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21 新しい配下


 ざわめく中央広場を抜け、城へと戻る。


 なんか、ここ数日、本当に怒涛だったなー。


 疲れたよー。


 魔王様も毎日毎日、連れまわされて可哀そうだったな……。


 しばらく休暇にして、魔王様の心のケアをした方が良いんじゃないかな?


 そうは思うけど、やらないといけないことがまだまだ山積みだよ。


 先ずは爺配下の双子にお礼を贈呈。それから、盗まれた料理を探して消す。えぇっと、城は無事修復できてるのかな? その確認も必要で、あと、もうそろそろ壁作らなくちゃ。なんか、ここ、有名になってきているらしいし、いつまでもどこからでも侵入できる城下町ってダメだよね。


 周囲をぐるっと壁で覆って……そうだ。そういえば、城下町の道とか、舗装してもらわないと。この自然味溢れた感じも捨てがたいけど、ちょっと歩きづらいんだよね。でも、木々や自然を減らしてほしくないので、その辺もどうにかしてもらえないかなー。


 あ、シルフィナさんが管理していた住民台帳の真偽も確認しなくちゃなぁ。やっぱり、こういうところにはちゃんと信頼できる人をつけなくちゃダメだ。でも信頼だけじゃダメ。能力もないと。


 私はただの一般市民で保育士。国の運営をする気はない。その辺は爺と、そういったことが得意な人たちでしないと。


 あっ!!! 今まで部族をまとめていた人を全員そのまま使えばよくない?!


 まとめてたってことは、まとめられるだけの能力があるってことじゃん! なんで今まで気づかなかったんだろう?!


 爺が残念そうな視線を向けたけど見えない見えない。


 部族をまとめていた人は全部私と交渉した人であってるだろう。


 となると、食料係さんじゃん!!


 めっちゃ勿体ない使い方してた!!!


 よし、そうとわかればすぐに招集しよう。


 こういうのは全部さっさと終わらせて、それから一月二月まるっと魔王様を甘やかす日々に費やすんだ!


「というわけでデルフォリアス宰相閣下」

「うむ」

「よろしいですよね?」

「……うむ」


 爺の目が言っている。


 魔王様の為と言いながら、お前が楽しむためだろ、と。


 ええ、そうですが、何か?!


 私だって癒されたいわ!!!


 毎日毎日毎日!!!


 なんでただの保育士が国政についてあれこれやってんの?!


 意味わからんわ!!!


 私はナニーとして呼ばれたんじゃなかったの?!


 こんなんナニーの仕事じゃないわ!!!


 私の仕事は子供を愛でること!!! 愛でる事なんだぁあああっ!!!


「いや、ナニーは子供の教育をするものであって愛でる人ではないぞ?」


 煩い!


 こんなの教育に関係ないんだから、どうせ私の仕事じゃない!!!


 爺の仕事だろう!?


「国を作る必要はないから儂の仕事ではないぞ」


 ああ言えばこう言う!!!


 だいたい、そんなんだから簡単に人間というか、勇者に滅ぼされるんじゃないの?!


 少しはまとまったらどうなの魔物!!!


 協調性ってやつが足りないんだ!!!


「うむ……それについては……否定ができんの……」


 わかってんならちったぁ協力しろよ!!!!


 なんで国政の関係、最近全部私に丸投げなんだよ!!!


「裏方以外はお前の方が人間で、国というものに所属していただけわかるじゃろう?」


 わかるでかい!!!


 私は一般市民!!


 運営側じゃないの!!!


 国の運営方法とか知らんわ!!


 なんだその、住んでたから全部知ってるよね。的な考え!! びっくりするわ!


 ……はぁ……。疲れた。本当に疲れた。


 魔王様のぷりぷりキュートな笑顔に癒されたい……。


 最近めっきりなくなったイカフォルムの腹回りが懐かしいなぁ……。


 もう3頭身以上の身長だしなぁ……。


 なんか、最近、魔王様のモフモフの下半身が、人間的になりつつある気がする。


「うむ、後2年も経たずに人間と変わらぬ形となるぞ」


 そうなんだー。この産毛のようなふわふわな下半身も今だけなんだー。これ、子供の証か何かなのかなぁー。


 結構手触りいいし、可愛く思ってたんだけどなー。


 くだらない事を考えていたら、城までの道のりは意外と苦にならなかった。結構、広場から橋までも距離があるし、橋を越えてからも長いんだけどね。


 普段はここを超えてどこかに行くことはない。


 というか、ここまで下りてくることもない。


 綺麗で広いってのはこういうデメリットもでてくる。なんというか……よく考えればよかったー。


 こう……イメージ的なものだけであれこれするのって、ほんと良くないね。でも、これが一般市民の限界ってやつなんだよ。


 なんとなーく広いお家に憧れて? なんとなーくお貴族様の家には噴水があって? みたいなふわっとしたイメージ。で、自分の希望を全部詰め込めますよって言われたら、ついうっかり、ああいうのもいい、こういうのもいい、とイメージと好きなものを口走って……結局エルフやドワーフ達は皆それらを叶えてくれて……ふぅ……悪いのは全部過去の私ですとも。


 あれもこれもでぐちゃぐちゃしたものをセンス良くまとめてくれたエルフやドワーフ達には頭が上がりません……。そしてこれからもぐちゃぐちゃしたお願いをして、綺麗にまとめてもらおうと思っております。


 そんなことを考えていたら、魔王様の自室前に到着した。


 1週間前、ジルがぶち壊したけど……どうなってるかな?


 扉を開けたらそこは……以前と何ら変わりのない魔王様の子供部屋。


 流石はエルフやドワーフ達。仕事の速さも、仕上がりも一流です。


 今度お礼しないとなー。


 さてさて、それではまず、爺の配下の2人にお礼の品を渡そう。


 とりあえず爺たち全員を椅子に案内。護衛の皆は魔王様の周りに立っている。


 何がいいかな?


 可愛らしい少女2人。


 私が渡せるのは料理だけだし……そうだ。


 取り出したるは宝石箱風の何か。


 爺に差し出す。


「デルフォリアス宰相閣下、もしよろしければお受け取りください」

「ほぅ? これはなんじゃ?」

「宝石を模した飴でございます。配下を救っていただいた感謝を込めまして、贈らせていただけたらと思います」


 ぱかりと蓋をあければ、そこには綺麗にカットされた宝石のような色とりどりの飴がぎっしりと詰まっている。


 昔、こういうの憧れたなぁ。


 飾ってよし、食べて良し。でもめっちゃ高い。


 親はこういうの全然買ってくれなくて、でも大人になって自分で稼ぐようになってからは割に合わなくて、やっぱり買わなかった。今は出したい放題です。


「ふむ。では今回の功労者であるこの者達に下賜しよう」


 頭の中を読んでいて、私の言いたいことなんてよくわかっている爺は、少女2人に箱を渡す。渡された少女2人は恐る恐るそれを受け取った。


 くんくんと匂いを嗅ぐ姿は、人間というより動物のようだ。


 というか、飴だし、そんな匂いを嗅いでわかるのかな? 一応甘い香りがするイメージで出しはしたけど……。


 右側に立った少女が、箱の中身を取り出し、ぱくっと食べた。


「ん~~~!!」


 途端、輝く笑顔。頬を押さえ、嬉しそうだ。


 箱を持っていた少女も、我慢できず、1個取り出し、ぱくっと頬張った。


「ん~~~!!」


 反応も一緒ですか。


 マジで双子ですか?


 ぎゅるん、と音が立ちそうな程の速さで私を振り向くと、一瞬で間合いを詰めた。


「何これ、美味しい!」

「爺がこそこそ食べてるのこれ?!」


 うん?


 爺?


 爺のことを爺?


 君たち、爺の配下じゃないの?


「そやつらは儂の娘じゃ」


 んん?! む、娘?! え?! でも、この子達、どう見ても12,3歳くらいだよ?!


「右がリリアナ、左がエリアナ。1700歳じゃな」


 おう……。


 とんでもなく年上でした。


 可愛く見えて……んんっ。


 じょ、女性の年齢なんて失礼だよね、うん。


「爺ばっかりずるい!」

「私達にももっとよこせ!」

「リリアナ! エリアナ!」

「まぁまぁ、デルフォリアス宰相閣下」


 窘めようとする爺を止め、にこり、と微笑む。


 笑顔の意味に気づいた爺はあきれ顔を向け、口を引き結んだ。


 2人を見る。


 黒い髪の少女がリリアナ。白い髪の少女がエリアナ。可愛らしい双子だ。ちょっと釣り目気味で、まだまだやんちゃ盛りという感じ。


 これで1700歳かぁ……。


「リリアナ様、エリアナ様、私の料理は私の手助けをしてくださる方にしかお渡しできません」

「人間が生意気だぞ!」

「私達は竜人!」

「で? なんでしょうか?」

「え?」

「えぇっと……」


 悠然と微笑めば、少女たちは困惑する。


 竜人だと解れば誰もが跪き、全てを差し出してきたのだろう。自分が従わなくてはならないのは、自分の親であり、自分より強い爺だけだったのだろう。


「貴方が竜人だというなら、わたくしは神より遣わされし者ですよ」

「神?!」

「神様が?!」


 驚いたように目を丸くすると、2人はあわあわと離れていった。そして、ばっと頭を下げる。


「知らなかったの!」

「ごめんなさい!」


 さて、ここで意地悪を言っても良いんだけど、どうしようかな。


 ちらっと爺を見ると、爺は少し困っているようだった。


 うーん……これはどっちかな?


 懲らしめて欲しいけど、酷い事をしてほしくない、が正解かな。


「許して差し上げても良いですよ」

「本当?!」

「本当に?!」

「ええ……条件がございますが」


 びくっと肩を跳ねさせる2人。


 ああ、そういえばあの断罪の時、居たんだったね。そりゃ、怖いよね、何言われるかわかんないし。


「私の配下となり、魔王様の御姉様として、ご立派な淑女になるよう、教育を受けていただきます」

「「え……?」」


 きょとん、という形容が正しいと思う。


 釣り目をまん丸く見開き、小首をかしげた2人。


「何かご不満が?」

「う、うんん」

「許して、くれるの??」


 おそるおそる尋ねる声。


 あー、そんなにあの断罪は怖かったのねー。


 まぁ女性には大分堪える断罪の仕方だったものねぇ。というか、そんなビビる相手になんで喧嘩吹っ掛けようとしたんだろう。やっぱりまだまだ子供なんだろうね。


「私の配下となり、魔王様の御姉様として、ご立派な淑女になるよう、教育を受けていただきますよ?」

「う、うん!」

「それなら!」

「そうですか……ではまず、言葉遣い! 返事は『はい』とおっしゃいなさい!」

「「はっはいっ」」


 びくぅうっと肩を震わせ元気な返事が返る。


 それに私はにっこりと満足げに笑った。


「はい、よくできました。では配下の儀式を行いましょうか。私は神により命じられ、魔王様のナニーをしております人間のリナ」

「私は竜人のリリアナ・グオロディウレス・エルゾブレベレジョン・レオニルド・フォルゴロオス」

「私は竜人のエリアナ・グオロディウレス・エルゾブレベレジョン・レオニルド・フォルゴロオス」

「私の配下となり、アレフ様の姉上様となっていただきたい。代わりに、貴方達に淑女のマナーをお教えいたします」

「「私は貴女の配下となり、アレフ様の姉としてアレフ様をお守りします」」


 うむ。意外と頭は良い。


 姉という存在がどういう存在か、よくわかっているじゃないか。


 魔王様の姉として魔王様の遊び相手をするのは勿論、魔王様の御手本として相応しい姿を見せ、魔王様に何かあったとき、お守りするのが姉のやるべきことです。


 私はそんな姉ではなかったけど。


 一般人と金持ちの違いですよ。


 爺は嬉しそうに涙ぐんでる。


 えぇー……涙ぐむほどの事かー?


 娘が大好きな魔王様の姉になったのが嬉しいの? それとも……。


「リナ、よろしく頼むぞ。わかってのとおり、口は悪い、態度は悪い、頭も弱い、と3拍子揃った愚か者達じゃ。儂の娘のなかでも唯一の売れ残りじゃ。どうかどうか、嫁の貰い手がつくような立派な娘にしておくれ」


 それとも、のほうでしたか。


 なんか……つぐつぐ大変そうですね、爺。


 そりゃぁ可愛くて素直な魔王様が可愛かっただろうねぇ。しかし、まぁ、この2人以外にも子供がいるっぽい発言が聞こえましたが、それでなんであんなに魔王様をあやせなかったんだ?


「男は子育てに参加せぬ。それが常識じゃ。この者達はこの者達の母親の教育不足じゃ。まぁ、もっとも年若い嫁じゃ。仕方あるまい」


 うむ、一夫多妻制の上、昭和のご家庭ですね? 理解しました。


 男は外で働いて餌持ってくるから、女は家をしっかり守れ! と。


 確かにここの育児書はだいたいそんな感じだったけど……いやぁ、実際に口できくと、意外と衝撃がある。ほら、私、現代人だから。


 イクメンとかも流行ったことあるし……女だから男だからって言うと大問題になる社会で生きていたわけで……。そうそう。私のこの保育士だって男女平等ってことで、保母って職業名は女性だけだからダメ、という流れから保育士ってのになったという経緯があるしね。まぁ、私がうんと小さいころらしいけど。


「リナ。儂はお前の能力を高く買っておる。何しろお主は神に選ばれる程のナニーとしてのスキル持ちじゃ。本当に、本当によろしく頼むぞ」


 あぁ、そういやあの自称カミサマがなんかいってたわ。


 ちょうどいいスキルが~って。で、お前でいいや、とか言われたわけで……!!!


 うぐぅっ!! 思い出したら頭にくる!!!


 しかし爺に悪気はないし!!!!


「……うむ、すまんかった」


 うん、ごめん。私も。


 ふぅ……私もちょっと申し訳なかった……。あの野郎を思い出すと、つい、ついねっ!!


 一つ深呼吸をしてからにこりと微笑む。


「それでは、オレガンディル総司令官が戻りましたら、今後の防衛等に関する相談をいたしましょう。その後は各種族の族長を招集し、今後について話し合いましょう」


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