05 エルフの里
ドワーフ達は酒と料理であっさり陥落。評議会とかいうのも所詮はドワーフの集まり。飲めや歌えやのあの場に現れ、事態を収拾しようとしたのもつかの間、酒をいっぱいひっかけ、即座に陥落。
いやぁ、宴会とか無駄なことしたなぁ。
評議会に顔出して、酒という名の鼻薬をかがせればよかった。うん。
そういった反省をしつつ、現在私はエルフの里にきています。広場っぽい開けた場所にいます。
エルフの里は森の中にあった。
で、何というか……丸太を組み合わせたログハウス的な家がちょこちょこ立ち並んで、なんか……素敵!
私は旅行にはあまり行かなかったからこういうのには泊ったことがないし、実際に間近で見たことがないんだけど、うーん! なんだか憧れるねぇ、こういう風景! ちょっとイイキャンプ場に来た、とか、お金持ちになって避暑地に来た、みたいな感じかな?
思わずきょろきょろと辺りを見渡したくなるけど、そんな事はできなかった。
実をいうと、あちこちから覗き見されています。
まぁ、突然ドワーフ100人以上を引き連れてやってきたら警戒もされるよね。しかもドワーフ全員めっちゃ酒臭いし。
こいつ等一度魔王城にポイしてくればよかった。
なんでそのまま来ちゃったかなー。
いや、でも、折角だし、ついでに、みたいな感覚で来ちゃったんだよねー。ちょっとそこのコンビニにもみたいなノリで。
だって、爺がどこで〇ドアくらい便利な方法であちこち移動できるんだもん。しかも、しれっとこの人数で。
爺すごい。
ファンタジーすごい。
魔法すごい。
普通に現代社会人してたらこんな現象お目にかかれないよね。なんかもー遠い目とかしちゃうよ。
「人間、こんな場所まで何をしに来た。それに、後ろのドワーフ達はなんだ?」
いつの間にか、目の前には耳の長いお兄さん。
ちょっ?! いいんですか、この美形!!
ありえないくらい美形なんですけ?!
アイドルとか、俳優女優も裸足で逃げ出しそうな美形ですよ、このお兄さん!!
しゅっと線が細く、すっきりした見た目。頭は小さく、10頭身はありそう。薄緑の髪は短く切りそろえられ、清潔感がある。
色白の肌はイラっとするほどきめ細やか。
何あれ。喧嘩売ってるの?? そりゃぁ、私はお手入れとかそこまで熱心にはしてないけど? 毎日子供達と共に太陽の下にいたから、荒れまくってますけど? それでも、それなりにはちゃんとしてたんですけど? そんな私の前に挑戦ですか? 挑戦なんですかね? その肌!!!
きぃっと心のなかで歯ぎしりしてしまう。
で、そんなことは置いといて、問題は顔の造形だよ!!!
なんだ、あの顔!! 切れ長の濃い緑の目。スッと通った鼻筋。引き結ばれた唇。きりっとした眉!! どこをとっても文句のつけようがない!!
こんな美形、そんな普通に存在してもいいと?!
100人に一人、とか、1,000人に1人とか、そんなレベルじゃないんじゃない?!
爺も頑固爺風ではあるが、ダンディ美形だけど、それもかすむんですけど?!
the日本人な、のっぺり顔の私と、後ろに連れてきた身長120㎝程度の毛むくじゃら集団が可哀そうですよ?!
しかしそんな美形のお兄さんにぎろりと睨まれ、首を傾げたくなる。
そりゃぁ、まぁ、いきなりこんな大勢でぞろぞろ現れたら怒りたくもなるのか? いや、でも、日本に居た時はツアー客とか旅行客って、毎日沢山飛行機とかバスであちこちから来てたわけで、そんな言うほどじゃないって思ってたけど……。やっぱ日本風に考えちゃダメ?
「わたくしは魔王様のナニーをしております、リナと申します。後ろのドワーフ達は、先程配下の契約をしたドワーフ達です」
「魔王様のナニーだと? 人間のお前が?」
ぺこりと頭を下げたら、あからさまに不審そうな目を向けられました。
えぇー?? なんでー??
だって私がここに居るのって、自称カミサマのクソ宇宙人に強制送還されたからだよ??
なんでこんな不審顔されるのー??
「エルフよ、こ奴は神により魔王様のナニーを命じられた異世界人じゃ」
爺、ナイスフォロー!!
流石!
爺の言葉に、美形のお兄さんは少し驚いたように目を見開いた。
「神に選ばれた異世界人……まさか、本当に……?」
「間違いない。魔王城の儂の目の前に突然転移してきおった。その直前に神により、儂に直々に通達もあった」
「……失礼、貴方は?」
「ふむ。儂は魔王様配下、竜人のデルフォリアス・グオロディウレス・エルゾブレベレジョン・レオニルド・フォルゴロオスじゃ」
「魔王配下の竜人、フォルゴロオス……!?」
ぎょっと目を見開くお兄さん。
おんや?? 爺ってもしかして有名人??
「こ、これは失礼。私はこのエルフの里を取りまとめております、リヌフォル・ユズリア・イーシス・フレロンドと申します」
慌てて片膝ついて頭を下げた。
えぇー!? なんか私の時と態度違くない?! 酷くない?!
「よい。今回お前達に用があるのはリナじゃ」
「にん……いえ、こちらの女性が、ですか?」
「うむ。こ奴は神に召還されたとはいえ、ただの人間じゃ。ゆえに、配下契約をしにきた」
「配下契約? 我々とですか?」
落ち着いてきていたリヌフォルさんがまた少し驚いたようだ。
それにしてもさー……最初のがドワーフ達だったせいかなー? エルフがすっごく理性的に見えるよ……。
いや、でも、これ、普通だよね? 普通だよね、この感じ?
うーん……なんというか……ドワーフ達ってテンション高い奴らだったんだなー。
「こ奴は、お前達エルフの悩みを解決してくれる素晴らしい存在よ」
「……私一人では判断いたしかねます。申し訳ありませんが、少々お待ちいただけますか?」
「うむ。かまわぬ」
爺が大仰に頷けば、リヌフォルさんは失礼、と言って立ち去った。
私、空気です。
「仕方あるまい。ここは魔物の領地じゃ。お主は人間。どうしても魔物達からは下に見られてしまうんじゃよ」
へーそーなんすかー……ってじゃぁなんであのクソ宇宙人、私を魔王様のナニーにしやがった!!
二足歩行が良かったってんなら、わざわざ人間の私じゃなくても、エルフとかドワーフみたいな二足歩行の魔物にすりゃいいじゃねぇか!!!
意味わからんわ!!
「勇者と魔王のナニーは歴代異世界の者と決まっておる。それを決めたのは神じゃ。我々がどうこう言う権利はない」
まじっすか!
アイツ、なんでそんな面倒なルール作ってんだよ! 意味わからんわ!
つーか爺、ホントナチュラルに人の頭ン中読むなー。いいけどさー。
しばらくしたらリヌフォルさんが戻ってきた。その後ろにぞろぞろとこれまた美形の男女4人。
なんなんだ、本当に!!
エルフってのは美形の安売りなのか?!
「お待たせいたしました。我々5人がこのエルフの里を取りまとめる、所謂長老衆と呼ばれる者になります」
リヌフォルさんが代表で挨拶してくれた。
もう一度私も名前を名乗る。
そうしたらリヌフォルさんを含め、後ろの4人も一人ずつ名乗ってくれた。
はー……美形は声まで綺麗だなーなんて思いつつ、一瞬うっとりしかけた意識を引き戻す。
「わたくしの配下になっていただけましたら、尽きない食事をお約束いたします」
「尽きない?」
「我々エルフは大食漢。この里にいるだけでも、人間の国一国分の食料を食べられるのですよ?」
「そんな我々が満足できる程の食料の提供ができる、と?」
はいはい、次々胡散臭そうに睨まない睨まない。
てか、食いすぎじゃね?
え? この里って何人いるの?
建物数的に、町ほどもいかない……村程度の人数っぽそうけど……。
そりゃ、めっちゃ食べるって聞いてたけど、流石に小規模でしょう? この里。この里だけで生態系狂わせる程食べるってこと?
え? 何? やっぱエルフってネズミの大軍みたいな存在? まじで怖いわ。こいつ等だけは私のギフトできっちり縛り付けといた方がいいんじゃない? 世界の為にも。
ちらっと爺を見るけど、爺はなんてことない顔をしている。
つまり、あのエルフさん達の言っていることは本当なんだね?
ようし、ならば、私のギフトの真髄を見せてくれよう!!
「わたくしと配下契約を結んでいただけましたら、貴方達が満足できるだけの食料を、常に提供するとお約束しますわ」
「とても信じられないわ」
「私達が満足できるだけ、なんて、無理に決まっているわよ」
「貴方は我々がどれ程食べるのかご存知ないのでしょう?」
「では、ご納得いただけるように、お見せ致しましょう。どこか、大量の料理を置ける場所を用意していただけませんか?」
自信たっぷりににっこり笑って見せれば、リヌフォルさん以外のエルフさん達が動き出した。
皆一様に不審顔だ。
酷い。
でも、すぐに大量の大きな葉っぱを、広範囲に敷いたてくれた。
「ここに山盛りに準備して、一人前だと思っていただきたい」
まじで?!
何言ってんのリヌフォルさん?!
え?!
今葉っぱ敷かれた場所、どう見ても40人が入れる教室分くらいはあるんですけど?! これが一人前の広さ?!
え?!
バカなの?!
エルフって満腹中枢が壊れたバカなの?!
大食い選手だってこんなに食べないって!!
い、いやいやいや! うん! ちゃんと爺からもエルフ達からもきいてたもんな! めっちゃ食うって!! 大丈夫大丈夫。私のギフト《オオゲツヒメ》なら余裕余裕!
「では、まずここに山盛りで用意しますね。ええっと……確かお肉が好きだ、と聞いていますが……」
「ああ。我々エルフは肉を好む」
内心は相当動揺しつつも、表面上はなんてことないように笑えば、リヌフォルさん含め、エルフ達は驚いたようだ。
ふっふー! どうよ、私の営業スマイル! 社会人生活で鍛え上げられた鋼鉄の仮面だぜー!
ひれ伏せ、こんにゃろ!
「くだらんこと考えてないでさっさと準備せぇ」
煩いですよ、爺。
ちょいちょい人の思考を読んで、ぼそぼそ突っ込まないでください。
「料理は、あの葉の上に直に置いてもよろしいのですか?」
「ああ、構わない。あれは皿として使う葉だ」
「では準備をしたいのですが……申し訳ありません、私は空を飛んだりはできないので、今のままではあの葉を踏むことになってしまいます。形を変えてもらっても構いませんか?」
「ム。確かに。直ぐに変えよう」
私の言葉にリヌフォルさん達が、中央に固めた葉を、今度は私達を中心に、ぐるりと取り囲むように置きだす。
ドワーフ達は広場の端へと追いやられた。可哀そうに。
エルフ達に背を向け、腹の中からずるっとバケツを取り出す。別に、ドワーフのゴンに、気持ち悪そうな視線をもらったのに傷ついたってわけじゃないから! 確かに普通に考えたら、気味の悪い取り出し方だなーって反省したんだよ! は・ん・せ・い!
中にはぎっしり出来立てステーキが詰まっている。それを爺に押し付け、新たにバケツを取り出した。今度のバケツにはぎっしりハンバーグが詰まっている。
ふふ……食欲そそられねぇなぁ……。
取り出した瞬間からめっちゃいい匂いしてんだけどな。
そんな私をよそに、ぐぅ、とお腹のなる音がした。
ハイハイ、わかってますよ。爺ですね爺。
相変わらず食いしん坊だなーっと爺を見れば、確かに爺はごくりと唾をのんでいたが、腹の音は爺じゃなかった。
まさかねーと振り返れば、こちらを凝視しているリヌフォルさん達。
うん、まさか、君たちだったか。
美形が台無しになるほどすごい形相でこちらを見ないでください。怖いです。……怖いです!
爺もリヌフォルさん達に気づくとそっと視線を逸らしているので、私の感覚は間違っていないはず。
そそそ、と並べ直された葉っぱのお皿へと移動し、その上でバケツをひっくり返した。どどど、と音をたてて溢れるハンバーグ。
うん、この見た目は食欲そそらないなー。やっぱ、山盛りっていってもさ、それなりに矜持ってもんがない? 私だけ?
そんなことを考えながら無心で積み上げる。その隣にぴったりと立つリヌフォルさん。
近いです。近いです!!!
肩とか当たりそうな位置でぴったりとついてこないでください。あと、お腹の音がすごい事になってます。すでにズゴゴゴっていうなんかの地響きみたいな音になってますよ?!
できるだけ気にしないようにしながら積み上げ、移動していく。反対側では他のエルフに囲まれた爺がステーキを積み上げていく。
随分と時間をかけ、ようやく全ての葉っぱの上にステーキとハンバーグを積み上げた私と爺。
圧巻です。
自分の背丈ほどもあるステーキとハンバーグの壁。
ちょっと、テレビの撮影でもみれんわな。
「いくらでも出せますので、どうぞ召し上がってください」
私の言葉にカッと目を見開いたエルフさん達。
ああーデジャヴー。
ドワーフ達に酒を差し出した時もこうだったわー。
肉の壁に突撃していくエルフさん達を眺めながら、彼らが満足するまで肉を補充する爺と私。いや、よく見れば爺の口がもぐもぐ動いている?! 爺、何気につまみ食いしてやがる!!
ほんと、ちゃっかりしてんな?!
いいけど!!
エルフの皆さんは山盛りお肉の壁を5回分きっちりおかわりした。
肉の壁を食い尽くし、満足げに腹を撫でる皆さん。
すみません。どこに消えたんですか?!
貴方方の胃袋は四次元ポケットか何かですか?! それとも、胃にブラックホールでもあるんですか?! 自分の体積以上の食料はどこに消えた?! なんで腹が膨れてないの?! マジ怖い!!
しかし、相変わらず腹の鳴る音が聞こえる。
何故だ。
君たち満足したんじゃないの?
「そ奴らではない。周りを見てみよ」
そっと爺に囁かれ、周りを見てみる。
んお!? いつの間にかエルフがいっぱいいる!?
私の出した料理の匂いにつられたのか、建物の中や影から姿を現したエルフの皆さん。
「いやぁ、満足しましたなぁ」
「まだ八分目ですが、こんなに満足いくまで食べられるなんて、初めてですわ」
「味も素晴らしかったですね!」
「この方なら我々エルフを食料問題から救ってくださるに違いない!」
「是非とも配下契約をすべきですよ!」
そっちのけで話すリヌフォルさん達。
そして、全員が私の前に並ぶと膝をつき、頭を下げた。
「我々は貴方達の配下となり、貴方達の為、我々が捧げられるモノは全て捧げます」
「では、その対価として、これから三食、貴方達が満足いく食事を与えるとお約束いたします」
無事配下契約完了。
いや、良かった。あんな量で腹八分目とかいう危ない種族、滅ぼすかきっちり管理しなきゃまじで生態系破壊だわ!
安堵もそこそこに、響き渡る音に苦笑してしまう。
広場を取り囲む美形集団。
ものっすっごい美形集団が、涎を垂れ流し、指を咥えている姿は、あまりに可愛そうだったので、一人ステーキ1枚、ハンバーグ1個ずつあげたところ、大変喜ばれ、私は神のように崇められた。
今日はあと2話更新します。
明日からは1話ずつです。