第5症 学園のスーパーアイドル、参戦。(3/3)
「ついてきて」と言われたので、大人しくついていく。すごいなー名前覚えてたのかぁ。こんな有名人に覚えられてるとか。感心しちゃう。
たどり着いたのは、お昼ご飯を食べた階段にほど近い空き教室だった。
え。待って。開いてるの? さっきわざわざ開いてないと思って、階段で食べた意味よ。ごめん王子。これも謝んなきゃ。
ガラガラと戸を開けて、教室に入った後ろに続き入ってからちゃんとドアを閉める。
「……あの、私が言うのもなんだけど、何も聞かずにここまでついてきて大丈夫なの……?」
そう不審げに言ったのは、私をここに連れてきた本人ーー白雪緋奈その人だった。
「え? 何か問題があったの?」
「いや……」
多分不安そうにするべきなのは私の方なんだろうが、彼女の方がなんとも言えない顔をしている。そんな顔も可愛いけど……。ほんと王子なにやってんの?
「そんなにここで言えないような、悪いことするの?」
クスッと笑ってあげると。
「ち、違うもん!」
かあぁっと赤くなる顔は林檎のように真っ赤だ。おー白雪姫っぼいー。
「私は! ただ忠告しに来てあげただけなんだからねっ!」
なんかツンデレっぽい発言だけど、似合うなー。美少女とツンデレってセットだとなお美味しいよね。
私、完全に美少女堪能モードである。
あれよ、テレビ見てる感じ。
「根本さん、桜路くんにちょっと気に入られて、舞い上がってるのかもしれないけど! そんなんだと目をつけられちゃうんだからね!」
「え? 何から?」
「何からって……わ、私は心が広いからそんなことしないけど、付き纏ってちょーしのってるって周りから思われると、ファンの子たちが何するか……分かるでしょ⁉︎」
何故か私の反応に目を彷徨わせるながらも、怒ったように突っかかってくる。正直、全然怖くないが。
……ほほう。つまり?
「私付き纏ってないよ? 逆だし、迷惑してるし」
「え?」
「お昼付き纏われて迷惑してる」
「えぇ?」
これは何か勘違いされてるなと気付き、訂正に入れば困惑される。
「いつもご飯食べる時間なくなるの。ていうか私白雪さんに謝んなきゃ」
「な、なによ! それで優位に……」
「王子と白雪さんお似合いだなって、一瞬でも思って申し訳なかったわ。あいつに白雪さんは勿体なさすぎたわ」
「は……?」
美少女は、困惑で口が開きっぱなしでもかわいい。白雪さん、ほんとにうさぎみたいだね。
そこで私は話した。
あいつがどんなに無駄なことをしているかを。
「え、それ私でいいじゃない!」
「そう! 馬鹿なの! プライドとかいう無駄なもの捨てられない馬鹿なの‼︎」
美少女の同意が得られて調子に乗った私は、そのまま捲し立てる。
「でもそれだけじゃなくて口悪いし、子供っぽいし、確かに頭はいいけど賢くないから、優しくて可愛い白雪さんには勿体ないって気付いたの!」
そう、私は気付いてしまったのだ。
こんないい子が、あんなクズやろうの餌食になる必要が無い事に‼︎
「優しくて……? え、私根本さんに……」
「白雪さんは優しいよ! だって、私を心配して忠告してくれたわけでしょ?」
「で、でもそれは……」
とても戸惑っている。まぁなんとなく言いたい事はわかるが、彼女は別になにもしていない。本当に忠告だけだ。
あのクズ王子の第一発言と比べて、なんと優しいことか。よかったアレがフッてくれて!
「それだけじゃないよ! ここに来た時言ってたでしょ? ついてきて大丈夫なのかって。あれ、いい子じゃないと聞かないからね?」
「だ、だってあまりにも警戒心がないから……」
しどろもどろになりながら、言うその答えは完全に良心から来るものだ。私の目に狂いなし!
「ふふっだって白雪さんがいい人だって、私知ってるもの」
「なんで……?」
得意げに言えば、褒めているのに不安そうな顔をされる。
「いつも周りの子のフォローしてるの見てるもん」
「それは……」
「男子にも女子にも優しくしてるよね」
「あれは……」
「打算だって? いいじゃない」
「えっ」
大きな目がさらに見開かれる。本人は気にしてるとこなんだろうなぁと思う。でもね、私はこう思うわけ。
「私ね、男子だけに媚び売る人は好きじゃないけど、みんなにするならいいと思うんだよね。打算だって純粋な優しさとする事は同じなら別によくない?」
世の中結果が全てである。
さっきあいつに言った通りだ。
こんなもん、可愛いものだしみんなも望んでる。
「打算だってバレなきゃ他者からは打算じゃないよ。純粋な優しさと変わらないでしょ」
何も生み出さない物ほど、意味がないものはないだろう。動かなければ生まれない優しさなら、動ける偽善の方がいい。
「やろうと思ってやらない優しさとやる打算ならやる方が価値があるでしょ。嘘もバレなきゃ嘘じゃないって、別にいいって私は思うよ。それ、アイドルとなにが違うの?」
まさに学園のアイドルな、白雪さんならむしろそうでいて欲しい。
そう望むのはこちらの方で。
彼女はそれに答えているだけにすぎない。
「白雪さんがたとえ偶像だったとしても、夢を見せてあげるように努力してるのは白雪さんだよ。私はそれは大変な事だと思うし、すごいなって尊敬する」
捻くれ者の黒魔女なもので、綺麗なだけのものなんてむしろ信じられない。
だから努力でできている偶像は、むしろ好ましいくらいだ。その努力が、むしろいい子だなーって思うので。
「こんなに白雪さんは素敵なんだから、あのレベルのやつじゃ似合わないよ! もっと大人ないい男じゃなきゃ……」
っと。喋り過ぎたか……? 勢いに任せて言ってしまったけど……って、えっ。
「白雪さん⁉︎」
気が付けば、白雪さんがぼろぼろ泣いていた。
「え⁉︎ ごめんね⁉︎ 私なんか酷いこと言っちゃったかな⁉︎ 謝る! 謝るから教えてくれない⁉︎」
ひっくひっくと肩を揺らしながら、大きな瞳からぼたぼたと涙を流す白雪さん。おめめが真っ赤でうさぎさん……ってそんな場合じゃない。
「ちが……うの……」
なにが違うのだろうか。とりあえず落ち着かせなきゃだから近づいて肩を抱き「大丈夫? ちょっと座ろうか」といって適当なところに腰をかけさせる。
自分で言っときながら大丈夫はないな……。
「ひな……こん……なこと……言われたの……初めてだったから……っ」
ひっくひっくと変わらず、いやむしろもっと酷く泣き続ける白雪さん。え、これは酷くなると過呼吸になっちゃうやつでは。
それはまずいと、肩にまわしていた手を伸ばし腰をさする。するとなんとこてん、と頭がこちらに来たので抱きしめてる感じに……ええええ!
学園1の! 美少女が! この腕の中に!
もう、ええいままよ! と思って抱きしめてさすってました。これは通報案件ですか。大丈夫ですか。そうですか。どさくさに紛れて頭も撫でちゃったけど……ちょっと落ち着いてきたかな?
でもこれだけ泣いたら……。
「あ……目が腫れちゃったね。ごめんね、せっかくの可愛い顔が台無しになっちゃうな……すぐ戻るから、少し待っててくれる?」
そう言って流石に氷はないので、ハンカチを濡らして持ってきた。ないよりマシでしょう。
持って帰ると、ドアを開けたら不安げな白雪さんと目があった。おまたせ、といって近付くと「帰っちゃうかと思った……」とか細い声で言われた。泣いてる女の子放置なんて、紳士でない真似はしないよ〜。
「帰らないよ。ちょっと目が腫れちゃってるから、冷やしてから帰ろう。誰か来ないかここで見てるから、大丈夫だよ」
泣かせたの私なのに、何が大丈夫なんでしょうか。
なんも大丈夫じゃないです。
しかしそれを表情に出しても意味はないので、あくまでにこやかに気遣う。私今、紳士なので。
「うん……」
そう言って白雪さんはなんと私の手の上に手を重ねてきました。わぉ高度テクニック! ぼっちドキッとしちゃうな⁉︎ マジでフッたあいつの気がしれない!
でも外にいないと誰か来るかわからな……まぁここ誰も来ないんですけど。来たら足音するから、耳をすましておくかなぁ。手を振り解いたりとか、できないし。
はぁ、ここにいるのが私じゃなければ惚れてたよ。感謝してほしいね。まぁ泣かせたの私だけどね。
そしてこんな時にどう声かけるのか、ぼっちは知りません。なので結局帰るまで、無言で隣にいるっていう謎プレイを敢行しました。
結局ろくに話さずに校門まで一緒に行き、方向が違うことが発覚したので。
「大丈夫? 駅まで送ろうか?」
と、聞いたところ。
「だ、大丈夫だもん!」
と言って走って帰られました。早い。
ところで泣かせた原因分からず終いです。今更聞けないね。
****
そんな出来事の翌日
「お前……あいつに何したんだよ!」
「は?」
本日は珍しく快晴ですので、屋上に陣取りましたところ。いきなり肩で息をしながら現れたのは、いつもの来訪者でした。
ただ開口一番が意味不明だ。
「なにごと?」
「だからあい……」
「ちょっとぉ⁉︎ 緋奈も連れてってって言ってんのに置いてくってどーゆーこと⁉︎」
何か言いかけた王子の後ろから出てきたのは、昨日の姫君でした。
なんとまぁ。仲直りでもしたの?
んー仕方ない。
「邪魔しちゃいけないんで移動するから、どうぞ?」
「はぁ⁉︎ ちっげーよ‼︎ 何勘違いしてんだ!」
「ん?」
「あっなおこちゃん!」
状況が掴めないんだが、それより。
え? 姫今なんと?
「良かったぁ! ここにいたんだ‼︎ 隆貴に連れてってって言ったのに、こいつ置いてくから!」
そうおっしゃると何故か、私の隣にストンとおすわりになり、ピタッとくっついてきた。待って。現状把握が。
「ねぇ! 緋奈もここで一緒に食べていいでしょ? なおこちゃん! あ、あとなおちゃんって呼んでもいい……? 緋奈のこともひなって呼んでいいから……」
腕を絡ませながらの上目遣い。これにノックアウトにならない人類はいるのだろうか。いや、いまい。(陥落)
「え、あ、どうぞ……?」
「やったぁ! えへへありがとう! ほら見なさいよ隆貴! なおちゃんはあんたと違って優しいの! あんたと違って‼︎」
「はぁ⁉︎ おま、オレのこと好きなんじゃなかったのかよ!」
「うわっサイッテー。過去のこと持ち出すなんて。やっぱりなおちゃんの言う通りだったわ! ちょっとなおちゃん見習いなさいよね!」
そう言いながら姫がコテンと頭を寄せてきたので、困った思考停止中の私は、自動プログラムで頭を撫でておきました。なんだこの状況は。
「えへへへ」
え、何この動物。可愛い……。
超よしよししちゃう……。
よしよしが捗る……。
「お前マジで何したんだよ……」
そんな目で見られても、私は昨日泣かせた記憶しかない。ので、首を傾げるしかない。
「あーあ、なおちゃんが男の子だったら結婚するのに……」
「⁉︎ 結婚はそんな簡単に決めちゃダメだよ⁉︎ もっと自分を大事にしなきゃ」
「なおちゃん……なおちゃん紳士! 好き‼︎」
ガバッと抱きつかれ、びっくりしながら受け止める。白雪さん、アグレッシブだね……? いやこれがリア充の距離感なの? ぼっちわかんないわ。
そんな様子を。
「誰か……説明してくれ……」
白い灰になった王子だけが眺めていた。




