23 街の構想を話そう
さて、と爺を見る。
爺は「ん?」と首を傾げた。
私としては、できるだけ早く解決したい事案がある。
「デルフォリアス宰相閣下」
「なんじゃ?」
「街と城を繋ぐ転移の魔法とか、ありますか?」
そう! これ!
まず、距離の問題!
城と街が遠すぎる。これをどうにかしたい。
「あるぞ。というか、使っておるではないか。食料の運搬に」
そうだよ!! あるじゃん!!!
それだよ!!!
それを移動用に使うんだ。
先ずは城と中央広場。
次は、城と各城門。それから、街も大きな街になりそうだから、各エリアへ移動する時間を短縮するため、食糧庫の近くに中央広場と繋げば、中央広場経由でどこのエリアでも行けるはず!
こうすれば、各集落に住む種族たちの距離もぐっと近くなるはず!!
それに、後から来て、エルフやドワーフ達が居を構える中央から遠くなった者達が、彼らの店を使うにも不便がないはず!
「ふむ、良い発想じゃ。では、さっそく転移陣の準備をしよう。しかし、転移陣を雨ざらし野ざらしにするのはあまりお勧めせんのぅ」
「ではエルフやドワーフ達に小屋を作ってもらいましょう。そうそう。次は彼らと話をしたかったのです。城下町を覆う城壁の建設、自然を残しつつも、人々の足が疲れないよう道を舗装し、ところどころにベンチの設置、と彼らに色々頼みたいのです」
「ベンチとはなんじゃ?」
「ええっと……長椅子、でしょうか。今腰掛けております、この3人掛けのソファーの木製骨組みだけのものです。木製なので、雨ざらし野ざらしでも問題ありませんし、日が照ってもそこまで熱くはなりません。これは私の希望なのですが、ベンチを設置した場所は、できれば藤棚のようなものを作り、木陰になるようにしたいのです」
言いながら、紙を取りに行き、そこに絵を描く。
そういえば、この紙、爺が魔法で作ってくれたけど、普通は木の板に木炭で書き記すらしい。紙を作る技術を持った者が少なく、紙自体はなかなか手に入らないんだって。
爺がいてくれてよかったなぁ……。
爺は複雑でなく、想像した本人がちゃんと構造を理解しているもので、大型のものでなかれば大体作れる。
ボールペンは無理だったけど、鉛筆と、紙、羽ペンとインクは作れた。その他にも使わないけど、筆と墨も作ってもらった。あと、インクの色違い、という卑怯技で、沢山の色のインクも作ってもらった。
クレヨンが本当はよかったけど……このインクと筆で、魔王様にはお絵かきしてもらっている。
「では、エルフたちの他に、ドリアード達にも来てもらわんとならんな」
「はい」
「他に予定は?」
他?
うーん……。
エルフやドワーフ達と、街の話が終わったら、次は各種族長に来てもらって、住民台帳の更新かな。シルフィナさん達が作ったモノって信用できないし。
それから、進化があったときの連絡網の再構築もしなくては……。
今後定期的に会議を開くようにすることも決めなくちゃいけないし……。
「ふむ。では、一度街に下り、エルフ達を招集、街についての話し合いの後に部族長に城に来るよう伝え、城に戻ればどうじゃ?」
うん! 爺天才!!
場所はどうしよう?
エルフやドワーフ達、どれにドリアードで252人。
……全員呼ぶ、となると……中央広場じゃ邪魔になるよねぇ……?
「広場でよかろう。今、そこまであの場所に価値はない。あくまで、お前が何となく言った街並み的に作られた場所にすぎん」
そ、そうなんだぁ……。
ちょっとショック……。
あの広場を活用しようとか、城壁と城の間にある噴水素敵とか……色々考えてたんだけど……。
でもまぁ、魔物にそういった文化がないんじゃしょうがないよね……。
「ところで……ジルはどうしてここにいるのですか?」
「今更?! ま、まぁ、そういう俺に割と無関心なところもお前の魅力だとは思うけど……でも、もう少し俺に関心持ってほしい……」
がっくりと項垂れるジル。
いや、そんなこと言われても、ねぇ?
所詮魔王様の護衛のつもりでしかないし。興味ないし。
爺がなんか可哀そうな者を見るような目でジルを見ている。
何故だ……?
私がジルに興味がない、というより、ジルの変態性癖に拒否を示しているのは知っているはずだろう……?
「お、俺は誓約しているからお前の側からあまり遠くへは離れられないぞ……」
「ああ、そういえば、そんな事ありましたね」
「がはっ……わ、忘れられていた……」
ソファーから滑り落ちて、手足をつき、がっくり項垂れないでよ。なんか私が悪いみたいじゃん。
失礼な。
爺が完全にジト目だけど気にしない。
だって私悪くないもん。
あの誓約だって、ジルが突然、勝手にしただけだし? 私の許可とか一切なかったじゃん。だから知らん。
「そんな事はどうでもよろしい」
「そんな事言われた……ショックだ……」
「貴方にはシルフィナ達の教育をお願いしたと思いますが?」
しくしくと嘘泣きっぽい声を上げているジルを無視して疑問を投げかける。
それにジルが顔を上げた。
涙はない。
ほらね、嘘泣きだった。
「やってるぞ。現在も俺の使役している奴らが」
「え?」
「俺だってちゃんと配下がいる。俺の主はリナだから、リナの言う事もきくけど、リナは俺が守るからな。アイツらは俺の手足として使ってる」
「主であるジルクフリードエッフェルとお前の配下の儀が済んでおるので、ジルクフリードエッフェルの部下がお前に害為す事はない。安心せよ」
爺フォローナイス。
つまり、私や爺の配下が魔王様へ敬意がないのは、私や爺と魔王様が配下の儀をしていないから? それが済めば、魔王様に従うのかな? それなら別に魔王様に無理に力を示してもらわなくてもいいのかな?
しかし残念かな。爺がゆっくりと首を左右に振った。
「儂の方はそれでよいが、お前はダメじゃな。お前は神により魔王のナニーと定められておる。アレフ様との関係はあくまでもナニーとしての関係のみじゃ。いうなれば、お主は神の配下。いくらアレフ様が育たれても、流石に神を超えるのは無理じゃ。お前を配下としては奪えまい」
くっそ……微妙に足枷になりやがって!!!
まぁいい……。なら当初の計画どおり、魔王様が育てって、私の配下に力を示し、全部配下にしてしまえばいいんだから。
それよりも、ジルだジル。
シルフィナさん達をオレガンディル総司令官達が連れて行ったあとも、全然私から離れていなし、何かしていたように見えなかったけど……いったいいつの間に……?
ちょっと聞いてみたいけど、興味を示した! とかテンションあげられても困るし……よし、無視しよう。
「では問題はないのですね?」
「おう。今、地下牢は楽しそうな悲鳴が上がってるから、近寄るなよ? 終わったら誰かに伝えるから」
「わかりました」
私を心配したのか、魔王様を心配したのかは知らない。でも、ジルがそう言うんだ。多分、見た目的にあまりよろしくない状態なんだろう。
地下牢は近寄らないっと。
まぁ、シルフィナさん達の件が片付いたら、一度確認にいかないとね。牢番の犯罪の温床になっちゃいけないし。
とりあえず今このメンバーだけで話し合う事は終わったので、森へ寄ってドリアードを集めると、爺の魔法で城下町へと移動する。
その辺を歩いていたエルフを捕まえ、街の工事に関して話したいから担当のエルフとドワーフを全て集めるよう伝える。
頼まれたエルフは喜色満面の笑みで駆けていった。
なんでや。
「そりゃ、城や街を作って以降、滅多に城へのお呼びもかからんからじゃろう……」
えぇぇ!? それで!?
むしろあれこれ命令されなくて、のびのびやってるんじゃないの?!
「そんなわけなかろう。配下にとって、主からの命令は自らを認められているという確認じゃぞ」
そ、そうなの?!
知らなかった……。
すまん、エルフやドワーフ達……。
てっきり酒やって飯あげてれば彼らは喜んでるんだと思ってたよ……本当にすまん!
今度から特に用がなくてもちょいちょいお願い事しよう。その為にもやはり転移陣の設置は最重要項目だな。
ドドドと足音が響き、土煙を上げながらエルフやドワーフ達が走ってくる。
全員笑顔だ。
怖い。
いや、ドワーフ達は毛むくじゃら集団で、この距離じゃ表情がわからないけど、多分、競うように短い足で走ってきているからそれであってると思う。
「「「「お呼びにより、はせ参じました!!! リナ様! ご命令を!」」」」
大合唱。
煩い。
しかし、私は文句を言ってはいけない。
こんなキラキラされるほど待たせていたんだから……。
「……皆さんに城下町の完成と、城壁の作成をお願いしたいと思います」
「お任せください!」
「我らの技術があれば滞りなく進められるでしょう!」
うん、知ってる。
材料と人員が揃っていれば、君たちの仕事、異様に速いからね。
あの島のようなお城も、この城下町予定地の半分を埋める住宅地も、現代建築を知っている私にさえ想像もつかない速さで建てていったもんね。
私、二階建ての家が1週間もいらずに建つなんて知らなかったよ……。しかも、進化によって、デカすぎた身長が程よくなった種族の家も、ガンガン建て直していったって聞いてる。
君たち有能すぎるから。
その速さが仕事をなくした原因だと思う。
でも、そうだなぁ……今度のは多分数年単位の工事になるはず……多分。いや、無理だな。どうせ彼らは異様な速さで終わらせるよ。
で、それが終わったら、城に保管する武器とか装飾品とか、そういうなんかをつくってもらうことにしよう……。うん。
その前にジルの貯めた財宝とか金貨とかの価値を調べて、お金を普及させて、対価はお金で払えるようになったらいいなぁー。
財務担当に人間の国の腕の良い商人とか連れてこれないかなー。そしたら丸投げするのに……。
「こういう風に……」
持ってきておいた紙に鉛筆で絵を描く。
ほんと、保育士でよかった。
絵を描く機会多くて、かなり鍛えられたよね……。でも絵は描けるのに、美的センスに活かせてないって謎だなー。
城を中心とした八角形の街を描く。
「……街を作りたいと思います。今は誰も住んでいない場所は一度更地にしてください。そして、街の周りを城壁で取り囲み、城門はこの4か所……」
東西南北に×記しを入れる。
後ろの方にいる人たちにも見えるように絵を掲げた。
全員の視線がその絵にくぎ付けになる。
「どうでしょう? 可能でしょうか?」
「おう、勿論だ」
「材料を揃え、人員の確保が済めば1年もかからず終えられます!」
マジかよ。すげぇな。
絶対10年かかると思ったよ。城壁とか特に。
でもこの人たちがやれるって言ったらやれるんだろうなぁ……。
「では、街の工事のさい、このような休憩所を何箇所か設け、あと、減った木々の代わりにもならないかもしれませんが、街路樹や花壇を増やしてもらいえますか?」
爺に見せた藤棚の下にベンチが置かれたイラストを見せる。
「その絵のようなものですが……長椅子の代わりに、木の蔦を編んで椅子状にしたものでよければ、私達ドリアードだけでつくれますわ、リナ様」
挙手するドリアードの先頭に立つ女性。
お?
本当に?
というか配下かも怪しいのに手伝ってくれるの? いや、手伝ってもらおうと思ってここに連れてきたんだけどね?
「リナ様の案は自然を大事にしてくださっているので、私達ドリアードも手伝うのはやぶさかではありませんのよ」
「では、お願いできますか? できるだけ、上の植物は葉がしっかりと生い茂るようなものが良いのですが……」
「お任せください。ご期待に沿える物をお造りします、とお約束いたします」
これで街中の椅子に人員は割かずにすむ。
ありがたいありがたい。
「花壇の方も私達ドリアードが担当いたします」
ドリアードが担当するなら、柵とかも木の根とか蔦とかで作られ、自然たっぷりのものになるだろう。
願ってもない!
是非お願いします。
「では、お願いいたします。……感謝いたします」
とても楽しみです!
にっこり笑えば、ドリアード達もにっこりと笑い返してくれた。
うぉぉ……美人の笑顔、破壊力すごい!
「で、では、続けます。……現在、街中の道なのですが、土の道で、雨の日とか泥だらけになり問題があると思います。できれば、人の通行や荷車が通る道には雨水が流れる道を設けた石畳等の通路を作りたいと思います」
「うむ。確かにそれは助かる」
「やはり資材を運ぶにも、ある程度整えられた道の方が良いですからね」
エルフやドワーフ達は嬉しそうだ。ドリアード達は……特に反論はないみたい。全部が全部土を覆い隠すわけじゃないし、許容範囲ってことかな?
「そして、最後になりますが、これが最も重要な建築です」
転移陣を置く話をする。
ドリアード達以外は全員、食料を食糧庫に転移してもらっているので、転移陣への理解は早い。
城と街をより身近にし、自分達が街へ行くためにも是非早めに準備してほしいと言えば、エルフやドワーフ達の目つきが変わった。
「ではどうじゃ? 中央広場の周囲にある家をいくつか潰し、そこに転移陣用の建物を建築する」
「いいと思います。転移陣は石に掘れば消費も低いはず。となれば、屋根とそれを支える柱があれば良いはずです」
「転移者同士がぶつからぬよう、そこそこの広さをとるから……そうじゃの儂たち側から3棟、お主たち側から3棟潰してはどうじゃ?」
「欲を言えばその隣を含める6棟ではないでしょうか? それだけの広さがあれば、後に転移陣を増やすときも、安心してスペースを確保できる程の街の広さではないでしょうか?」
「うむ、確かに」
……。
こっちそっちのけで話し始めた!
しかも結構話の流れが速い!
「リナ様! 転移陣はいくつ程設置する予定でしょうか?!」
「そ、そうですね……城とつなぐものを1つ、それから……街を8つのエリアに分けるので8つ。全部で9つ、ですね」
詰め寄ってくるエルフやドワーフ達が怖い。
思わず一歩後ずさりそうになるのを、何とか堪える。
8角形の図を描き、中心から頂点へと線を引いて8つの三角にしたその、各線の上に×印で転移先はこのあたり、と示す。
「で、あれば、今ある噴水を潰し、そこに城からの転移陣を置く。で、儂ら側に4つ、お主たち側に4つ、でどうだ?」
「異論はありません。リナ様がお越しになる転移陣が中央なら、余計な争いのタネにはならないでしょう」
えぇー……? そんなことで喧嘩になるのー??
平等って難しー。
城からの転移陣を一つにしてよかったよ。昨日はエルフ側使ったから~とか覚えてられないって。
「石に転移陣を刻むのは儂らドワーフが担当しよう」
「では、その石に魔力を流すのは私達エルフが担当いたしましょう」
サクサク話が進んでいく。
「最後はデルフォリアス宰相閣下が仕上げてくれるのだろう?」
「最後はデルフォリアス宰相閣下が仕上げてくださるのですよね?」
ぐるん、と突然振り向き、話を振るエルフとドワーフの代表。
爺は大仰に頷く。
「無論じゃ。儂が仕上げねば転移術は完成せぬ。お主たちが完成させたら即座につなぐと約束しよう」
うおおおお! と雄たけびが上がる。
エルフとドワーフ達があげた歓声の声だ。
びりびりと響き、近くの建物の窓が揺れ、まるで小規模の地震が起きたのかと錯覚するほどだ。
何? そんなに他エリア繋ぐの嬉しいの?
「いや、城じゃろ。お主が街中にやってくると言ったからじゃ」
こそこそと耳打ちする爺。
そ、そんなに??
そんなに嬉しいものなの???
う、うん、これからは魔王様とのお散歩は街中にしよう……。そうしよう。それで皆が嬉しいなら、そうするよ。
「では街の新しい設計等に関しましては、皆で話し合ってください。それと、後日、各種族の代表を集め、城で会議をしたいと思います。会議内容は、街の建築、城壁の建築、防衛における兵士の徴収、と多岐にわたります。代表者は準備をお願いいたします」
かしこまりました、と大きな声がかえる。
んー……よかった。これで一旦は終了かな。
後はまだ話が行っていない食料係さん達に声をかけて、会議の日付は……あ、どうしよう。決めてなかった。あとで通達しよう。
とりあえず、今日はもう帰ろう。帰るんだ。
帰って皆でゆっくりご飯食べて休もう。
今日は十分働いた!
頑張るのはまた明日から !




