第2症 イケメンはゲシュタルト崩壊した。(1/2)
キャラクター紹介
根本 梗子
本作の主人公。1年A組。
根暗で達観した考えを持つ。見た目はどこにでもいそうな感じだが、つり目の猫目、黒髪ストレートなので少しとっつきにくそうな印象。そのためぼっちである。
入学以来平穏ぼっちライフを楽しんでいたが、それはある一件から望まぬ形で崩壊に向かいつつある。
イメージは黒猫。
桜路 隆貴
学園の王子様。1年A組。
学年主席で入学したイケメン。オレ様男子。
彼女が欲しいが自分からはあまり告白したくない、プライドが高いタイプ。
絶対安全ラインだと思って梗子に告白するも断られ、ヤケになって落とそうとしている。
イメージはライオン。
?? ??(???? ???)※本話にて登場
隆貴の友達。1年A組。
隆貴とは小学校から同級生で、彼のストッパーでもある。なかなか毒舌。
イメージは…
何故こうなったのか。誰か説明して欲しい。
昼休みの和な午後。
私はため息を飲み込みながら、目の前の人物に目を向けざるを得なかった。
「友達は?」
「あぁ、断りいれてきたし大丈夫だろ」
そうか、それはよかった。そしてそうじゃない。
私が疑問なのは。
「なんで友達じゃなくて、私とお昼食べてんのかって話なんだけどね……?」
返ってくる答えは分かっている。だけど聞かずにはいられない。
「そりゃお前、落とすためだろ?」
当然のごとく帰ってきた返答に、飲み込んだため息は、その息を吹き返した。
****
私は根本梗子。
平凡を具現化したような、ピカピカの高校一年生である。
ある日学園の王子様、桜路隆貴に変なちょっかいを出され、それをきっぱり断った。
それが気にくわなかった残念発想の王子様にあろうかとか絶対落とす、と宣戦布告を受けてしまった。
気分は悲劇的で哀れなお姫様だ。
しかし私はお姫様ではないし、いいとこ黒魔女なので、彼の言葉巧みな誘惑や甘いマスクごときでは負けはしなかった。
彼はただ、可愛い女の子といちゃつきたいだけだと思う。
その前座にどうしても私をしたいらしい。当たり前だがごめんである。
いちゃついてもいい、私に関係なければ。お願いだから人柱をたてないでほしい。
私を口説いてる暇があったら、それは他の可愛い子に使った方がいい。いい武器持ってるんだし。私はもう(見た目も中身も)慣れたので、イケメンなんだかなんなのか忘れそうになるときがあるけど。
学年主席のはずなのに、そういうところで頭悪い。
さすがにそこまで露骨には言わないが、婉曲的に伝えてみたところ、彼曰く「プライドが許さない」らしい。
挫折したこととか、なかったんだろうな……。
ほとんど失敗しかしてこなかった私には、諦めない彼は宇宙人よりも不思議生命体だ。もはやどうしていいかわからない。
そんなわけで。
ここのところ2、3日に1度というハイペースでお昼に訪ねてくる彼と、友達ではないはずなのだが、昼食を半ば強制的に共にしているのであった。
まぁ場所を変えない私もダメなんだけど。
でも変えたら負けな気がするからね。
どうせ結果は出ているのだし。
そんな回想をしながら、彼が話しかけてくるのでなんとなく話を聞いていた。
色々思うものの、目の前で人が話していたら聞いてしまうのは、もう性分だ。内容は覚えてないけど。その程度の会話なのだ。
だけどその程度の会話だけで、話を続けられるあたりコミュ力高いってことだよねー……とふと思った。
私なら初対面の人間、いや慣れてきてもなかなか難しい。
どうでもいい会話ができるってことは、それなりに警戒心が溶けているのだろう。私の方がね。
自慢じゃないが警戒心は山のように高く、非コミュニケーション力、人見知り度は海のように深い自信しかなかった。そりゃ頻繁に襲撃されればいやでもなれるけど。
根本の考えも合わないから、思考から、いやもはや体の作りからして違うんだろうけど、それにしたって。第一私自身へ話しかけるの自体も躊躇われるのはよくある話なのだ。
普通に尊敬する。
そのコミュ力と度胸を分けて欲しい。
そんな考え事をして、上の空で話を聞いていたので
「なぁ、聞いてんのか?」
と、言われたので
「聞いてるわけないでしょ」
と、答えておいた。
残念ながら、私は聖徳太子だか厩戸皇子ではないのだ。
当然怒られたので一応謝っておきました。
****
「くそムカつく……」
なのに性懲りもなく、また来ている自分にも腹が立った。
いや、オレの場合はこいつを落とさなきゃなんねーっていう目的があるからだけどな?
それにしたって、こんなにイライラすんのになんで来てんだって時があった。今まさにそうなんだけど。
「で、なんだっけ。友達と趣味が合わない、だっけ?」
ほんとは分かってる。
こいつ、思ったほど嫌なやつじゃねぇ上に、下手したら友達より話聞いてんだよなぁ。
「聞いてんじゃねぇかよ!」
「いや最初のとこしか聞いてなかったから」
真面目か!
一字一句聞いてないと話聞いてないなんてことにはなんねぇっつの!
話ってのは要点聞いときゃ聞いてることになる。テストじゃねぇし、そんな堅っ苦しく話してんのなんか楽しくない。ま、それが面に出てるんじゃだめだけどな。
「別に合わなくてよくない?」
「いやあいつはブームってもんがわかってねぇっつかさ」
そう言うと興味無さそうに、「ふーん」と返ってきた。
聞いてるみたいだが、なんていうか、何考えてるか読めないんだよなぁ。
屈辱を味わったあの日以来、わりとオレは昼休みにこいつのもとへ来ていた。
標的知るにはまずは潜入捜査だ。
とりあえずいつもどうでもいい話をしていた。警戒を解くために。こいつはあんましゃべんないから、いっつもオレからだけどな。
そこで気づいたことがいくつかあった。
まず最初にさっきも思ったけど、嫌なやつかと思って話しかけたらそうじゃなかった。
わりと話せるやつだった。返事も絶対するし、めちゃくちゃどうでもいい話でも、とりあえずは聞いてくれる。文句は言うけどな!
オレ様をフっといてなんだこいつ、と思ったけど。
まぁよく考えりゃこいつからしたら、当たり前の反応だったのかもなと思うようになった。
いやでも「平穏に過ごしたいのに……」とか「なぜ私」とか「違う生き物にしか思えない……」とかよく呟いてるし、確実に変なやつなんだけど。マジで理解できない。
けどそういう思考のやつだと、そもそも上手くいかねーかなって思ったが、話はできるようになった。
ほらいるだろ、最初からシャットダウンのやつ。
あの態度からしたら、そういうやつかなと思ったけど違ったみたいだ。
どっちかっつーとこいつは最初からオープンだった。
話しかければ、相槌適当だけど話は絶対聞いて返してくる。しかも的確に。論理的な感じで。愛想のない返しだ。
女子には少なくね? って思う返事だし、男子ならモテない感じのだから、こいつ浮いてたんじゃねーかなと思う。下手したら冷たく聞こえるだろう。
言っていることが正しいと、それだけ相手は反論できねーから感情的に返すしかなくなってくる。
でも裏を返せば、理にかなった話し方だった。
例えば相談したら、ちゃんと話を聞いてるからこそのアドバイスもあるし、実践できれば改善するようなかんじ。あと多分自覚があるらしく、たまに謎のフォローが入る。
それに冷てーっつってもあいつよりマシだ。あいつ腹黒だから、オレ以外のやつには上手く隠すんだよなー。
オレは会話の中心人物を思い浮かべた。
脳内でさえにっこにこだ。マジムカつく。
「でもあなた達、仲良いじゃない。いつも一緒にいるでしょう」
「いつもじゃねーけど……」
よそ見をして興味なさそうにしながら、興味がないとしない相槌をする。俺は頬杖をついて、それを眺めながら話す。
まぁあいつ腐れ縁だからなー。
なんだかんだ小学校から一緒で、私立なのに高校まで一緒のとこを受けちまうくらいには、仲が良いとは言えるか。いや学力のせいもあんだけどな。
「あんなにいつも楽しそうに騒いでるのに、何が困るの」
「んー困るっつか」
なんでハマんねぇんだって思うんだよな。
別にノリが悪いやつじゃねぇんだけど。
オレからしたら理解できない。ブームなんて、あとで乗っても意味がねーんだから今ノッとかないとなのに。
「よくわからないけど、あなたは彼とどうしても、そのモンスターバスターってゲームがしたいわけね」
面倒そうにこちらを向いた顔は、ため息を吐きそうにしながら話を要約した。
そう。なんかめっちゃ重い感じになってるけど、要はオレはあいつと最近流行りのポータブルゲーム、モンスターバスター(通称:モンバ)がしたいだけだ。
モンバはいわゆる狩りゲーだ。
モンスターを狩って、その素材を元に強い武器や防具を作って、また強いモンスターに挑む。
モンスター討伐のクエストをクリアすればハンターランクも上がり、上のクエストも受けられるようになる。上のランクほどレア度も高く、強い武器や防具も作れる。その分モンスターはクソ強くなる。
そういうときこそ仲間の出番だ。モンバはオンラインで、友達や知らない人と一緒に狩りに行ける。
そういう協力プレイも楽しめるゲームだ。
豊富な武器や防具、モンスターはもちろん、隠し要素もあるしストーリーモードなんかもあって、多方面から楽しめるゲーム。
話題に事欠かない人気シリーズだった。
クラスのやつらも勿論やってるし、ていうか多分今ほとんどの男子はやってんじゃねーかってくらい流行ってる。
絶対面白いのに何故かあいつは頑なにやらない。なんでだ。
「そもそも彼はゲームやる人なの?」
「あんまやんねーけど、でもやらねー訳じゃねぇしモンバ面白いぜ⁉︎」
それを聞いてこいつはまた溜息をつきやがった。何が悪いんだよ。
「……勝貫君、あんたたちがゲームやってるなーくらいの認識しかないんじゃないの?」
「……。」
まぁ確かに、流行ってるから知ってて当然だと思ってたけど、あいつオレらのプレイ遠目からしらーっと見てるだけだな。
内容知らない可能性はあるっちゃある。
狩ゲーなのはわかると思うけど。
「一緒にゲームやったことあるって言ってたけど、もしかして、そういうゲームやったことないんじゃないの?」
ん? そういやそうか?
「前はどういうのやってたの?」
「んーファミカとかか?」
「ファミリーカートって…あれレースゲームでしょ。全然毛色が違うんじゃない?」
「全然ちげーな」
素直に答えると、白い目を向けられる。お前、その顔しかできねぇのかよ。
ファミカは……あれはあれで面白いけど、やり込み要素とか隠し要素とかあんま無い。アイテムとコース縛りとかタイムくらいか。
「ファミカなら、初心者がいきなり入っても大丈夫そうだけど、モンバってやり込み要素が強いんでしょ? なら尚更混ざれないでしょ」
「は? なんで?」
と聞きつつオレも気付いた。
しかし聞いてしまったので、またうんざり顔で返事が来る。
「そういうの、レベル違ったら楽しめないんじゃないの。スリルとかも楽しむところがあるんだろうし。何より途中で入ったら足引っ張っちゃうでしょ」
その通りだった。けど。
「レべリングくらい一緒に行くけどなー」
と言って、キッとこいつに睨まれた。なんだよ。
「それ、言わなきゃ分かんないから」
「え?」
「言葉にしなきゃ伝わんないこともあんの」
えー……さすがにあいつとオレの付き合いだし、そこまで薄情だとは思われてないと思うけど?
「勝貫君はあんたと違って遠慮深そうだし、思っても言わないんじゃない?」
「それはないだろ……お前騙されてるぞ……」
真面目にいうその表情に、思わず顔が引き攣る。
おまえはあいつ―――勝貫明聡の本当の顔を知らないんだ。
あいつめっちゃ腹グロだぞ。
真っ黒だぞ。いわねぇけど。
「つか、めっちゃあいつの肩もつのな」
「まぁ同情からね」
そう言って憐れんだような目を向けてくる。やめろ。
「私は、無理やり乗り気でない人を誘うっていうのは良くないと思うけど、でもあなたは遊びたいわけね」
「そう言われるとなんか首を振りたくなるけどな」
でもまぁそういうことだな。
あれだぞ、明聡がいると狩りが捗るからが主だけどな?
「んー……そうね、あなたは彼の土俵に立ってないからうまく誘えてないんじゃない?」
「土俵?」
「さっきからあんたの主張、一方的だから。それはあなたの土俵の話でしょうってこと。」
なんでこいつ二人称いちいち変えんだろうか、と若干気になったけど、一応話を聞く。
「乗り気でもないのに、相手の土俵に上がる人間はいないわ。相手が上がらないなら、自分から相手の土俵に上がるしかないでしょう」
「つーと?」
もう形だけの興味ないポーズも忘れて、ずいぶん親身にそして饒舌に話すその言葉の先を促す。
「相手の立場になって、相手の興味を惹くやり方で誘うしかないんじゃないの。幸い、彼のことあんたはよく分かってるんだろうし」
「……んーでも、あいつならやれば分かると思うけど」
「じゃあそのやりやすい環境を整えればいいんじゃない?」
やりやすい環境?
「ふつーにやらせりゃよくね? つか何度か断られてるけど。」
「それみんなの前で言ったでしょ」
よく分かったな!
自分でも顔に出た自覚はあったが、またこいつが溜息をついたのでやっぱ出たかと思った。
「そんな晒し者みたいなのやでしょう……」
「そうか? オレなら面白そうだったらとりあえずやるけど」
「だからそれ、あんたの話ね。わりと彼もプライド高そうだし、恥はかきたくないと思うかもしれないし」
たさかにあいつは腹黒で手の内を見せたがらない。わりと完璧主義な気もする。
ファミカなんか、最初はオレの方が上手かったのにいつのまにかぶっちぎりで強くなってた。あれはやりこんだに違いない。
だからこそ、このゲームにハマるって思ったんだけど。
「仲良いんだから、最初は2人でやればいいじゃない。それならやってくれそうな気がするけど」
あんたの勢いに流されて、と聞こえた気がしたが無視した。
んーまぁ一理あるか?
「そんなこんなでもうあと5分だから、先帰ってくれないかしらおーじサマ。」
「あーはいはい、分かったよ」
しっしと手で払われ丁度予鈴がなったタイミングで、オレは席を立った。
クラスは同じなんだから、オレは一緒に戻ってもいいんだけど、めっちゃ嫌がられる。
平穏に過ごさせろと。
あんたは目立ちすぎるし変な噂立てられたくない! って睨まれたのは先日のことだ。
外堀からとはいかないらしい。それ以前に、噂が立って彼女ができれば、ほぼオレの計画に沿ったものになるんだけどな。
ま、今声かけられても多分付き合わねぇけど。
まだこいつに認めさせてねぇし。
当初の予定や目標と、大幅にズレているし無意味なことも分かってるけど、ここで認めさせないのは完璧なオレ様としては許されない。ケジメだケジメ。
最初よりマシになったと思うが、まだ警戒されてるみたいなので、もう少し慣れたら次の攻撃を仕掛けよう。
そう考えながら階段を降りた。




