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第3症 にゃんこフィーバー!(3/3)

「なんとなく。面倒見良さそうだし」

「あんまり言われないけど……」

「なら他の奴がちゃんと見てなかったんだろ」


 サラッと言われた言葉に、何故かめちゃくちゃ動揺する。オレは見てるよ、とでも言われた気がして。少し恥ずかしくなる。とりあえず目を猫に戻す。


 何考えてるんだ自分!


 ……でもまぁ実際私は子供も動物も好きなので、そういう意味では、彼は思ったより観察眼があるのかもしれない。


「そんな猫好きなら、猫カフェは行ったことあるか?」


 猫カフェ。その甘美なる響きを見聞きし、幾度となく思いをさ馳せた場所。けれど。


「友達いないんだから、行くわけないでしょ……あんなリア充の集いみたいな場所……」


 目の前に天使(ねこ)がいるというのに。呪いの言葉かというほど暗い声が出た。単身で行ったが最後、リア充のミサの生贄となるに違いない。


「お前中学からいないのかよ……」


 憐れむな。中学はまだ……。


「中学は……お金もあんまりなかったしね。猫カフェなんだかんだ、長居すると高いから」


 ちょっとムカつきながらも、ぶっきらぼうに返事する。


 そうさ。言っとくけど一応中学は友達いたし、猫よりも良いものがあったからだからだよ! と、心の中で抗議しておく。……これ、言ってないな。


「30分や1時間くらいで私が満足できるとは思えない」

「ふっ」

「何笑ってんの!」

「真剣な表情して言うことそれかよ」


 クククッと喉を鳴らして笑われた。むっとして横を向けば、めっちゃ顔を伏せて笑いまくっている。なんか恥ずかしい。ほんとのこと言ったんだから、いいじゃん別に!


 不本意だけど、もう帰ろうかと思っていたら。




「じゃあ今度の休み、猫カフェ行こうぜ」

「⁉︎」




 私はその言葉を聞き逃さなかった。

 ね、猫カフェと申されましたかっ⁉︎


「行きたいだろ?」

「行きたい!」


 今だけは誠に王子様に見える彼へ、食い気味に即答してしまった。


 だって夢にまで見た猫カフェ!

 猫カフェいけるの⁉︎


 しかし当の王子様は、どうやら私の勢いに圧倒されてしまったのか、ちょっと固まっている。あ。いけない。ヒートアップしすぎた。


「あ……えーっとでも、その……」


 しどろもどろ。視線が魚のように泳ぐ、とても美味しくない状況。これどうしたらいいの。迷惑なら断ろうと思ったけど、誘って来たのあっちだった。こういうとき、良い言い方が見つからない。


 困っていると、石化が解けた彼がにやりと笑って。


「んじゃ決定な。会議すんぞ」

「え」


 そう言って腕を掴み、立たされた。そのまま腕を掴んで歩き出すので、引っ張られるように歩き始める。


「ちょ、まだ私あそこに……」

「お前オレが来る前からいたろ! このままだと日が暮れるまでいるだろ絶対」

「そ、そこまではいない!」


 多分! まだ夕暮れまでしかいたことない!


 しかし当然ながら、王子は聞いてくれるはずもない。聞いた試しがない。


「いいから。次の休みって明後日だぞ。今日みたいな早く終わる日でもないと時間ないだろ」

「あ、そっか」


 ん? ていうか私日にち同意してなくない? ……まぁぼっちだから予定ないですけどね?


 何故か気合の入った表情を見上げながら、悲しいことを思った。この人はいつでも忙しそうだもんなぁ……。


「分かったら適当なとこ入るぞ」

「え、寄り道するの?」

「座んなきゃ話せねぇだろ」


 そっか……と思いかけて、はたと気付いた。


「ダメでしょ!」

「は?」

「うちの学校寄り道禁止!」

「はぁ⁉︎ お前今時そんな校則気にしてんのかよ!」

「言ってたでしょ先生が! 見回りもするからって!」

「信じてんのかよ!」


 引っ張られる腕を引っ張って止めたら、リア充らしい返答をいただきました。


 いや流石に毎日だとは思ってないけど!

 でもそれにしてもダメなものはダメだし、他にも!




「あんたが寄り道なんてしたら、鳳鳴の子達が寄って来るでしょ!」




 そう言うと流石にあ、と言う顔をした。


 そうそう。私と2人でなんか入ったら、すぐに学校中にあらぬ噂の嵐が訪れる事になる……ん? それもともとの目的じゃなかったっけ。それで離れてくれるなら了承すべきだった?


 ……いやでも、猫カフェ行ってもらってからじゃないと困る!


 すると「しゃーねーな、今フリチャ教えろ」と言ってきた。フリチャとはフリーダムチャットの略称で、スマートフォンをもつ大体の人が、メール代わりに使っている連絡アプリだ。


「え? 交換するの? しかも今?」

「寄り道できねぇんだからフリチャで話するしかないだろ、時間ないし」


 そっか。昼でいいと思ったけど、明日のお昼だけで決まるとは限らないか。……ってなんで来る前提で考えてるんだ私よ。そもそも来ないかもしれないだろ!


 ……ここなら人目もないから、まぁ睨まれることもないよね。


 そして後からこの用件、そもそもそんなに急ぐ必要あるのか? と思ったけど、善は急げだし私も猫カフェは早く行きたいので、気にしない事にした。


 交換が終わりやっと解放されると思ったのに、何故か離したはずの手で、今度は手首を掴まれて歩き出した。


「ちょっと⁉︎ なんでまだ掴んでるの⁉︎」

「お前どっか行きそうだから。下手したらさっきのところ戻るだろ」


 戻ると言われて、ちょっとバレたかとドキッとしたが、これではリードのようだ。私は犬か猫か!


「それは……いやでも掴むことないし!」

「じゃあ手でも繋ぐか?」

「は⁉︎ 手⁉︎」


 思わず恥ずかしくなって変な声になってしまった。いやいやおかしいでしょどういうことよ! リア充の思考回路、ぼっちに理解できないっ‼︎




「というかこういうの、見られたら困るのはあんたでしょ!」




 さっき女の子が集まるから、寄り道を断念したのをもう忘れたのか。そう思って言ったのだが、それを聞いた彼の顔を見ると、な、なんか怒ってる……?


「う……だ、だって学校から近いし……」


 なんで私が言い訳しているんだろうか。でもなんか怒ってるから。


 彼は1つため息をついて「駅が近くなったら離す」と言った。今離さないんかい! そして何事もなかったかのように猫カフェの話をして、駅に着く頃に手を離し別れたのであった。



****



 家に帰ってスマホを開くと、早速フリチャの通知が来ていた。


 ほんとに送ってきたのか……。


 ちょっと帰ってきながら、冗談だったかなと思いかけてたんだけど。嘘じゃなかったらしい。


 いきなり「ここでどうか」というのと、URLが来ていた。開いてみたらずいぶん可愛い内装の猫カフェだった。あと猫ちゃんも可愛い。いやにゃんこはみんな可愛いけど!


 そもそも猫カフェに行ければ特に文句もないので、「ここでいいよ」とだけ送った。


 送ってから素っ気なさすぎたかなと思った。でもスタンプとか絵文字とか顔文字とかあんまり使わないんだよね……。それにあっちから挨拶とかもなかったから、返事のみ送ってしまったけど……。


 少し考えて、「ありがと」と送っておいた。お礼は大事だし。


 しかしまぁなんで、こんな学園の王子様とフリチャしてるのか……。冷静になると、私とんでもないことしてない? と思う。……いつものことか?


 いやでも。にゃんこ熱に浮かされていて気づかなかったけど。




 気のせいか、なんかデートみたいじゃない?




 いやいや意識しすぎ……でも猫カフェとかリア充の巣窟みたいなものだし……あれ? 早まってない?


 やりとりしているうちにぐるぐる考えてしまい、そんなこんなで気づけば、時間と場所は決まっていた。「それじゃ明後日な」ときて、そこでフリチャは終わった……。


 終わったけど……私の悩みは終わらなかった。




 え、これ服とかどうするの⁉︎

 いやデートではないんだけど!

 ないんだけど‼︎




 次の日私は、自分で招いた悩みの種を抱えながら、少しの楽しみと多大なる謎のプレッシャーを持って、来たる決戦の日(猫カフェデビュー)を迎えることとなった。

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