ジークとエリナ、その1
「この講義の後は暇だろ?昼飯でも食いながら話さないか」
俺は講義の後、こっちにやって来たエリナを見て思わず話しかけていた。エリナは「名前は知ってるけど、誘う前に一応名乗りなさいよ」などどブツブツ言っていたが、ついて来てくれた。
この大学には様々な施設があり、今から向かうのは四つある食堂のうちの一つ、第二食堂だ。冠したナンバーが若いほど値段とクオリティが高いという、なんともわかりやすい仕組みだ。第一食堂は、本当に裕福な出の人間か、教職員くらいしか使わない。ほとんどの学生は第四食堂で、たまにゆっくり食べたい時に第三食堂、という感じらしい。
ジークの家は、純血を失ってからというもの、家財を減じる一途をたどっているので、普段は第三食堂がせいぜいになるだろう。だが一方、エリナはバリバリの純血の名家の出身。普段から第一食堂を使うはずだ。だから、ここ第二食堂はちょうどお互いの中間域になる。
すると当然。12パルス(=¥1,500程度)の魚のソテーを見て、「やっぱりちょっと値が張るな」という感想と、「あら意外と安いのね」という感想が同時に呟かれることにはなるのだが。
「結局コーヒーだのなんだの入れたら18パルス50キリグか。やっぱりするなあ」
「そう?ケーキを入れても30パルスしないじゃない。まだ今朝の朝ごはんよりもお手頃だわ」
こんな話を聞くと、住んでる世界が違うなあとしか感じないのだが。
まあしかし、と俺は気を取り直す。しかしこれは会話の取っ掛かりとしては悪くなかった。収入は違えど、せっかく話が合いそうな相手を見つけたのだから、お互いのことを知っていこうではないか。
「エリナは、だいたい月にいくら使うつもりなんだよ。一食30パルスって、食事だけで月に3,000パルスもするじゃないか」
俺が親から受けている仕送りは月800パルスだぞ!という本音もまあ、あるが。だいたい、第四食堂なら一食5パルスもしないのだ。味はまあ、お察しだが。
「ええと、そうねえ。私が実家から頂いてるお金だと月に5,000パルスくらいかしら?お父様は、もっとくださるつもりだったようだけれど、、、」
「多いな!予想以上だよ!だいたい、庶民の平均月収が1,800パルスくらいだろ。学生のうちにその3倍とかどうなったんだよ、、、」
「いえ、私庶民じゃないですし」
、、、は?
エリナのあんまりな発言に一瞬固まったが、話をよくよく聞いてみれば、シュルツマン家の当代当主は、魔法管理局の局長という、いわば大臣職にあるお方のようだ。
さすが名家。庶民じゃありませんわ。