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15 色々話してみる



 頭を下げるシルフィナさん。


 外から帰る私達を出迎えているのだ。私達は森から帰ってきたばかり。そう仰々しく迎える必要がないので、シルフィナさん1人だ。


「おかえりなさいませ、宰相様、リナ様」

「……」

「只今戻りました。私達が森林浴をしている間に何かありましたか?」

「いいえ、とくには」


 本当はレイスを配下におさめに行っていたんだけど、爺が内緒にしておくように言ったので、予め決めていた嘘を口にする。


 爺曰く、配下におさめに行く、と言って、誰も連れて帰らなかったら、それは失敗した事を示すらしい。そうなると、配下のものが、この主人は力不足、と出て行ったり、勘違いして、主人の主人になったと思われる相手の配下になることがあるのだとか。


 今回、爺は初めからもしもレイスが悪魔へと進化したら、シャドウデーモンを従えさせに行かせる予定だったらしい。だから、連れ帰らない可能性がある以上、余計な事は言ってはダメだと言われた。


 でもそうだよねー。魔物達って、結局力の上下関係を気にするんだよね? 一応、今ここにいる人たちは私の料理に忠誠を誓っているけど、魔王様が力を付けたら魔王様の配下になってもらうわけで、それはつまり、強い力の前には容易く裏切るということ。魔王様にそっくり渡す前にそんな事になったら大変だよね。うん。


 そんなわけで、魔王様たちと森林浴に行っていた事にしました。


 森に行ったのは嘘ではないので、間違ってはいない。


 私達が魔王様を連れて、城周りの森を散歩するのは珍しい事じゃないしね。


 シルフィナさんもいつもと変わらない。


「ところで、デルフォリアス宰相閣下」

「なんじゃ、リナ?」

「黒龍について、お伺いしたいのですが……」

「!!!!」


 シルフィナさんがびくんっと大きく跳ね、ブブブブと小刻みに震えだす。


 いや、ほんと、まじで、何あったの??


 黒龍、と口にするだけでこれだよ。


 せっかくの美人さんが大変ですよ?


 黒龍ってなんなの?


「う、うむ……」


 爺も遠くへと視線を向けている。


 竜人である爺がこういう態度なのは何故だろう? 黒龍は竜種で、竜人の下なんだよね?


「り、りりり、り、りな、さま!!! こ、こここ、こ、こく、こく、こくこくこくりゅっりゅうをっ配下に加えるのですか!!!!????」


 爺を遮り、悲鳴を上げるシルフィナさん。


 うん、怖いよ。


 目を見開き、とんでもない量の汗をかいている姿は、流石の美人も台無しだよ?


 爺もすんごい目で見ている。


 いつも物静かなシルフィナさんが、これほど動揺する姿は予想もしていなかったのだろう。何をしたのだあ奴、などと呟いている。


「シルフィナ。黒龍と貴方の間には何かあったのですか?」

「ひっひぃいいいっおゆ、お許しくださいっお許しくださいっ」


 無様にその場に尻餅つき、ずりずりと下がるシルフィナさん。


 ついには頭を抱え、泣き出してしまった。


 お、ぉぉ……?


 何それ? うそぉ……?


 どういう状態よ。


 思わず爺を見ると、困ったように頬をかいていた。


「宰相閣下……」

「う、うむ……」

「少々魔王様のお部屋で、お話しをお聞かせ願いますか?」

「う、うむ……」


 困ったのーと頷きつつも爺は歩き出す。


 魔王様の手を引き、私もその後に続く。泣き出したシルフィナさんは、ごめん、放置。というか、向こうから慌てて走ってきたセイレーンの文官さん達が声をかけてたし、多分大丈夫だよ。うん。


 魔王様の子供部屋に戻ると、大きいソファーに私と魔王様が座る。小さいソファーに爺。


 私の膝上ににじり登った魔王様がもぎゅっと抱き着いてきた。


「りな~~」

「もう、魔王様、お座り上手は誰ですか?」

「しらなーい」


 頬を擽れば、きゃっきゃっと笑いながら頬を摺り寄せる。


 くぅううっ可愛い!!!


 さっきテンション高いイケメンに心のライフが削られたばかりだから、めちゃくちゃ癒されるぅうううっ!!!


 しょうがないなぁ、お膝に乗るの、許しちゃおっ!


「……」


 爺が何か残念なものを見るように、すごく冷たい視線を向けてくるけど気にしない。


「それより宰相閣下?」

「うむ」

「黒龍とはいったいどのような存在なのですか?」


 うむ、と頷いた爺の目が遠くなる。


 どうしたものか、と思案するようにぼんやりしている、というよりも、胃の痛い残念な記憶を前に、何から話せばいいのか、何を話しても同じか、と達観しているようだ。


「黒龍は……儂の古い知り合いじゃ……。あ奴は少々やんちゃが過ぎる奴での……あちこちに喧嘩を売っては、気に食わなかった者達を滅ぼしてきた……先代の魔王様にも喧嘩を吹っ掛け、返り討ちにあって配下になった。しかし、先代が死ぬとすぐに何処かへと消えてしもたんじゃ。まぁ、一応足取りを追い、今は居場所を特定しておるが……その間に滅ぼした種族、人間の都市、思い出すだけでも頭の痛い話じゃ……」


 えぇぇぇ……? それ、やんちゃが過ぎるというレベルじゃないんですけどー!?


 というか、そんな危ない奴抑え込んでいた前魔王様を、何故に殺した、勇者! 意味不明すぎる!!!


 早急に配下におさめて、抑えるか、滅ぼすかしないとヤバい奴じゃん?!


 魔王様が大きくなったら、襲ってくる危険性もあるよね?!


「うむ。そんなわけで、できれば手綱を握っておきたいのじゃ」

「宰相閣下の配下には入らないのですか?」

「あれは呪いで縛らねばならぬ。しかし、呪いで縛れば、儂の為、と暴走するのが目に見えておるし、アレを抑えるため、儂はほぼ全ての力を使わねばならぬ。となると、魔王様を守れるものがおらぬのじゃ……。アレはデーモンロードと呼ばれる、人間には魔王と間違われるような超上位悪魔でも片手で捻り潰せる程の力を持っておる。本気で戦えば、世界が滅ぶやもしれん……」

「それでも竜族で、竜人ではないのですか?」

「そうじゃ」


 竜族こえぇえええっ!!!


 そんな竜族を沢山配下にしている爺、マジすげぇええっ!!!


 化け物か?!


 いやいや……爺の凄さは十分理解しているけど、それでも毎回驚かせられるなぁ……。


 ふぅ、と一息つき、一度魔王様を膝から降ろす。少し不満そうな魔王様に詫びてから立ち上がると、己の腹に手を突っ込んだ。


 一度ブレイクタイムが欲しいので、ティーセットを取り出す。魔王様にはジュースとイチゴのショートケーキを取り出す。途端、魔王様と爺の顔が輝いた。


 はいはい。爺もケーキですね……。もう全員ケーキでいいか。


 一度ショートケーキを消し、代わりにケーキセットを取り出す。ホールケーキと、3枚の皿。そしてケーキナイフとフォークが3本。いやぁ……料理と一緒に取り出すと、皿がついてくるのっていいよね。ただ、これはイメージがかなり明確じゃないといけない。なんかこんな感じ、というふわっとした感じだと食器なし、料理を手づかみで取り出すことになる。


 結構これの為にイメージ力を鍛えたんだよなぁ……。主に暇になった夜に。


 真っ白な皿に、金の縁取り。上品な皿に、ホールケーキをカットしてのせる。当然ホールケーキはそのままに、ショートケーキが皿の上にある状態だ。


 最初の一つは魔王様の前に。次の一つは爺に。最後に他の2人より小さめのを自分に。


「今は昼間なのでこれでお願いいたしますね」

「勿論じゃとも。お前の取り出す不思議な料理は見目美しく、美味じゃ! 儂は嬉しく思うぞ!」


 ケーキ片手にご機嫌な爺。


 うーん……。この世界の、この、日本にあったはずの料理が何もない感……どうにかならないかなぁ……。似たような見た目のものはいくつかあったけど、素材が全然違うし、味もまったく違った……。


 さみしいなー。


 いやいや、まぁ、自分の能力で好きに取り出せるからいいんだけどさー。


 いくら食べても満腹にならない、太らない素敵な身体だし。


 酔う事もないのはほんの少し寂しいけど……まぁ、酔っ払って魔王様の前で残念な姿を見せないで済むのは、良い事、なのかな? うん。


 ちらりと魔王様を確認する。


 がんばってイメージした子供用フォークを握り、もぐもぐする魔王様は可愛い!!!


 意外と魔王様は上手に食べる。


 あまり口の周りを汚したりはしない。


「美味しいですか?」

「おいしー!」


 にっこりと笑う魔王様の頭を撫でる。


 いやー!! この笑顔を見ると、私、本当にこのギフトもらえてよかったなーって思う!


 子供のもぐもぐ可愛い!! すんごく可愛いぃいいいっ!!!


 はー……なんでこの世界にはカメラがないんだろうねぇ……。まぁ、似たようなのがあるからいっか。……私は使えないけど!


 いつか魔王様メモリアルを作りたいなー。


「デルフォリアス宰相閣下」

「うむ、美味いぞ!」


 違います。


 感想を聞きたかったんじゃありません。なんかクリームの味だとか舌ざわりだとかを、まるでグルメリポーターのごとき滑らかさで語らなくて良いです。


「黒龍の話に戻ってもよろしいでしょうか?」

「お、おお、そっちか! うむ! うむ、良いぞ!」


 ケーキの後に注いで渡した紅茶を飲みつつ、爺が頷く。


 こいつ……忘れてたな……?


 まぁいいけど。


 爺が食いしん坊なのはよくわかってるし。


「黒龍が大変な存在なのはよく、理解できました」

「うむ」

「できれば配下におさめたいとは思うのですが……」

「うむ」

「わたくしに提示できるものが何もないような気がいたします」

「そこなんじゃよ……」


 深い溜息。


 そうだよねー。やっぱり、黒龍は料理じゃつられないよね。


 マイッタナーと2人で溜息を零す。


 黒龍が私のように子供好きなら、魔王様を見て配下にならないわけがないだろうけど、話を聞いている限り、ぶっ飛んだ人みたいだし……無理だよね。


 うーん……。


 ああ、そういえば、シルフィナさんの反応すごかったなぁ。何があったんだろう? というか、あれほどトラウマになるような事があったのに、よく滅ぼされなかったな?


 気紛れ、なんだろうか?


 もし配下にしたら仲良く……は無理だろうなぁ……。


「ふむ……あの様子では無理じゃろうなぁ……」


 ですよねー。


 爺がそういうなら、間違いないと思う。


「お前、少々儂を買いかぶりすぎじゃないか? いつもそれじゃのう。儂が言えば、儂が言うから、ばかりじゃ」


 呆れたような、嬉しそうな声。


 だってそうでしょう? この世界にきて、唯一の私の共犯者。その爺を信じなくて、他に誰を信じるというのか。


 私がこの世界で信じているのは魔王様と爺。何しろ、ここに来た理由と、自称神様がアレだもん。当然でしょう?


 あの人もこの人も、なんて信じないよ。


 いや、爺よりはもうちょっと遠くだけど、信頼している人はいるよ? ポチとか。


「うむ。ポチは……少々アホじゃが、だからこそ信じてもよいかもな」


 急に自分の名前を呼ばれたポチが、目を見開いた。


 ええ、ポチずっといました。あと、ヨウジンボウの5人も。ポチとこの5人は常に私達に影のように付き従っている。離れることはない。


 夜、ポチはこの部屋で寝て、ヨウジンボウ達はこの隣の部屋に専用の部屋を設け、そこで寝ている。魔王様が眠りについた後にそちらへと移動し、眠る。その際に扉は開けっ放し。正直そういうのってダメかもしれないけど、まぁ、色々と念のため(・・・・)、ね。


 いてもいないように扱われることが多いけど、本人たちは気にしていない。


 いいのかなぁ……?


「そうかそうか。それなら良いのじゃ。儂ばかりではないのなら安心じゃ」

「大丈夫ですよ、宰相閣下。ですが、それでも宰相閣下の言が一番重要なのです」


 爺は嬉しそうに何度も頷く。


 いや、本当に可愛いな。見た目は頑固爺なのに……。


「しかしお前、どうやって信じる者を選んでおるのじゃ?」

「……それは内緒ですよ、宰相閣下。女は隠すのが好きなんです。詮索はダメですよ?」

「ふむ……そうか、そうじゃな。おお、ところでお前、いくつなんじゃ? 20かそこらか?」


 おっとー? 3年一緒にいて、初めて私の年齢の話になったー?


 こらこら爺、女性に年を聞くもんじゃないぞー?


 特に私ぐらいのはなー。 気にしていたらどうするー。


 って、20は流石に言いすぎだよ? そんなわけないじゃなーい! でも嬉しい~!


「嬉しい? 何を言っておる。人間の20なら、お前、行き遅れじゃろう?」


 ぐっほぉ?!


 なんちゅー攻撃だ?!


 てか、こっちの世界、20で未婚は行き遅れなのか?! 早くない?!


「早くなどないわ。人間は短命の種族じゃ。12~15で結婚、15~18までには出産が当たり前じゃろうに。お前、あれほど子供が好きなのに、何故行き遅れたんじゃ?」


 がはっっ!!!!


 その子供好きが長じて男にフラれましたとも!!


 いいんだーっ! 私は子供に囲まれる仕事をしてたから!


「お前の世界は変わっておるのぉ……。こちらの世界なら、お前みたいに子供好きで、子供の扱いに長けたものは、引く手数多じゃというのに……子は宝じゃ。それは人間も魔物も変わらぬ。ゆえに、子を育てる能力の高い娘は取り合いになるのが普通じゃぞ?」


 まじでー?! じゃぁ、私、この世界ならモテモテー?(笑)


 興味なーい!


「まぁ、20過ぎた年増なぞ、もはや行くてもないがの」


 ぬぐぉお!? なんてこった!!


 この爺、なんの恨みがあって、こんなにも全力で持ち上げては、力の限り叩き落すんだ!! ちょっと酷いぞ!!


「で? お前、いくつなんじゃ?」

「……」


 誰が教えてやるものか!!


 どうせまたバカにするんでしょー?!


 私の住んでた世界じゃ私の年齢は行き遅れじゃないもんっ! 40歳くらいで結婚して出産する人も多いし! 何より、今は独身女が多い時代! 独身は男だけのステータスじゃないもん!!!


「いや、年齢によっては魔物換算で12歳とかでいいかもしれんのでな、魔王様が大きくなられたら嫁にどうかと思ったんじゃ」

「全力でお断りいたします」


 即答。


 いやいやいや、だってそうでしょう?


 あの自称カミサマとかいうくそ野郎が「嫁がいるならもう立派に育ったよね」とか言い出したらどうするの?! 私の計画がパァでしょ?!


「むむ……それは困る。この話はなかったことで」

「当然です」

「えぇー?!」


 声を上げたのは魔王様。


 不満そうに頬を膨らませている。


「りなはあれふのおよめさんなのー!」


 へ……?


 んん?


 なんで魔王様がお嫁さんなんて言葉を知ってるんだ……? ってああー……そういえば夜寝る前に読み聞かせている本で質問された時に答えたなー。あれかー。そして、幼稚園のお約束かー。「リナ先生、僕のお嫁さんにしてあげる」ってあれかー。


 そっかそっかー! アレフ様もけっこう自我がしっかりしてきたなー! 独占欲とかの現われなんだよね! ちゃんと成長しているみたいで良かった。


「リナはアレフ様のお嫁さんにはなれないけれど、ずっとお側におりますよ」

「やっ! りなはあれふのおよめさん!」


 もー可愛いなぁ、魔王様!


 言っている意味、殆ど理解していないくせに~!


 もっと大きくなったら、そんな事言ったなぁって恥ずかしい思い出になるんだよねぇ~! まぁその時まで、私と爺は優しく見守っていけばいいんだ。


 でれっでれの笑顔で頷く爺を横目で確認しつつ、魔王様の頭を撫でた。


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