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魔法血脈学的パンデミック

「魔法界は衰退している。これは、まぎれもない事実だ。かつて我が国には二千八百万人を超える純魔法使いが居た。たった四百年前のことだ。それがいまや、魔法省が把握している純魔法使いの数は一万八千人しか居ない。


なぜこのようなことになったのか。虐殺でもあったのか?違う。純粋な淘汰の結果である。


さて、貴君らの中で、四百年前に何が起きたか、知っているものは?人類学的には金字塔と呼ばれる偉業だ」


ハンナの問いかけに、ジークが座る席の二列後ろから手が上がる。振り返って顔を確認すると、利発そうな栗色の髪をした美少女が問いに答えた。


「エリナ・シュルツマンといいます。今から三百八十年ほど前に、魔法使いと非魔法使いが初めて婚姻の儀をあげました」


その答えに、ハンナは満足げに頷く。


「その通り、シュルツマンの言う通りだ。そして、それこそが原因なのだ。


この婚姻を契機に、各地で血の交流が図られた。これは、最初のうちは素晴らしい成果を上げた。当時の魔法使いは、魔法により莫大なエネルギーを利用できたが、その才能に差があるために、安定した社会を築けているとは言い難かった。一方で、非魔法使いは限られたエネルギーしか持たなかったが、それをうまく使って居た。科学と呼ばれる彼らの叡智によってだ。


私たちは交流を始め、その過程で魔工学が発展した。我々が日常的に利用する生活魔法を籠めた魔道具を開発し、彼ら非魔法使いに供給したのだ。見返りに、我々は多くの科学的知識を得た。気象学、生物学、農学、海洋水理学などだ。魔法で容易く操作してきた世界に、純然とした理が存在することは、感嘆に値する美しい驚きであり、我々は貪欲に知を貪った。


このように、お互いに共生関係が取れていると思われて居た。最初に異変が現れたのは、最初の夫婦に二人めの子供が生まれた時だ。一人めの子は魔法使いであったが、二人めには魔法の才能がなかったのだ。


ただまあ、血が半分になれば確率が半々になるのはおかしくはない。事実、非魔法使いから学んだ遺伝工学によっても、才能が半分になるという学説と、どちらかが顕現する学説があった。


しかし、問題は、魔法使いの才能は、非魔法使いの才能に比べてはるかに遺伝しづらいという点だった。これは両者の結婚サンプル数が増えてきた頃にようやく理解できたことであったが、純魔法使いと非魔法使いでは、魔法使いの生まれる確率は半分ではなく、四分の一だった。混血と非魔法使いの組み合わせであれば、十六分の一だった。我々の予測にべきをかけるようにして、魔法使いは世代を経るごとに加速度的に減って行った。そもそも、この確率がある種実験的に明らかになったのも、今から二百年前のことだ。その頃には血の交流は徐々に広がりを見せて居て、純魔法使いの数は、すでに八百万人を切っていた。正に血脈学的パンデミックだ」


ハンナはそこまで話すと、喉が渇いたのか水を口に含み、ひと呼吸いれた。ジークとエリナを含め、教室は静まり返っていた。


「さて、この先のことは考えるまでもない。魔法使いは、いまや確率的にはほぼ生まれなくなっている。今いる魔法使いのほとんどは混血を遺伝していて、たまたま才能が発現したに過ぎない。この混血の魔法使い同士で子を成したとして、その子が魔法使いになる確率は、四千分の一以下だろう。


今の若い世代、三十才以下の魔法使い人口はおよそ三千人だ。しかし、この世の理に従って、自然に世代を経ていけば、次の世代の新生児で魔法使いは一人いるかいないか。もう、残された時間はそう多くない」


そう告げた後、ハンナは「ちなみに」と付け加える。


「このような流れに長い年月抗ってきたのが、シュルツマン家をはじめとする純血の家系だ。非魔法使いの血を入れないことによって、魔法使いの血を守る。近年では、排他主義や選民思想と混同されがちだが、一族の未来をかけた、崇高な決断だということは事実だ」


一族に言及され思うところがあるのか、エリナは頬をわずかに赤らめてハンナを見る。しかし、そこにハンナは冷酷に事実を突きつける。


「しかし。その崇高で高潔な戦いにも、限界が訪れようとしている。『血を裏切るもの』の出現だ」

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