20 断罪
オーガ達によって頭から水をかけられ、呻きながら目を覚ますセイレーン達。
全員後ろ手に拘束され、足も縛られている。まともに起き上がることはできないだろう。
でも大丈夫!
心優しい私は、初めからポーズをとらせてありました。
正座して、上半身だけ突っ伏すような、ね。
しかし残念。この態勢、早く上体を起こさないと、お尻だけ上げている人のように見える。
こう……美人がずらりとお尻だけを高くあげて並んでいる姿って……ちょっと教育によろしくないよね。
しかも、今水をかけられ、全員衣服がべったり身体に張り付いているわけで……。いやん! 恥ずかしい!
あ、因みに、場所は城下町の中央広場です。位置的にはお城と城門予定地の中央辺り。
沢山の人がざわめきながらも、興味津々と人垣をつくっている。
人間こういうの、ついつい見に来ちゃうよね。野次馬根性でちゃうよね。
そんな中、いつもお高く取り繕った方々が、恥ずかしい恰好させられているってどんな気分だろう? まぁ、本人たちは気づいていないみたいだけど。
よろよろと体を起こし、現状を確認するように辺りを見渡している。
「こ、ここ、は……?」
「中央広場です。おはようございます、シルフィナ」
「っっ!!」
声をかければ驚いたように私の方を見た。
辺りを確認するついでに、どうして私の事が視界に入らないのか。不思議だよねぇ? 目の間に立ってるのに。
「さて、貴方達の罪は明白。まず、配下の儀式の際、正しい名を名乗らず、配下に下ったフリをしました」
ざわり、と大きくどよめく。
私にはよくわからないけど、この配下の儀式は魔物の間ではとても神聖で、重要なことらしい。同じ種族間でも、族長対決等があって、もめた時には、この契約を結ぶんだとか。対決しても、決闘をしても、これをすれば後の争いの禍根にはならないらしい。
これを汚す行為は、魔物の中では絶対にしてはならないルールらしい。それをシルフィナさんやアノ悪魔……あの時はレイスだったかな? がしたのは、私が人間だったかららしいけど、それでも、やってはいけない行為で、バレたら魔物の世界では爪弾きにあうらしい。どんな低級の魔物も配下に収める事はできない。
けっこう、やらかしたら大変だと思うけど……。彼女たちはセイレーン。例えバレても、格下の相手ならチャームで魅了してしまえば問題ない、と敢行したようだ。実際、ゴブリンやリザードマン達は簡単に操られていたし。
まぁ、そのスキルは今はもう封じられ、使えない。魅了されていた人たちは、爺の部下だという双子がさっさと解除してくれた。
爺の配下だから爺の言葉にはちゃんと従う。
双子は状態異常付与や回復解呪等のスキルしか持たないらしい。それでも竜人なので、もともとの身体能力はアホみたいに高い。セイレーンごとき体当たりの一撃で吹き飛んだらしい。
で、捕まえたセイレーンを逆に魅了して、シルフィナさんに嘘の報告をさせていたらしい。でもあれ、目の焦点合わなくなるからすぐばれない? と思ったんだけど、そういう風に見えるのは私だけで、本当は普通に見えるらしい。
だからあの時シルフィナさんは自信満々に「私の配下に下った~」と告げてきたんだね。私からしたら、何言ってんのこいつ? という状態だったけど……。
ちなみにこんな会話をしていたら、オレガンディル総司令官達は「流石リナ様!」となんか感動してた。何故だ……??
まぁその辺はさておき、私は更に言葉を紡ぐ。
「私の生み出した料理を盗みました」
先程以上のざわめき。
周囲の目が極端に厳しくなった。
……どうも、私の料理の人気はすごいらしい。
そりゃぁ『天上の味』ともなれば、胃袋を掴まれた人達には、シルフィナさん達の行いは万死に値するのだろう。
もうざわめきの中に殺せ、死刑だ、と聞こえてくる。
こらこら君たち、そんな事はダメだよ。
どうせ、私が望まない以上は、あれは食品ディスプレイでしかないんだから。実際に、爺で試した。
アダマンタイトとかいう、ものすごく硬い鉱石なんか目じゃないほど硬くて、歯は通らないし、無理矢理口に含んだ際の味も筆舌に難しという不味さだったらしい。しかも、私の料理を食べた後に感じる、なんだか力が湧き上がってくる感覚はなく、逆に力が奪われたような感じがあり、実際に、力が落ちた、と言われた。
結果、この実験には二度と手助けはせん、とまで言われてしまった。
勿論お礼も兼ねて、すぐに爺が好きそうなワインを出し、機嫌を直してもらったとも。
「さらに、罪人とはいえ、まだ処遇の決まっていない者を、オレガンディル総司令官達を陥れる為だけに殺そうとしました」
まぁ、実際はリムブルンドさんも生きているわけなのですが。
からくりは簡単。
私は切り捨てる予定だったけど、爺が助けた。
オレガンディル総司令官に、事前に「もし自分達が城を空ける事があったら、その前にリムブルンドさんに一芝居うってもらえ」と話していたらしい。
で、オレガンディル総司令官は、血のりという名の、実際に血の詰まった薄い腸袋と、爺から渡されていた、セイレーンの魅了に対抗する装飾品をリムブルンドさんに渡し、隠し持たせた。
私達が城を出て1時間くらいでセイレーンの1人が、さっそくリムブルンドさんの尋問にきたらしい。今更、とかはなしらしい。アホなのかなぁ……。
リムブルンドさんは半信半疑だったけど、セイレーンが魅了してきて、かかったふりをしたら短剣を渡され、数時間後に死ねと言われたんだって。で、後は演技ですよ、えーんーぎ!
血のり袋を短剣でつついて、死んだふり。
検死とかない世界でよかったねー。
オレガンディル総司令官は待ってましたとばかりに責め立てに来たシルフィナさんにより、牢へGO! 私の名前を出して断罪してきたので、牢に入るのも不自然じゃなかったらしい。「リナ様に身の潔白を証明してもらう」とか言って自分から入ったようなものだったとか。リムブルンドさんと同じ牢に入り、死体のフリしたリムブルンドさんを自分達の身体で隠したんだって。
1月くらいは飲まず食わずでいられるとかいう都合のいい体のおかげで、オレガンディル総司令官達はピンシャンしてたけど、マーマンのリムブルンドさんは相当つらかったみたい。衰弱していたので、私特性のスープや水を少しずつ飲んでもらった。
爺が言ってた。リムブルンドさんの限界が7日だったから、7日出かけたんだとか。リムブルンドさんへの罰も兼ねていたらしい。
爺抜け目ほんっとないよね!
プリシラさんは街に行かせた初日で、爺の城に保護していたとか。つまり、シルフィナさんはプリシラさんがいなくなったことさえ、私には報告していなかったらしい。なんてこったい!
いやぁ、ここまでバカにされるとほんと、笑えてくるよね!
ヒュン、と音がして石が飛んでくる。
おやおや。我慢が出来なくなった誰かが、足元の石を投げましたね? 当然、誰かがやれば、他の誰かもやるわけで、次々石がセイレーン達に降り注ぐ。
「おやめなさい。まだ、断罪の途中ですよ」
私が声をかければぴたりと石は止んだ。
うんうん、皆いい子だね。
ちゃんと大人しくしているんだよ。
「貴方達は、城仕えの者、街に住む者にチャームをかけ、少しずつ皆の意識を奪いました」
これはもうとっくに解除済み。
爺のつれてきた双子に、午前中――私達が今までの経緯をオレガンディル総司令官達と確認し合ってる間中――街中を走り回り、チャームがかけられている人を見つけては解呪していったらしい。ありがたいので、この2人にも後ほどお礼の品を贈呈しよう。
「さらに、操った者達を黒龍に当て、捨て石としようとしていました」
これ。
これだけは許さない。
この子たちは私の配下で、未来には魔王様の配下。そして何より、大切な国民であり、国を作る同士!!
国民なくして国は建たない!
その国民を自分の欲望の為だけに捨て石?
絶対に許さない。
バカにしている。
他人が集めてきたものを奪い、挙句捨て石として消費する。そんな傲慢なクズ女、誰が許そうとも、私が許さない。
私は一般市民。彼らと同じ、上から捨て石にされる側だ。でも、一般市民にも人権はある! 上に立つ人間が勝手をしていいわけがない!
犯罪者には人権がないが、一般市民には人権がある。
よって、この女には人権のない存在として、可哀そうな人生をプレゼントしたいと思う!
「わたくしは、国にとって最も大切な民を、人権を無視して踏みにじる者が大嫌いなのです。その様な者が上に立つ資格があるのかしら? 貴方は自分をわたくし以上に上に立つ資格がある、と豪語されていたけれど……本当にそうかしら?」
違う、とどこからか声があがる。
有り得ない、と更にどこからか声が上がる。
絶対にない、とまた声がする。
声はどんどん大きくなり、プリシラさんを否定し続ける。
こんな悪意の中にいたことがないのか、涙目で青ざめるセイレーン達。もしかしたら、何とかチャームで魅了しようとしているけど、スキルが使えなくて、というのもあるのかもしれない。気絶していた彼女たちは、スキルが封じられているなんて知らないから。
「さて、わたくしは、貴女を許してもかまいません」
え? とシルフィナさんが顔を上げた。
周囲からはそんな、と悲鳴のような声があがる。
「条件をのむのなら、許して差し上げてもかまいませんわ」
「な、何を、すればいいの……?」
「ここで、裸になって、自ら足を開き、自分の手で全てを見せなさい。そしたら、許して差し上げます」
私は、渾身の笑みを浮かべた。
そんなこと、このタイプの女がするわけがない。プライドだけは山のように高いのだから。
ヒューと上がる口笛。
この国は、男が多い。
というか、この世界は基本、男が多いらしい。セイレーンのように女だけ、という種族はとても珍しいのだとか。
で、女が少ないという事は、男にとってどの種族だろうと、交配可能な女はそういう対象なんだとか。
普段はきりっとしているオレガンディル総司令官達も、ものすっごくソワソワしちゃっている。後ろからの気配、すごいよ……。
「それが嫌なら……わたくしの奴隷になりなさい。ああ、それも嫌なら、飛んで逃げてはどうかしら? せっかく翼があるのだから」
手足は縛られていても、セイレーン達には翼がある。飛んで逃げることくらいできるだろう。まぁ、目の前には黒龍が居て、その恐怖に打ち勝てれば、だけど。
でもきっと、他のセイレーン達は無理でも、シルフィナさんは飛ぶ。他のセイレーン達を見捨てて飛ぶ。
だってクズ女だもの。
「!!!」
バッと広がる翼。
ほらね。
やっぱりシルフィナさんだけは、翼を広げた。
「こ、この屈辱、絶対に忘れませんわ!!」
捨て台詞を吐いて、飛び立とうとして、できなかった。
バタバタと羽根を動かし、僅かに飛び上がるけれども、すぐに失墜する。
当然だ。
彼女達の翼は、とっくに切ってある。
人間が、鳥かごの鳥が飛んで逃げないように、翼を斬る。あの方法で。
クリッピングと言い、風切り羽を切ることで、これをされた鳥は飛べなくなる。羽に神経はなく、痛みは感じない。
セイレーン達にもちゃんと風切り羽があったので、そこを遠慮なくカットしてもらった。
このクリッピング、現代だと色々賛否両論らしい。鳥飼の友人達は鳥飼同士では暗黙のようにこの話をしなかった。野球と政治の次にしてはならない、とか意味不明な事を言っていた。
彼女たちの中でも色々あるらしい。
「あらあら、逃げない、という事は、自分で足を開きたいの? それとも、奴隷になりたいのかしら?」
ふふ、と笑いを零せば、真っ青になるシルフィナさん。
周囲からの視線は、最早それだけで射殺されそうな程だ。当然だろう。仲間を見捨てて逃げようとまでしたのだから。他のセイレーン達からも、非難の視線が向けられている。
「答えないなら、足を開く方でいいという事にしますよ? 自分でできないのなら、こちらでお手伝いいたしますわ」
ソワソワしているオレガンディル総司令官達に目配せをする。
マジ? 嘘?! みたいな表情をつくっているけど、その口元は僅かに歪んでいる。
うん、君たちも残念な子達だね。
いそいそとセイレーン達の前に立ち、刀を抜き放った。そして、一閃。
ぱらり、とはだける服。
「いっいやぁああっ!!」
両手を縛られていては、はだけた前を掻き合わせることはできない。
羞恥に声を上げるが、誰も助けには来ない。それどころかはやし立てるような声ばかり。
これは、女性にはとても恐怖だろう。
「なるっなりますっ奴隷になりますっだからっやめてぇえええっ」
「奴隷のクセに命令? やはり奴隷にはなりたくないようですね」
私の声にこたえるように、刀が閃き、セイレーン達の衣服はあっという間にぼろきれとなってそこら中に散らばった。
「やめ、やめて、やめてください……! お願いしますっお願いしますっ奴隷になりますからっ」
んーまだまだ上からだなぁ。
そこは奴隷にしてください、でしょうに。
お馬鹿さん。
「なります? 何故貴方の意思が必要なのかしら? 必要なのはわたくしの意思ではありませんか?」
素っ裸なセイレーン達が絶望に顔を歪める。
オレガンディル総司令官達の手が伸び、無理矢理抱きかかえられた。
「あっあっいやっいやいやいやっおね、お願いしますっわ、わたくし達をっあな、あなたの奴隷にしてくださいませっリナ様っっ」
足元の縄をほどかれそうになり、ようやくシルフィナさんは懇願してきた。
うんうん。そうだよね?
許してもらいたいなら、自分から望まないとね?
「いいでしょう。では、奴隷が反抗的な態度をとらないよう、しっかりと躾けねばなりませんね。ジル、貴方にお任せします。しっかりと、教育して差し上げて」
「おう! 任せとけよリナ!」
楽しそうに眺めていたジルは、突然の指名にもかかわらず、とても嬉しそうに笑った。それに、シルフィナさん達から絶望の悲鳴があがる。
どちらがいいのかと言われたら、正直、ジルが何をしたのかしらない私には答えられないけど、まぁ、多分、足開いた方がましだったんじゃないかなぁ……。
嫁には行けないだろうし、醜聞はついて回るだろうけど……それでも、あんなトラウマになるほどビビっていた相手に心折られるまで何かされるよりは、マシなんじゃないかな?
「いや、どっちもどっちじゃぞ……お前、同じ女として、今のはどうかと思うぞ」
「知りません。彼女たちはそれだけの事をしたのですよ」
罪人に人権はない。
よって、優しさなんて見せなくてもいい。
「ジル。二度と反抗心なんて持てないくらい、しっかりと、教育してあげてくださいね」
「おう! ああ、やっぱお前は最高だ! あの蔑むときの冷たい目とか、ゾクゾクした!」
変態め……。
やたら嬉しそうにこっちを見ていたのはそういう理由かい!
変態は無視して、残念そうなオレガンディル総司令官達に、セイレーン達を牢に連れていくように命じる。
沢山の民衆の前で裸にされた彼女たちは、すっかり大人しく担がれていく。
あーぁあ……そんなことしたら、丸見えになるのに……。
しーらないっと。
残念な姿からは視線をそらし、爺に抱かれた魔王様を見た。流石に爺が目を手で覆い、防音結界を張っていたらしく、何も見ていないし、聞いていない。
うむ、爺ナイス!
流石に今のは教育によろしくないからね!
まったく、困ったものだよ。このいついかなる時も側を離れられないってのも。
こういう事をする時も、連れてこないといけないんだから。
はー……こういうのを自動でするように、なんかそういう部署とかつくらないとなー。




