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04 ドワーフの国

評価感想ブクマありがとうございます!

前回と違う雰囲気となっておりますが、お付き合いいただけますと、大変ありがたく感じます!



 毛むくじゃらの塊。それがドワーフだった。


 男も女も顔中毛むくじゃら。


 まず、もっさもさのくせ毛。くせ毛……なのかなぁ? まぁいいや。赤茶っぽいくせ毛は肩甲骨を越える程が基本。それから、眉毛も髭も伸び放題。てか、髭は解るけど、まさか眉毛も髪や髭に混ざるほど伸びるんだね。知らなかった。おかげで顔の見分けはいっさいつかない。


 男も女も身長は120㎝程度。筋骨隆々。毛むくじゃら。終わり。


「なんだお前らは!」


 あ、あと声でかい。


 そんな叫ばなくても聞こえます。


「儂は魔王配下の竜人じゃ」

「竜人?!」

「竜人だと?!」

「竜人が攻めてきた?!」


 いや、違うでしょ。


 まだ名乗っただけなのに酷い反応だ。


 流石に爺も嫌そうに顔をしかめている。しかし、ここで事を荒げてはいけない。私は小さな瓶を取り出し、その中身をショットグラスにそそいだ。そして、一番近くにいるドワーフに差し出す。


「良かったらおひとついかがですか?」


 鼻先に突き付けられた酒の匂いに、ドワーフがカッと目を見開いた。ひったくるようにショットグラスをとり、飲み干す。


「カーーーッ!! な、なんじゃこりゃぁあ!? 天上の酒か?!」


 そして見事に叫んだ。


 周りのドワーフ達が群がってくる。


 よしよし。反応は上々。


「人間の娘! もっとよこせ!」

「ずるいぞ! 儂にもよこせ!」

「そうだそうだ!」

「俺にも酒を飲ませろ!」


 おっと。群がってきて鬱陶しい。が、そこはそれ。ショットグラスで一口分ずつ全員に飲ませる。


 飲んだドワーフは一様に嬉しそう。いや、私も飲んだけど、この酒本当に美味しかったんだよね。私はビールや酎ハイとかしか飲まないんで知らなかったけど、ウィスキーって美味しいんだね。ショットグラスとはいえ、一気飲みするような飲み物じゃないと思うけど。それとも、私の能力で出したからかなぁ?


 もっとよこせと迫るドワーフ達の前に爺が立ちはだかる。流石に力の差があるせいか、ドワーフ達は慌てふためき距離をとる。


「ドワーフ達よ。酒は気に入ったか?」

「お、おう!」

「当たり前だ! こんな旨い酒、初めて飲んだわい!」


 うむ。素直でよろしい。でも声が大きいのでもう少しボリュームを押さえて欲しい。抱っこ紐の中でぐっすり眠っている魔王様が起きちゃうじゃん! 子供は寝るのが仕事なんだよ?! その仕事を邪魔する大人とか許さん!!


 そんな私の呪いに近い思いが通じたのか、それとも、ただ単にうるさかっただけなのか、いや、多分煩かっただけだ。爺が顔をしかめて声のボリュームを落とすよう言った。


「うるさいわい。そんなに大声あげんでも聞こえるわ。それよりもお主たち。もっとこの酒が飲みたいか?」

「おう! 飲みたいぞ!」

「儂も飲みたい!」

「俺もだ!」


 効果はないらしい。もしかしたらこれが素の音量なのかもしれない。


 酒が欲しい、あの酒は素晴らしいと大合唱状態。


「えぇい! うるさい! 少し黙れ!」


 爺がきれた。でも爺が一番煩い。


 魔王様が起きた。


「ふ、ふぇええええんんっ」


 そして、当然こうなった。


「はいはい、魔王様、怖いおじちゃん達が大声で叫んで怖かったですねぇ。もう大丈夫ですよ。リナがここにおりますから、何も怖くないですよ」


 ゆらゆらと揺らしながら、背を軽く叩く。


 泣き叫ぶ赤ん坊と、私の言葉に、爺とドワーフ達が気まずそうに視線をそらした。全員黙っている。


「皆様、赤ん坊がいるのですよ。もう少し、お静かにお話しくださいませ」

「お、おお、すまねぇ……」

「ほら! お前が大きな声出すからだぞ!」

「なにをう?! お前だって大きな声じゃないか!」

「お・し・ず・か・に、お願いいたしますね?」

「「「「……はい……」」」」


 怒鳴り合いになりそうなのを強引に止める。しゅん、と俯くドワーフ達。


 その間に魔王様をあやし、何とか落ち着いたところで、未だにしゅんとなっているドワーフ達を見た。


「皆様、わたくし達は魔王様の配下の者です。本日は皆さまに魔王様の配下になっていただきたく、交渉に参りました」

「魔王配下だと?!」

「魔王は先日勇者に殺されたばかりじゃろう?!」

「ええ、ですから新しい魔王様の配下になっていただきたいのです。もし、配下になってくださるのでしたら、このお酒、いつでも飲めるよう手配いたします。それに、お酒にあうお食事もたくさんご用意しております」

「なんじゃと?!」

「さっきの酒をいつでも、じゃと?!」


 ざわめくドワーフ達。


 うんうん、良い反応だねぇ。


 先程の酒を飲んだドワーフ達は全員揺らいでいる。


「し、しかしのぉ……」

「うむ……」

「儂らだけでは答えられんのじゃ」

「そうじゃ……酒は惜しいが、儂らを束ねる評議会の連中がなんと言うか……」

「では、こうしましょう。わたくし達主催の立食会……いえ、そのような堅苦しいモノではなく、宴会をいたしましょう? そこでわたくしたちの持ってきたお酒と、料理を食べてもらいながらこの話をドワーフの皆さま全体とするのです。もしも民の皆さまがたが、わたくし達の話を受けてくだされば、評議会も無視できないのでは?」


 民衆全員が反旗を翻せば、いくら議員が何と言おうと国というものは崩壊する。あれだ。王だけじゃ国は成り立たないってやつだ。


「それは妙案じゃ!」

「そうじゃそうじゃ!」

「あ奴らが何を言おうとも、儂らみんなが出ていけば、関係ない話じゃな!」

「それはいい!」

「よぉし! すぐに皆を集めてくるぞ!」

「ゴン! お主はその者達を広場に案内してやれ!」

「おうともよ!」


 思いの外欲望に忠実だな、ドワーフ。こんなに簡単に自分達のトップを捨てるなんて……。


「いや、言うたじゃろう? あやつらはああ言う性格なんじゃ。この世で最も愛するのが酒なのじゃ。そして美味い酒さえあれば良いんじゃ。本当に美味い酒さえあれば誰にでもつく」

「……大丈夫ですか、それ?」

「問題なかろう。あの酒なら裏切ることはないと思うぞ」


 爺、こいつ、いつの間にか飲んでやがった。


 は?! そういえば、ショットグラスで一口ずつ飲ませてるときに混ざってた気がする!


 しれっと食いしん坊だな?!


 ま、まぁいいや。とりあえず爺お墨付きなら多分大丈夫なんだろう。


 広場に案内してくれたドワーフに一つ頼みごとをする。


「お酒を入れるための大きな樽を一つお借りできませんか? それと、食べ物をのせる大きな机もお借り出来たら助かります」

「おお、それくらいお安い御用だぜ!」


 ……。多分、名前もゴンだし、男、かな?


 笑ったんだろうけど、毛むくじゃらすぎてわからんわい。


 走ってどこかに行ったけど、わりとすぐに戻ってきた。アホみたいにでかい樽を、軽々担いで。


 え? なにそれ。担いでるゴン自身が20人以上は入りそうなんですけど。そんなの担ぐの? 中身無いとはいえ、おかしくない?


「だから言うたじゃろう。あやつらは力があると」


 呆れたような爺。


 いやいやいやいやいやいやいや。ちょっと常識でもの考えようよ。力あるにしたって程があるでしょ? いいと思ってんのかい!


 いや、うん。ここはこういう世界なんだな。爺だって突然竜の頭になったりしてたしな。


 ちょっと私の知っている常識とは違うんだ。仕方ない。


 心の中で盛大に突っ込みつつ、相変わらず人の心を勝手に読む爺も無視して、運ばれてきた樽に、小さな瓶から酒を注ぐ。


 私の能力で出した瓶は、中身をいくら注いでもなくならない。この小ささなら、魔王様を抱っこしていても問題なく扱えるという理由で出したんだけど……この樽にそそぐには小さすぎたなぁ。


 仕方ない。


「デルフォリアス宰相閣下」

「なんじゃ?」

「大きい樽を出しますから、この中にそそいでもらってもいいですか?」

「構わぬが……それはどうするのじゃ?」


 チラチラと私の持つ小さい瓶へと視線を向ける爺。


 わかるぞー。欲しいんだろう? これが。だって私が瓶を持った手を動かすたびに視線が一緒に動いてるしな。


 さぁてどうするかねぇ。あげてもいいんだけどねぇ。それでこの爺が偉そうな顔してきても困るけど……ま、この爺なら魔王様がいるからいっか。


「樽にお酒を注いでくださったら差し上げますよ。私が創り出せるお酒の種類はこれだけではないので」

「ぬぉおお! 本当か?! かたじけない! そのうち他の酒も飲ませてほしいのぉ」

「……ふふっ」


 にっこり微笑み、明言を避ける。


 爺は少し残念そうにしつつも、私が取り出した樽を受け取り、酒を注ぎ始めた。それを確認してからようやく運ばれてきた沢山の机に、次々に料理を取り出してはのせる。


「んむー」

「あらあら、魔王様、申し訳ありませんわ」


 体を曲げたせいで、少し潰されたらしい魔王様が可愛らしい声を上げて抗議する。


 ふぉおおお可愛い!!! マジ可愛い!!! マジ天使ぃいいっ!!!


 鼻血が出そうになるのを我慢しつつ、あやすように撫でれば、嬉しそうに声を上げる魔王様。


 おぉ可愛い……マジ可愛い……。癒されるわぁ……。


 魔王様にこれ以上不快感を味あわせてはいけないよね!


 そんなわけで、巨大樽の次に、沢山の机を持ってきたのでちょっと疲れてるっぽいゴンを顎で使い、料理を並べさせる。


 無理矢理従わせたりはしていない。ゴン持参のジョッキ(?)に並々酒を注いでお願いしたら、いとも容易く受けてくれただけです。大事な事だからもう一度言う。私は、『強要』はしていない。『お願い』をして、快く受けてもらっただけです。


 あと、味見がてらゴンの口にからあげを一つ放りこみもしたかな?


 最初、私の取り出し方を気味悪そうに見ていたけど、あの後から急に何も気にせず、嬉しそうに料理を運びはじめた。代わりに、気を抜くと他の料理もつまみ食いをしようとするので、気を付けないといけない。


 なんて欲望に忠実なんだ、ドワーフ。


 爺だって我慢して延々樽に酒を注いでいるというのに……。


 机の上に沢山の料理。樽の中の溢れんばかりの酒。


 匂いにつられ、呼ばれてもいないドワーフ達が集まりだしている。主に大樽の周りに。


「なんじゃ貴様らは! ええい! 寄るな寄るな! しっしっ!」


 爺が必死に追い払っても次から次ににじり寄ってくる。


 酒の前で数の暴力という方法を思い出したのか。なんて奴らだ。


「お前ら! これはちゃぁんと俺達の酒だ! 今日、ここにいらっしゃる方々が、俺達と腹割って話したいって用意してくれてんだ! とりあえず席につけ! 皆揃ったら好きに飲み食いできるぞ!」

「なにぃい?!」

「本当か?!」

「騙されてるんじゃないだろうな?!」


 口々にこちらを疑う声。


 いやいや。そんな相手の酒を奪おうとかするなよ。


 えー……こんなの配下にいれるの? なんかちょっとやだなぁ……。人間性が微妙な気がする。


 ちらっと爺を見るが、爺も顔をしかめている。


「おい、お前ら! その方々に失礼な態度をとるな! その方々は魔王配下だぞ! 特に、老公は竜人だ! 俺らが束になってもかなわねぇぞ!」

「魔王配下じゃと?!」

「魔王は死んだんじゃ?!」

「というか竜人?!」

「ひぃいいっ化け物じゃぁあ!!」


 あわあわと離れていくドワーフ達。


 あー……二回目、かな? これ。


 ついさっきも見たなーとか思いつつ、今回はゴンが「大丈夫だから」と色々説明をしていた。


 わやわやしていたけど、その後、他のドワーフ達を連れた最初のドワーフ達が戻ってきた。戻ってきたけど、とりあえず見分けがつかない。全部毛むくじゃらの塊ばかり。


 ちらっと爺を見るが、とくに変わった様子はないから、これが普通で間違いはないらしい。


 うぅむ……既にゴンさえわからんぞ。


「さて、揃ったようじゃのう」

「おう! さぁ、揃ったから酒を飲ませろ!」

「そうだそうだ!」

「儂らはその為に集まったんじゃ!」


 うむ、やかましい。


 魔王様、ちょぉっと煩いけど我慢してねぇ~~。


 魔王様をよしよし、と撫で、きっと毛むくじゃら達を睨む。ぱんぱん、と手を叩けば、ドワーフ達の視線が一斉に私へと向いた。


「お集りの皆さん、まずは、お話を聞いていただきます。わたくしはリナ。魔王様のナニーです。皆さまには魔王様の配下になっていただきたく、交渉に参りました。もし、皆さまが魔王様配下となり、わたくしたちと共にきてくださるのでしたら、お酒と食料の保証はいたします。本日、その一端を持ってまいりました。まずはお召し上がりになり、その後判断してくださって結構です。それでは、皆さま、ごゆっくりとお楽しみください」


 深々と頭を下げる。


 わぁ、と上がる歓声。さっそく酒に群がる毛むくじゃら集団。


 爺はいつの間にかその集団に混ざって飲み始めている。


 くっ! こんな場所に子供をいつまでも置いておきたくないけど、こればかりはしかたがない! 酒と料理は回収しなくては交渉の材料にはならないからな!!


 ああーもう! 酒は私の出した樽を回収すればいいけど、料理の方はこの宴会が終わってからの回収とかめんどいわぁ……。


 次回からこの反省を生かしてやらないなぁ。爺もはっちゃけるし。


 とりあえず、煩すぎる場所からは少し離れたところで魔王様をあやす。というか、それ以外することがない。


 早く終わらないかなーと思いつつ、魔王様に癒された。


一人称難しい……。

文章に勢いが欲しい……10年前ならまだ若さと勢いで書けたのになー……。

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