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19 メギツネvsメギツネ



 一週間ぶりの城。


 突き付けられた剣。


 虚ろな目のリザードマンたち。それから、やっぱり虚ろな目のゴブリンメイジに進化したというメイド達。


 爺は自分の居城に一旦帰還で此処にはいない。


 まぁ、わかってたけどね。


 それが私の感想。


「おかえりなさいませ、リナ様」


 くすくすと響く笑い声。


 この声の主は勿論わかっている。


「貴方は上に立つのには相応しくありませんからね。わたくしが、代わりに上に立って差し上げますわ。貴方の料理、元を奪えば貴方なんて必要ないものねぇ……」


 うんうん。そう思うよね。


 減らないなくならない、いつまでも腐らない。そんな魔法の料理、そう思っちゃうよねぇ。


 いやぁ……ほんと、残念だよ~シルフィナさん!


 後ろの方で笑うセイレーンとそれを従えるシルフィナさん。


「そうそう、牢に入れていたリムブルンドとかいうマーマンなんですけどね、何故か自害したらしいので、管理体制に問題があるというわけで、オーガの皆さんには牢に入ってもらっているの」


 まぁ、そうだね。


 君たち彼らに勝てないし、先に潰しておきたいよね~!


「ふふっ黒龍は支配下に置けなかったようで何よりですわ。できれば、失敗ついでに死んでくださっても良かったのですよ?」


 まぁ、今、ジルは私の体の中にいるから、そう見えるよね。


(おい!)

 何だい、ジル君や。


 体の中にいるから、ジルと私はこうやって頭の中だけで会話ができる。これは、誓約様様だと思う、うん。


(あの女腹立つ! 殺していいか?)

 ダメダメ。

 あの人はね、とっても役に立つんだよ。

 できれば生かさず殺さず、首に首輪をつけて飼い殺したいんだ~。そう。海の民たちよりも格下の、奴隷くらいの立場でね。

 その誓約を取り付けたいんだ。


 彼女が配下になっていないことぐらい知ってたさ。


 どうやったのかは知らない。多分、嘘の名前でも名乗ったんじゃないかな? よくわからないけど。


 ほんと、見た目通りの人だなぁ。残念だよ。


 綺麗な綺麗な見た目。でも腹の中は真っ黒。


 人の裏をかき、美味しいところだけを持っていこうとするゴミのような性格。


 私はね、貴方みたいな人、よく見てきたし、迷惑を散々かけられた。とても優しくはできないよ。


 自分の見た目を理解して、見た目に騙されるバカな男を言葉で操り、時には平然と涙を浮かべて、周りが騙されたら見えないところで舌を出して嗤う。


 そういう女、どこにでもいるよね。


 ほんと、こんなところに来てまで残念だなぁ。


「罪人を処刑する事さえできない、中途半端な貴方では、下につく者は惑うだけ。ごらんなさい。たった7日留守にしただけで、城仕えの殆どがわたくしに鞍替えしたわ」


 うふふ、と笑われてもなー?


 その虚ろな、視線の合わない人たちが、正気に見えるのかな?


 目の焦点あってないじゃない。


「シルフィナ」

「ふっ貴方程度がわたくしの名を呼ぶ無礼……いえ。最後ですし、許してさしあげますわ」


 ほう。つまり、シルフィナ、は本当の名かぁ。となると、それ以外の部分が違うんだな?


 シルフィナ・スタッファーレン……だったかな?


 ああ、変だなって思ってはいたんだよ。だって、シルフィナさんは女王だったのに、名前が2つで構成されていた。


 王なら3つって爺に教えられた時から、ずっと違和感を感じていたんだ。スタッファーレンの次があるんだろうね。


 大切な儀式を平然と無視した。


 ジルでさえ、きちんと名を名乗ったのに。


 本当に、傲慢な女らしい、クズなことをする人だ。


 でもシルフィナさんの文官としての能力は高く買ってるんだよ? なので、ここらで海の民以下になっていただこうかな。


「本音は?」

「? どういう意味かしら?」

「建前や御託はどうでも良いのですよ。貴方は目的があって、わたくしの料理を求めた。勿論、進化は大切な事ですよ? でも、貴方は目的があって進化を求めているのですよね?」

「うふふ。当然ですわ。わたくしは料理で進化する。シルフでも、ウンディーネでも構わないわ。精神体になれば、あのにっくき黒龍を滅する力が得られる。勿論、わたくし達だけでは足りないでしょう。ですが、ココの全武力を壁としてあてれば、全滅するころにはわたくしたちの魔法で息の根をとめられますわ。完璧な計画ですわね」


 うわぁ……。最低。


 私の配下を捨て駒にしようと言うんだね?


 自分達さえよければそれでいいんだね?


 ああ、本当に残念な人。


「醜悪な方。一度鏡で自分の今の顔をご覧になることをお勧めいたしますよ」


 にこりと余裕をもって微笑む。


 いや、シルフィナさんは美人ですよ。そして、その綺麗なお顔に今、青筋が浮かんだわけだけど、それでも美人は美人。


 でもねぇ……これだけ心根が醜いと、滲み出るものがあるんだよ。うん。


 あんなに囚人の人権にこだわっていたのも、どうせオーガ達を捕らえる駒とするために、とかなんだろうなぁ。


 そう思うと、騙されたフリをしながら、ずぅっといた私がどれだけ、色々腹に抱えていたかわかるかな?


 まぁ、伝える気はないけど。


 さて、あまり長引かせても仕方がない。


 ジル君にお願いしようかな。でも、敵はセイレーン達のみ。その他の操られた感満載の方々は無傷でよろしく。

 セイレーン達の死も望まない。

 敗北はさせても命は奪っちゃダメだよ? できる?

(ははっ俺を誰だと思ってる!)

 では、よろしくお願いします。


「口だけは減らない! あの竜人が助けに来ると思ったら間違いよ! あっちにも色々仕込んであげたのだから!」

「別に、爺はいらねぇよ」


 笑いながら黒い塊が私の中から出てきた。


 入られた時もそうだけど、出る時も特になんの感覚もない。すっごい質量が入っているはずなんだけどねぇ。


「なっ?!」


 驚くシルフィナさん。


「ねぇ、シルフィナ。わたくしが気づいていないと思っていたの? 配下の儀式を踏みにじり、セイレーンお得意のチャームが効かない者はできるだけ遠ざけ、裏でこそこそ料理をかすめ取り……」


 私はため息交じりに言葉を紡ぐ。


 その間に、悲鳴が沢山上がっているが気にしない。


「貴方はわたくしに信頼され、城にも街にも自分達の手を容易く伸ばせた、と思っているんでしょうね」


 でも実際は違う。


 これは、彼女に対する違和感に、彼女をテストしていた。


 何もなければよし。何かあったら……そういうことだ、と。


「そうして、性格最悪な悪霊を、まるでまともな性格のように紹介してみたりして、わたくしを殺そうとしてみたり、結構頑張っていらしたので、わたくし、感心していました」


 それは本当。


 でも、残念だったね。


 貴女は知らなかった。爺が心を読めることを。


 だからあの悪霊は私を殺せなかった。それどころか、私に誓約をしてしまった。


 今は側にいないけど、必ず戻ってくるだろう。必要な部下を連れて。


「まぁ、全てが筒抜けだなんて、考えもしていない時点で少々頭が足りないとおもいますが……傲慢がすぎた、ということでしょうね」


 ジルは素晴らしい動きで、全員の意識を刈り取っていった。


 尻餅つき、涙目で震えるシルフィナさんしか、もう意識のある者はいない。


「貴女の方こそ、上に立つには少々足りなかったようですわね」


 貴方程度、沢山見てきた。


 まぁ、反撃をするのは初めてだけど。


 反撃できるだけの手札が揃ったのも初めて、ともいう。


「な、なぜ、なぜ、こ、こ、こく、黒龍が……!!」

「そりゃぁ……リナと主従契約したからだろう?」

「何故あんな小娘にぃいいいっ?!」


 あ、地雷踏んだ。


 ジルの笑みが壮絶なものに変わった。今までは体動かすのたのしーくらいだったのに。


「殺しては、ダメですよ? わたくし、もう少し用がありますから」

「ああ、殺しはしない。でも、こいつが死ななければなんだっていいんだよな?」

「ええ」


 頷けば、にたぁ、と口元が大きく歪んだ。


 ひぃ、とシルフィナさんが息をのむ。


 ずり、ずり、と必死に後ずさるけど、今までシルフィナさんがいた場所が濡れている。


 もらしたなー?


 気持ちはわかるけど、それ、自分で掃除してよね?!


「い、いやぁああっ!! あんなのは、もういやぁあああっ!!」


 悲鳴。


 何?


 前なんかあったとき、何されたの?


 この死ななければ何でもいいってのに関係しているのかな?


 まぁ、興味ないけど。


 腕の中の魔王様は、静かに全てを見ている。


「アレフ様、わたくしが怖いですか?」

「うんん。あれふ、りなすきだよ」

「ありがとうございます」


 魔王様は思っているより賢い。


 本当に3歳児だろうか?


 今だって、何が起きているかわかっている。私がジルに行わせている非道な行動を理解していてなお、私に微笑みかける。


 なかなかすごいお子様です。


 思いの外早く育ちそうで怖いなー。


 私がいないと何もできない子にするっていうのは難しいかもしれないなー。なら、逆に、そういう演技のできる子にした方がいいのか?


 うーん。爺と要相談だね。


 絶叫を上げ切ったシルフィナさんが、がく、と倒れた。どうやら恐怖のあまり、意識を手放したようだ。ただ、演技の可能性がある。


 ジルに確認を取らせ、間違いなく意識がないのを確認して、呪いをかけてもらう。


 これで、シルフィナさん達セイレーンは、セイレーン最大の技、チャームを使えない。チャームどころか、全ての技を使えなくなっている。


「うむ、終わったようじゃのう」


 ひょっこり現れる爺。


 その後ろには可愛らしい顔立ちの少女2名。双子のように同じ顔をしている。


 彼女たちはそれぞれ小脇に、セイレーンを抱えている。こちらも意識はないようだ。


 さらに、後ろにプリシラさん。勝手にセイレーン用の餌の一つにしていたマーメイド。爺がしっかり保護してくれていたらしい。何が何だかよくわかっていないようだ。


 とりあえずありがとう、爺。


「こちらにちょっかいをかけようとしておったのを連れてきたぞ」

「これで全員、ですね」


 城下で働いていたはずの者も全員揃っているのは既に確認済み。


 こう見えて、人の顔を識別するのは得意ですからね!


 保育士なんてやってると、すぐに覚えないとたいへんだからね~!


「スキルも封じてある」

「では、拘束して、まとめて翼を斬り落としてしまいましょうか」


 手足を拘束してもセイレーンには翼がある。


 飛んで逃げられたら厄介だ。


 牢に入れられたというオーガの皆は大丈夫かな?


 彼らは進化してチャームに抗いやすくなっているらしい。だから無理に魅了するより、捕らえられた。


 セイレーン程度では普通には勝てない。人海戦術を使ったのか、それとも、操られている彼らを攻撃できなくて大人しく捕まったのか。どちらにせよ、苦労をかけた。


 気絶しているセイレーン達を全員ティアナさん達に糸で捕縛してもらい、ヨウ……ハンシさんや、ジルにも頼んでセイレーン達を担ぐ。


 早速牢に移動して、オーガ達を開放した。


 全員元気そうだ。


「大丈夫ですか?」

「リナ様、申し訳ありませんでした……」

「留守を預かったというのにこのような……」

「謝るのはわたくしの方です。この者達が企んでいたのは知っていて、泳がせていたのです」

「おお、そうだったのですか! 流石はリナ様!」

「貴方達を危険に晒して、申し訳ありませんでした」


 深々と頭を下げる。


 本当は簡単に頭を下げてはいけないんだけど、今回ばかりは爺も大目に見てくれるに違いない。だって、彼らは一切非がない。にも拘わらず、勝手に命を賭けさせた。私はシルフィナさんと同じことをしたのだ。


 しかし、オレガンディル総司令官は慌てて手を振った。


「いいえ、リナ様! 我々はデルフォリアス宰相閣下から、セイレーン達が怪しい事は聞いていたのです!」


 ん?


 爺から?


「もし、宰相閣下とリナ様達がしばらく城を空け、セイレーン共に任せることがあったら、リムブルンドを守りつつ、操られたフリか、牢に入るよう言われていたのです! 全てはリナ様の為に、と!」


 なぬ?!


 爺……すごい! こんな先まで読んでいたの?!


 うーむ……爺のすごさに驚かされるのはこれで何度目だろうか……。


 それにしても、オレガンディル総司令官。君、私の配下なのに、なに爺にいいように使われているのさ。いや、いいんだよ? ものすごく正しいんだよ? でもなんか……一人知らされていなかった自分がさみしいんだよ!!!


「いや、お主はてっきり騙されているのだと思ったのじゃ……あれだけシルフィナを頼りにしておったり、心の中で褒めておったから……」

「少なくとも、絶対の主従関係のある配下でありながら、私が何か言ったわけでもなく、主人より先に宰相閣下に声をかけるような方、信じるに値しないと思いますよ」


 そう。セイレーンだけだ。爺に先に頭を下げたのは。


 他の人たちは、ゴブリンも、マーメイド達も、全員、主人である私に先に頭を下げる。名を呼ぶときも、必ず私が先だ。例え、主人の方が格下でも必ず主人を先に呼ぶ。それが主従だと、一番最初の頃に教えたのは爺じゃないか。


 つまり、セイレーン達の行動は主従ではありえない事なのだ。


「うむ、よく覚えておったの」


 当たり前です。


 園長先生からの通達なら、きちんと覚えておきます。


 大事な事だからね!


「お主が意外と頭が良くて感心するぞ」

「恐れながら宰相閣下。リナ様は素晴らしい頭脳をお持ちの方でいらっしゃいます」


 きっと睨むオレガンディル総司令官。


 いやいやいや、でも、君、爺の言を信じたんだよね?


「儂はお主がアホだとは言っておらぬ。心労をかけたくない、と声をかけたのじゃ」


 こっそり耳打ちする爺。


 言葉って便利ですねー。


 言い方って大切ですねー。


 あと、オレガンディル総司令官。君、ちょっと実直すぎやしませんか?


 謀り事や駆け引きには向かないね。


「うむ。それがオーガの良いところであり、欠点じゃ」


 でしょうね。


 これは……爺と一緒に内政を頑張ってくれる部下が欲しいなー。


「何を言って居る。ヨウスケコータシュンがおるじゃろうが。アレは悪魔じゃ。謀り事や交渉、駆け引きのスペシャリストじゃ」


 あぁああああ……いたねぇ……。


 そんな名前の奴!!!!


 ははははは!!!


 名前とかすっかり忘れたことにしておいたわ!!!


 しっかし……そっかー。アイツ進化させて正解なんだな? もともと人を騙して絶望を糧にするような悪霊だから嘘は得意なんだろう。あとは場数を踏ませて、交渉や駆け引きを覚えてもらえばいいのか。


「その為にシャドウデーモンを捕らえにいってもらった。シャドウデーモンは主人を悪魔である、ヨウスケコータシュンだと思って配下に下る。しかし、それではダメじゃ。人間のお主を主人だと思ってもらわねばならん。あのヨウスケコータシュンがそれをできておれば、合格じゃな。違った場合は他の悪魔を配下にしにいかねばならぬ」


 げっ。


 めんどくさ。


 それだと、爺に簡単に騙されて誓約、とかしないわけでしょう? 私なんて所詮ただの保育士だよ? 交渉なんか得意なわけじゃないのに……。


 これはもう、アレに期待するしかない。


「そういえばリナ様。セイレーン達の翼を斬り落とす、という事ですが……」

「それなのですが、今から私が言う通りに斬り落としてください」


 にこりと微笑めば、オレガンディル総司令官は不思議そうに首を傾げた。


 私の言っている意味が理解できていないようだけど、素直に従ってくれる。


 いやぁ……オーガが素直な子達でよかったなー。


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