ジークとエリナ、その2
何言ってんだこいつ、みたいなエリナの視線なおいておいて。知りませんよそんな、閣僚の名前なんか。コクシャローバ家は無役の没落真っ只中なんですから。
「ねえジーク、あなたは仕送りは、、、800パルス?えっと、他に収入のあてはあるの?実習の教材とか、買えるの?」
なんだろう。エリナがすごく俺のことを貧乏人だと思っている気がする。確かに月200パルスの授業料+寄宿費用と400〜500パルスくらいになるであろう食費を差し引いたら、月に100パルスくらいしか残らないが、そもそも完全寄宿で光熱水費は寄宿費用に含まれているから派手に遊ばなければ生きては行けるはずなのだ。
その旨を伝えたところ、エリナは不思議そうな顔で
「でも、ここのお支払いはジークがしてくれるのでしょう?私はケーキをお代わりするから、ジークの今月の残りは50パルスくらいかしらね」
とのたまった。
「お誘いいただいたのだから、私に支払わせるなんてことしませんよねえ?でもいいのかしら、ウォータールー講師の教科書、280パルスもいたしますのに」
、、、なん、だと、、、!こいつ、レディーファーストの精神を盾に、びた一文払わないつもりだ!金持ちなのに!6倍も収入差あるのに!それにあの先生の教科書そんな高いのかよ!足りねえ!
そして、そんな俺の心の叫びを知ってか知らずか。目の前の美しい悪魔は囁く。
「貸して差し上げましょうか?私、お父様から頂いたお金以外にも、手習いで翻訳のお仕事などさせて頂いておりまして、月に1,000パルスほど自由になりますの」
「お、おお、俺の仕送り以上の額をバイトで、だと、、、」
「どうなさいます?」
「、、、教科書代。300ほど貸してください」
「ええ、お友達のよしみですわ。喜んで」
こうして、俺はエリナの意外な一面を垣間見ながら、早くもこの美女に借金をする羽目になってしまった。
結果的に、その後の話でエリナもやはりウォータールー講師の研究室に入りたいことや、彼女の将来の夢などを聞けてよかったのだが。分かったことは、彼女が意外と財布の紐が固いということだ。話が終わると、本当に自分の分を払わずにさっさと帰ってしまった。
後日談。
俺は、ウォータールー講師の研究室で説明会が行われる日までの間に、結局エリナに追加の融資を幾度となく頼む羽目になった。
この大学の教科書がどれも高いのだ。月一の仕送りではとてもやっていけない。エリナも翻訳の仕事を増やして教科書代を工面していたようだ。というか、その労働の半分は俺の教科書代に消えたわけだから、だいぶ迷惑をかけているが。
そんなこんなで、俺の借金はすでに2,700パルスに上っていた。当初の、月に100パルス前後の遊び金ができる計算では、二年かかっても返済できない、とんだマイナススタートになってしまった。
まあ、エリナの月の食費にも満たない額ではあるのだが。しかし、本当に素晴らしい友人に恵まれたものだ。
ウォータールー講師の説明会では、学内で何かできる金策がないか、聞いてみることにしよう。