12 初めての謁見対応
見上げてもめまいがするほど高い天井。大きな大きな両開きの扉。重そうなそれの前には2人のオーガ。扉は彼らが開く。
磨き上げられた大理石のような床。3段程高くなった場所に据えられた玉座。優雅で、それでいて重々しいデザイン。それは先代から引き継いだ玉座。これは私も爺も譲らなかった一品。歴代魔王が座った玉座だと聞いた。魔王様は魔王にするつもりはないが、それでもこの魔王領地の王だ。この玉座以上に重みのある玉座はない、と思う。多分。もし、将来魔王様が変えたいって言ったら変えていいと私は思ってるけど。
そして扉から玉座まで一直線に敷かれたふかふかの赤い絨毯。あれ、いる? どっかのレッドカーペットみたいな大切なものらしいけど……なんか、大理石の床に対して浮いてない? 私の美的感覚の問題かな? 大体、あそこだけ急に絨毯あったら滑らない? それも私だけ?
両手を回しても全く届かないほど太い柱が、ゆったりと距離を開けて6本並ぶほど広いここは、玉座の間。
玉座の後方、左右には巨大な窓。さんさんと陽の光が差し込んでいる。柱にも美しい燭台がかけられ、蝋燭と火を模した魔石が明かりとなって、どこにも影はない。
その上に垂れさがる、タペストリー。タペストリーは柱だけでなく、玉座の後ろの壁にも、柱にかかる物よりも巨大なものが垂れ下がっている。未だ紋章はない。これは、魔王様が大きくなった時、自らの力で家紋を描くのだそうだ。魔法、本当に何でもありですごい。私も使いたかった。
玉座の前、3段下の部分には5人のオーガ。彼らはヨウジンボウに進化した者たちだ。現在、魔王様の護衛として、私と魔王様の側に付き従っている。まだ爺一押しで、問題がありそうな黒龍とかいうのを配下におさめていないので、仕方がない。まぁ、種族名的にもいいんじゃないかな? 彼らが護衛で。
もう、種族名を聞いた時から思い描いていた武装を身に纏ってもらっている。
大きなすげ笠……全体的に丸っこいフォルムの竹編みの笠を被り――顔を隠す浪人笠と悩んだ――、藍色の着流し。黒い細帯。刀を二本帯刀してもらっている。パンツ見えたら困るから、ステテコパンツは着用してもらってるのがちょっと格好悪いような? 誰かいい方法知らないかな?
簡単に脱げそうな着流しも、剣とは全く違う形をした刀も、彼らは少しの練習で割と簡単に慣れてくれた。主である私希望の武装――しかも特注――ということで、ものすごく喜ばれた。
……ごめん。なんか雰囲気で、時代劇に出てきそうな恰好させて。いや、でも、ほら、ヨウジンボウだよ?? 「先生、出番です!」って言いたいじゃん? そんなわけで、心の中で謝りつつも、反省も後悔もしてません。そういう意味でごめん。
もう、西洋風の城でめちゃくちゃ浮いてるけど気にしない気にしない。
赤い絨毯の右サイドには、鬼に進化し、現在兵士を取りまとめる左将軍のオーガ1人、ショウグンに進化した右将軍中将軍のオーガ2人が並び、一歩下がったところに、未進化のオーガ達がずらりと居並ぶ。
ちなみにヨウジンボウ以外に進化したものを含めた残りのオーガ達は、全員軍服を着てもらってます。だって、ショウグンだよ? 鬼も鬼将軍っていう言葉あるし。で、城や城下町を守る軍隊でしょう? じゃぁもう軍服でいいよね? 自衛隊の迷彩服っていうの? それともミリタリー系って言った方が良い? あれと悩んだけど、とりあえず、なんかそれっぽい黒の軍服を着てもらった。帽子もかぶってます。で、腰には刀。明治時代くらいの警察というか、軍人というか、なんかそんな見た目になった。結局ある意味映画とかで見そうな恰好だね。
左サイドには、この国の法律を取りしまるセイレーンの代表者――以前はセイレーンを取りまとめていたセイレーンの女王ともいう――と、その補佐をするセイレーンが2人。その一歩後ろに、セイレーン20名と、メイドとして雇われたが、その実、城の警護担当でもあるゴブリンマジシャンの女性たち20名。
前に立つ3人は、中華風のひらひらした文官の服を着てもらっている。三○志演義の漫画で文官があんなの着てた気がする、という服をなんとなく伝えたら、エルフたちが作ってくれた。絵を描いたのが良かったのかも。頭に小さな帽子をかぶり――かぶるというか乗せて紐で結わえている?――で、ひらひらした着物とはちょっと違う華やかな色合いの服を着ている。セイレーンというか、女性には大人気だった。綺麗だそうな。残りのセイレーンたちは、それを大分地味にしたものを着てもらっている。簡単に言うと黒系の色のみで、ひらひらの装飾一切なし。
ゴブリンマジシャン達は、以前私が着ていたデザインのクラシックメイド服を着ている。私が着ていたものと同じ、ということで、城仕えになった彼女たちは相当羨まがられたそうだ。
王の出入り口である、玉座の真横にある扉の前には、完璧な執事服に身を包んだゴブリンロードが1人。彼は執事長。
わりと見た目から入っているけど、こうしてみると、和洋中とせわしない。所詮一般人のあやふやな考えなんてこんなものだろう。ドラマとか映画とかの何となく程度の知識で色々やらかしたらいけないな、という例かもしれない。
まぁ、オークもセイレーンも、頭の角や鳥の下半身の関係上、今の服は着やすくて気に入ってくれているようなので、いいってことで! 笠については触れない! 別に笠に刺さるほど長い角じゃないし、いいよね?
で、玉座には魔王様。何が起こっているのかよくわからないけど、いい子に座ってくれている。今日は、カボチャパンツと、王様っぽいシャツやベストをイメージしたケープを身に纏い、一般的には高級に当たる毛皮のガウンを羽織り、頭の上に、小さくともしっかりとした王冠を抱いている。
右斜め前には爺。本日もいつものエリマキトカゲみたいな首周りのある謎のローブと、髑髏のネックレス。それ以外のデザインは好みではないそうだ。しかし、いつも着っぱなしのように見えるので、今度色々衣装をデザインして見よう。……お遊戯会の衣装みたいなかんじで。
玉座の左斜め後ろとはいえ、魔王様の肩に手を置ける位置に私。最近はアルプスの少女ハ○ジに出てくるロッテン〇イヤーさんのような服を着ている。紺色の地味なドレスに、胸元には緑色の綺麗な石をあしらった、ブローチ。黒いストッキングに革のブーツ。……ような、ではなく、まさしく、だね。
ベルベットのような生地がすごくいい。大分お気に入り。
魔王様の足元にはポチが座っている。
こんな中、魔王様に害をなせるものはほとんどいないだろうという布陣。完璧なつもりです!
でも、正直、偉い順に並べる、といった知識があやふやなので、かなりめちゃくちゃな配置かもしれない。とりあえず爺がOKしたからいいってことで!
とにかく、そんな仰々しい玉座の間に、平伏する数名の男女。ここに集まる武力は人間の都市を軽く落とせるレベルらしい。土下座のような姿勢のまま、恐怖に震えている。
マーマンのリムブルンドさん。それと、見知らぬ女性が3名。リムブルンドさんの隣で頭を下げている女性と、後方に控える女性2人。この3人は知らない。で、後方に控える女性の間に挟まれたプリシラさん。
リムブルンドさんと、その隣にいる女性は、まるでギリシャ神話で見るような衣装に、様々な色の真珠やサンゴを飾り付けた衣装を身にまとっている。後方に控える女性2人は、ギリシャ神話の兵士のような恰好。プリシラさんは……両手を後方で拘束され、首に縄を付けられ、ボロボロの衣装を身に纏っている。明らかに、罪人のようないでたちだ。
人魚って足が魚だと思っていたけど、陸に上がる際はちゃんと人間のような二本足になるそうだ。ただし、肌の至る所に鱗が生え、どうみても人間じゃない。あと、耳もエラみたいなものだ。
で、何しに来たんだろう、この人たち。
私達が主従契約を結んだのは2週間近く前。それから特に命令はしていない。突然会いたいと彼らが手紙をよこしてきた。どうでもいいけど、海底に住む彼らが、よく手紙なんて知ってたね。あと、よく書けたね。別に知りたくはないので、説明はいらないけど。
「マーマンのリムブルンド。本日はどのような用件でこの場に来たのか、リナ様に答える事を許可します」
凛とした声が響く。
セイレーンのシルフィナさんだ。もとセイレーンを束ねる女王様。
セイレーンは美女揃いだけど、シルフィナさんの美しさは群を抜いている。エルフよりも美人。多分、この城と城下町全ての者をかき集めても、シルフィナさんに勝てる人はいない。それくらい綺麗な人だ。滲み出る気高さも違う。よく私の配下になったなぁって当然か。私の能力で出した料理は進化の可能性を秘めている。セイレーンも上位の種族があるらしいからね。
私の提示した恩恵が、彼女のお眼鏡に叶った。ただそれだけ。
それでも彼女は他の誰よりも率先してこの街に秩序をもたらしてくれている。まぁ、もともと私という主人を戴く者達ばかりだから、争いごとはいっさいなかったけどね。
頭を上げることは許可されていない。額を床にこすりつけたまま、リムブルンドさんは声を上げた。
「ほ、本日は、リナ様に、罪人、の引き渡し、と、我らの、主となって、くだ、さったことへ、の、感謝を示し、貢物の、献上に、まいりました!!」
緊張しすぎているのか、恐怖になのか、息切れを起こしながら、絞り出すように声を上げている。何だか可哀そう。
いやいや、でも、魔王様が逆らっちゃいけない相手だって、印象付けるのは大事だって爺もシルフィナさんも言ってたから! この場を整えた私は多分、悪くない!
しかし、貢物って何? 私、何か欲しいとか言ってないよ? いや、いずれ海底魔石とって来いっていう予定ではあるけど。
罪人ってのは、プリシラさんで間違いないだろうな。この場所に入ってくるとき、顔は真っ青で、目に涙を浮かべていた。俯き加減で、首の紐を引くようにされながら歩いてくる姿は、とても可哀そうだった。でも爺が当然、という顔をしていたし、鬼とかショウグン達は手ぬるい! という顔をしていたから、私が何か言えるわけがない。
ちらりと爺へ視線を送ると、重々しく頷いたので、私はシルフィナさんの方を見た。そしてしっかりとシルフィナさんと視線を合わせ、頷く。
とくに何も言わなくても、シルフィナさんは無駄に酷い事はしないけれども、王の座にいただけあって、きちんとすべきことを理解している。任せておけば勝手に色々してくれるから問題ない。
「罪人を牢へ連れて行きなさい! 然るべき調査の後、処遇を決めます!」
その言葉と共に、列の中からオーガが2人、出てきた。
震えるプリシラさんを無理矢理立たせ、引きずるように連れていく。
えっと……。私、知らなかったんだけど、この城、牢があるんだね? いや、城だし、当然あるよね。なんで考えつかなかったんだろう、私。地下牢とかだよね、きっと。なんか勝手に、地下への階段の先はワイナリーだと思ってたよ。3年も住んでるのに……。
その場で処刑ではなかったことに、オーガ達は不満そうだけど、リムブルンドさん達は少しばかり安堵しているようだ。平伏したままなので、雰囲気からの判断だけど。私も安堵してます。魔王様の前でいきなりなことがあったら困るからね! あと、私も見たくないよ!
「シルフィナ」
「はい、リナ様」
「罪人と言えども、非道な行いは許しませんよ」
いえ、私、犯罪者には人権がない派です。でも、プリシラさんは別に罪人じゃない。ちょっとお子様過ぎただけだ。寧ろ、きちんと躾けられていない彼女を、ああいった場に連れてきたリムブルンドさんの方に問題がある、と私は思っている。
父親として、娘をきちんと躾けられないのも問題だし、父親でありながら、娘の事を理解していないことも問題だ。
あの日会っただけの私でもわかる。あの子はああいった場に連れてきてはダメだ。精神的な成長が足りて居ない。子供が大人の場に連れてこられて、大人と同じことを求められてできるか? 無理だ。よくよく躾の行き届いた子なら、それなりに空気を読めるだろうけど、彼女はわりと我儘な子だった。
癇癪持ちで、我儘。
ああなることは容易く想像できる。それでも連れてきたのはリムブルンドさん。
つまり、リムブルンドさん自身が、それだけ私達を下に見ていたという事の顕れ。それは、リムブルンドさんのミスで、罪だと思う。それをプリシラさん一人にかぶせた。私はそれが許せない。親としても、王としても。
「御意に」
私の言葉に、恭しく礼をするシルフィナさん。
勿論、彼女を疑ったりしない。彼女は秩序を重んじるセイレーンの元女王。この国で、罪人に関する法を作ったときも、その人権について真剣に考えていた。なのでこれは、オーガ達への牽制。オーガ達はプリシラさんを悪だと思っているから。ついうっかり、という事がないように。
「……リムブルンドよ」
「っっっ!!」
爺の呼ぶ声に、リムブルンドさんが大きく肩を跳ねさせた。ひぅ、と小さな悲鳴が聞こえる。
「儂はのう、罪人、というからには、お主のことかと思ったぞ」
私の思考を読んだのか、爺はため息交じりにそんなことを言い出した。
「あの場にあの子供を連れてきたのはお主ではなかったのか? あれほどの子供があの場に来るのは普通ではありえん。例え教育の一環だったとしても、だ。つまりそれは、お主が、我々の事をそれだけ下に見ていたのだろう? 自分が主人側になる立場だと慢心しておったのではなかったのか? 主従の契約は常に対等な立場からの交渉、という礼儀を欠いたのは、お主ではないのか?」
「っっ」
私が思ったことを爺が問う。
これは、多分だけど、爺も私の考えに賛同してくれているという事で、そして同時に、爺も又、不快に思っていたってことかな。こう見えて爺、美的感覚がアレなだけでまともな人だからね。
「マーマンのリムブルンド。答えなさい」
勝手にしゃべるな、という私の命令を忠実に守って、なのか、これ幸いとして、なのかはわからないが、答えないリムブルンドさんに、シルフィナさんは容赦ない。
冷たく、刺々しい声音で命じた。
これは、爺の言葉に、シルフィナさんも同じような事を思い、不快になったのかもしれない。明らかに表情に侮蔑の色がにじみ出ていた。
まぁ、対等な立場と言っても、例えば、竜とゴブリンじゃその差は雲泥。竜が求めた時点で、ゴブリンは即座に膝をつくだろう。それでも、名乗りの際には互いに対等に名乗るのが習わしなのだとか。傲慢な竜でも、その時だけは誠意をもって名乗り、相手が名乗るのを待つのだと、2週間前の帰り道に聞いた。
いやね? だから、そういう後出しの情報、ホントやめてよ。最初私には、対等に名乗るのが基本だから、頭下げないでね~みたいな教え方しなかった?? そんなしっかりした感じなら、そうだって言ってよ!
「そ、その通りで、ございます……。全て、は、私の、愚かさ、ゆえのこと……」
「ならば罪人として、お主が引き渡されるべきではないのか?」
「は、はい、そのとおりで、ございます……」
消え入りそうな声。
これには誰も同情を向けない。勿論私もだ。
この人は、自分の罪を知っていたはず。それなのに、自分の子供に全てを押し付けた。それを今、認めたのだから。
「これ以上御前を汚してはなりません! 直ちに罪人をつれていきなさい!!」
シルフィナさんの声に、待ってましたと言わんばかりの速さで2人のオーガが出てきて、リムブルンドさんを引きずっていった。疲れ切ったように手足を投げ出したリムブルンドさんは、全てを諦めたような表情だった。
「さて、マーメイド、お前の名をリナ様に名乗ることを許します」
「っっ!! わ、わた、わたくしはっリムブルンドの妻、マーメイドのエルフェリーナ、と申します!!」
つっかえながらも必死に名乗るエルフェリーナさん。
リムブルンドさんの妻なら、エルフェリーナ・ジェルティエル・シグルーンと名乗るべきかもしれない。けれど、リムブルンドさんが私の配下に下った。宣誓をし、最下層の配下として。その時点でリムブルンドさん達は王ではなくなり、また、最弱の種となったのだ。どれほどゴブリンより強くても、ゴブリン以下の立場に甘んじなくてはならない。王でもなく、最弱の種が王の名を名乗ることは禁じられている。
2つ目以降の名は、上位者の証。3つ目以降に名を持つものは王の証。そして、その名の長さが強さの証。配下に下ったとしても、主が認めた場合や、強大な力を持った者――竜や悪魔はこれに当てはまると聞いた――のみ、2つ目以降の名を名乗ることを許されるのだとか。
この世界、色々妙なルールがあるね。
ごめん、ポチ。ポチなんて短い名前で。今度改名しようかな……。
リムブルンドさんの配下に位置するものは、全員私の配下。王の名を名乗れる程の強者はいない。勿論、私も名乗ることを許す気はない。よって、エルフェリーナさんは、ただ自分の名だけを名乗った。
ちなみに、その事実を知った後、私は他の配下の人達には名乗ることを許しているけど、私を尊敬しているから、と誰も名乗らない。ちょっと照れくさい。
「お前達が持ってきたという献上の品を、この場に持ってくることを許可します」
シルフィナさんの宣言と共に扉が開かれる。
そこそこ大きな箱を持ったリザードマンが入ってきた。
この箱の中身は既にシルフィナさん達が見分済みらしい。爺がこそっと教えてくれた。この場で私達に何か害をなさせないよう、シルフィナさん達が真剣に警戒している証拠なのだろう。ありがたいことだ。
私達の前で箱の中身が取り出され、掲げられる。
「リナ様、宰相様、海底鉱山より発掘されました、海底魔石でございます」
「うむ。これほどであれば、城と街を丸ごと覆う結界を張れよう」
大仰に頷く爺。
私は、リザードマンが掲げるものを見た。
薄い水色の綺麗な石だ。柔らかな光を放っている。でも、それ以外は私にはわからない。サイズは普通のコアラ1匹分くらいの大きさ。そこそこ大きい石だといえる。
これが今後、国を作っていくには必要になるんだよね?
「今後、貴方方には海底魔石の発掘に尽力していただきます。よろしいですね?」
尋ねてはいるが、これは決定事項だ。
私には、魔王様が安心して暮らせるよう、この大陸を覆う程の結界をはる、という大いなる野望がある。その為に、これが必要だというのなら、拒否権がなく、唯一発掘できるというこの人たちに命じる。人を顎で使うのは好きではないけど、そんな我儘を言っている場合ではない。
まぁ、本音を言えば、私や、魔王様のためは勿論だけど、あの、クソったれな神様に吠え面かかせるためにもな!!! ってところだけど。
「か、かしこまりました!!! 私達全員の、全身全霊を以て、発掘してまいります!!」
ぶるぶると震えながら、必死に叫ぶように応じる声。
そろそろ緊張で気でも失うんじゃないかな、この人。
「それではこれで謁見を終わります」
シルフィナさんがそう締めくくり、初めての謁見は終わった。
マーメイドたちが震えながら出ていく。そして、ゆっくりと10秒数え、集まったオーガやゴブリン、セイレーン達が出ていく。海底魔石は爺に渡され、リザードマンも出て行った。シルフィナさんは微笑み、一礼してから出ていく。
爺と、護衛達だけになり、私は深々と溜息を零した。
正直大分緊張した。
今思い出しても足が震える。それでも、私は微笑みを浮かべ、魔王様の手を取った。
「魔王様、お利口にしていて素晴らしかったですよ」
えらいえらい、と頭を撫でると、謁見中空気のようになっていた魔王様が、ぱっと顔を輝かせた。
魔王様は一度も口を挟まなかった。物々しい雰囲気に不安を感じていたかもしれない。それでも泣き出すこともなければ、愚図ったり、私に抱っこを求めることなく、始終静かに玉座に座っていた。
見たか!!! きちんと躾けが行き届いていれば、子供だって空気読めるんだぞ!!! ちゃんといい子にしていられるんだぞ!!!
というわけで、ご褒美に抱っこします。
褒められたうえ、特別抱っこに魔王様はご機嫌。
うむ、可愛らしい! 癒されるなぁ!
ご褒美抱っこというより、自分への癒しだけど、そんなこと気にしない! 私は一般人! 私は保育士! こんな場所に立つ存在ではない! それでも頑張った! 癒しがあったっていいだろう!!!
本当は魔王様を抱いてベッドに寝ころび、お腹の辺りに顔をうずめて深呼吸したい! 子供の臭いで癒されたい!! でも我慢します。私は変態じゃないから!
「いや、十分危ないぞ」
「こういう時は読まないでいただけると助かります」
「お前のその仮面、本当に、心底、尊敬するわい」
「ありがとうございます」
やれやれ、と溜息を零す爺をさらりとかわし、顔を上げる。
「それでは、本日は夕食の時間まで休憩、ということでよろしいでしょうか?」
本当だったら魔王様は爺から魔法を学ぶ。でも今日は緊張して疲れたかもしれない。いっぱい甘やかしたい。
爺もそれは同じらしく、大きく頷いてくれた。
「アレフ様の望むようにゆっくり過ごしてくれ」
「かしこまりました。ではアレフ様、お部屋に戻りましょうか。今日はリナと一緒にいましょうね」
「リナいっしょ? えへへ、うれしい!」
すりすりと頬を寄せる魔王様。
んぁあああああっ可愛いいいいいいいっ!!!!
心の中で、拳を握った両手で激しく床を叩いて転がりまわりつつ、微笑みの仮面は崩さない。
ものっっすごく、白けた視線を寄越す爺は無視して、魔王様と共に、魔王様の部屋へと向かった。




