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30 嵐は突然に



 結局ちっさくないおっさんは、ジルにどつかれるだけどつかれて泣きながら逃げていった。


 そういや名前も聞いていない。


 ヒステリックに喚き散らして、ジルに突っ込みまくられ、ジルのサンドバッグになっただけのおっさん。可哀そう。


 まぁ、それはさておき、私達はそう! 戦争(笑)の後始末をしています。


 石化を解呪して、穴を埋める。壊れた武器はドワーフ達に丸投げ。多分彼らがなんとかしてくれる! 使った材料の補充は探索隊がなんとかしてくれる! 無理だったら爺に丸投げ。きっと爺がちまちま魔法で生み出してくれる!


 よし! 意外と出費もなくなんとかなった!


 とりあえずデシ達は新しい村を造り、そっちにまとめて住んでもらう事にした。これらの処理が終わったら……会議です!


 今更何の会議だよって話だが、これからするのはわりと大事な会議。


 ずばり! この街をこれからどうしていくか!


 いや、街も城壁も作っておきながらなにいってやがるって話しなんだけど。いや、本当に。とりあえず、よりよい街づくり的な? なんかそんな話し合いをする予定。


 なんかもーとりあえず、城建てるかー。家建てるかー。街つくるかー。で今まできたので、ごちゃごちゃしっぱなしなんだよね。法律も、街も。


 そんなわけで、今後を考えて、色々話し合おうと思っている。


 うん、めんどくさい。


 めんどくさいの解ってるからさっさと終わらそうと思う。


 というわけで、戦争(笑)の後片付けをちゃきちゃき終わらせ、新しく配下になったデシとその愉快な仲間達にはテントを押し付け、ドワーフ、エルフ、オーガの建築要員たちと、村設置予定箇所へ向かってもらった。


 で、そろそろお馴染みになりそうな会議室に集まる。


「はい、皆さん、お集まりくださりありがとうございます。大変申し訳ありませんが、時間がないので即会議に入ります」


 まだ少しざわついてた会議室もすぐに静かになる。


 うんうん、気持ちの切り替えが早くていいね!


 先生助かる!


「まず、法律について、です」


 今現在はセイレーン達と一緒に作った法律がある。


「アルカディアにおける法律ですが、現在は自国内、といいますか、この街のみの決まりごとがあります。しかし、今後国として建ったことをいずれ人間領にも宣言することとなります。その時における、人間との関わり合い方に関する法律、そして、人間領に居残る者達への罰則に関する法律を定めたいと思います」


 はい、とすぐに上がる手。


 オレガンディル総司令官だ。


 うーむ。彼は積極的に意見を言ってきて素晴らしい。


 どうぞ、と促せば、オレガンディル総司令官が困惑気に首を傾げた。


「我々は人間と長く争ってきました。おそらく、国家樹立を宣言したら、すぐさま大軍が押し寄せてくるかと……」

「そうでしょうね。ですから、国家樹立宣言の際に、こちらからまず、宣言をする予定です。『人間側が手を出さない以上、こちらから人間領へ攻め込むつもりはない』と」

「しかし、それでも来るかと……」

「その際は滅ぼします。こちらの戦力を考えてみてください。皆さん、黒龍、竜人、ドラゴンロード……人間に勝てる要素がありますか?」

「……ないですね」


 しばし考えたオレガンディル総司令官が、ものっすごくいい笑顔で頷いた。


 はい、皆さん認識してくれましたね?


 そう! 皆はもう、ただの弱い進化前の自分とは違う! 3年前とは全く違う戦力を有している! しかもここ最近、私の配下に下ったのは黒龍、竜人2名、ドラゴンロードと驚くほど強いという噂の人たち。今一つ活躍する姿を見たことがないのでアレだけど。


 そんなわけで、大軍が攻めてきても、多分大丈夫!


 それに、もし襲ってきたら、正義はこちら側にあるような樹立宣言してやる予定なので、多分大丈夫。多分。


「我々は『魔王軍』です。人間と争うのも時としてやむを得ないでしょう。必要とあらば、軍を動かすのもありでしょうが、まぁ、実際は必要ないと思います。奴隷となっている者も探し出し、転移魔法で連れ帰ります」

「隷属の首輪も含めて儂の案件じゃな」

「デルフォリアス宰相閣下、よろしくお願いいたします」

「うむ。しかし、偵察に優れた配下がほしいものよ……」

「その辺りは一旦保留としましょう」


 うーむ……。やはり人間領の情報がほしい。できるだけ争いごとは避けたいけど、無理矢理奴隷にされた、とか聞いている人たちは助けたいし……。


 しかし、現状手がないので、放置。


 す、と上がる手。ドリアードのメルリアナさん。


 この人もよく発言してくれるなぁ。ありがたいありがたい。


「人間との関わり合いを決めるための法律なのですが……自分から攻撃をしない。相手から攻撃があった場合のみ、可。ただし、殺害は認めず、捕縛する事。先ずは対話を心掛ける事。などといった内容ではいかがでしょう」

「採用」


 即採用。


 メルリアナさんはいつだってまともだ。


 助かります。


 そうだよね。対話大事。いきなり拳ダメ。


 オレガンディル総司令官がちょっとむっつりしているけど無視。


「では続きまして、この街なのですが、現在それぞれ好みの住まいに合わせて、色も形もそれぞれの居住エリアごとに違っているため、雑多な街並みと思われます……しかし、皆さんの住まいはまぁさておき、何か、もっと……癒し的なナニカといいますか……可愛らしさがほしいと思うのですが、どうでしょうか?」


 途端に、リナ様が言うならそれが正しいという声があちらこちらからあがってくる。


 なんか違う……。


 いや、冗談だったんだけど……。


 可愛いのよりも、ぐちゃぐちゃな街並みをどうにかしてもらいたかったんだけど……。


「では一角兎の数を増やすのはどうでしょうか? 彼らは可愛らしい外見で癒しを与えてくれます」

「一角兎を増やすだけでなく、道として選んだ場所以外は全て草原風にしてはいかがでしょうか?」


 なんか……街って言うよりも野性味あふれない?


 自然満載すぎない?


 大丈夫?


 それ、街?


 街だよね???


 確かに、フェアリー&ワーウルフの住処はエルフ達エリア隣にある森林だけどね? もうそれ以上野性味増やさなくてよくない?


 ふふっ……もういいや。


「採用。一角兎を増やし、草原風にしましょう」


 余計な事は言うもんじゃないな。


 綺麗な道作りませんか、と言えばよかったな。


 後悔先に立たず。流石後悔。後に悔やむ。


 こんな感じでわやわやと流れていく残念会議。残念にしているのは私ですが。爺が残念そうな視線を向けてくるのも私のせいです。


 その他、他の村をどうやって成り立たせていくか。これから先、保護を求めてくる者達の受け入れの際の今後の条件。喧嘩を吹っ掛けてくる者達のあしらい方。といったように大切な事を決めていく。


 あれこれ決まっていいかんじだなーとか思っていた時だった。不意に会議室の外が騒がしくなる。


「りーーーなーーーーさーーーーまーーーー!!!!」


 うん? なんか呼ばれている??


 誰よ?


「リナ様ーーー!! ヨウスケコータシュン!! 只今!! 只今戻りましたぞーーー!!! リナ様ーーーー!! 何処にいらっしゃいますか、リナ様ーーー!!」


 ……。


 ……。


 爺と共にそっと視線を合わせ、逸らす。


 えっとぉ、返事したくない、なぁ……。


 ダメ? ダメ?


 ああー……できれば帰ってきてほしくなかったわぁああっ!! できればあの名前、忘れていたかったわぁああっ!!!


「む……?」


 不意に爺が首を傾げた。


 うん? どうした、爺。顎に手を当て考え込んでいるようだけど。


「そうじゃ! あ奴、戻ってきたという事は、シャドウデーモンを配下にしてきたはずじゃ! リナよ、ここに呼び寄せるのじゃ。あ奴に指令を出すのじゃ」


 爺がぽんっと手を打ったと思ったら、私の方を見た。


 へ?? 何? シャドウデーモンってなんかなるの??


「シャドウデーモンは闇に潜む悪魔じゃ。奴隷となった者達に関しても秘密裏に調べられるじゃろう」


 なんと!


 シャドウデーモンすごい!


 それは早速呼び寄せましょう!!


「オレガンディル総司令官!」

「ハッ!」

「今叫んでいる者は私の配下のレッサーデーモンです。今すぐここに呼んできてください」

「ハッ」


 一礼し、すぐに出ていくオレガンディル総司令官。しばらくすると、くっそやかましい青年を連れてきた。


 さらっさらの紺色の髪。ちょっと尖った耳から真上にあがって、目の高さくらいから生える2本の角。パタパタと動く矢印尻尾。


 全力の笑みを浮かべている。


「リナ様!!! ヨウスケコータシュン! 只今帰還いたしました!!」


 あ、はい……。すっごいきらっきらですね。こっちは灰になりそうです。


 やっべぇ。なんか残念さがパワーアップしてない、こいつ?


「おかえりなさい。条件を満たした、と理解していますが、どうでしょうか?」

「はい! このヨウスケコータシュン! シャドウデーモンを20体、シャドウ8体、リトルデビル12体、デビル7体、インプ5体、インキュバス2体、サキュバス2体を配下とし、リナ様の下へと戻りました!」


 私には正直何言ってるのか理解できないけど、代わりに爺が反応した。


「なんと! デビルたちはまだしも、お主がインキュバスとサキュバスを配下にしただと!?」

「はい! わたくしよりも本来上位種ではありますが、呪で縛っておりますので、暴れることはありません!」


 ご覧ください、と声をかけると影から出てくる2組の男女。


 色っぽい。


 無駄に艶っぽい。


 はっきりいってなんかエロいのが出てきた。


 魔王様の教育に悪いので即刻おかえり下さい。いや、まじで。


 なんだ、そこにいるだけで視界の暴力になるほどエロいって!


「この通り!」


 ヨウスケコータシュンの手に光る模様。


 何アレ、と思ったけど、同じ模様がエロい4人の額にも浮かんでる。


「うむ。紛れもなく呪じゃ。お主、まだまだ進化する可能性があるな……」

「ふふふ。このヨウスケコータシュン! リナ様につけていただいたこの名に恥じぬ者になると心に決めておりますから!」

「「「「なにぃいいいいっ!?」」」」


 会議室中から悲鳴が上がった。


 あ、逃げていいですか?


 ろくなことにならない予感すごいっす。


 マジでヤバそうな気配がするんで逃げますね?


 そぉおっと出口の方へ行こうとするが、がしっと肩を掴まれる。ハッとして振り返れば笑顔のジル。


 あかん。めっちゃ怒ってる。笑ってるけど怒ってる。


「リナ……ちょっと聞き捨てならない……。あのゴミ、リナが名付けたって聞こえたんだけど?」

「で、デルフォリアス宰相閣下が許可したので問題なかったかと……」

「リナ様!!! 宰相閣下が許可を下されば、私達のも名付けてくださるのですね?!」


 どわっと取り囲んでくる代表者の皆さん。


 嫌です。


 嫌です。


 本当に嫌です。


 無理です。


 なので、皆さん縋ってこないで~~~!!!!


 ジルも手を放して!!!


 向こうで爺が儂は許可を出しておらん、と喚いているが知らん知らん。


 爺! 死なばもろともだ!!!


「わかった。とりあえずあのゴミ、さくっとってくるわ」


 そうだそうだと上がる声。


 ヨウスケコータシュンにギロッと殺意たっぷりな視線を向ける皆さん。


「ま、待ってください!! その者は人間領にて奴隷になっている者達の解放に役立つのです!」


 慌てて声を上げれば、全員がぴたりと動きを止めた。ジルも止まるとは思わなかった!


 ジルは明らかなふてくされ顔でぷいっとそっぽ向いている。


 へーへーへー! ジルも同族は大事なんだ!! いっがい! めっちゃ意外!!


 んんっと咳払いをし、ヨウスケコータシュンを見る。


「よ、ヨウスケコータシュン」

「はいっリナ様!」

「よ、よくぞ戻りました……」

「はいっ! これでリナ様の護衛はわたくしのものですね?! 影に潜み、いつでもお守りいたします!」


 びきっとジルの額に浮かぶ青筋。


 あかんて! マジあかんて!


 なんでこう、無駄に煽るのコイツ?!


「そ、その件なのですが、い、一旦保留という事で、貴方には戻ってきて早々で申し訳ないのですが、使命を与えます」


 嫉妬という名の炎がオレガンディル総司令官以下、代表者の皆さんから吹き上がる。


 すみません、怖くて振り返れません。


「こ、この役は、貴方にしか頼めません……」

「おお! リナ様直々のご命令! このヨウスケコータシュン! 命に代えましても、完璧に結果を出してごらんにいれましょう!」


 後方からぎりぎりと聞こえてくる歯ぎしりのような音。


 ああああ……怖い怖い怖い怖い!!!


 冷や汗がぶわっと出てくる。


 それでも私は頑張ってにっこりと微笑んだ。大分引き攣ってるだろうけど気にしない!


「げ、現在、人間領にて奴隷となっている魔物達の情報が知りたいのです。奴隷となっている者達の情報、迅速に収集してきてくださいますか? これは貴方単騎で人間領へ潜伏してもらうこととなるため、大変危険です。無理だと思ったら断ってくださっても構いません」

「おお! そのような大役をこのわたくしめに……! このヨウスケコータシュン! 必ずや、必ずやご期待に応えてみせましょう! それではリナ様! わたくしは再びお側を離れますこと、お許しください!」

「え、ええ、頼みましたよ……」


 飛び出していくヨウスケコータシュン。


 嵐。


 間違いなく嵐。


 疲れた。


 でも、まだ、こっちの収拾が済んでいない……。


 背後に迫る嫉妬の炎。


 青筋浮かべたジル。


 逃げようとしている爺。


 ああ?! 爺!! 何逃げようとしてやがる!!!


 がしぃぃいいっと肩を掴み、捕まえる。


「は、離せ!! 儂は関係ないぞ!」


 あるわ!!!


 お前が問題ないゆーたんやろが!!!


 爺、死なばもろとも!! 絶対に逃がさん!!!


 背後から迫ってくる塊に、爺を突き飛ばす。


 あっという間に爺は囲まれ、自分にも許可を、と求めてくる代表者達に埋もれた。


 さて……。


 ぽん、と肩に置かれる手。


 ええ、ええ、わかっていますとも。貴方は爺に惑わされたりなんかしないでしょうねぇええ……ジル?


「リナ?」

「なんでしょう?」


 にこ。と互いに微笑み合う。次の瞬間、がくがくと高速で肩を揺さぶられた。


「どういことだ?! なんであんなゴミに名前を与えたんだ?! お前には俺がいるだろう?! 俺じゃ足りないって言うのか?! 俺の尻じゃ足りないって言うのか?! もっと叩いてもいいんだぞ?! むしろ毎日叩いてくれよ!!」


 いらん!


 めっちゃいらん!!


 なんの要求してるんだこいつ!!!


「じじじジル、お、落ち着いて、落ち着いてください! い、痛い!」


 悲鳴を上げればなんとか揺さぶるのは止めてくれた。


 ふー……化け物に振り回されたら、か弱い人間の私には堪えるんだよ……。


「ジル、よく聞いてください。あのものは、元レイスなのですよ」

「レイス?! 下等種の悪霊(レイス)ごときが、低級とはいえ、上位種の悪魔(レッサーデーモン)に進化したのか?!」


 驚くジル。


 へぇ? そんなにすごい進化だったんだ?


 しかし! ここは畳みかけるチャンス!!


「そうです。それに、アレはもっと進化すると思います。それこそ、デーモンロードに。もしそうなったらジルは嬉しいでしょう?」

「嬉しい? 俺が?」


 不思議そうに首を傾げるジル。


 私は全力の笑みを浮かべた。


 ここが勝負所!!!


「強い玩具が増えるんですよ? 偶に身体を動かす相手がいたほうが良いでしょう?」

「!!」


 ジルが目を見開く。そして、にっこりと笑った。


「そうか! 流石リナ! 俺の未来の嫁だな! あいつは俺の為の玩具だったのか! うん! ああいう可能性を秘めた奴は大歓迎だ! 流石リナ! 俺の好みをよくわかっているな!」


 ふっ……。


 なんとかジルは丸め込めた……。


 だがそんなわけないでしょうに。


 私がアレと出会ったのは、君に会う前です。アレが進化したのも君に会う前です。そんな時に君の性格とか、君の好みとか、知るわけないじゃないか。あ、いや、性格についてはちょっとはぼやっと知っていたんだっけ? まぁいいや。そこは問題じゃない。


 ジルがご機嫌になったのでこっちは何とかなったけど、爺の方は全然収集ついていない。


 今日はもう会議は無理だねー。


 唯一この騒ぎに参加しないで笑って見ていた、ドリアードのメルリアナさんにごめんなさいして、私、ジル、魔王様、リリアナとエリアナ、メルリアナさん、ポチの7人はそっと会議室を後にした。


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