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11 海の民



 寄せては帰る波。白い砂浜。時折波同士がぶつかり合い、砕けている。


 森の中、突然現れた海。


 城下町の東、ほんの数百m離れた場所に現れたそこに、私は遠い目をした。

はるか遠くにかすんで見える木々に、森の一部を大きく切り開き、無理矢理海にしたのだと理解できる光景。


 この世界は私が元居た場所とは大きく違った理の中、存在しているのだと、今更ながらに痛感する。


「……とりあえず、ドリアード達に怒られませんか?」

「大丈夫じゃ! 理由等をきちんと説明し、どれくらいなら問題ないかも皆と相談し、決めたのじゃ!」

「そうですか……」


 ふんぞり返る爺を、一度殴りたいと思いつつ。手をつなぐ魔王様がそこにいるから、ぐっとこらえる。


 初めて見る海に、魔王様は興味深々できょろきょろと辺りを見渡していた。


 得意げに語る爺の言葉を要約すると、人海戦術で森を切り開き、穴を掘り、海底までつなげたのだとか。


 いやいやいやいや!! 無理がありすぎるからね?! いや、魔王城も城下町も信じられないスピードで作られたから? 確かにそれくらいできるだろうとは思うけどね?! でもおかしいでしょう?! 


 大体、海とつなげたときとか、大丈夫だったわけ?! なんかこう! すごい水圧とか、水責めになったんじゃないの?! 作業員の皆さま大丈夫ですか?!


 何さらっと無茶苦茶やっとんじゃ、この爺!!!


 皆今後魔王様の配下となる、大切な国民ですよ?!


「問題ない。最後の仕上げは儂が地上から魔法でちょちょいじゃ」


 魔法って便利ダナー。


 もう滅茶苦茶でしょうこの爺!!


 森の中に、たった数か月で海を作るな!!


 わざわざ砂も取り換えやがって!!


 でもまぁ、魔王様が喜んでいるから許す……。


 あと、目の前に、綺麗な人魚とか、でっかいイカとか面白いのいるし、今後これらが魔王様の配下となることを考えれば、寧ろよくやった、というところか?


 うーむ……判断に困ります。


 というか、爺すごいな。私がセイレーンとリザードマンを配下に加えるのを手伝いつつ、この人工……魔工? の海を作ってたわけだよな? それにセイレーンが仲間になってからは、法律の制定もしていたでしょう? まぁこれは私も一緒にやったけど。リザードマンはオーガ達に丸投げしたけど、法律に関しては私達の今後も含まれる。一任はできない。


 流石は魔王の右腕、宰相ということか。


 そういやあっちで園長先生も、朝は私達とミーティング、昼間は子供の面倒見ながら、来客応対して、夜にいつの間にか園をリフォームしたり、色々してたなぁ。私達先生同士が円滑な関係を築けるように腐心もしていたし。やっぱり上に立つ人ってすごいんだなぁ。


 ああいう人っていつ寝てるのかな? 寧ろ寝てるのかな? それに比べて私はどうなんだろう? 眠る必要も、トイレとかも必要ないのに、何かできているかというとそうでもない。


「お主は夜の間に料理を作っておるではないか」

「それだけしかしていない自分に少々呆れておりました」

「それがここで最も重要なことなのじゃからしかたあるまいて。お主が配下をまとめるから、儂がその他の事を容易くできる。お主の名前を出せば、どいつもこいつも二つ返事で働きよる」


 適材適所じゃ、と笑う爺に礼を言いう。


 なんだかんだ言いながら、爺は年長者らしく、こうして時折私の話を聞き、励ましてくれる。いい人だ。いや、私の話を聞くんじゃなく、思考を勝手に読んでいるから、本当の意味でいい人なのかどうか、悩ましいか? でもまぁ、こんな人が力も示していないうちから配下にいるなんて、魔王様はものすごい幸運の持ち主なんだろう。いいことだ。


「ところで、海の魔物を支配下に置くと、何が良いのですか?」

「海の特産品が労せず手に入るのぉ。真珠やサンゴは当然だが、海底魔石のような貴重品も手に入る。海底魔石は、いずれ都市全体に結界を張る際に、どうしたって必要になる。結界は、魔法による攻撃は勿論、害をなそうとする者を弾く効力もある。防衛の基本よな。その為にも海の魔物、是非とも配下におさめるのじゃ」

「わ、わかりました」


 意外と責任重大だった。ここで交渉が決裂したらどうなるんだろう。こわいなぁ。


 私は魔王様の手を引いて一歩前に進み出る。


 代表なのか、人魚の男女1人ずつが近寄ってきた。


「私は海底王国の国王、リムブルンド・ジェルティエル・シグルーン」

「お初にお目にかかります。わたくしは神より命を受け、魔王様のナニーを務めております、人間のリナと申します」


 膝を軽く折るだけで頭は下げない。


 小首をかしげるようにしながらにこりと微笑む。


 上下関係ができてないうちから頭を下げると、力に敬服したととられ、面倒らしい。なので、頭を下げることなく、名乗るのが普通なんだって。


 そういうのは最初に教えて欲しかったよ。ドワーフとかエルフは人間的でよかったなぁ。普通に頭下げてたよ、私。


「神ですって?! 国王陛下、この者、信じられません! 人間ふぜいが神に命を受けるなど!」

「よせ。神が異世界人に命を与え、この世界に呼ぶのは珍しい事ではない」


 いきり立つ女性を片手で諫める王様。


 女性は……恰好からすると、護衛かな? なんか兜つけて、鎧っぽい衣装だし、手にも槍をもってるしなぁ。これで王妃ってことはなさそうだ。いや、決めつけはいけないな。この世界は私の知っている世界じゃないんだから、うん。


「そなたは異世界人で良いのだな?」

「もし、この世界に日本という国がないのでしたら、異世界人で良いと思われます」

「では異世界人よ。我らに何を求める」

「私の配下になっていただきます」

「おのれ!! 人間ふぜいが!! たとえ神に呼ばれたのだとしても、その傲慢、許さぬぞ!」


 きぃきぃ喚く人だなぁ。あと、ちょいちょい人間ふぜいとうるさくない?


 女性があまりにいきり立つから、警戒して隣に立った爺も嫌そうに顔をしかめている。あと、リムブルンドさんも顔をしかめている。


 えぇー……? 貴方が連れてきたんでしょうがー……・


「我が娘が騒々しくてすまんな。やはりこのような場に連れてくるには早すぎたようだ」

「へ、陛下?!」


 狼狽する女性。


 へぇー……娘さんなんだ? え?! すみません、おいくつですか???


 リムブルンドさんは美青年。私より若そう。24,5かな。若い国王だなって思ってたけど……娘さんだという女性は21~4っぽいけど……。


「マーマン、マーメイドも長寿の種族じゃ。国王ともなれば100は越えておるじゃろう」


 こっそり耳打ちする爺。


 マジか?! エルフの寿命にも驚いたけど、こいつらもすごいな?! ていうか、マーマンって? マーメイドは人魚姫でいいんだよな?


「マーマンは男、マーメイドは女じゃ」


 つまり、トレントとドリアードみたいなものだね。


 勝手に爺が心を読むのはすっかり慣れた。それどころか疑問をすぐに解消できていい。先日みたいにツッコミがうっかり入ることもあるけど。


 どうせなら、声に出さずに会話ができたらいいのに。前にそう言う話を聞いた時、それは難しいと言われた。主従関係がある、もしくは同じ主に仕え、主経由で、ということなら有り得るらしいけど、私は魔王様のナニー。配下ではないらしい。残念。


 まだ何ができてで、なにがどう違うのかよくわからないので、いちいち爺にきかなくてはならない。爺は私の教育、街の統制、配下にすべき種族の選定、と忙しそうだ。ごめんよ、爺。これからもよろしく!


「お前の言動全てが我らの評価に直結する。そのことを理解もできんとは……情けない。やはりアリシエラのほうがこの場には相応しかったな。すまんな、リナ殿」

「お気になさらずに。年若い者の育成は失敗ありきですわ。もっとも、その失敗が取り返しのつかないことに直結する事を考えれば、やはりこのような場では相応しくはないのかもしれませんね」


 にっこり笑ってちくり。


 これくらいはしないといけないらしい。ただ許すだけでは舐められる。かといって、欲をかきすぎては足元をすくわれる。面倒臭い。私は人の上に立つ程の人間じゃないんだよ。ポーカーフェイスには自信があるけど、人を顎で使うのも、駆け引きするのも得意じゃない。のらりくらりと躱す派なんだから。


 言ってて冷や汗かいてる。


「人間ふぜいが……!」


 うぉー! やっぱキレられたー! こわーいっ!


 こうやって逆上されるのが一番厄介なんだって! だから妖怪ばばぁ共には曖昧に笑ってのらりくらりと避けてたんだからーっ!


 体のあちこちの鱗を逆立てる女性。美人な分だけ怖い。というか、美人が歯をむき出しにとかしないでください。けっこうがっかりするから!


 しかし、止めたのは何というか、やはりリムブルンドさん。


「控えよ、プリシラ! これ以上私に情けない思いをさせるな!」

「へ、陛下……わ、私は……」

「黙れ! この期に及んで言い訳は見苦しいぞ! お前の今までの行為は我々が侮られるだけと知れ!」

「そ、そんな……」


 しおしおとかわいそうなほどしおれていくプリシラさん。それでも私の視線に気づくと、こっちを睨んできた。めげていない! でもすぐにリムブルンドさんに怒られ、またしゅんとしている。


 なんだか可哀そうだなぁ。


 しかしこの感じ、プリシラさんは10代の血気盛んな子みたいだね。こういう場にはまだ早いかもしれないね。


「リナ殿。この場では未だそなたと私は対等。にもかかわらず、プリシラが度々すまぬ。プリシラを追い返すゆえ、容赦願えないか?」


 対話の場に護衛なのか、社会勉強なのかは知らないけど、とにもかくにも王の共として来ておきながら、王自身に追い返される屈辱。これはおそらく、今後プリシラの位が大きく揺らぐことなのだろう。プリシラは絶望に、真っ青になって震えている。


「必要ありません」


 にこり。


 リムブルンドさんは嫌そうに顔をしかめた。


 それはそうだろう。リムブルンドさんとしては、プリシラさんがこれ以上、取り返しのつかないミスをする前に追い返したかったに違いない。けれども、私がそれを認めなければ、それを逆に責められてしまう。対等な立場なはずのこちらを、重ねて卑下した存在を逃がしたか、と。


 リムブルンドさんとしては親心もあったろうに。


「っ! お前ごときの許可はいらない! 私は邪魔でしょうから、帰ります!」

「プリシラ!」


 王の一喝を、プリシラさんは聞かず、感情に任せて海の中へと潜った。


 リムブルンドさんが深い溜息を零す。しかし、私はここを責め時と見た! 爺も頷いているから間違いない。


 鏡の前で練習した、冷たい視線を向ける。


「……この失態、どのように取り戻すつもりでしょうか?」

「取り返えそうもない。もしも許していただけるのならば、今すぐ私がプリシラの首を持ってこよう」

「度重なる無礼、挙句のこの対応。最早、そういう話ではない。そうは思いませんか?」

「……っ。陸で生きるそなたが我々と戦争をするか?」

「デルフォリアス宰相閣下」


 警戒するリムブルンドさん。私に呼ばれた爺がふむ、と偉そうにうなずきながら、一歩前へと進み出た。


 冷たく睨みつける爺。リムブルンドさんは、私ではない者が出てきたことに、怪訝そうな表情だ。


「儂は魔王様配下、竜人のデルフォリアス・グオロディウレス・エルゾブレベレジョン・レオニルド・フォルゴロオスじゃ」

「竜人の、フォルゴロオス……だと?!」


 驚愕に見ひらかれた目。顔の上の方からゆっくりと肌の色が白くなっていく。


 初めて見たのだが、人の顔からゆっくりと血の気が引くってこんな風に色の変化があるんだね。いつもはさっと変わってる印象だったけど……面白いなー人体。あ、いや、魔物体か?


 真っ青になったリムブルンドさん。


 てか、爺って名前聞いただけでそんな反応になるほどすごい人だったんだ? やっぱり魔王様の右腕ってすごいんだなー。


 リムブルンドさんは深く深く頭を下げた。その肩は震えている。先程まではぷかぷか浮いていた巨大イカも、ぶるぶる震え、完全にリムブルンドさんを盾にしている。


「わ、我々海の民は、けして、竜族最強の竜人、フォルゴロオス様に逆らいません……!」

「ほほぉ? 今、我が同士であるリナに戦争を提示したように聞こえたがのう?」

「も、申し訳、ございませんっ! けして、けしてそのような事はいたしませぬ! お、お望みとあらば、我々はリナ様の配下に下り、なおかつ、プリシラの首も差し出しましょう!」

「と、言うておるが、どうじゃ?」


 尋ねられ、私は頬に手を当て、思案するように首を傾げて見せる。


 私の答えを待つリムブルンドさんは、まるで断頭台に立つ囚人のよう、という表現が正しそうな程、真っ青で、ぶるぶる震えながらも私を見ていた。


「プリシラさんの首は要りませんわ」


 にこり。


 ひぃっと息をのまれた。


 何故だ。


 何故なんだ?!


 私は命はいらないって宣言したじゃないか! 何故こんなに、私に対してびびってるんだ?!


 私の笑顔がそんなに怖いか?! 妙齢の女性に対して酷くないか?!


 私の額に青筋が浮かぶ。これは仕方がない。リムブルンドさんの対応が悪い。うん。


「まぁ、配下に下る、ということでしたら受け入れますが……今、わたくし達があなた方に対し、恩恵を与える気がない、ということくらいはご理解いただけますよね?」

「っ」


 本来、主に相応しい力を見せつけ、主従関係となる。そうでなければ、私のように、主としていただけば、十分な恩恵がある、と理解し、主従関係を結ぶ。しかし、今回に限り、私はそれをしなくていい。だって、向こうが勝手に配下になりますって言ってるんだから。それに、散々無礼を働かれ、別にこいつらじゃなくてもいいかなって思ってる。こういう反抗的な子、すぐに裏切りそうなイメージだし、魔王様の配下になっても鬱陶しい気がする。


 私の、こいつら別にいらないんだけどなぁ、という気配はリムブルンドさんも解るのか、震えがますます大きくなっていた。イカは必死にリムブルンドさんに縋り付いている。


「わ、わかっております! 我々は、無条件で貴方様にしたがいます! 宣誓も致します!

 我々海底王国に住む海の民は、母なる海に誓い、リナ様の配下になります! その際、リナ様にはけして何も求めません! リナ様を裏切ることなく、リナ様の命令に逆らうことなく、望み全てを叶えることができるよう、全身全霊を以て、尽力いたします!! もし、この宣誓を破ることがあれば、我々の身体は泡となり、魂は無限牢獄にとらわれ、永遠に苦痛を得るでしょう!」


 イカが器用に揉み手に擦り手でコクコクと頷いている。意外と見ていて面白い。


「宣誓は絶対じゃ。それが破られることはない。もし破られたら言っているとおり、身体は泡となり、魂は永遠の苦痛を得る。安心して受けて良いぞ」


 爺の耳打ちに、私は小さく頷く。


 わざとらしく溜息を零せば、リムブルンドさんとイカが、私に断れると判断したのだろう。完全に絶望的な表情を浮かべた。


 涙もないのか、力なく、ただただ呆然とこちらを見ている。


「そこまで言うのでしたら、受けて差し上げてもいいでしょう。貴方達は、自ら願って私の配下に入る。そして、私に何も求めず、私の言う事は全てきく。そういう契約でよろしいですね?」

「はっはいっ!! もちろんです! リナ様!」


 希望はつながった。そういわんばかりに顔を輝かせ、見上げるリムブルンドさん。しかし、そうだというのなら、私は言わなければならない事がある。言いたくないんだけど。


「頭を下げなさい」


 務めて冷たく言い放つ。


「私の前で、許可なくこうべを上げることは許しません。勿論、発言も許可なくすることは認めません」


 すぐに下げられる頭。これは絶対的な上下関係ならば当然だ。現状、この海の民は最低の地位にいる。他の住民たちよりも遥かに下だ。現状は彼らが自分達で望んだ結果。甘やかしてはならない。


 魔物の中では主従関係は大切だが、裏切る可能性のある場合は呪いで縛る。しかし、この行為はそれができるほど強者でなければならない。私はただの人間で、魔法が使えない。肉体的にも、精神的にも、魔物に勝るものを持たない以上、この方法はとれない。自ら行う宣誓で、こちらが何も失うことなく、配下を増やせることはラッキーだとしか言いようがなかった。


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