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18 招かざる客2



 辺りを見渡した私は、火花を散らしている魔王様たちを無視して、爺を見た。


 1週間?


 こんな場所で最低でも1週間過ごすの??


 絶対ないよね?


 どこで休憩とかするわけ? 寝るのもどこ? まさか魔王様を地べたに座らせ、地べたで雑魚寝?! 絶対にダメ!!!


 魔王様だよ?! このっ可愛い可愛い魔王様にそんな非道な真似!! ありえないでしょう?!


「……ジルクフリードエッフェルよ」

「んー? 何? デルフォリアスのじじい」


 びきっと爺の額に青筋が浮かぶ。


 あれ??


 爺呼びNG??


 私、しょっちゅう心の中で呼んでるよ?


 でも一度も言われたことないんだけどなぁ……。


「……儂より100年も年若く、竜人にすら届いていないジルクフリードエッフェル」


 今度はジルクフリードエッフェル君の額に青筋が浮かぶ。


 んん?? 100歳差??


 7千年以上生きて、100歳差???


 これは、ほぼ年が変わらないってことかな?


 それで爺呼びだから怒ったってことかな?


「儂らはこれから7日。滞在しようと思っている。この娘をこのような場所で寝泊まりさせるつもりか?」

「え?! まじ?! やっべ! そうならそうって言えよ! すぐ準備してくるよ!」


 ????


 めちゃくちゃ嬉しそうなんだけど、ジルクフリードエッフェル君。


 なんか、変な誤解、してない?


「ちょっと片付けてくる!!」


 どこかへと走り去ってしまった……。


 洞窟、結構深そうだなぁ……。


「さて、今のうちにこの財宝を運んでしまうぞ」


 爺の指示で、ついてきた力自慢のオークたちにより、山のような財宝が次々荷車に詰め込まれ、ティアナさん達が落ちないよう、他の宝物と重なり傷つかないよう、丁寧に糸で支えられる。


 ほとんどは金貨と宝石。でも、意外と王冠とか、玉座みたいなのとか、装飾品といった、博物館とかで飾っていそうなものもけっこうある。


 これ、貰ってもうれしくないなぁ。


 いやでも、そのうちあそこが国となったら国王が文無しじゃ困るし、まるごと国の保有金ってことにしていいのかな??


 なんかもー……国についてとかわからんしー。


 とりあえず、処遇に関してはいったん保留。お城にまるごと保管でいいよ。あ、でも、宝石とかはエルフやドワーフに降ろそう。


 エルフやドワーフは相変わらずいろんなものをせっせと作っている。


 少し前に海底王国の者達が配下に入り、海底魔石を掘っている。でも、時折、真珠やサンゴ、海底にいる化け物の鱗で綺麗なもの、などが献上されてくる。こういったものをエルフやドワーフ達に見せたところ、様々な事に使える、と色々きらびやかなものをつくりはじめた。女たちが喜んで物々交換しに行っていると聞いている。


 髪留めや指輪をつけて働きに来るメイドたちが増えたもんなー。


 皆おしゃれに気を遣って偉い偉い。


 私は気を遣わないがな!


 荷車は5台もってきていたが、それでも足りなかった。


 荷車全てに限界ぎりぎりの重量になるように、ティアナさん達が糸で巻き付けていたけど……これ、何往復かしなくちゃ駄目だよね?


「安心せよ。残りはにジルクフリードエッフェルに運ばせるわ」


 ……なるほど! そういう手段があったか!


 あの変態ボーイも肉体労働者扱いすればいいんだな!


「はぁ……デルフォリアス宰相閣下」

「なんじゃ?」

「私、ジルクフリードエッフェルさん、苦手です」

「うむ……。そこは、我慢してほしい……」

「ほんっとうにここで1週間、過ごすのですか?」

「うむ」


 くうぅぅぅ……まじかよぉおお……。


「なに、流石のアレも、婚前行為には及ばぬだろう」

「本当ですか? 本当に大丈夫なんですね?」

「う、うむ……多分……」


 そっとそらされる視線。


 あ、やばい! 全然信じられない!!


 めっちゃ怖い!!!


 気まずげな爺! せめてフォロー入れろや!


 しかし爺はこちらに視線をよこさない。


 くっそぅ!!


 私が呆れた頃、魔王様くらいのサイズのネズミ頭がやってきた。生意気にも執事服を着ている。


『花嫁様御一行様』

「違います」

『歓迎の準備ができました』

「花嫁ではありません」

『こちらへどうぞ』


 くそぉおおおおっ!!!


 久しぶりに丸ごと無視かよ!!!!!


 ああああああっ!!!


 久しぶりにあのクソ自称カミサマ思い出す!!!


 ストレスたまる!!!!


 ふざっけんなよぉおおおおっ!!!


 怒鳴り散らしたいのを我慢して、その場から動かずにいる。


『こちらへどうぞ』


 繰り返し言われる言葉。


 しかし無視。


 私が動かないから、私に抱かれた魔王様がここから動かない。つまり、護衛も爺も動かない。


『こちらへどうぞ』


 少し声に焦りが混じった。でも無視!!!


 先に無視したのはそっちだ!! 誰が応えてやるものか!!


『は、花嫁様……』 

「この中に、ジルクフリードエッフェルさんの花嫁はおりませんので」


 しかし、ネズミ頭は私の言葉を無視。


 あ、わかった。こいつ、私に喧嘩を売ってるんだな?


 よーし! その喧嘩買ってやろうじゃないか!!


 そっちがその気なら、徹底的に無視してくれる!!!


『花嫁様御一行様、どうぞこちらに!』


 自分の声が聞こえないと思ったのか、少し大きな声を上げる。


 しかし誰一人、応えない。


 爺と魔王様以外は私の配下だ。その私が無視してるんだから、当然、誰かが応えるわけがない。もし応えられるとしたら、それは爺と魔王様だけ。


 魔王様は私の腕の中でふくれっ面を晒している。爺はネズミ頭なぞ見えてもいないようにしている。


 だんだんネズミ頭の声が涙声になってきたけど知らん!


 人にしたことは自分に返るものです!


 そんなわけで知らん!


「おっせぇよ! 何やってんだよ!」


 しびれを切らしたのか、ジルクフリードエッフェル君がやってくる。


「おい、ネムル! お前、お任せくださいって言わなかったか? なんで俺を待たせてるんだよ!」

『も、申し訳ありません! 申し訳ありません!』


 ネズミ頭のネムルさんはぶるぶる震えながら、必死に頭を下げる。しかし、見下ろすジルクフリードエッフェル君の視線は冷たい。


「おい!」

「そのネズミ、花嫁様御一行様って繰り返すから、違うと言っているのに……わたくしの言葉は全て無視していましたわ」

『薄汚い人間ふぜいが、黒龍様の前で口を開くな!!!』

「おい……お前、今何て言った?」


 底冷えするようなジルクフリードエッフェル君の声。


 流石の私もゾッとした。


 思わず二歩下がる。


 ヨウジンボウ……ハンシさん達は震えながらも私を庇うように前に立ち、いつでも刀が抜けるように構えている。


 しかし、ジルクフリードエッフェル君の意識は完全にネムルさんにそそがれていた。


「俺の嫁に、薄汚い人間ふぜい……?」

『!?』


 まさか私がジルクフリードエッフェル君の言う『花嫁』だとは思わなかったようだ。ネムル君は目を見開き、よたよたと後ろに下がった。


 あー成程成程。


 このネズミ頭のネムルさんは、どうやら私が人間だから無視していたのか。魔物と人間の確執はすごいからね。ティアナさん達の誰かだと思ったのかな?


 必死に言い訳しているけど、ジルクフリードエッフェル君は怒りを収める気配はない。


 尻餅ついて泣きながら謝るネムルさんの頭を掴んで持ち上げると、投げ捨てた。


 驚くほどの剛速球。


 投げ捨てられたネムルさんは壁にめり込み、消えた。後にはクレーターのように凹んだ壁と、赤い何か。


 そっと魔王様には見えないようにする。


「ゴミがすまないことをしたな!」

「……いいえ」


 めっちゃいい笑顔で振り返るジルクフリードエッフェル君。


 よその統治の仕方には文句を言わないよ。ただ、ますます心配にはなった。ウチで同じような事をしたらどうしよう……。


「ジルクフリードエッフェル」

「あんだよ、デルフォリアス!」

「先に配下の儀式をしてはどうじゃ? お主、好いた女の名前も知らぬままではないか」

「あ!! そうだよ!! 俺は黒龍のジルクフリードエッフェル・フォルデスティン・ゼブリイッシュ・ゲルセウズ・アルメディア!」


 笑顔で名乗るジルクフリードエッフェル君。


 先程までの雰囲気はどこにもない。


 ハンシさんたちも困惑しているが仕方がない。


「私は神に任じられた魔王様のナニー。人間のリナです」

「おう! で? 内容は?」

「私と配下契約を希望します。こちらからの提示は、進化の可能性を秘めた料理」

「それでいいぜ! 俺はリナの配下になろう。そして、この力を以て、お前の大切なものを守ろう!」


 あれ? 意外とまとも。


 流石にこういう儀式はちゃんとできるんだ?


 す、とジルクフリードエッフェル君が片足をたてて跪く。


「ジルクフリードエッフェル・フォルデスティン・ゼブリイッシュ・ゲルセウズ・アルメディア。我、リナに誓う。我はいついかなる時も汝を愛し、汝を守る。我は汝が相応しいと認めるまで、汝に誠意をこめて仕える」


 んぉ?!


 何? 急に?!


 慌てて爺を見たら、爺も驚いていた。


「お、お主、それは魂の誓約……」


 魂の誓約ってなに?! また新しい単語?!


 どうしたらいいの?!


「これで俺はお前から離れられない! ずっと一緒だ!」


 顔を上げたジルクフリードエッフェル君が実にイイ笑顔でのたまった。


 意味がわからない!!


 何なの、今の!!!


「リナよ……今のは竜族、竜人、悪魔のみができる魂の誓約じゃ……」


 疲れたような声を上げる爺。


 えぇえ……? なんか怖い。


 私の恐怖に、爺は困ったようにあらぬところへ視線を向け、一度うぅむ、と唸った後、再び私を見た。


「その、この誓約は、じゃの? 強制的に魂を繋ぐ効果がある。お主とジルクフリードエッフェルの魂は結ばれた。じゃ、じゃが悪い事ばかりではない! 魂が結ばれたということは、ジルクフリードエッフェルがお主の影やお主の中に入ることができる。つまり、お主を中心とした守りが強固になるうえ、ぱっと見はいないように見えるので、戦力を誤魔化すのにも使えるのじゃ!」


 いらねぇえええっ!!


 なんだその強制!!!


 迷惑!!!


 いやだ!!!


 この変態が私の体の中に入るってなんだよ?!


「しかも、この誓約は、俺はお前から遠く離れられないっておまけつきだぞ!」


 輝く笑顔でサムズアップして言葉を引き継ぐジルクフリードエッフェル君。


 ぐぉおおおっ四六時中このくそ野郎が側にいるというわけか?!


 いやだぁあああっ!!


 変態お断りですぅうううっ!!!


 ウィンクしながらサムズアップされたって嬉しくないわぁああっ!!!


 はっ?! 四六時中!?


 まて! まてまてまてまてまてまて!!! 寝る時!! 寝る時どうするの?!


 夜だよよーーーるーーーー!!


 あと、風呂な?! 魔王様と風呂に入る時!!!


 何が婚前行為はないだ!! めっちゃ危険な状況になったよぉ?!


 私が爺に掴みかかる前に、立ち上がったジルクフリードエッフェル君がそっと手を差し出してきた。


「さ、リナ。俺の居城を案内しよう。といっても、俺の居城はこの山丸ごと。窓とかがないから、お前にはつまらないかもしれないな」


 んん? なんだ、この爽やか風坊やは……?


 はっ! あれか?! 私が安心したところで襲い掛かる算段か?!


「……」


 無言で警戒する私に、ジルクフリードエッフェル君は困ったように首を傾げた。


「俺は誓約した。お前が認めるまでは誠意を以て仕える、と。何もしない。勿論! お前の方から俺の尻を叩きたいというのなら、喜んで尻を差し出すぞ!」

「いりません」


 やはり変態だ!!!


 しかし、一応、安心していいのか?


 チラッと爺に視線を向ければ、爺が頷く。


 あ、これは本当っぽい。


 よかったぁぁあ……!


 こんな変態、常に側にいてアピールされたりしたら、精神的にもたないと思ったんだよ!


 ほっとして、ジルクフリードエッフェル君の後に続く。


「あ、ところで……」

「ん? どうした?」

「貴方の名前、長くて呼びにくいので、ジル、と呼んでもよろしいですか?」


 ぱぁああっと嬉しそうに笑うジルクフリードエッフェル君。


 何?! 何事?!


「いきなり愛称呼びか! リナは積極的だな!」


 違うから?!


 違うからね?!


 長くて呼びにくいって言ったよね?!


 お前の名前、ディスったんですけど?!


 聞いてた?!


 テレテレ、なんて効果音が聞こえそうな程もじもじするなよ!! キモイんだよ!!


「……デルフォリアス宰相閣下、今夜からお部屋、ご一緒してもよろしいでしょうか?」


 私が一緒ってことは、魔王様も一緒だぞ!


 私は寝ないから、魔王様と一緒にベッドに潜り込む権利がありますよ~!


 だから、このキモイ勘違い野郎をどうにかしてくれ!!


「おお! 勿論構わぬぞ!」


 魔王様を出すとすぐデレデレ爺になる。


 だから、ちょっとちょろすぎだってば……いや、この場合助かるからいいけど。


「ダメだ!! デルフォリアス!! お前は爺なんだろう?! リナに近寄るな!!」

「デルフォリアス宰相閣下、頼りにしていますわ。ね? アレフ様?」

「ん! じぃじ!」

「おぉ、おぉ、アレフ様。儂がアレフ様のためにちゃぁんとリナを守りますぞ!」

「じぃじだいすきぃ~!」


 ぬぉぉ、と歓喜の声を上げる爺。


 うん、そうだよね! 私だってそうなるよ!


 可愛いぴかぴか笑顔+大好き、ですよ?! そうならない奴の方が頭がおかしい!!


 ジルクフリードエッフェル君……ジル君、いや、あんな変態呼び捨てで十分。ジルがムキームキーと爺に食ってかかっているが、爺は軽くいなしている。


 うーん……。確かに爺の方が上なんだなぁ。ほんと、爺いてくれてよかった。


 そんなこんなで、割と穏やか且つ、和やかな1週間を過ごすこととなった。


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