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31 建国宣言



 その日、世界に激震が走った。


 なんてことのない昼下がり、昨日と同じような今日。


 突然、何の前触れもなく、各地に現れた巨大な鏡。それは、本当に各地に現れた。街中は勿論、王宮、平原、山中といったように、どこかに何かが居れば、そこの全てに現れた。


 通信魔法の一種であるそれに映る3人の人物。


 玉座に座る魔族の幼児。その右側に立つ、皮膚が鱗のような竜人の老人。左側に立つ人間の女性。


 なんだなんだと誰もが鏡を見つめる。たった今、命をかけて争っていた冒険者と魔物さえも、ぴたりと動きを止め、見つめた。


「わたくしたちは魔王軍です。全ての者よ、聞きなさない。わたくしたちの主より、お言葉があります」


 女が、淡々と告げ、玉座に座る幼児を振り返った。


 女が幼児に頷くと、幼児も頷く。


「わーはーはー。われこそは、あれふれでぃあにお・ぎゅおりぐせふぉいど・れぐりえっど・ぐずるふぉいーど・えぬ・めれでぃえおす、である」


 子供がたどたどしく口にする。


 その眼は右から左へと流れ、明らかに正面にある文字を読んでいるようだった。


 息継ぎも間合いもへったくれもない。ただ、必死に口を動かし、読み上げる。まるで子供たちが発表会で、大人に見せるために必死に頑張っているような姿。


「われらは、まおーりょーにて、こっかのじゅりつをせんげんする?」


 仕舞には疑問形で読み上げ始めたが、左右に立つ2人の人物は至って真面目な表情でいる。


 突如現れた通信魔法の鏡を見ていた誰もが、思った。自分達は、いったい何の茶番を見せられているのだろうか、と。しかし、誰もが幼児の右隣に立つ、竜人という人間では勝てない存在の前に、静かに、固唾をのんで鏡を見つめる。その間にも、子供はたんたんと読み上げていた。


「……ここに、まもののこっか、『あるかでぃあ』がけんこくしたのをせんげんする!」


 なんとかカンペを読み切ったのだろう。子供がドヤ顔で、鼻息荒く満面の笑みを浮かべた。


「お上手でしたよ、アレフ様」

「うむ! 素晴らしい演説でしたぞ、アレフ様!」


 即座に褒め称える左右の2人。


 その姿は完全に『初めてのお遊戯会、主役を頑張った子共又は孫を褒める人』である。


 本当になんの茶番を見せられているんだ、と思う各国の王。しかし、照れたように、嬉しそうに微笑む可愛らしい幼児の笑顔に、相手が魔王だというのも忘れ、一瞬ほっこり微笑んでしまった。


 ひとしきり幼児を褒めた老人が振り返る。


「聞いてのとおり、我ら魔王軍は魔王領にて建国した。国名は『アルカディア』首都は『ルリリーナ』じゃ。儂らの方から人間領へ攻め込むことはない。この宣言を聞いてから10日以内に魔王領へ戻らぬ魔物は、全て儂らとは関係のないモノと見なし、魔王領側でも犯罪者として賞金首扱いとなる。人間から協力要請があった場合、儂らは惜しみなく戦力を貸し出すじゃろう。嫌な者は早々に魔王領に引き上げよ」


 人間領の森や山に居を構えていた多くの魔物がぎょっと目を見開いた。


 自分達が近い将来、同族に追われるという未来が訪れぬよう、着の身着のまま慌てて魔王領へと走り出す。


「儂らのもとには竜人、黒龍、ドラゴンロードといった者達が集っておる。こちらから人間領に攻め込むことはないが、人間が攻め込んでくるとなれば話は別じゃ。心しておけよ」


 老人の眼光が鋭く輝く。


 各国の重鎮たちは恐れ慄いた。兵士たちはこぞって嘆願する。人類では勝てない戦力相手に戦争を仕掛けてくれるな、と。勿論、国王とてバカではない。そんな伝説級の相手に無駄に突っかかる気はない。


 伝説の勇者を神に嘆願すべき、と動き出す。幸いにも、魔王を名乗ったものは幼い子供。あれならばなんとかなるはず、と。しかし、その希望を潰す者がいた。


 左隣に立った人間の女。


「わたくしは、神によりこの地に召喚された異世界人。役割は魔王様のナニーです。わたくしがいる限り、神が魔王の育成を望み、死を望んでいないものと思いなさい」


 神が異世界人を召還するのは各国の王族たちにとって、周知の事実。


 勇者を呼ぶのも神ならば、魔王を産み出すのも神。知らぬは民ばかり。にもかかわらず、平然と告げる女。


 この通信魔法が自分達だけが見ている、などと楽観はしない。国王達は今後の民への対応を考え、重い溜息を零したのだった。






 ふ、と目の前の魔法の鏡が消えた。


 ふぃーーー!!!


 思わず溜息でちゃうねーーー!!


 魔法による全世界生中継という大仕事を終え、私はほぅ、と溜息をついた。


 爺も皮膚を鱗風から、普通の人間風に戻している。


「アレフ様、お上手でしたよ!」


 玉座に座ったままの魔王様を抱きあげ、よしよし、と頭を撫でれば、ふんっと荒い鼻息が聞こえた。


 ドヤ顔満面の笑み。


 うぉおおおっ!!! 何だその可愛い顔は!!!


 あれか?! 私をキュン死させるために、どっかで覚えてきたのか?!


「うむ! いや、お主の為ではなく、儂のためじゃな!」


 ご機嫌な爺が私を押しのけ、魔王様を奪おうとしてくる。


 何言ってやがるこのアホ爺!!


 魔王様は私の事大好きなんだから、私の為に決まっているじゃねぇか!!


「なにをぅっ!! アレフ様は儂の事が大好きなんじゃ! 大好きなじぃじの為に決まっておろうが!」


 私と爺は魔王様を腕の中で奪い合う。と、つんつん、軽く服を引っ張られる感覚。


 見れば、魔王様が私と爺の服を軽く引っ張っていた。


「あれふ、りなとじぃじがにこにこだから、がんばった!」


 んぉぉぉっ!!! 天使!!! マジ天使!!!


 可愛すぎだからね!!!


 何その小首傾げておっきなおめめで見つめてくるとか!!!


 反則技ですよ!!!!


 どうやら爺も同じ感想らしい。締まりのないでれっでれの表情を浮かべていた。


「ありがとうございます、アレフ様。アレフ様がご立派になられてリナはとても嬉しく思います」

「えへへ、ほんと?」

「はい」

「りな、あれふすき?」

「勿論。大好きですよ」

「あれふもりなだいすき~!」

「あ、アレフ様、じぃじは?!」


 頬をすり合わせていちゃいちゃしていたら、慌てたように爺が割って入ってきた。


 チッ。


 魔王様のもちもちほっぺを堪能していたのに邪魔しやがって!!


「じぃじもだいすき~!」

「おぉぉ!」


 感極まって泣くな、爺!


 あと、私ごと抱き込むな! ジルの視線が怖いわ!!


 案の定ジルがべりっと引きはがしに来た。


「デルフォリアス!! 爺がリナに触るな!! お前にはもう嫁がいるじゃないか!!」

「お主にはいったい何が見えとるんじゃ!! なぜ儂が自分の娘よりも年下の子供に手を出さんとならんのじゃ!!」

「じゃぁ抱き着くんじゃねぇ!! リナは俺の嫁!!」

「りなはあれふのおよめさん!!」


 ……収拾がつかなくなりそうだ。


 それにしても、皆このネタ引っ張るの好きだなー。


 そろそろ飽きてきたので無視する事にしよう。


「アレフ様、これからこの国は少しずつ育っていきます。早く大きくなって、この国を導いてくださいね」

「あれふ、がんばる!」


 きゅっと拳を握りしめる魔王様。


 くぅうぅうぅうぅっ!! 可愛い!!!


 ヤバ可愛いぃぃぃぃっ!!!


 だんだん、と心の中で拳を打ち付けつつ、表面上は穏やかに微笑んだまま魔王様の頭を撫でる。


「アレフ様、リナはアレフ様が大きくなるのが楽しみですが、リナから離れないでくださいね? お約束ですよ?」

「うん! あれふ、りなからはなれない!」


 ぎゅぎゅーっと抱き着いてくる魔王様。


 そういう意味ではないが、可愛いので許す!!!


 さて、馬鹿な事をやってないで。


 チラッと爺を見る。まだジルにぎゃぁぎゃぁ言われている最中だったようだけど、邪険そうに放り投げていた。


 えぇぇ?!


 ジルを放り投げた?!


 うっそん!!


 爺、本当に強いな、爺!!


「うるさいわ!! 儂は今から転移魔法で全ての奴隷をこの場に転移させてこねばならんのじゃ!! お主はあっちにいっておれ!!」


 カッと怒鳴れば、頬を膨らませながらも放り投げられた先で大人しくなるジル。


 よしよし。いいこいいこ。心の中でだけ撫でてやるぞ(笑)


 爺は私の方を見、私が待っているのに気づくと一つ咳払いをした。


「ではリナよ、これよりヨウスケコータシュンが持ってきた座標を基に、順次捕まった者達を転移させる。準備はよいな」

「はい。ピクシー医療班! ゴブリン炊き出し隊!」


 声をかければ、扉が開き、ささっとピクシーやゴブリンが入ってくる。その後ろからどやどやとリザードマン達が入り、簡易ベッドをさっさと設置していく。


 うん。この無駄に広い玉座の間、初めて意味があったなーー。


 あっという間に百個程の簡易ベッドが並び、炊き出し隊が長机にスープの入った寸胴を用意する。その後ろにはスープ用のコップがずらりと並べられた。


 爺は満足げに一つ頷き、ぶつぶつと呪文を唱える。すると、巨大な魔法陣が浮かび、光を放った。


 光が消えればそこには数人の魔物達。


 爺はまたすぐにぶつぶつと呪文を唱える。そしてまた光って、光が消えたら複数人の魔物。これを延々繰り返し、百人近い魔物が現れた。


 ドワーフ、エルフ、ゴブリン、オークと様々な種類がいるが、皆一様に隷属の首輪をつけていた。


 すぐにまた爺がぶつぶつと呪文を唱える。すると不思議な事に、隷属の首輪が音をたてて外れた。


 隷属の首輪にかかっているのは呪いらしい。なので、高位の解呪呪文が使える爺なら、簡単に外せるらしい。


 首輪が外れて驚いている人たちに、さっと事情を説明し、とりあえずまずはベッドに横になってもらったり、腰掛けてもらう。


 炊き出し隊がスープをコップに注いで、それをお盆にのせたリザードマン達が配って回る。ピクシー達は一人一人に回復魔法をかけていった。


 何度かスープをおかわりして、落ち着いた全員に、私の配下になり、新しく作った村に住むなり、好きにするよう言えば、こぞって私の配下になってくれた。ありがたい。


 当然国民になっても身一つで来た彼らには何もない。でも安心してほしい! 既に人数は調査済みだったので、もう家を作ってあります!


 村をつくってあったのさ!


 ぐるりと村を取り囲む堅牢な壁があり、村の中心には海底魔石。結界をしっかり張った村です。


 村は畑と牧草地付きの広々したもの。ちゃんと家具付きの家だからすぐに生活できる。でも、初めの数年は畑や牧草地での収穫も大したものではないとのことで、狩りで得た肉や、森や山の恵みが主な食事となるだろう。頑張ってくれ。一応初めの1年はリザードマンとダークエルフとワーウルフが数名駐屯し、狩りや採取の際は付き添う事になっている。武器も最初の武器はこちらで準備した。


 エルフやドワーフがいるから、窯や作業場もこさえてある。もちろん、その他も道具だけならしっかり準備済みだ。


 しばらくすれば他の村と交流もできるようになるだろう。


 そういう話をしたら、皆泣いて喜んでいた。


 まぁ、体調が良くなるまでは城の一部で生活してもらうけどね。


 外面的な傷はピクシー達が癒してくれたけど、内面的な傷はピクシー達には癒せない。今後、自分達でどうにかしてもらうしかない。


 精神的疲労を考え、しばらくはゆっくりしてもらい、動けるようになったら、彼らが寝泊まりする予定の場所へ、ゴブリンのメイド達が案内してくれるので、私達はその場を後にした。


 奴隷になった者の中には命をおとした者もいるらしい。流石にそれはもう救いようがない。それでも、百人近い人数が生きていて、救う事ができたので、まぁ、勘弁してほしい。


 私も、爺も、皆万能ではない。


 今一度ヨウスケコータシュンに、人間領のありとあらゆる場所を駆け巡ってもらい、他に奴隷となっている者がいないか、確認中。


 ……思いのほか役に立つ悪魔だ。今度、ちゃんと労うことにしよう……。苦手とか嫌だとかいつも言ってごめんね。でもこれからも多分そう思うから!


 さて、これからは平和的に国を治めていかねばね!


 城はできた、配下兼国民も増えて、街もできた。細々と村もできて、国になった。形だけはそれなりに整ってきた。


 ちらりと魔王様に視線を送れば、すぐに気づき、にっこりと笑ってくれた。


 あああ!! 可愛い!!


 この可愛い可愛い魔王様を守る為にも、頑張らなくちゃ!


「アレフ様。リナはアレフ様が幸せに暮らせるよう精一杯努力いたします」

「あれふもりなやじぃじが、いっぱいうれしい、できるようにする!」

「ありがとうございます、アレフ様。大好きですよ」

「あれふもりなすき!」


 むぎゅぎゅーと抱き合う。


 ああ、可愛い!


 あの自称カミサマにも、勇者にも、この可愛い可愛い魔王様を酷い目に遭わせたりなんかしない!


 その為にもまだまだやることは沢山!!


 頑張れ私!


 もっと頑張れ爺!


 全ては魔王様ユートピア計画の為に!!!



To be continued…


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