29 ちっさくないおっさん
白トカゲさんは思いの外頑張った。
1週間もあれば、心折れるかなって思ったけど、2週間も粘った。すごい。すごいけど、ついてきた人達が可哀そうだった。
2週間縛られて立ちっぱなしだったんだから。
普通の人間なら死んでいる。
とりあえず、脱水症状だけは免れるため、偶に爺が霧雨を降らせていた。
いや、ほんと、魔法凄い。
あと、ぐったりした人は白トカゲが降参するよりも早めに回収し、しっかり拘束した後、ピクシー達の控える、救護テントに運んだ。
実は私達のテントのすぐそばにあったりする。
隠すように設置したので、白トカゲ陣営からは見えなかっただろうけど。
ぼこぼこになった白トカゲさんは、私に頭を下げ、恥も外聞もなく、私に願った。
「俺はどうなってもいい! だから、俺が連れてきたあいつらだけは、助けてくれ!」
……なんてこった!
自分より部下だったんですよ、この白トカゲさん!
どーりで、離反させようとこっちにきたらご飯あげるよ~とか、普段上から目線の白トカゲさんに復讐できるよ~とか、こっそりダークエルフさん達に囁かせてみても、誰もなびいてこないわけだ!
これだけはめちゃくちゃ意外!!
いや、だって、あれだけ上から目線で、こっちのリザードマン達の事も散々「トカゲ」呼ばわりだったんですよ? これはもう高慢ちきなくそ野郎だと思われても仕方ないでしょう!
あれか?!
態度悪いけど、一度懐に入れたらとことん大事にする、不良だったわけか?!
えぇー……。どこまでも残念な子……。
いろんな意味で根が善良で、力があって、頭が弱い……そりゃぁ使われもするでしょうよ! ちょっと頭が回る小悪党の大好物じゃないか!!!
うわぁ……どうしよう。ホント、どうしよう、この子。
この子もしっかり教育した方が良い気がするー……。
配下も私達の作る国の国民にし、差別しないという約束で、白トカゲさんと配下契約をした。
ディシリアルフというどう略したらいいのか良く判らない名前だったけど、白トカゲと呼ぶと可愛そうなので、とりあえずデシと呼ぶことにした。短い呼び名に不服そうだったけど、気にしない。だって、彼は私の配下たちと同列以下である契約を結んだのだから。
で、まぁ、今私達の目の前にはアホが一人いるわけなんだけど……。
えー……これ、これがいわゆる『お約束』ってやつなのかな??
望まない形の戦争。望まない形での決着という事態に、我慢できずに飛び出してきたっぽい、残念な男性が一人。
年齢は爺よりは若そうな……そう、50代くらいに見えそうな、おっさん。それ以外の形容はできない。だって、本当におっさんなんだもん。
バーコード頭で、ちょっとお腹まわりがメタボってるおっさん。
小さいお〇さん(バーコード頭)が普通のサイズで、無理矢理ローブ着込んでみましたーみたいな見た目。
最近人型は美形ばっか見てたせいか、なんかちょっと残念な気持ちになった。
「これ」
しらーっと見てたら爺に怒られた。
いや、だってさぁ、これだけ美形の宝庫だったんだよ?! 配下のみなさんも、進化して人型になったら皆揃って美形だったんだよ?! いつか目が焼き切れるんじゃないかって本気で心配になるくらい、美形ばっか!!! 群を抜いて美形なのがエルフ達だったけど、ドワーフ以外の人型は本当に美形ばっかだったんだって!!!
こんな、ふっつーーーに!! 残念なおっさん、久しく見てなかったら、ちょっと免疫力が落ちてるんだって!!!
こんな、思春期反抗期真っただ中な娘が居たら「お父さんのパンツと一緒に洗わないでよ! 汚い!」と言われそうな、典型的なおっさんが出てくるなんて思えるか!!!
爺もなんだかんだ言って、ダンディ(?)な爺なんだよ?! しぶーい感じの!
美形が基本だって思ってたんだよぉおおおおっ!!!!
「……お前、結局何が不満なんじゃ?」
呆れた声。
え? こんないかにもなおっさんが配下になった場合、一人浮いちゃって可哀そう!
「かなりひどい事を言っている自覚はあるか?」
ジト目が向けられた。
はははー。ありますとも!
自分の顔を見て言えますよ? お前もな! と。
あ、そういう意味では私が浮かなくてすむのか!
「お前の自己評価も最悪じゃのぉ……アレと自分を同列と思うなど……」
呆れたようにこっちを見ない! そして、爺、アンタもかなりひどい事を言っている自覚がありますか?!
だいたい一般的な日本人の私が「私、自分に自信あります!」なんて言うわけないじゃないか。「私、普通です」の方が正しかろう?
少なくとも私の年代の人間で「私、自分に自信があります!」と豪語できる人は大体イタイ奴だった。心で思っても言わないのが美徳ですよねー。ああいうのー。
謙遜しすぎも嫌味だけど、堂々としているのはもっと嫌、という面倒な生き物なんです。私達。
まぁ、そんな話はさておき……。
「デルフォリアス宰相閣下」
「なんじゃ?」
「あちらのおっさ……男性がデーモンロードとかいう大変強ぉおい方、で合っていますか?」
「そうじゃ」
あーマジっすかー。
マジっすかー。
あんなんでも強ぉおいというデーモンロードなんですね? マイッタナー。人は見かけによらないってアレですねー。
頭が足りていないのがせめてもの救いという、デシ君と同じパターンなんですねー?
「えぇえええいっ!! なんなのだ!! あれは!! 戦争としての最低限も知らんのかお前達は!!!!」
煩いです。
唾を吐き飛ばしながら喚かないでくれよ。
おっさんのヒステリーとかマジどうでもいいわ。
「知りません。勝てば官軍負ければ賊軍。勝てば良いのです。勝てば」
「ふざけるな!!」
「ふざけてなどおりませんよ」
「卑怯だとは思わんのか?! あのような騙し討ちのような真似!!」
バカなのコイツ?
戦争ですよ?
卑怯あってなんぼでしょ??
奇襲だって立派な戦術だけど、結局なところ相手の意表をつくっていう卑怯な行為なんでしょ? じゃぁ別に意表をついた落とし穴の何が悪い。
「明らかな強者が、明らかな弱者の前に立つ時点で卑怯とは何ぞや、と思いますが? 卑怯だ云々言うのでしたら、まず、全く同じ戦力を集めてから言ってくださいませ。大体、他人を焚きつけて捨て駒にし、自分は影に潜んでこっそり観戦。頃合いを見て美味しいところだけを取ろうとしていた一番の卑怯者が何を仰っているのやら……」
口元に手を当て、ころころと笑って見せる。
あからさまな動揺をするおっさん。
「ななな何を言っている!! わわわ私はただ騒がしかったから見に来ただけで……!!」
どもり過ぎ。
いやいやいや、いくら何でもそりゃぁないわぁ!
もうちょっと頑張ろう?!
きょろきょろ視線も彷徨いすぎですよ!
「いえ、貴方はずっといらっしゃいましたよ? だって、ジルがずっと見張っておりましたから」
「おう! ずーーっとコイツを側に張り付かせて、お前の姿、中継させてたんだぜ!」
ジルの影からぴょこっと姿を現す小さな黒龍。
手のひら大。
あれが何なのかというと、ジルの鱗の一枚から作り出した、ジルの力の欠片らしい。
私の側からあまり遠くへと離れられないジルが、自分の目のかわりにあちこちに配置している。街中とかも結界があるけど、一応飛ばしているんだって。結界張る前に入り込んでいる可能性があるから。
意外に働き蟻なジル。
不可視のものもジルの目には映る。なので、隠れているおっさんは早々に発見。ずっとチェックしていたみたい。あ、ちなみに、発見場所は森の中。デシの陣営よりもうちょい後ろくらいにいたらしい。
あまりの戦術に、始終ガクブルしてた、とジルが笑っていた。
あのおっさん、本当にデーモンロードなのかなぁ……?
「アホか。儂でもガクブルするわ。あんな暴挙……。少なくとも、考えついた奴はまともじゃないわい」
あ、今度はオレガンディル総司令官をディスりましたね??
あの案はあくまでもオレガンディル総司令官の閃きにより生まれたんだってこと忘れてない?? まさか私が考えた、なんてすり替わってないよね?!
「覚えとるわ。儂は思ったぞ。やはり、数こそ恐怖。野良よりも集落の監視をせねば、とな」
嫌そうに顔をしかめる爺。
うん! それに関しては私も納得するよ! いや、納得せざるを得ない!!
そっと見ない事にしないと、こっちの精神がやられそうだったからね、あれ!!
いやぁ、魔王様がいてくれて本当によかったわぁ!
魔王様の癒しがないと、始終遠い目して、ぼんやり空を眺めてないといけないところだったよ!
いやはや、人間にとっての恐怖の代名詞魔王様が、実は精神を安定させる癒しの人だなんて! すごいね! あっはっは!
「あっはっはじゃない……あっはっはじゃ……儂は……儂は、オーガ達の将来が怖くてたまらんわ……」
おぉっと?!
爺まさかの涙目!!
大丈夫ですか、爺!!
こんなところで挫けないでくださいよ、爺!!
あなたにはこれから先、魔王様の右腕として、あのオレガンディル総司令官達の上に立ってもらわないとならないんですよ!!
「嫌じゃ、と断っても良いか? 儂はあ奴らの面倒はみたくないぞ?」
「ですが宰相閣下が最後の良心とならないと、彼ら、このままノンストップで突っ走ると思いませんか? そうなったらまぎれもなく『魔王軍』ですよ?」
ぐぬぅ、と爺が唸る。
ふふふ……私だってできることならば時間を巻き戻したい。何故こんな危険な事を考える奴らに『勝てば官軍負ければ賊軍』などという言葉を教えてしまったのか……。
爺と2人揃ってちょっと遠くを眺める。
拝啓、オレガンディル総司令官。私達は、貴方達の今後が心配です。敬具
などと考え、ふと、目の前のおっさんを思い出した。
あ、そういや、なんか変なおっさんと会話中だった。おっさんへの興味が低すぎて、ついうっかりオレガンディル総司令官達とのこれからについて考えてしまったよ。
多分、しどろもどろ言い訳していたのであろうおっさんは、愉しそうなジルに「はいうそー」と監視していた時の様子を逐一言い返されていた。
おっさんの言い訳見苦しいわー。
「ジル、そろそろ口でのお話合いは終えてはいかがですか?」
「お! そうだな! こっからはやっぱ……拳での話合いだよな!」
うっわ。めっちゃイイ笑顔!
うわー……うぅわぁぁー……。こっわいわ……。なんでうちの子達、こんなに暴力好きなんだろう……。
オレガンディル総司令官の作戦にもひいたけど、正直ジルの基本的な思考にもひくわぁ。イラっとして殴って殺す、ということになんの罪悪感もないんだもん。基本、殴って言う事を聞かせよう。という思考、結構危ないと思うのは私だけ?
暴力反対ー。
いや、うん、全部が全部反対ってわけじゃないんだよ?
殺されそうです、でも暴力には嫌悪感があるので反撃はしません、とかはないんだよ?
悪い事をしたら、その行いは自分に返る。自業自得。因果応報。仕方のない事だけどね?
でも、笑顔で拳を鳴らすのはどうかなー?
明らかに「ヤッホー暴れられるぜ!」と背中が語ってますよ?
ゴブリンとかエルフとか……殆どの人たちは戦う事に消極的だし、配下契約に会いに行って、いきなり襲ってきた人ってのも少なかったきがするけど……。だからつまり、魔物だから好戦的ってことじゃないんだよね? 悪魔だから狡猾な真似をした、とか。
「違うな。全部あ奴らの性格じゃ」
そっかー……だから嫌いなんだよ、大人!! 手がかかる!! めんどい!!
その点、純粋な子供は「こうだよ」と言えば「そっかー」となる子が多いから、多くなるようこっそり教育できるから、可愛いんだよねー。
「お前も大概ゴミクズみたいな性格じゃの」
ははは。何を今更!
だからこそあの自称カミサマの宇宙人野郎に選ばれたんだ! とか言い訳をしてみよう。
そんなわけで爺、チラッと私を見るの、やめてください。地味に心が痛みます。自分が最低なのはよく理解しているので。
ご機嫌でおっさんを小突き回しているジルをぼんやり眺めながら、自分の性格は魔王様にだけは絶対に隠し通そうと心に誓う。爺が隣で頷いているから間違ってないはず……。でもなぜだろう……ものっすっごく心が痛い気がするー……。
涙が出ちゃう、とか言いたくなるわー……。
ジルがおっさんに綺麗な右ストレートを決めるのを眺めながら、そっと涙をぬぐった。




