第4症 にゃんこパラダイス! (2/3)
あのあと他のにゃんこにも接近を試みたけれど、ことごとく逃げられてしまった……残念。やっぱりあの子が特別だったみたいだ。
まぁそんなツレないところも猫らしくて、好きです!
よってそのあとは、猫カフェ内でご飯食べたりひたすら写真を撮りまくっていた。すごい私、今日幸せだった!
るんるんで歩いて外に出たけど、例の彼が大人しい。
何だろう? もう怒ってないはずなんだけどなー。
「どうしたの?」
なにやら思案顔の彼を覗き込んで、聞いてみる。
顔怖いぞー。イケメンが台無しですよ。
「え、いや……なんでもねぇ」
ビクッとしてから、彼は顔を反らしながらそう言った。
どう考えてもなんでもありそうだけど、猫カフェが名残惜しいのかな? まぁそれならわかる。
「ふーん?」
んー悩んでる……にしては短時間すぎるし、思い付かない。拗ねてる? 確かにそっちのけで猫ちゃんおかっかけ回してたけど……ないか。
まぁ言いたくないんじゃ、聞いてもしかたないかな。
そう思い、話題を変えることにした。
「今日すごく楽しかったよ。1人じゃ来れなかったし」
前を向きながらそう話しかける。
「……だろうな」
ちらっと顔を見ると、彼はそう言って少し笑った。なんだ、笑えるじゃないの。
「お前ほんと子供みたいだったもんな」
「うるさい」
ちょっと冷たい言い方になった。仕方ないと思う。せっかく、ちょーっとだけ心配したのになにその返しって。
こういう揶揄うときの顔は悪い顔をしてて、王子様とは程遠いよなって思う。まぁそういうこと言えるなら、大丈夫そうだ。
彼の軽口のせいで出鼻を挫かれた感があるが、今言わないと多分言わないから、言うことにした。
「色々思うところがあるのかもしれないけど……私は本当に今日楽しかったから……だから」
彼の方を振り向く。
「ありがと」
感謝の気持ちは、伝えるのが少し照れくさい。
でもその場で言わないと、伝わらなかったりする。
色々思惑もあったんだろうし、多分気に食わないこともあったんだろうけど……それでも私は来れて良かった。
もう一緒に来てくれないだろうし、下手したら明日からお昼も来ないんじゃないかな。……それはちょっと名残惜しいと思うくらいには、この横暴王子サマに好意を持っている。
勿論。ライクの方だけど。
だからこそ、今言っとかないとと思った。この気持ちが、なかったことになるのは悲しいことだって私は知ってるから。
すぐに「らしくねぇな」とか、言われるかなと思ったら……あれ?
「もしかして、照れてる?」
「照れてねぇよ‼︎」
腕ですぐさま隠されたけど、その反応と赤さは睨まれててもすぐに分かる。
「ふふ、照れることあるんだ?」
「ちげーっつってんだろ!」
威勢のいい発言も、今はただ可愛らしいだけだ。威厳あるライオンさんは、子ライオンさんになっていた。
こういう反応新鮮だな。なんか面白いかも。
だけどあんまりいじめるのも可哀想なので、弄るのはそのくらいにして、駅まで歩いた。
不機嫌な子ライオンさんは少し後ろを歩いていた。あんまり話さなかったけど、ちゃんと伝わったならそれで構わない。
さっき散々気になった周りの視線は、ご機嫌な私にはもう気にならなかった。
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帰ってやろうかと思っていた。
だってアレだぞ? シラけるどころの話じゃない。
だけど言った手前、そのままって訳にもいかないから、行ってやった。さっさと帰るつもりで。
けど扉を開けた時、あの表情を見てしまった。
キラキラした目で、まるで宝物を見つけたかのような。その後もすごくはしゃいでいて。いつものシラッとした澄まし顔はどこいったんだっていう。
思わず「子供か」と笑いながら言ってしまった。
その後の焦った照れ隠しの様子も、なんかちょっと……悪くないと思ったし。ちょっとだけな!
帰ろうと思うくらいシラけていたはずなのに、なんだかころころ表情が変わるから、だんだん面白くなっていた。こいつ人間だったのかと思った。いや分かってたけど別人すぎて。
だけどこいつが笑うのは、猫がいるからだ。
今回ついてきたのも、猫のため。……利用するつもりだったんだから分かってたのに、何となく帰り道で虚しい気分になった。
なんだこれ。何が不満なのか自分でもわからない。
だからそのタイミングで言われた言葉にびっくりしたのかもしれない。
「ありがと」と、少し目を伏せた後ににこりとこちらに柔らかく笑った表情がなんとなく離れないのだ。
初めてはっきり、自分に笑いかけたと感じたせいか。
さっきまでの不満が溶けていく気がして……そしてちょっと。ちょっとだけ、可愛いかもしれないと思った。そのあと帰り道もあいつはご機嫌だった。
いつも笑ってればいいのに。
笑ってれば……まぁ悪くはないんじゃないかと思うけど。今回がきっかけで態度は軟化するかな。
とりあえず明日の昼は顔を出そうと決めて、電車の外の夕日を眺めた。