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03 とりあえず部下を増やしたい



 生活環境――主に衛生的な理由で――を整えようとした私は、いきなり躓いた。


 はい、労働者がいませんでした。


 どうも魔族というものは、魔王がいるからパワーアップして暴れる、というわけではないそうです。


 魔王が力を示し、それが己より強者と認められた場合、傘下に下り、魔王により秩序を以て管理されるそうな。つまり、魔王がいる時は秩序があるけど、いない今はやりたい放題好き放題。無法者の集まりなんだとか。


 え?! そんな魔王を殺したの?! 人間ってアホなの?!


 爺――名前はデルフォリアス・グオロディウレス・エルゾブレベなんちゃらかんちゃらと長ったらしい名前を名乗られたので、爺と呼ぶことにした。いや、口で名前を呼ぶときとかはデルフォリアスと呼んでいいと言われたので、そう呼んでるけど、心の中でまで、長ったらしい名前で呼びたくないので、心の中では爺と呼ぶことにしました――は、小さなものなら魔法で作れるけど、城のように巨大なものはつくれないそうな。使えない。


 しかたがないので、今はとりあえず最初の部屋、一応魔王様の部屋、で生活している。


 爺に頼んで大量の布と、おむつと、服を作ってもらった。私の分も含めて。


 今私は、クラッシックメイド服に身を包んでいる。部屋のクローゼットには、替えのメイド服がぎっしり。正直、メイド服ってどうかと思ったけど、思いの外いい。二次元を三次元にもってきたカフェで、華やかなお嬢ちゃん達が着ているようなのではなく、正統派クラシックメイド。胸を強調することもなく、下着が見えそうなミニスカではなく、足首まであるロングスカート。動きにくいという事もなく、汚れに強くできている。


 私、初めてメイド服が良い物だと知ったよ。


 いや、男のエロ心をどうにかするためだけのものじゃないんだね。反省した。


 メイド服。これは間違いなく作業着だ。うん。


 えー、部屋の隅には、高さ60㎝程の大きな壺が一つ。その中にはスライムが入っている。汚れた服や、使用済みおむつはここに投げ込めば、スライムが全て分解浄化してくれるんだって。しかも放り込めば一瞬らしいから、臭いもしないとか。


 ファンタジーすごい。


 私の趣味で、もふもふクマさん寝間着に身を包んだ魔王様をよしよしと撫でる。嬉しそうににこにこ笑う顔が天使。魔王だけど天使。


 子供ってどうしてこう可愛いのかなぁ。あ、無駄に知恵がつく前までね。知恵がついて生意気になったらそれはもう可愛くないから。


 さて、現実逃避はこれくらいにして、これからの事を考えよう。


 まず、自分について。


 先程も言ったが、トイレ、食事、風呂は必要ない。あと、自称カミサマが言ったとおり、睡眠も必要なかった。これはもう魔王様のナニーになって一週間経つけど、必要としていないからそういうことなんだろう。ただ、夜眠れないのはさみしい。やることないし。仕方がないから爺に大量の本を持ってきてもらった。マナー関係の本と、この世界の歴史的な本に育児書。しかし、そこで気づく。私、文字読めない。


 つーかなに、この模様みたいなの。文字違う。絵だよ。


 そう! 言葉は通じるのに、文字が読めなかったのです! 残念!


 仕方がないので、爺に文字のお勉強をしてもらってます。めんどくさい。この年になってまさかのあいうえお勉強! くぅっ! 私、子供に教える側なのに!


 なんてことも言っていられないので、淡々とお勉強。魔王様のお昼寝中に爺に教えてもらって、夜の間中、魔王様が起きない限りは部屋の隅で蝋燭灯して延々復習。


 意外と時間が潰せて良い。


 それから、自称カミサマが押し付けてきたギフト、とやらもじっくり解析。




 ギフト《オオゲツヒメ》




 うん、名前を聞いてもよくわからん。爺が言うには、ギフトとやらは己の内側にある特別な力。これを持って生まれるものは100年に1人とか1000年に一人とか言われてるらしい。それくらい特別な力なんだと。


 で、ギフトなんだけど、基本的には魔法やスキルと一緒だとか言われても、わからん。いや、日本人にそんなものないからね? 普通ないからね? なにその魔法って。もう意味わからんわ。


 などという私のツッコミは総スルーされ、懇々と説明された。


 要約すると、自分の力だから自分で意識すればどんなものかわかるし、使い方もわかりますよってことだった。魔法は魔力を用い、魔力とは世界を循環する、とかなんとか言ってたけど、ようはそういうことだった。


 結局自分でどうにかしろ、ということなので、自分で意識してみる。


 あーもう、こういうのって何て言うんだっけ? チュウニビョウとか言うんだっけ? はーマジでないわー。漫画もゲームも興味ないんだって。そういうのはそういうのが好きな人だけにしてほしい。


 私が好きなのは子供。小学校に上がる前くらいの知恵のない子供。可愛い子供に囲まれていればそれでよかったのに。あ、そんなわけで彼氏はいなかったし、欲しいとも思わなかった。成長した物体に興味はない。爺くらい爺になっていたら、いろんな意味でまた気にはなるけど。主におじいちゃん大丈夫? 的な。


 とにかく、自分のギフトとやらを調べる。





 オオゲツヒメ。想像した料理を現実にすることができる。

 他人が想像したものなら、その人にとって最も美味な味となり、使用者が想像したものなら、全ての者にとって天上の味といえるものになる。なお、味に飽きがくることはない。

 取り出した料理は、状態保存の魔法がかかり、食べても食べてもなくなることはない。別な皿に取り分けたりしたものは、食べたら減る。

 使用者が望まない限り、他人がこの料理を口にすることはできない。

 使用方法は、料理を想像したところで、使用者が想像した相手の腹に手を入れ、取り出す。取り出した料理を消すときは、消えろと念じながら手をかざすこと。





 え? ちょっと怖い。腹に手を入れるって何それ?


 怖かったので爺で試した。


「デルフォリアス宰相閣下、お好きな料理を想像してくださいませんか?」

「む? うむ……そうだな……儂はシータイガーのスライムソース添えが好きじゃなっ?! て、うぉお?!」


 爺が想像したら腹の辺りが黒く見えたので、手を突っ込んでみる。爺は驚いていたけど、特に抵抗らしい抵抗はなく、手は黒い影の中に消え、その中に何かあったので、掴んで引っ張り出してみた。


 皿に乗った、伊勢海老の、ホワイトソースがけ、かな? これは。


「おおお! シータイガーのスライムソース添えではないか! リナよ! お前、これ、どうしたのじゃ?!」


 えー……? これ、伊勢海老じゃなくてシータイガーっていうの? あと、このホワイトソース、スライムからできてるの?


「私のギフトでとりだしてみました。デルフォリアス宰相閣下の一番好きな味のはずです。召し上がってみてください」

「おお、うむ! ……むほっ! これはうまい! 今まで食べた中で一番旨いではないか!」


 うん。実験は成功。


 あ、そういえば、魔王様の教育によろしくないので、口に出して喋る時は、できるだけ丁寧な言葉を心掛けることにした。子供の為ならなんだって頑張るさ!


 じ、と食事する爺を観察する。


 爺の皿の中身はいくら食べても減らないようで、爺が嬉しそうに何度も食べていた。


 うん、確かにこれなら、私といる限り魔王様がくいっぱぐれる事はないようだ。よきかなよきかな。


 子供がひもじい思いをするなんてあってはならない。子供が痩せてるなんていかんのだよ! 子供とは、あのぷっくらふっくらした、丸っこいフォルムが愛らしさの象徴なのだから! ただし、肥満はダメね! あくまでも、子供らしい曲線ってやつがいいの!


「それでは、片付けますね」


 手をかざし、消えろと念じると、出した料理は消える。


 十分堪能したらしき爺はにこにことご機嫌そうだ。やっぱりこの爺けっこう可愛い。見た目ただの頑固爺だけど、頭の中はわりと幼児だ。こういう大人は嫌いじゃない。


「デルフォリアス宰相閣下」

「うむ、なんじゃ?」

「今のを食べた後、他の誰かの作ったこの料理に戻れそうですか?」


 これは私にとってとても重要な質問。


 爺ははっと目を見開き、わなわなと震えだした。


 がた、と音をたてて立ち上がる。


「無理じゃ! 最早あれ以外のシータイガーのスライムソース添えは食えぬ! リナよ! 儂にできる事ならなんでもする! またアレを出してくれ!」

「出すのは構いませんが、私が望まないと口にはできません。あれはそういうギフト能力です」

「なんと!! それはいかん! 頼む! 後生じゃ! また食べさせてくれ!」


 必死だな爺。そんなに旨かったのか? ううむ。これは後で自分でも食べてみよう。いや、スライムとかはお断りなので、自分の知ってる料理で、だけど。


 腹に手を突っ込むのもあまり問題なさそうだし、大丈夫だろう。


 兎に角、私はにっこりと笑う。


「デルフォリアス宰相閣下がわたくしと魔王様の敵にならない限り、永遠に食べることができますよ」

「ど、どういう意味じゃ?」

「私、魔王様を魔王にするつもりはありません。私がいなくてはなにもできない子供のままでいてもらいます。魔王様がしっかり育つまでは私、不老不死だそうです。ですので、魔王様が魔王にならなければ、永遠に私の料理を食べることができますよ」

「し、しかし……」

「それに、魔王様が魔王にならなければ、宰相閣下はずぅっと『魔王様の頼れるじぃじ』でいられますよ……?」


 悪魔のささやき。


 この爺が魔王様愛がアホみたいにすごいのは、もう十分に理解できた。この爺のウイークポイントは魔王様。そこを擽れば、案の定ぬぅ、と黙り込んでしまった。


 なにか想像しているのか、その顔はどんどんだらしなく緩んでいく。


 ふっ。これはもう、堕ちたな。


 暫くすると、やたらとキリっとした表情に戻った爺が手を差し出してきた。それを迷いなくつかむ。


「うむ、これからもよろしく頼むぞ、リナよ」

「お任せください、宰相閣下」


 互いの利害が一致しただけ。


 文句は受け付けない。


 あの自称カミサマは、立派な魔王をご希望だった。私の「神を殺す魔王」というのを魔王らしくてよい、と喜ぶくらいに。だったらもう、とことん反してやる。


 ていうか! こんな可愛い天使のような魔王様を、わざわざ戦いに出すとか意味わからん! とことん平和で幸せにするんだ! 子供は争いのない場所で幸せに生きる権利があるはず!!


「さて、魔王様ユートピア計画を施行したいと思います」

「うむ」

「まず、配下を増やします。最初の配下は、技術職が良いですね。魔王城を美しく立派な城に建て替え、城下町を建設したいとおもいます」

「ふむ……となると、まずは細かな作業が得意なドワーフ、エルフ辺りが良いだろうな。力もそこそこあるので、建築には向いておる。しかし、魔王様は幼い。力を示すことはできぬじゃろうて……」

「では、私のギフトで胃袋を掴みましょう。彼らの好物を教えてください。好物という餌を鼻先にぶら下げ、釣るのです。そして、魔王様が育った暁には、魔王様に忠誠を誓ってもらうというのはどうでしょう?」

「うぅむ、あやつらならば、好物さえ安定してもらえれば、永遠に忠誠を誓うと思うぞ」


 え? なに、それ。私のギフトと相性良すぎなんじゃない?


 おもわずにんまりとした人の悪い笑みが浮かびそうになるが、なんとか堪える。


「それで、彼らの好物は?」

「ドワーフは何といっても酒じゃな。あ奴らは強い酒があれば幸せな奴らじゃ。食事も酒に合わせたものばかりじゃしな」


 ドワーフは酒とおつまみ、ね。


「エルフは大食らいじゃが、主に肉を好む。野菜はあまり好まぬな。付け合わせの野菜にさえ怒り出すしまつじゃ。そのうえ美食家というから困ったモノよ。お主より背が少し高い程度のわりに、一人牛3頭は毎食食べる。おかげであやつらが住む場所は生態系が崩れていかん。動物も魔物も、何でも狩ってたべるからのぉ……」


 なにそれ。エルフ怖い。


 エルフってネズミか何かの大群なの?


 彼らが歩いたところには骨さえ残らない、的な?


 ま、まぁ? 私が取り出した料理なら、永遠に消える事ないから? うん、大丈夫大丈夫。食料不足とは無縁だね。


「ドワーフは強い酒なら何でも良いが、エルフはのぅ……香りも良くなければいかん。本当に面倒なやつらなのじゃ。流石に面倒すぎて、儂は前魔王様の時にも配下に加えるのは勧めぬと言ってしまったぐらいじゃ。しかし、お主のギフトならなんとかなろうて」


 そ、そうなのかな? ま、まぁ、さっきとりだした料理もちゃんと美味しそうな匂いしてたし……。多分大丈夫! とりあえず、ステーキ。エルフにだす分はニンニクしっかり効かしたステーキにしよう!


 ドワーフのは……ウイスキーとかウォッカでいいのかな? その辺と、おつまみ料理でナッツ、ポテト、枝豆なんか? いやいや、からあげとか揚げ物もいいのかな? いいや。とりあえず居酒屋にありそうなので。


「それではデルフォリアス宰相閣下、彼らの下にはいつ参りますか?」

「いつでも行けるぞ。儂は宰相として、あ奴らの居場所は常に把握しておる。それに、儂は転移の魔法が使える。よって、移動日数とか関係ない」

「その間の魔王様のお世話に関してなのですが、わたくし、魔王様から離れられないのです。なので、お連れしても大丈夫ですか?」

「問題ない。儂が共にいる限り安全じゃ。儂より強いものなど、前魔王様くらいじゃ。まぁ、魔王様が大きくなられたら、儂よりも強くなるであろうがな」


 おお、なんとも心強い爺だ。


「では、料理の準備ができしだい、よろしくお願いいたします」

「うむ」


 爺は鷹揚に頷いた。しかし、そわそわしているのを見逃さない。


 爺、よっぽどさっきの料理を気に入ったらしい。仕方がないので、とりあえず、自分の腹に手を突っ込み、ティーセットを取り出した。


 食事もいいけど、大人しく優雅に茶でも飲んどけ。


 料理が出てこなくて少ししょんぼりした爺だったが、茶を一口飲み、不満はなくなったようだ。目を輝かせ、茶を見ている。それ、一応、ただの庶民のティーパック的なお茶を想像して出したんだけどね。あと、茶うけのクッキーやチョコを大事そうに口に含む爺は結構可愛かった。


 前回の作品とは作風を変え、久しぶりに一人称で書いてみた……。

 あまりに久しぶりすぎて書きづらい……。

 どうやって書くんだったかな?

 とりあえず、今度は毎日更新できるように頑張ります。

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