表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/16

第6症 優良物件は従者付き。 (2/3)

「は? 明聡(あさと)が怖い?」


 気付いたらイケメンが怖すぎて、何故か今日も追いかけてきた王子サマに訴えていた。ベリッと袋を破きながらのその返事に、真剣に頷く私。


勝貫(まさぬき)君、イケメンじゃない? 隣でキラキラされると目が潰れそうで……」

「あぁ? オレ様のがイケメンだろ」


 そう言う王子サマは、王子様らしからぬ態度の悪さ。教壇に長ーい足を開いて座る、ヤンキーみたいなガラの悪さだった。女の子に謝れ。


 そして何故か、私は隣に座らされていた。


 いや、私が座ってたら来たのだ。

 今日は雨で、外で食べれないからここにいた。

 そしたら、何故か隣に滑り込んできた。


 じゃあ私が移動しよう、としたら止められるし。


 でもなんか、地べたに座らせるの申し訳ないからさ。一応これでも、学園のおーじサマだからさ。一応聞いたよ? 席座れば? って。



 まぁ聞きゃあしなかったですけどねっ!



「おい。オレのほうが、イケメンだよな?」



 そう確認するように圧を放つ顔面を、黙って見ながらご飯を口にはこんだ。顔がうるさい。


 え? 王子もイケメン?

 ……いやなんか、種類違うし。

 私的には、ただのヤンキーもどき……。



「……お前、なんか失礼な事思ってね?」



 ……私は無言で、次のご飯を口に詰め込んだ。


 黙秘権の執行。そして食べてしまえば喋らなくていい。そういうことにしてほしい。


「ムシかよ」


 イラついたのか、眉間に皺を寄せて威嚇なさる。


 ちがうぞ。なんと答えようか、食べて時間を稼いでいるだけだ。食事中はしゃべっちゃいけないし。……まぁあわよくば、とは思ったけど。


 しかし機嫌が悪くなられても嫌なので。


 一応頬を指差し首を振って、ジェスチャーで応えた。プラス大袈裟に噛む動作をする。……まぁほぼ飲み込んだら終わるんだけど。


「はぁー? 食っててもしゃべれよ。いい子ちゃんかよ」


 もぎゅもぎゅもぎゅ……ごくんっ。


「……普通ですけど」

「普通ならしゃべれ! いつもはしゃべるだろ!」

「いや口にある時はしゃべらない」

「いい子ちゃんだなっ⁉︎」


 キレながら褒められた。芸達者なことだ。


 なので、言っておこう。



「ありがとう?」

「褒めてねぇよ‼︎」



 そうは言われてもね。

 だって本来、今はお昼の時間。

 食べることが一番優先事項だ。


 なので気にせずまた、お箸でご飯を摘んで口に運ぶ。


「は……ちっさ」

「普通ですけど」

「さっきのはなんだったんだよ⁉︎」


 そんな、信じられないものを見るような目で見られても。珍獣じゃあるまいし。ましてやお主のように、人気者でもない一般人(パンピー)だ。


「まぁたしかにその小ささじゃ、すぐ口の中空になるわな……」


 妙に納得しながら、彼はバリッと硬そうなパンを噛んだ。


 引きちぎるように。

 それはもう豪快に。

 ライオンが肉に齧り付くように、食べた。



「いやいや、パンのCMかな?」

「は? なんの話?」

「……食べ方の話?」



 あまりにワイルドに決まりすぎて。

 いっそカッコいいモデルのワンシーンに見えた。



 こんなしみったれた、教室の片隅、それも教壇にヤンキー座りしているというのに。なんならちょっと、薄暗いというのに。


 全てが様になるのか。

 イケメンとはチートか?

 まぁ癪だから、言ってあげないけど。


 だって絶対調子に載る。それに付き合わされたらウンザリである。


「とりあえず。たしかにあんたから見たら、私は食べてないに等しいとわかったわ」

「あん? 今気付いたのかよ。そうだぞ、もっと食え」


 そう言いながら王子はまたパンを噛みちぎり、あっという間に食べてぱんぱんと手を払う。そして次のパンをガサガサ探す。まだ食うのか……。


 そして果たして、そんな話だっただろうか?


 しかもあんたも、さっき私の一口サイズに気付いただろうに。その出来すぎた頭は、作り物だったのだろうか。


 とりあえず食べるのは遅いのかもしれない。


 目の前で見せつけられると、それなりに焦るものがある。しかし一口はこれ以上入らないので……仕方ない、食べるスピード上げるか。


 もぐもぐもぐもぐぱく!

 もぐもぐもぐもぐ。


「おー! いい食いっぷりだな!」


 謎に頑張る私を目にし、何故か王子サマの気分が上がる。何故だ? あとこれ、しゃべれないけどいいんだ? むしろしゃべって欲しくないのか?


 やはり理解できない、と思いながらもぐもぐする。


「じゃーもっと食うように、コレやるよ」


 必死に食べる私をよそに、ガサガサ袋を漁りはじめた……と思ったら。



「ん……、え、なにこれ?」

「クリームパン。コレなら食えるだろ」



 ありのままを話そう。


 なぜか手渡しで、ミニサイズクリームパンを貰った。


 あれだ、コンビニで4個で売ってるやつだ。

 それを、差し出されて掌に載せられた。

 何故今、このお弁当食べてる時に渡した?


 まぁ反射で、お弁当急いでおいで受け取っちゃったけど……いや貰ってから気付いたよね。なんで私貰ったよ? って。


「ウマいぞ、食え、ん」


 そう言って、自身もクリームパンを1つーー咥えたかと思ったら、そのまま一口で食いやがった。三口で全部食い終わるじゃないか!


 いや、そう思うと……。

 なんか貴重なクリームパンな気がしてきた。

 なんか今食べなきゃいけない気がしてきた!


「あ、ありがとう……」

「なんでお礼言いながら戸惑ってんだよ?」


 自覚はなかったが、戸惑ってたらしい。


 まぁ今の私、まるで神棚にお餅を載せるかの如く、(うやうや)しく持っちゃってるもんね。多分、気が動転している。落ち着け私。


 どこかに一旦置こうかと、視線を動かすも。


 お皿とかないし、巾着しかない。

 あ、お弁当の蓋がある?

 ……いやダメだ、これ濡れてるわ。


 だから仕方なく。腹を括ってーー。



 パクッ。



「いやちっっっこ‼︎」


 自分が食べ終わったからなのか、頬杖ついてこっちを見ていた王子に突っ込まれた。



 私が齧った一口は、1/6くらいだった。



 ひどい話だ。お弁当中にクリームパンを挟むという、禁忌的な所業をしてあげたというのに。……しかし美味しいなクリームパン。


 庶民的な味だ。

 実に王子サマに、ミスマッチ。

 しかしまぁ、男子高校生らしいとは言える。


 もぐもぐしながら、そう思い。



「……いや、だから普通だから」



 ちょっとだけ沸いた親近感は、クリームパンと共に飲み込んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*こちらに本作のキャライメージイラストがあります*
『挿絵』って実際どうなの問題
*第四症のFA頂きました!感謝です!*
初FA頂きました!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ