ジーク・コクシャローバ、入学を果たす。
「貴君らは、魔法大学学則を読んだかね」
すし詰めの講堂に、大学一の若手研究者と目される才媛、ハンナ・ウォータールー講師の言葉が響く。
「貴君らは、魔法大学学則を読んだかね。
魔法とはなにか。
それは、世の理たる物理法則を逸脱して生じる現象や、それを起こす方法のこと。
工学とはなにか。
それは、世の理たる物理法則を応用し、人々の生活を豊かにする技術や、それを実現する方法のこと。
では、魔法工学とはなにか。
非魔法使いが生み出した工学を、魔法をもって昇華させたもの。広く流通する、魔道具の根源にして真髄。
魔法使いが衰退する現代において、魔法使いが再び持続可能な発展を手にするために。我々はその術を教授し、導くものである。
我々は、貴君らの入学を歓迎する。励みなさい」
ーーーーーーーーー
眼前のウォータールー講師の言葉を聞きながら、多くのものが期待に胸を膨らませた。かくいう俺、ジーク・コクシャローバもその一人だ。待ちに待った魔法大学での初講義。中でも最も人気の高い魔法工学の講座だ。テンションが上がらない方がどうかしている。
まだ知らない学生だらけだが、周囲の奴らも頬を紅潮させて、講師の格調高い言葉を聞いている。倍率8倍という難関を潜り抜けてこそ得られる最上級の教育への確かな予感に、向上心に溢れた学生たちが酔いしれているのだ。
しかし、その熱病のような空気は、ウォータールー講師の一言で静まり返る。
「では、魔法工学概論の初めに、魔法界が直面する課題についてお話ししよう。魔法界の寿命が、後十四、五年だという話。魔法血脈学的パンデミックの話だ」
…その言葉はあまりに確信めいていて。俺はノートを取るのも忘れて、話に聞き入った。