だ。一緒に暮らすのに名前がないと不便だったのでつけた。


 魔族は名前をもっているけど、魔獣はもっていないんだと。まぁ、人間に名前があるけど、犬猫にはないのと同じだね。


 で、私がつけた。とりあえず犬だからポチ、と。ものすごく喜ばれた。


 尻尾ぶんぶん振って、ものすごく興奮してた。主から名を賜った、と。


 なんかごめん。正直ごめん。犬だからポチって安易につけたとは口が裂けても言えない。あの時の爺の目……。今度から真面目に名前考える。ほんとすまんかった。


「ポチ。貴方達ならエルフのように斥候ができますか?」

『勿論です! リナ様! 私達は森で生きる魔獣! エルフよりも目も耳も鼻も優れている、と自負しております!』


 尻尾ブンブン振りならポチがハキハキ答える。


 ポチの声は少し面白い。


 魔獣特有らしいのだけれども、なんだか、口の周りを金属か何かで覆った状態で話しているような、微妙にふわふわ揺れているのだ。それでいてそこそこ格好いい声をしているので、面白い。


 魔王様を抱っこしたまま、しゃがみ、ポチの頭を撫でる。


「ではポチ、今度から探索隊の護衛としてオーガ数名をつけようと思っているのですが、その時、貴方達の中から何人か同行してもらえますか? ああ、勿論、貴方以外で」

『は! お任せください!』


 自分は残れと言われたのがよほど嬉しかったのか、尻尾ブンブンがさらに大きくなった。最早軽くない風が巻き起こっている。


 尻尾、大丈夫? 千切れたり、しないよね?


 ちょっと怖いけど、とりあえずポチを撫でる。


 嬉しいんだね。鼻息が荒くなった。


 ふんって息がかかるたびに魔王様がきゃっきゃっと嬉しそうな声を上げている。


 やだ可愛い!


 魔王様が可愛かったので、もう少しポチを撫でる。魔王様も真似して撫でる。魔王様が撫でると、私がもっと撫でるからだろうか、ポチは魔王様に頭を摺り寄せた。


 うむ! いいこ! いい子だからもう少し私も撫でてあげよう!


 こうしてのどかな夕食後のブレイクタイムはまったりと流れて行った。


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