16 進化の先
目の前には、真っ黒な黒い髪を足元まで伸ばした女性。青い肌に、白目がない黒目。美人ではあるけど、明らかに人間ではない誰か。深々と頭を下げている。
誰、だ?
えーっと、状況を整理しよう。
1、爺がやってきた。
2、爺が今日は森で魔法の練習と言ってきた。
3、爺と魔王様と共に森に来た。
4、爺が突然会わせたい者がいる、と言ってきた。
5、人間じゃない美人さんが現れた。
……よし、爺が原因だ。
ばっと爺を振り返ったときには、爺は既に魔王様に魔法を教えていた。
くっ!!! これでは声がかけられない!!
仕方なく、頭を下げる女性を見た。
えー……誰?
ほんと、誰?
新しい移住希望者、とか??
なんで私に頭下げてるの? そういうのは爺だよね?
ぐむぅ……情報が足りなすぎる。
「リナ様! リナ様のおかげでわたくしたち、フォレストスパイダーは大きく進化する事が出来ました!」
おおっとぉ?!
こちら、私が苦手なでっかいクモ、フォレストスパイダーさんでしたか?!
女性だったんですか?!
はっ! そういえば、フォレストスパイダーさん、でっかいジョロウグモだったね?!
「わたくしたちはフォレストスパイダー、マウンテンスパイダー、リバースパイダー、シースパイダーと進化を経て、ようやくジョロウグモまで進化いたしました!!」
えええええ?!
もともとでっかいジョロウグモだったよねぇえええ?!
今?! 今がジョロウグモなの?!
「リナ様がわたくしたちの見た目が苦手だと聞いておりましたので、できるだけ御前に出ないようにしておりましたが、ようやく人型まできたので、是非感謝の念を伝えたい、と失礼を承知でデルフォリアス宰相閣下にお願いいたしました! 本日は足をお運びいただき、誠にありがとうございます!」
うっ!!!!
ご、ごめんなさい……。気を遣わせていたんだね!?
確かに、虫は苦手だけど、折角配下に入ってくれたんだから、色々お話ししたいと思って、何度かこの森をウロウロしてたんだけど……。巣らしき場所は見つけたけど、いつ行っても誰もいなかったんだよー!
くぅ……誰がその情報を漏らしやがったんだ!!
せっかく一緒に住む仲間だっていうのに!!
「まだ完璧な人型とは言えませんのでどうかと思いましたが、このジョロウグモは、普通に私達が生きた場合、ほぼ最終的にいきつく進化ですので、今後の事を考えたら早いうちにお礼を申し上げるべきかと思いました」
「そうだったのですね。わざわざありがとうございます。でも……そのように気にすることはないのですよ。わたくしは、ずっと貴女達と話してみたいと思っていたのです。それと、どうか立ってはもらえませんか? 貴女の顔を見て話をしたいと思います」
私の言葉に驚いたように顔を上げる元フォレストスパイダーさん。困惑したまま固まる彼女に、再度立つように促す。
恐る恐る立ち上がった彼女は背が高い。170㎝を超えているだろう。
くぅっこの世界、私が見上げないといけない人たちばかり! ゴブリンももうほとんどが次の進化段階に進化して、170㎝以上が基本となっているし……。
はっ?! 今気づいた!! 私より低いの、魔王様を除くとドワーフとピクシーだけじゃない?! ドワーフは身長120㎝程度。高いものでも130㎝程度。ピクシーは手乗りリ〇ちゃん人形……! この人たちしかいないとかめちゃくちゃショック!!
あれかな? 魔物って背が高いのが基本なのかな? 今度人間を見てみたいなー……。って無理か。人間なんて、今私が一番会ったらまずいわ。襲い掛かってこられる。
やめよう、うん。
「し、シルフィナ法務官様から、リナ様の御前に現れ、不快な思いをさせないように、と言われておりましたので……わざわざわたくし達と話にいらしたとは思わず、皆で身を潜めていたのです……」
ああー……シルフィナさんもそういえば虫が嫌いだって言ってたなー。
ちっちゃい虫に「ぴゃっ」て声を上げた時に、そんな話したわー。そっかー……すまんことをしたー……。
「確かに、わたくしは虫が苦手です。ですが、貴女達はわたくしの配下。つまり、わたくし達の大切な仲間ではないですか。貴女達を見て、不快、などありえません」
「お、おぉ……リナ様……! なんと勿体ないお言葉!」
感動して涙ぐむ元フォレストスパイダーさん。
そ、そんな感動すること? ま、まぁ、本人が嬉しそうだからいいや。
はー……それにしても……森、山、川、海と進化して、今クモに戻ったのかー……。
んん? 山、川、海に進化……????
なぁんか聞いたことがあるような……。
何だ? どこで聞いた? 私がこの世界の魔物1体1体の進化系統を知るわけがない。つまり、この世界の知識じゃない。となると、日本にいたときの知識だ。しかし、進化の知識? なんの進化の? 私は保育士で、科学者的なナニカはわからない。
むー……?
山、川、海……?
その時私の脳裏に、クェーと鳴く黄色い何かが横切った。
あれだ!!! あれ!! 昔弟がやっていたゲームに出てきた……ヒヨコ?? そう! でっかいヒヨコ!
確か、弟が言ってた!
野良ヒヨコを捕まえて、餌を与えて、レースに出して、育てる。で、育てたヒヨコを特定の野菜を与えて配合すると、山ヒヨコになる。山ヒヨコを育てて配合すると川ヒヨコになるんだったかな?? で、最終的に海ヒヨコになる。
ノーマルのヒヨコは、平地しか走れない。山ヒヨコは山と草原を走っていける。川ヒヨコは草原と川を走っていける。で、海ヒヨコはどこでも走っていける、だったね。
人が乗れるほど大きなヒヨコで……ヒヨコって事は、あれ、成体があるのかな? 人間が乗れるくらいのヒヨコだし……成体はコンドル、とか?
あ、あと、昔はノーマルヒヨコと黒ヒヨコしかいなかったとか言ってたかな?
うーむ……オタクの弟……元気かなー。今もゲームと漫画とアニメに人生賭けてるのかな? 引きこもり、続けてるのかなぁ? こっちに来る前も3年は会ってない気がするなぁ。
ああ、まぁ、いいや。うん。元フォレストスパイダーさん達はヒヨコじゃないし、今いない弟の事はとりあえずおいておこう。
それよりは今は元フォレストスパイダーさん達。
えーっと……こうやって私に話に来るのはだいたい私と配下交渉をした、その群れの長だから……この人は確か……ティアナさんだよね?
「ティアナ」
「おおっわたくしごときの名を覚えていてくださるとは……! なんと慈悲深い!」
いやいやいや!
流石にその程度は覚えてるよ?!
再び涙ぐむティアナさん。感動しているところ申し訳ないけど、私、どういう風に思われてたのかな?!
一度じっくり腹を割って話してみたいところだ。
「……ところでティアナ?」
「はいっリナ様!」
「今、貴女達は何をしており、進化した結果、どのようなことができるようになったのですか?」
とりあえず話を変えよう。
私の質問に、ティアナさんは嬉しそうに話し始めた。
ティアナさん達は現在、全員がジョロウグモまで進化した。基本的に今まで通りクモの巣で生活しているらしい。うーむ……ドリアードもそうなんだけど、見た目人間の女性、それも細身の美人さん達、が野外で生活ってどうなんだろう? 犯罪とか大丈夫?
一応聞いてみたところ、ティアナさん達の巣がある周りはがっつり罠を張っているらしい。私が時折訪れていたときは、先回りして頑張って罠を外していたのだとか……。
ごめん。
私、けっこう邪魔しいだね……。
反省します。
で、普段は糸を紡いで、編んで、布やレースを作っている。
うん、これは変わってないんだね。
現在魔王城及び城下町に流通している布は、全てティアナさん達作。ティアナさん達がシルクのような綺麗な布……うん、もうシルクでいいわ。シルクを作り、エルフたちが色々なものを仕立てる。仕立てた服や布製の諸々が物々交換で各家に回っている。
……そろそろお金、作らないとダメかな? しかし、そうなると物価とかを調べないといけないのかー。これは……面倒だから人間の国の物価を真似ようかな?? あれ? 人間の国も物々交換かな? 爺に確認をとらなくちゃなぁ……。
で、少し前からシルク以外の布が流通するようになった。今私が着ている服のベルベット生地とかかな。麻とか綿っぽいのも増えたし、ガーゼもできた。
あ、絹糸の他に毛糸とかもあったなー。最近、編み物始めたんだったー。
あれらも全て、ティアナさん達が作り出したんだって。
進化するにつれ、作れる糸の種類が増え、糸の種類が増えたので、生地の種類も増えたのだとか。
で、現在はその様々な糸や生地を作っている。終わり。
つまり、何も仕事が変わっていないのだとか!
えー……? 聞いた限り、もっと色々な糸が出せるっポイよ? もっとこー……防衛のための何かに使えるんじゃない? と思うんだけど……。
「わたくし達としましては、もっとお役に立てないかと思っております。しかし、わたくし達は入城を許可されておりませんので……唯一許可されているのは食事を運ぶ者だけ……」
「? 私は、現在私の配下の誰かに入城を規制したことはありませんが?」
「ですがシルフィナ法務官様が規制をされました……」
うーむ……シルフィナさんかぁ。
まぁ、私の為兼、自分の為、虫を見たくないと勝手をしたんだろう。これは後で注意すべきかな。私はそんなこと、望んでいないのだから。
いずれ魔王様の配下になってもらう予定の私の配下は、全員平等のつもりだ。
「……貴女達は私とシルフィナ、どちらの言葉に従うのですか?」
「それは勿論リナ様です!」
「では、今後、いつでも城に来てくれますね?」
「はいっ!」
「貴女達にはアレフ様のお部屋の防衛等で相談したいこともあります。是非、部屋の方まで来てください。誰かに見咎められたら、私が許可をした、と言いなさい」
「かしこまりました!」
気合十分なティアナさん。
うんうん、良い事だ。
誤解が解けたみたいで良かったよかった。いや、誤解なのかな? でもまぁ、私のせいでおきたことだから、兎に角解消できてよかった。
仲良くしたいのに、勝手に溝ができたら困るよね!
「話は済んだかの?」
丁度良いタイミングで話しかけてくる爺。
流石です、爺。
でも、腕に魔王様を抱っこしているのは大減点です。昼間は魔王様を抱っこしない!
私の思考を読んだのだろう、そっと魔王様を降ろす爺。
素直。
「デルフォリアス宰相閣下。はい。誤解も解け、今後ティアナは城仕えに変えようかと思っております」
私の言葉に爺はぱっと嬉しそうに笑った。
「おお、おお、そうかそうか。それは良い。ジョロウグモは魅了や麻痺といった戦闘不能、または敵対行動をとるような状態異常にかからぬ。アレフ様付のメイド兼護衛に加えたかったのじゃ」
なにぃい?!
そんな有望な人材を遠ざけるとか、シルフィナさんって何考えてるんだ!! い、いや、確かに巨大な、それこそ私が5人は乗れそうなジョロウグモがそこここを歩いていたら、精神的に嫌かもしれないけど……。で、でも、ゴブリンやオークだって最初は怖かったけど、慣れたわけだし……。うん!
勿体ないことをしていた、今まで!
「それでは、ティアナさんを筆頭に、最低でも5名はアレフ様付をしていただきたいと思います」
「そのような大役をわたくし達に!? い、いえ、しかし、先に城でメイドとして働いていたゴブリンメイジの皆様に申し訳が……」
おっと! メイドのゴブリンマジシャン達も進化してたの?! 今、ゴブリンメイジって言ったね?!
「かまわんじゃろう。いかに配下がリナにとって等しく平等とは言え、魔物の世界では力が上下関係に直結すると言っても過言ではない。お前達とゴブリンではいかにゴブリンが進化しようとも、その差は歴然。より強い者を護衛にするのは当然の事よ。もし、リナが竜種を配下に収める事が出来れば、お前達は護衛の任を解かれることもあるやもしれぬしのぉ……」
確かに。
いつまでも弱い護衛はダメだ。だから、ヨウジンボウ達には悪いけど、黒龍についてあれこれ調べているわけだし。
魔王様を守る絶対の守護者が必要。いつ勇者が攻めてきてもいいようにしなくちゃ。
可愛い可愛い魔王様! 絶対に守って見せますから! 保育士としても、こんなか弱い子供襲うような不審者、絶対に許さん!!
弱者を狙う犯罪者は問答無用で撲殺じゃぁああっ!!
これはもう、知りませんでした、とか言い訳も許すことなく、慈悲の欠片も見せずに犯罪者には人権なし! を発動していいと思う。うん。
「と、いう訳ですので、後日、護衛の任に就く者を選定し、アレフ様のお部屋まで、来ていただけますね?」
質問の形をとってはいるけど、これは命令だ。
あまり命令をするのは好きではない。私は所詮、一般市民。一介の保育士。誰かに命令をする立場にはいなかった。未だに慣れない。これが大企業の社長とかなら、気にせずバンバン命令できるんだろうなぁ……。社長ってすげー。
でも、ティアナさんはとても嬉しそうだ。
顔を紅潮させ、目を潤ませ、微笑みを浮かべそうになる口元を必死に律している。まぁ、律しきれず、口の端がちょこっと上がっちゃっていた。
ニマニマ? そんなかんじ、かな?
「リナ様のご都合がよろしければ、明日にでも参りたいと思います!!!」
「では、明日の……午後にお願いできますか? 午後はデルフォリアス宰相閣下もおりますし、防衛を担当する鬼のオレガンディル総司令官も呼んでおきます」
「はっ!!」
深々と下げられた頭。
あー……可愛いな。興奮のあまり、チラ見えしている耳が赤く色づいている。
この世界の人たち……まぁ、私が知っているのは魔物しかいないんだけど、けっこう無防備なところあるよねー。元の姿が人から遠いところにあるからかな?
色々隠しきれてないよね。うん。
ほんと、色々だだ洩れだよねー。
「では、わたくし達は戻ります。明日の昼、忘れないよう、お願いいたします」
「はいっ!! 勿論です!!」
元気な返事を聞き、私はいつの間にかスカートのすそを掴んでいた魔王様の手を取る。
見上げる魔王様に微笑みかけ、手を繋いで城へと戻った。
F〇7のチ〇コボネタですね。
主人公は間違って覚えています。
正しくは、
ノーマル→山もしくは川→山川→海
ですね。
あと、ヒヨコじゃないです。
あれで成体ですね。
一応、トドはちゃんと知ってますよ、というアピールをしてみました。




