第6症 優良物件は従者付き。 (2/3)
「は? 明聡が怖い?」
気付いたらイケメンが怖すぎて、何故か今日も追いかけてきた王子サマに訴えていた。ベリッと袋を破きながらのその返事に、真剣に頷く私。
「勝貫君、イケメンじゃない? 隣でキラキラされると目が潰れそうで……」
「あぁ? オレ様のがイケメンだろ」
そう言う王子サマは、王子様らしからぬ態度の悪さ。教壇に長ーい足を開いて座る、ヤンキーみたいなガラの悪さだった。女の子に謝れ。
そして何故か、私は隣に座らされていた。
いや、私が座ってたら来たのだ。
今日は雨で、外で食べれないからここにいた。
そしたら、何故か隣に滑り込んできた。
じゃあ私が移動しよう、としたら止められるし。
でもなんか、地べたに座らせるの申し訳ないからさ。一応これでも、学園のおーじサマだからさ。一応聞いたよ? 席座れば? って。
まぁ聞きゃあしなかったですけどねっ!
「おい。オレのほうが、イケメンだよな?」
そう確認するように圧を放つ顔面を、黙って見ながらご飯を口にはこんだ。顔がうるさい。
え? 王子もイケメン?
……いやなんか、種類違うし。
私的には、ただのヤンキーもどき……。
「……お前、なんか失礼な事思ってね?」
……私は無言で、次のご飯を口に詰め込んだ。
黙秘権の執行。そして食べてしまえば喋らなくていい。そういうことにしてほしい。
「ムシかよ」
イラついたのか、眉間に皺を寄せて威嚇なさる。
ちがうぞ。なんと答えようか、食べて時間を稼いでいるだけだ。食事中はしゃべっちゃいけないし。……まぁあわよくば、とは思ったけど。
しかし機嫌が悪くなられても嫌なので。
一応頬を指差し首を振って、ジェスチャーで応えた。プラス大袈裟に噛む動作をする。……まぁほぼ飲み込んだら終わるんだけど。
「はぁー? 食っててもしゃべれよ。いい子ちゃんかよ」
もぎゅもぎゅもぎゅ……ごくんっ。
「……普通ですけど」
「普通ならしゃべれ! いつもはしゃべるだろ!」
「いや口にある時はしゃべらない」
「いい子ちゃんだなっ⁉︎」
キレながら褒められた。芸達者なことだ。
なので、言っておこう。
「ありがとう?」
「褒めてねぇよ‼︎」
そうは言われてもね。
だって本来、今はお昼の時間。
食べることが一番優先事項だ。
なので気にせずまた、お箸でご飯を摘んで口に運ぶ。
「は……ちっさ」
「普通ですけど」
「さっきのはなんだったんだよ⁉︎」
そんな、信じられないものを見るような目で見られても。珍獣じゃあるまいし。ましてやお主のように、人気者でもない一般人だ。
「まぁたしかにその小ささじゃ、すぐ口の中空になるわな……」
妙に納得しながら、彼はバリッと硬そうなパンを噛んだ。
引きちぎるように。
それはもう豪快に。
ライオンが肉に齧り付くように、食べた。
「いやいや、パンのCMかな?」
「は? なんの話?」
「……食べ方の話?」
あまりにワイルドに決まりすぎて。
いっそカッコいいモデルのワンシーンに見えた。
こんなしみったれた、教室の片隅、それも教壇にヤンキー座りしているというのに。なんならちょっと、薄暗いというのに。
全てが様になるのか。
イケメンとはチートか?
まぁ癪だから、言ってあげないけど。
だって絶対調子に載る。それに付き合わされたらウンザリである。
「とりあえず。たしかにあんたから見たら、私は食べてないに等しいとわかったわ」
「あん? 今気付いたのかよ。そうだぞ、もっと食え」
そう言いながら王子はまたパンを噛みちぎり、あっという間に食べてぱんぱんと手を払う。そして次のパンをガサガサ探す。まだ食うのか……。
そして果たして、そんな話だっただろうか?
しかもあんたも、さっき私の一口サイズに気付いただろうに。その出来すぎた頭は、作り物だったのだろうか。
とりあえず食べるのは遅いのかもしれない。
目の前で見せつけられると、それなりに焦るものがある。しかし一口はこれ以上入らないので……仕方ない、食べるスピード上げるか。
もぐもぐもぐもぐぱく!
もぐもぐもぐもぐ。
「おー! いい食いっぷりだな!」
謎に頑張る私を目にし、何故か王子サマの気分が上がる。何故だ? あとこれ、しゃべれないけどいいんだ? むしろしゃべって欲しくないのか?
やはり理解できない、と思いながらもぐもぐする。
「じゃーもっと食うように、コレやるよ」
必死に食べる私をよそに、ガサガサ袋を漁りはじめた……と思ったら。
「ん……、え、なにこれ?」
「クリームパン。コレなら食えるだろ」
ありのままを話そう。
なぜか手渡しで、ミニサイズクリームパンを貰った。
あれだ、コンビニで4個で売ってるやつだ。
それを、差し出されて掌に載せられた。
何故今、このお弁当食べてる時に渡した?
まぁ反射で、お弁当急いでおいで受け取っちゃったけど……いや貰ってから気付いたよね。なんで私貰ったよ? って。
「ウマいぞ、食え、ん」
そう言って、自身もクリームパンを1つーー咥えたかと思ったら、そのまま一口で食いやがった。三口で全部食い終わるじゃないか!
いや、そう思うと……。
なんか貴重なクリームパンな気がしてきた。
なんか今食べなきゃいけない気がしてきた!
「あ、ありがとう……」
「なんでお礼言いながら戸惑ってんだよ?」
自覚はなかったが、戸惑ってたらしい。
まぁ今の私、まるで神棚にお餅を載せるかの如く、恭しく持っちゃってるもんね。多分、気が動転している。落ち着け私。
どこかに一旦置こうかと、視線を動かすも。
お皿とかないし、巾着しかない。
あ、お弁当の蓋がある?
……いやダメだ、これ濡れてるわ。
だから仕方なく。腹を括ってーー。
パクッ。
「いやちっっっこ‼︎」
自分が食べ終わったからなのか、頬杖ついてこっちを見ていた王子に突っ込まれた。
私が齧った一口は、1/6くらいだった。
ひどい話だ。お弁当中にクリームパンを挟むという、禁忌的な所業をしてあげたというのに。……しかし美味しいなクリームパン。
庶民的な味だ。
実に王子サマに、ミスマッチ。
しかしまぁ、男子高校生らしいとは言える。
もぐもぐしながら、そう思い。
「……いや、だから普通だから」
ちょっとだけ沸いた親近感は、クリームパンと共に飲み込んだ。




