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17 招かざる客1



 巨大な洞窟。


 壁も床もごつごつとした岩肌。そこに積み上げられた金貨? や宝石。光り輝く宝の山。それらが、私程度なら100人以上は余裕で寝ころべるほどの広さ、私2人分以上の高さに積み上げられていた。


 ま、まぶしい……!!


 勝手に光り輝いている黄金の輝きは、少々目に痛い!


 しかし、そんな宝の上にとぐろを巻く、真っ黒い物体。


 巨大な竜。


 ジェラシ〇クパークも大泣きだね!


 竜ってこんなにデカいのか!


 そりゃぁ、こんなのが暴れまわったら世界が壊れるわ!


「おぉぉ! 俺の花嫁! よく来たな!!」


 竜が嬉しそうに声を上げ、しゅるしゅると縮む。


 身長160㎝と私よりほんの少しだけ低い少年が現れた。


 褐色の肌、黒い髪、金色の目、と、竜の時と色合いはそんなに変わらない。猫目のやんちゃそうな顔立ちも、あまり竜の時と印象が変わらない。


 少年は宝の山から飛び降りると、私の側へと駆け寄ってきた。そして、私の腕を取ろうとし、その腕に抱かれている魔王様を見るとむっと眉根を寄せる。


 魔王様は私にしっかりと抱き着き、半身を捻って少年を睨んだ。


 両者の間にバチバチと火花が散っているのが見える。


 事の起こりは数時間前。


 私達は魔王城、魔王様の部屋にいた。


 突然の爆撃音。


 砕け散り、飛び散るガラスや壁。私は咄嗟に魔王様の上に覆いかぶさり、庇った。


 魔王様の部屋を襲った襲撃犯は少年。ヨウジンボウさんや、メイド兼護衛としての話し合いに来ていたティアナさん達。それからオレガンディル総司令官がとびかかり、軽々と吹き飛ばされる。


 爺は私達の前に立ち、杖を構えていた。


「よ~ぉ! デルフォリアス! 遊びにきてやったぞ!」

「おのれ、ジルクフリードエッフェル!! 人の居城を壊すような無粋な訪問はやめよと何度言えばわかるのじゃ!!! いかに竜族では最強の黒龍とはいえ、竜人である儂よりは格下! 無礼は許さぬぞ!」


 長ったらしい名前……。


 かんかんの爺がいるからつっこまないけど……。やっぱりさぁ、この、長い名前ってびみょうーに、びんみょぉおおおおにっ! ダサくない?


 大真面目に叫んでると、なんか隙だらけだし、滑稽なんだけど……。


 まぁ、そんなことはさておこう。


 私は顔をそっと上げ、少年を確認する。


 身長160㎝と私よりほんの少しだけ低い少年。年は14、5歳くらいかな?


 褐色の肌、黒い髪、金色の目。猫目のやんちゃそうな顔立ちだ。服は黒いシャツと、あちこち破れたデニムのように見えるズボン。革のブーツ。ベルトはおしゃれ巻き。


 耳とか腕とか指とか、じゃらじゃらアクセサリーつけている。


 えーっと印象は近所のやんちゃな中学生、かな?


 これが、黒龍? 爺の古い知り合い?


 うっそぉ? めちゃくちゃ若い子だよ? 爺は最低でも7千年生きてるんだよね? そんな爺が『古い知り合い』って称するのが黒龍だよね?!


 えぇー!? おかしくない?!


「ジルクフリードエッフェル! 聞いておるのか!!」

「はー……デルフォリアス。お前、そんなんだからそんな老けてんだぞ! 竜族なんてのはほぼ永久に近い寿命をもった種族。その上位である竜人であるお前がさぁ、そんな老けた姿でいいと思ってんのー?」

「なんじゃと?! えぇい! 儂の事はどうでもよい! それよりもお主じゃ! なんじゃそのだらしない言葉遣いは! あと、その服装もじゃ!!」


 うん。孫のだらしなさに怒る、田舎のおじいちゃんかな?


 東京とかだと、結構いるんだけどなぁ。なんていうの? ヴィジュアル系にはいってないけど、やんちゃしてます! って感じの子。


 要するにお洒落さんなんでしょう?


 そういうのは良いんだよ、別に。


 うん。


 そっと立ち上がり、まずは魔王様にかかった埃を払う。


 良かった。私が覆いかぶさるのが早かったから、魔王様にはあまり埃はついていないみたい。髪とかについた僅かな埃を丁寧に払い、自分の埃も払う。


 魔王様を抱きあげると、ずんずんと爺に近寄った。


 普通に考えたら有り得ない行動かもしれない。いきなり特攻してきた危ない奴に近づくなんて。でも、それでも私は近づいた。爺を過信しているわけではないのだが。


 爺の真横に立つと、爺に魔王様を押し付ける。


 戸惑うように受け取る爺。私はジルクフリードエッフェル君を振り返った。そして、無言で近寄ると、ジルクフリードエッフェル君を突然引きずり倒し、その横に膝立ちになる。


 あまりに突然の事で、ジルクフリードエッフェル君は驚いたように私を振り仰いだ。それに微笑みを向け、ずるんっと勢いよくズボンを引きずり下ろす。抵抗のなさから、これはデニムではないらしい。ボクサーみたいな下着もまとめて引きずり下ろしたため、つるんとした尻があらわになっている。


 私の手が振り上げられ、そして振り下ろされる。


 スパァアアンと小気味よい音が響き渡った。


「よろしいですか? 自分以外の方の住まいを突然訪問するなど、マナー違反にもほどがあります! 他人の居住地を訪れるには、まず、そこに住まう者へ伺いを立てるのが当然の事! 許可があって初めて来訪できるのですよ! 来訪の際は玄関から! 窓を壁ごと吹き飛ばすとは何事ですか!」


 パァンパァンと幾度も響く音。


 私の手も口も止まっていない。


「悪いことをして怒られたならごめんなさい、が言えなくてどうするのですか?!」

「痛いっ! けっこう痛い! あとなんか恥ずかしい!」

「お黙りなさい! これは貴方の行動がもたらした結果ですよ!」


 うむ。


 子供を怒る時は尻叩き、とここに来た後に読んだ育児本にも、マナー本にも書いてあったから、間違いない! これはこの世界の常識のはずだ!


 パァンパァンと音は続く。


 爺も魔王様もあっけにとられたように私達を見ていた。これは、後ろにいるはずの護衛の皆さんたち、ティアナさん達、オレガンディル総司令官も同じに違いない。


 私も恥ずかしいわ!


 中学生くらいの男の子の尻をむき出しにして叩くとか!


 しかしっ! これも育児には必要な事! もし魔王様に反抗期とかきたら、こんな風に怒られるんですよ、と見せておくのは大事なはず! で、こんなことされるくらいなら、反抗期迎えても、怒られない程度でいようと思ってくれたら完璧!


 その為なら、恥を忍んでやりますよ!! ええ、やりますとも!!


「ふっ……んぅ……ぁっ……な、なんかぁっす、すごっんんっ」


 ……へ?


 パァンパァンと叩くたび、なまめかしい声が聞こえる気がする……?


 えぇぇ……?


 ちら、とジルクフリードエッフェル君を見下ろした私は、硬直した。


 褐色の肌を染め、目はうるんでいる。薄い唇が開き、赤い舌をちらつかせながら、うっとりとした表情を浮かべていた。


 げぇええっ?!


 こいつ変態?! 変態なの?!


 尻叩かれて興奮してるの?!


 もしかして痛いのが好きだからあちこちに喧嘩吹っ掛けてたの?!


 マジかよ?!


 ヤバい奴じゃん!!!


「んっ……も、もっと、お願いします……」

「近寄んなこのクソ変態野郎がぁああああっ!!!!」


 思わず素が出た。


 にじり寄ってきたジルクフリードエッフェル君の頬に、全力で拳を叩きこむ。


 メキョリという音と、拳に肉が捩じられるような感覚がしたけど気にしない。


 肩で息をする私とは対照的に、全然余裕なジルクフリードエッフェル君。その場に四つん這いになったまま嬉しそうな声を上げていた。


 おおおお!!! マジか?!


 まじなのかぁあああっ?!


 立ち上がり、飛びのくように後ろに下がる。


 ジルクフリードエッフェル君は引きずり降ろされたズボンをそのままに、ゆらりと立ち上がると、私へとにじり寄ってきた。


 うをぉおお!! 先ず前を隠せやぁああっ!!!


「人間の娘!! 惚れたぞ!! 俺の嫁にしてやる!」


 嫌です!!!


 いーやーでーすっ!!!


 下半身露出して、尻たたきに興奮するようなクソガキ、お断りじゃぼけぇえええっ!!!


 変態なうえに、喧嘩番長なんだろう?! 断る要素しかないわ!!!


 素早く爺を盾にする。


「りなは、あれふの、およめさんなのっ!!!」


 響き渡る可愛らしい声。


 爺の腕に抱かれた魔王様が大きな声を上げ、睨みつけていた。


「なんだ、このガキ?」

「次期魔王陛下じゃ」

「あぁん? こんな弱っちいのが? あんだよ。魔王候補がいるって聞いてたから楽しみにしてきたのによぉ……」

「お主、こりぬのぉ……魔王様がきちんと成長されれば、お主なんぞ小指一本で潰される。その程度、これまでで十分、理解しておるじゃろうに……」


 呆れたように呟く爺……。


 え? 前の魔王様って、黒龍を小指で捻ったの?? そんで、そんな魔王様を勇者、倒したの??? え? 最早理解の範囲外な話なんですけど?


 なんなの? 魔王領にいられる人たちって世界びっくり万国ショー的な化け物の集まりなの?


「そんな強い奴を倒せたら最高じゃねぇか! だってのによう……こんな雑魚が魔王だぁ? 肩透かしもいいとこじゃねぇか。でもまぁ……」


 ジルクフリードエッフェル君がチラッとこっちを見た。そして、うっとりと頬を染め、微笑む。


 ぞわっと全身が粟立った。


「嫁が見つかったからいいよな!」

「りなは! あれふの! およめさん!!!」

「うっせガキ。メスってのはなぁ、強い奴に惚れるんだよ! つまり、あのメスは俺の嫁だ!」

「その理論から行きますと、デルフォリアス宰相閣下がこの部屋で一番強い方ですから、私はデルフォリアス宰相閣下の嫁候補、ということでしょうか?」


 だからお前なんぞお断りだばーかばーか。


「な、なに?! くっ!! で、デルフォリアス!! そんなしわくちゃ爺のクセに、あいつを嫁にするつもりか?! そんなこと、認めねぇぞ!!!」


 慌てるジルクフリードエッフェル君。


 私も爺も冷たい視線を投げかける。


 なんだ、このアホの子は。


 本気で中学生男子か??


「お主……そんなに慌てるほど気に入ったのか?」

「ああ勿論だぜ! こんな……俺の尻を叩くなんて暴挙に出る度胸のあるメス、他にはいない! しかも、あの絶妙にスナップを利かせ、痛いと気持ちいいの両方を与える攻撃、あんなのは初めてだ!」


 拳をぐっと握り、笑顔で言い切るジルクフリードエッフェル君。


 うわぁ……。


 うわぁぁ……。


 うわぁああああ……。


 へんたいやぁ……。


 HE・N・TA・Iやぁあああっ!!!!


 きンもっ!!!


 というか、相変わらず下半身丸出しで、何言ってくれてんですか、この変態!!


「んんっ! お主、まず、下を隠さぬか! 竜でありながら、なんじゃ! その恥ずかしい姿をいつまでも晒しおって!」


 私の思考を読んだ爺が慌てて告げる。


 それにジルクフリードエッフェル君はあーそうだったそうだった、と呑気に声を上げながらズボンと下着を引き上げた。


「おい、メス! 俺に名前を名乗るのを許してやるぞ!」

「いえ、お断りいたします」


 即答。


 できれば、こいつとの縁は切ってしまいたい。


 コイツ以外に黒龍っていないんですか?!


「う、うむ……。お、お主、唯一の黒龍として、この者の配下に下るがよい」


 あ、いないんですね。


 私の思考に答えを出しつつ、逃げそうな私の逃げ道をふさぎよった、この爺!


「あん? 配下? なんでだ?」

「この者は神の命により、魔王様のナニーを務めている。魔王様の守護として、儂がお主を推薦しておったところじゃ」


 あーん? と不満げに漏らされた言葉。


「俺は俺より弱い奴の配下にはならねぇ。今日だって、魔王が俺の主に相応しいか会いに来ただけだ」

「まさにそれよ」


 ぱちんと爺が指を鳴らす。


 おっと珍しい。というか、初めて見たぞ。爺の指パッチン。


「お主、魔王様の守護となれば、身近でその成長を確認でき、納得できる程力をつけたと思ったら即座に戦える。しかし、じゃ、お主のように強い守護が居らねば、魔王様は排除されるやもしれぬ。このか弱い娘だけではゴブリンからも魔王様を守れぬ。魔王様が死ねば、この娘は神との契約が終わり、即座に本来住む世界へ帰還してしまう」

「なっなにぃいい?! それはダメだ!! こいつは俺の嫁となるんだ!! 帰す気はねぇぞ!?」


 慌てふためくジルクフリードエッフェル君。


 うーむ。事実だからアレだけど……爺会話上手いな。いや、ジルクフリードエッフェル君の性格をよく理解してるってことか。


 爺はジルクフリードエッフェル君を煽るように、残念そうに溜息を零して見せる。


「しかしのぉ……もし魔王様が……」

「ならっ!! 俺がそのガキの守護をしてやる!! 配下契約がいるなら、してやるよ!!」


 BAKAだ。


 うん、紛れもなくバカだ。こいつ。


 ちょっと頭弱すぎだろ……。


 えぇー……? これで爺の『古い知り合い』? マジでぇええ??


 爺との差はなに?!


 それとも竜ってこういうのが普通なの?!


「違う。こ奴だけがアホなんじゃ。こ奴はな、頭に栄養がいかず、身体にだけ栄養がいった見本じゃ。普通の竜はもっと思慮深いわ。脳筋は100年も生きぬ下等竜の若者と、こ奴くらいよ」


 こそこそと耳打ちしてくれる爺。


 私はそれにほっと微笑んだ。


 ただそれだけなんだけど、何を勘違いしたのか、ジルクフリードエッフェル君は悲鳴を上げ、私達を引き離そうとする。


 腕の中にいる魔王様には私達の会話が聞こえていたので、ジルクフリードエッフェル君が何に声を上げているのか理解できない。


 うんうん。いいんだよ、魔王様。このアホの思考なんて理解しなくて。


「ふむ……ジルクフリードエッフェルよ。この娘の配下に下るか?」

「守護する為だけで、俺は膝はつかねぇぞ!」

「別に配下にならないでけっこうです」

「なっなに?! 俺が配下だぞ?! 竜族最強の黒龍だぞ?! 若い竜人よりも強い黒龍だぞ?!」


 慌てるジルクフリードエッフェル君。


 いや、でも、こんな変態、配下に欲しくない。


「デルフォリアス宰相閣下をいつも見ておりますので……」

「ぬぐぐ!!! 俺はお前の配下になるぞ!! 絶対になるからな! 俺がその爺に負けない素晴らしいオスだってわかるまで、お前に完璧に仕えてやるぞ!!」


 え、いやだ。


 いらね。


 今だって上から目線じゃん。


 こういう俺様、面倒だもん。


 努力できていない努力で自己満足して、その努力を認められなかったらキレるんでしょう?!


 厄介ごとはお断りしています!!!


「まぁそういうなて……。配下には一つの恩恵がある。お前の能力をより大きな効果で得られる。勿論、お前の信頼度や、好感度によってその効果は変化する。良い例がお主がやたら気にかけておったフォレストスパイダーじゃ。あ奴らはこの短期間にジョロウグモまで進化したじゃろう?」


 た、確かに。ゴブリンたちよりも早い進化回数だった気がする。


「ゴブリンたちもこの城に顔を出す各ブロック長や、食事係の方が成長は著しかったじゃろう?」


 なるほどー。でも、じゃぁ、ポチやヨウジンボウさん達は? あれから進化していないようにみえるけど……?


「あの者達も進化しているぞ。ポチはムーンウルフロード。ヨウジンボウは疾うにハンシまで進化しておる」


 なんてこった?! また知らないうちに配下が進化してたよ?!


 見た目の変化に気づかなかった?!


「……結構変わっておるのじゃが……」


 呆れたような爺。


 おっとー? ほんとすみません。全然わかりません。


 正直、アレフ様の身長がほんの少し伸びたのしかわかりません。


 ティアナさん達くらい変化していればわかるんですがね?


「ポチは、お主5人は乗れる程大きくなっておるぞ。ヨウジンボウ……ハンシ達も角がなくなり、身長も高くなっておる」


 気づかなかった!!!


 え?! いつの間に?!


 お主……と爺が冷たい視線を向けている。


 うふっ……ホントごめん。魔王様しか見てなかったんだって!


 こそこそと会話しているのでポチたちには聞こえていないみたいだけど……あれ?? そういうのってシルフィナさんに管理一任してたよね? 私、なんの報告も受けてないんだけど……って仕方ないか。爺が知ってるってことは、爺と話していたんでしょう。


 まぁ、ずぅっと一緒にいるポチたちの変化にさえ気づいていない私より、爺と話すよね。


 うーむ……。じゃ、黒龍は竜人に進化できるわけで……私の配下に居た方がいいと。でもなぁ……。


 チラッとジルクフリードエッフェル君を見る。


 私に見られてぱっと微笑むジルクフリードエッフェル君。


 そのうっとり顔、本当に気持ち悪いです。


「こ奴がきちんと配下契約すると言うたから心配はいらぬ」

「……。デルフォリアス宰相閣下がそうおっしゃるのでしたら……」

「よし、ジルクフリードエッフェル! お前と配下契約をしてくれるそうじゃぞ!」

「本当か?! よし! お前の気持ちは固まったんだな?! これで俺とお前は主従関係で、ずっと一緒だ! では俺の根城に行こう! あそこには俺が貯めた宝の山がある! 未来の嫁であるお前に、全部くれてやろう!」


 抱き着こうとしたのでさっと交わして爺の背後に再び隠れる。


 配下契約を、なんか都合よくとらえてない? 怖いんだけど……。


「ジルクフリードエッフェル。先に戻っておれ。どうせお前の事じゃ。アホのように貯めておるのじゃろう? それを運ぶための道具と人員をそろえ、こちらから向かう」

「えぇー??」

「なぁに、ほんの数時間で準備はできるわ」


 笑う爺に、ジルクフリードエッフェル君は「まぁそれなら」と唇を尖らせつつも引き下がった。


「んじゃ、俺の根城でまってるぞ! 花嫁!」

「違います。私は貴方の主です」

「まだ名の交換をしてない! だからまだお前は俺の花嫁だ!」

「……。やはりこの話、なかったことに……」

「まっているからな!!!!」


 私の言葉を遮り、涙目で背中に翼を出したジルクフリードエッフェル君は飛んでいった。


 えー……やだぁ……。


 行きたくなーい……。


 などという私の気持ちは、爺にさらっと無視され、爺がてきぱきと指示を出し始める。


 まず、この部屋の修復の為、ドワーフとエルフたちに声をかけるよう言いつけられたオレガンディル総司令官が走って部屋を出ていく。護衛の皆はそのまま待機。部屋の外にいる兵士のリザードマンの1人にシルフィナさんを呼びに行かせ、もう1人には荷車を用意するように声をかけていた。


 あ、部屋の外のリザードマンたちが騒ぎを気づかなかったのは、咄嗟に爺が防音結界を張ったらしい。


 ジルクフリードエッフェル君には会いたい。でも、ジルクフリードエッフェル君の襲撃を知ったら皆がパニックになるから、この辺一帯を隔離していたようだ。


 まぁ、結界に体当たりをしかける黒龍より、結界内に取り込んだ方がいい、とそういうことらしい。確かに、騒ぎになるよりはましかぁ……。


 やってきたシルフィナさんに、爺は長期間城を空けることを告げた。


 ええ?? 初めて聞いたんだけど?


「黒龍を配下におさめにいく。そうじゃのう……最低でも1週間はかかる。その間はお主の采配にかかっておる」


 あ、ついでにシルフィナさんの腕前をみたい、ということか。


 抜け目ない爺だなぁ。


 まぁいいけど。


 シルフィナさんも突然の大役に、黒龍という言葉に反応できないほど緊張した面持ちでいる。


 不安そうに私の方を見るから、にこ、と微笑んで見せた。そうしたら、決意したようにきゅっと口元を引き結び、力強く頷く。


 こうして私は爺の転移魔法でジルクフリードエッフェル君の根城にきたわけだ。


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