28 そうだ。勝てば官軍なんだ。勝てば。
うーむ……これを壮観と言っていいのだろうか……。
城壁の上から眺め、首を傾げる。
今、私の眼前には、城壁を前に相対する2つの軍の姿がある。
私達側が、前衛に並ぶゴブリン。その後ろに並ぶリザードマンとサラマンダー隊。その更に後ろに並ぶ巨人族隊(人間サイズ)とドラゴン隊(人型バージョン)。で、オーガ隊。城壁外側一番後方に守られるドワーフ隊。城壁、一番高い場所に立つ私。
ドラゴンロード隊が、ドラゴンロードが1人突出し、後は横並びに雑に並んでいる。
うーむ……。
私はちらりと足元に目を向けた。
オレガンディル総司令官の指示という名のカンペ。立ったまま読めるようになかなか大きな紙に、大きく書かれ、風に飛ばされないように沢山の重しで押さえられている。
一番、いらなくなったかな? ドラゴンロード、前に出てるし。
普通、お偉いさんって一番後ろにいるんだと思ってたけど……。まぁ、一番の挑発して前へ出すってのがいらなくなったからいいか。
しっかし……本当にこれでいいの? いや、確かに言ったよ? 言ったけど……でも、えぇー……?
まぁ、いっかぁ~!
「このドラゴンロード、ディシリアルフ・フォンデリ・ルディアーノ・グレセム様の配下に下るなら、蹂躙はしないでやるぞ!」
えぇー……突然なんか言ってきたー……。
こう……お偉いさんが話すときって、もうちょっとこう……なんていうの……? これから話しますよ、的な何かがあるもんじゃないの??? 突然言ってきていいの?! 予想外!!
ちらっと後ろに立つ爺を見たら、爺は頭の痛そうな顔をしていた。
あ、やっぱあの白い竜がおかしいのね? そうだよね?
こんな戦争しますよ~~~! みたいなときに、あんな、雑兵みたいな真似、大将はしないよね? ね?
「我らの主君、リナ様よりご返答がある!!」
オレガンディル総司令官の声が響き渡る。
これは……私に答えろってことですね? これからシナリオ通りにやれ、と。そういうことですね?
うぉー……怖いーー!!
緊張するーーー!!!
噛まないかな?!
「我々アルカディアはいかなる武力の前にも膝を屈しない! 不当にこの地に攻め込む痴れ者よ! 去るが良い!!」
「ぐぁーはっはっはっ!! たかが人間ふぜいがこのドラゴンロードである俺に逆らうか! その勇気を称え、先手を譲ってやろう!!」
こちらを完全にバカにして笑うドラゴンロード。
……。
バカなの?
え? バカなのアイツ……?!
マジで??
流石に困っちゃうよ?
こんなにあっさりなんて……。
えー……もう作戦のほぼ成功が確約されましたが……大丈夫??
「な、ならば……ゴブリン隊、下がりなさい! リザードマン隊、前へ!」
完全に訓練された動きで、一瞬の無駄もなく入れ替わるゴブリン隊とリザードマン隊。
すごいなぁー! たった1週間やそこらでもこれだけできるんだ!
いや、彼らは普段もオレガンディル総司令官達と訓練しているから、この程度はできるのかな?
「それで終わりか?! では、行くぞ!!」
いやぁ、そんなわけないじゃないか。
と、いうか、私達の準備はもう終わっている。
ドラゴンロード……頭の悪い白トカゲでいっかな? 彼が一歩踏み出したその瞬間、地盤陥没。白トカゲの半身とちょっとが穴の中へ埋まった。
これは事前にラットマンの皆さんが頑張って掘っていたのだ。
白トカゲのサイズを肉眼で確認、陣形確認後、総出で穴掘り作業。一歩踏み出したら自重で落とし穴直行。題して、落とし穴大作戦(笑)
いやぁ~綺麗に決まったなぁ。
アホだな、アイツ……。
「ナーガ隊!! 前へ!! 石化弾発射!!」
リザードマン達の間に隠れていたナーガ達が姿を現す。あらかじめ準備していてもらった、石化魔法を放ってもらう。
「ふんっ! 小細工など通じんぞ! 俺に状態異常は効かない!!」
うん、君には、ね。
ナーガ隊の放った魔法は、綺麗な曲線を描き、着弾した。白トカゲ周辺の土に。
白トカゲは土に埋まっていたはずなのに、石に埋まったことになる。
突然固くなった周囲に、驚愕する白トカゲ。
「リザードマン隊、進軍! ゴブリンメイジ隊、拘束魔法!!」
足下のカンペを読み上げる。
すぐにリザードマン達が武器を手に進軍。ゴブリン隊に紛れ込んでいたゴブリンメイジ隊が拘束魔法を放った。
ゴブリンメイジ隊の魔法は、白トカゲが引き連れてきた雑魚を捕縛する。
突然地面から生えた鎖に、あっと言う間に拘束され、身動き取れなくなる白トカゲ配下。迫ってくるリザードマン達に悲鳴を上げるが、残念! 彼らの目標は君たちではありません!
武器を手に、リザードマン達が向かうのは白トカゲの下。
いかにたかが石とはいえ、身体の半分以上を埋められては上手く動けまい!!
ちゃんと、地中も石化するよう、ラットマン隊のつくった道にナーガ隊は配置されていたんだよ~!
いやいや~~~白トカゲがアホでよかったな~!
はっはっは! 見下してきた存在なんか、怖くないよね? ね? 雑魚って見下してきたんだもん! 上から目線で命令して!
さぁ、行こうか!! 世の中には下克上ってのがあるんだよ!
「ドワーフ隊、窯の用意!」
運ばれてきた窯。爺の生み出したアダマンタイト製の窯に、ファイヤードラゴンがファイヤーブレスで一気に高火力の火を入れる。
「ラットマン隊、替えの武器の準備!」
ぐるりと白トカゲを取り囲むリザードマン達が、一斉に武器を振り上げた。
白トカゲの鱗の硬さは十分理解している。リザードマン達じゃその鱗を破壊し、剣や斧で傷つけるのは無理だ。でも、鈍器として扱えばどうかな?
ひたすら頭を殴られ続ける……結構な恐怖だと思うんだー……。まぁ、立案者は私ではなくオレガンディル総司令官なわけだが……。
いや、確かに言ったよ? 『勝てば官軍負ければ賊軍』って。それでこんなやり方にいっちゃう??
いやぁ……怖いなぁ、オレガンディル総司令官。
数発殴っちゃぁ壊れた武器を投げ捨てるリザードマン達。ラットマン隊が次々武器を運び、それに持ち替える。で、再び殴る。
ラットマン隊は捨てられた武器を拾い、ドワーフ隊に届ける。
ドワーフ隊は壊れた武器を打ち直す。
これで延々攻撃可能。
雑魚による無粋な邪魔は入らない。
うぅむ……すごいなぁ……。
こんなに簡単に事が進むなんて……酷いもんだよ……あの白トカゲのアホさ加減。こりゃぁ使われちゃうよねー。いいように使われちゃうよねー。力が強いだけのアホなんてー。
それぞれの部隊を3部隊構成にしてある。休みなく攻撃し、休みなく配給し、休みなく打ち直しができる。拘束魔法も解ける前に再度かけなおす。
大勢に取り囲まれ、全力で鈍器で殴られ続ける白トカゲが、なんか泣き言言っているけど気にしない。
テントや長机、椅子を用意する。
広々としたそこは炊き出し用のスペース。
反対側には沢山のテント。こっちは就寝スペース。ごつごつした地面で寝なくてもいいように、床の全てをふっかふかのクッション付きベッドで埋めてある。枕も完備! これで仮眠でもぐっすり安眠!
さぁ、準備は整った! 皆頑張れ! 私は魔王様と特別テントで優雅にティータイムを楽しみます。
なお、不平不満が溜まらないように、時間制にしました。
3時間に一度お知らせくださるのはコカトリスの皆さんです。
いやぁ……頼んでみるもんだ。
他の兵士諸君は疲れがたまるころに新たな兵力として出ていただきます。……出る事あるのかな?
まぁいいや。
とにかく私達があとする事って言えば、白トカゲが本気で泣き出すのを待つだけだ。優雅にお茶を飲み、魔王様と遊び、美味しいご飯を食べて、仮設の風呂とトイレも十分な数用意してある。仮設とは言え、立派なテントとベッドで快適な睡眠をとる。
うん。万全万全。とても戦の最中とは思えないよねー。
本当にオレガンディル総司令官、いい性格してる……。
片や優雅な生活+適度な憂さ晴らし兼運動をしているような集団。片や拘束され、身動き取れないまま、自分の主がぼこ殴りにされるのを眺めて、空腹に腹を鳴らしながら美味しそうな匂いをかがされ続ける集団。
あぁー酷い! 本当に酷い!
白トカゲが早く降参するといいねー!
そんなことを考えながら特別テントに移動し、魔王様の大好きなティーセットを取り出す。
紅茶はダージリン。魔王様にはフルーツジュース(アップル、オレンジ、グーレプの三種)と牛乳。スイーツタワーにはイチゴ、チョコ、チーズなどのショートケーキ各種、カップケーキ各種、チョコレート各種。マカロンはどうも私が苦手なので、今回はパス。でもあれ、多分ウケると思うんだよねー。今度は出そうかな?
特設されたそれなりの台にセットして、準備完了!
魔王様も、爺も、リリアナとエリアナも、ジルも、ウキウキした表情。いいことです。子供がお菓子を食べてにこにこしている顔は正義です。正義。一部子供じゃないのがいるが気にしない。
しばらくは、ちょっと大分豪華なキャンプ(城壁すぐそば)を楽しむことにしますかね! どうせあの白トカゲ、最低でも3日は喋らせないで殴り続ける予定らしいし。
城壁のメモはオレガンディル総司令官が片付けてくれたので、私は自分用の小さなメモを、スカートのポケットから取り出し、確認する。
うーむ。これから最低3日はこのままの状態を維持、その後白トカゲが本気で泣きが入ったら配下契約。白トカゲが泣いて詫びるまでは絶対やめない。白トカゲが本気で泣いているかどうかの判断は、取り囲んでいるリザードマン達。
まぁ、うん、少なくとも「リザードマンふぜいが」とか「トカゲの分際で」とか、殴打音の合間に聞こえてくるようじゃ、まだまだ心は折れてないよね。
煩いので、とりあえず防音結界を爺に張ってもらう。
リザードマン達の垣根があるので、暴行事件の現場は見えないけど、音とかしちゃうからねー。魔王様の教育によくないもんねー。
用事があるならテントの前にある、魔法の鈴を鳴らしてくれるはず。あの鈴は爺作で、このテントの中にもある。外で鳴れば中の鈴が鳴る。逆も然りらしい。魔法って本当に便利だなー!!
いいなーいいなー私も使ってみたいなー。
現代社会の文明より良い物はないって思ってたけど、魔法すごいなー! なんでもできるー!
でも残念かな。私に魔法の才能はないらしい……がっかり!
魔力は一応程度すぎるほど一応あっても、それを使いこなす才能と体内器官が0なんて言われたらもうショックだよ!! がっかりにもほどがある!!
「りな。あれふ、チョコのもたべたぁい」
「はい、アレフ様、どうぞ」
おっふ!! 可愛いな!!!
急に目の前で満面の笑みとかしちゃわないでよ!!!
眩しさに眩暈がしそうでしたよ?! うっかり心臓マッサージが必要になったらどうしてくれるんですか?!
も~~~!! 魔王様ってば本当に可愛いわぁ。天使だわぁ。
ご希望のチョコレートのショートケーキを皿に取る。
魔王様に渡し、すぐに飲み物も。魔王様は普段オレンジジュースが好きなんだけど、今回はチョコのケーキを選んでいるからアップルジュースにしておいた。
「わ、わたくしは、イチゴの白いケーキが、を、とってください」
「わた、わたくしもリリ姉ぇ……リリアナ御姉様と同じものを……」
うむ! 2人とも丁寧な言葉遣いを心掛けているようで何より!
魔王様の御姉様役なんだから、頑張ってくださいね~!
ご希望のイチゴのショートケーキをとりわけ、2人に渡す。
……食べ方もチェックしていますからね?
「ひぅっ!!」
「ひっ!!」
思っただけなのに、今まさに食べようとしていた2人がびくん! と大きく跳ねた。ぷるぷる震えながらチラッと私の方を見る。
なぜにこんなにびびられてんだ……?
「そりゃお主、お主が怖いからじゃろう。あ、儂は全種類な」
おーーーっと! さらっと失礼な事言いますね、爺!
しっつれいな! 私のどこが怖いんですか、どこが!
爺が自分の娘をちゃんと躾けてなかったから、毎日私に怒られるんでしょーー??
乱暴な言葉遣い、粗野な態度! とても王様の御姉様なんて名乗れる姿じゃないのは、爺だってわかっているはず!
私が怒るのは、悪い事をした時だけでしょーに!
まったく! 酷い話ですよ!
「お前……セイレーン達に何したのか、もう忘れおったのか……」
呆れたような爺。
覚えていますよ?
あれだって、要は彼女たちが悪い事をしたから、でしょう? もとはと言えば、彼女たち自身がまいた種。私は悪くありません!
せっせと更にケーキを盛っては爺に渡す。3段分全部だから、皿3枚も使ったよ。どうせジルも同じ条件だろうから、言い出す前に皿に盛り、渡す。
「おお! 流石はリナ! 俺の未来の嫁だ! 言わなくてもわかっているなんてな!」
ものすっごく嬉しそうにしているが、こいつはとりあえず無視。
なんか感激しているけど無視。
渡したらさっさとお茶の準備をする。
魔王様にはジュースだけど、他の人は全員紅茶。一応角砂糖もあるけど、まぁ、スイーツ食べ放題でいらないかなー……。
とりあえずティーカップにそそいで全員に渡す。これでよし!
いそいそと魔王様の隣に腰掛け、食べるのを待っていた魔王様のフォークを受け取る。
そっと一口大にチョコレートケーキをカットし……。
「はい、あーん」
「あーんっんーー!!」
ぱくっと食べると、頬に手を当て、顔を輝かせる魔王様。
ぐふっっ!! い、いかん……これは破壊力がすごい!!!
なんだ、この可愛い生き物は!!!
くぅうううっ!! 必死に働き、魔王様と戯れる時間がなかったここしばらくの疲れが吹っ飛んでいくわぁあああああっ!!!
くっそたまらん!!!
表面上は取り繕ってにこにこ笑いつつ、久しぶりの癒しを全力で味わうことにした。




